悪魔が来りて喧嘩を売る
みなさん、覚えていますか。
あのデビルドラゴンのメンバーを。
実は、僕、リーダーの白木 龍美がお気に入りなんですね。
彼女の活躍も、期待して下さい。
「これは天下の一大事。戦じゃ。武士の血が滾るわ。」
祖父は、すっかりその気になり、日本刀や手裏剣やら鎖鎌やら武器の
手入れを始めている。それはそれで心強いけど、困ったことがあった。
陳 桃陽が言うには、妖怪・九尾の狐を倒すには、六人の若者の力が
必要なんだと。六人か。その中に、僕とキラちゃんは、強制的に頭数に
入れられるんだろうな。僕は正直嫌だけど、キラちゃんを守るためなら、
仕方ないか。でも、愛しいキラちゃんを危ない目に逢したくない。
あ~あ、嫌だなあ~。面倒くさいしなあ~。
「おい、おまえ、心の声が漏れてるぞ。」
放課後、僕は陳 桃陽と武道系の部活見学をしていた。見た目には、
転校生を案内している平和的な光景だけど、僕たちは一緒に闘う仲間を
探していた。
「ごめん、ごめん。そんで、一緒に闘う仲間は見つかった。」
「まったく、駄目だ。ここの高校、たいしたことないな。」
この野郎、そこまで言うか。確かに、妖怪と闘うんだから、心技体ともに
優れた武術家が必要なんだけど、酷くない。
「あのう、ちょっと、今の言葉、聞き捨てできないんですけど。」
無謀にも陳 桃陽に絡んで来た奴が、いた。この声は、もしかしてと
振り返ると、ビンゴ。デビルドラゴン、今は電龍組の三人だった。
実のところ、リーダーの白木 龍美は近藤 奏夢に惚れていた。
恋人の森 星明とならまだしも、どこの馬の骨ともわからない女と
歩くのが許せなくて、後をつけていたのである。
「本当のこと言って、何が悪いの。アイドルもどきさんたち。」
陳 桃陽も、人が悪い。挑発しているの、見え見え。
「その言葉、私たちに対する宣戦布告と承りました。やっちゃいな。」
「はあ~い、お姉さま。」「わ~い、久しぶり。」
リーダーの白木 龍美の声で、緑川葵と中野紅子が襲い掛かる。
僕が面白いことになったと見学していたら、やっぱり、緑川葵と
中野紅子が陳 桃陽に玩具にされている。
「ほれ、ここ。」「そんだけー。」
そこら辺のヤンキー、不良から恐れられていた元デビルドラゴンの
二人の攻撃がかするんだけど、暖簾に腕押しみたいな。躍らせている。
それほど、陳 桃陽の太極拳の化剄は、優れているんだね。
この二人も中学時代は各武道で名を馳せた猛者だけど、
陳 桃陽に比べれば、月とスッポン、いや月とダンゴムシだな。
それくらい、腕に差がある。
「お姉さん、私、悔しい~。」「仇とって~。」
とうとう、二人は、へたりこんだ。
「口だけのことは、あるようね。」
いよいよ、リーダーの白木 龍美の出番だ。
「ふん、勇気だけはあるようね。」
僕も、そう思った。龍美は、元、柔道部。龍美の腕では、まず無理だ。
ところが、僕は龍美の悪魔の力を再認識することとなる。
龍美は陳 桃陽と推手を始めるではないか。陳 桃陽に比べれば、
大人と子どもの差があるが、これはサプライズだ。
ほう(ポン)、り(りー)、せい(チィ)、あん(アン)、さい(ツアイ)、
れつ(リィエ)、ちゅう(チオウ)、こう(カオ)の推手の基本技術が
身に付いているではないか。
まあ、最後には、陳 桃陽の軽い發頸で弾き飛ばされ、尻もち着いたけどね。
「おまえ、太極拳の修行をしたことあるのか。」
陳 桃陽が、手を差し伸ばして、龍美を引っ張り上げた。
「ないね。近所の公園で、毎朝、ランニングしているんだけど、どこかの敬老会が
やっているのを見かける。たまに、やらされるんだ。美容にいいからってね。確か、
陳家太極拳 老架式とか言ってた。健康体操として簡素化されているものとまったく
違うんだって、ひどく、鼻息荒かった。」
「そうか、私も陳家太極拳・老架式を祖父から、習った。なるほどね。
それで、推手はやったことあるのか。」
陳 桃陽も武術家、自分の流派には、自信と誇りを持っている。凄く、嬉しそう。
「いいや、今日、初めて。さっき、アンタがうちの若いの二人を相手にしているのを
見て、何となく老架式の意味がわかった。」
「これは、驚いた。私が、悪かった。私の名は、陳 桃陽。おまえは。」
「白木 龍美。龍に美しいと書く。宜しく。」
二人は固い握手を交わすんだけど、僕には悪魔と堕天使に見えるんだよね。
そして、白木 龍美は、僕たちの仲間、四番目の闘士となったんだけど、
あと、二人どうしよう。




