退魔師 光臨する
「へえ~、ちょっとビックリ。学年二の秀才が武術の使い手で
しかも、あの森 星明と付き合っていたなんて。人は、見かけに
寄らないものよね。」
僕の絶体絶命のピンチに、何の緊張感もなく、どちらかと言うと
失礼な台詞を呟きながら現れた女の子がいた。
黒髪を高めポニーに愛らしくまとめ上げ、白い襟付きのシャツの
上に真っ赤な赤いジャンバーを着ている。パンツは少しゆったりめの
黒のデニムだ。
「え~と、君は確か、転校生の・・。」
「あら、覚えてくれていてくれて、ありがとう。
香港から来た謎の美少女、陳 桃陽。
果たして、その実態は・・・」
確かに綺麗だけど自分で言うかよ~と僕と同じようにあきれていたのか、
鬼の一匹が襲い掛かった。
僕が庇う隙もないほどの、素早い動きであった。
「危ない。」「キャア~」
僕とキラちゃんが同時に叫んだが、崩れるようにその場に
沈み込んだのは鬼だった。
「發剄。太極拳か。」
僕のつぶやきにニヤリと笑いながら、陳桃陽はポケットから
何やら難しい漢字を書き並べたお札を取り出し、鬼の額に
張った。不思議なことに鬼は動きを止めた。それだけではない。
見る見るうちに、元の人間体へと姿が戻った。表情も気も普通の
人間の穏やかなものだ。
「エッヘン、その実態は・・・・」
仲間がやられたのを見て、容易ならぬ敵と見たのか、
三匹の鬼が一斉に襲い掛かる。
「おまえら、せっかちだな。そんなんだから、女に
もてないんだ。」
正面の鬼の攻撃を躱しつつ、背中に發剄が効いた掌打を
ぶちかまし、その場で助走もつけず、大きく両足を広げ、
左右から襲いかかる鬼たちの顎を蹴り上げる。それでも、
倒れない左右の鬼の水月に發剄の効いた掌打を左右同時に
お見舞いする。
「すげえ~、功夫を極めてる。」
「いいか、残りのおまえ、待ってろ。絶対に襲ってくるな。
最後まで言わせろよ。」
僕の絶賛に喜びを隠し切れない様子で、陳 桃陽は、
床に倒れた三匹の鬼の額に同様にお札を張り付ける。
同じように、元の人間体へと姿が戻った。
「香港から来た謎の美少女、陳 桃陽。
見た目は普通の女子高生、果たして、その実態は香港一の
退魔師。どうだ、恐れ入ったか。」
歌舞伎役者のように大きく見得を切りながらのあまりに
高飛車で迫力のある台詞に、残りの一匹の鬼、一木山高校
柔道部の主将はどう反応したらよいのか困った様子。
僕とキラちゃんも、同じだよ。
仏教の教えと中国独自に発展体系づけられた陰陽道の原理を
駆使して世の中の悪因縁を解く者を中国では退魔師と呼んでいた。
かって、皇帝に仕える退魔師の多くは仏教や道教の 高僧であった。
日本でも同じような役目を天台、真言僧および安倍晴明を代表とする
陰陽師が担っていた。
「ええ~い、日本人はノリが悪いな。アニメの国だろうが。」
自分でも恥ずかしくなったのか、陳 桃陽は拗ねたように
スタスタと鬼の方へ歩いた。
油断なく身構えた鬼は、両手で挟み込むように襲い掛かる。
その瞬間、陳 桃明の姿は消えたように見えたに違いない。
鬼の攻撃を躱しつつ、水月に發剄の効いた掌打をぶちかます。
ガハツ
攻撃は効いているが、それでも倒れない。
「しつこい。」
陳 桃明は、剄の効いた蹴りを男の大事な急所にぶち込んだ。
「ソレハ アカンヤロ・・・」
鬼はたまらず悶絶する。
「五月蠅い。」
陳 桃陽は、お札を額に張り付けた。
最後の鬼は完全に動きを止めたが、不思議なことに人間体に
戻らない。
「ここかっ。」
太極拳の必殺技、双風貫耳のように、両手でコメカミを
挟み込むように打つ。
グエエエ~
悶え苦しみながら、口から何かを吐き出すではないか。
見たこともない気味の悪い大きな寄生虫・・・・・。
やっと、元の人間体へと変化する。
「もらいっと。」
あろうことか、陳 桃陽は、その寄生虫をひょいと掴み、
自分の口に中に放り込んで、モグモグ食べている。
横で見ていた僕は完全にひいた。絶対に、こいつとは
キスをしないと心に固く誓った。
二階で見ていたキラちゃんは気分が悪くなったが、
当の本人はそんなの200%気にしていない。
「これ、意外と美味しいし、力も気もつくよ。今度、
おまえも喰ってみればいい。」
「遠慮しておきます。それより、救急車を。」
「そーだね。」
こうして、何とか無事に終わったが、これで終わりでは
なかった。始まりだったんだな。