鬼が襲う
「俺は、負けたのか。この俺が・・・。これでは、あのお方に
顔向けができない。イヤ、殺される。イヤだあ~。」
一木山高校柔道部の主将が苦悶の表情を浮かべ、ヨロヨロと
立ち上がる。頭を抱え苦しそうなので、見ている観客は
ちょっとだけ同情したが、それは恐怖心と化した。
全身が一回り大きくなり、頭から二本の角が生えたからだ。
瞳は赤色に輝き、口にはライオンみたいな牙が生えている。
他の柔道部員四人もシンクロしたのか、変化はしないものの
精神に異常をきたした。
「きやあ~」「うわあ~」「助けて。鬼よ。」
確かに、鬼だ。御伽話や昔話によく出てくる鬼を実際に目の前で
見たもんだから、無理もない。どす黒い禍々しい気に気分が
悪くなりながらも、会場の出口へと殺到する。
凶暴な鬼たちは、国善高校柔道部員に襲い掛かった。
「やめろ。」
顧問の近藤先生は、必死に止めようとするが、あっさり、
鬼の一匹に顔を殴られ、床に倒れた。
「キラちゃんは、ここにいて。」「うん、わかった。」
僕は、会場への階段を駆け下り、ガチガチ震える柔道部員に
襲い掛かろうとしている鬼の延髄に飛び蹴りを放った。
一度、やってみたかったんだよね。日曜日の朝の特撮の変身
ヒーロー番組を見て憧れた世代だから。
しかし、その鬼は、蚊に刺されたかのようにポリポリと
延髄をかくだけ。
「嘘だろう。マジかよ。」
その鬼が、僕に襲い掛かって来たが、僕に手を触れることなく、
大きく宙を舞う。柔道なら、完全な一本勝ちだろうが、相手は
鬼。僕は全身の体重を乗せ、容赦なく踵で喉元に蹴りを入れる。
グエッ~
それでも、その鬼は立ち上がってきた。嘘だろう~。
しかも、辺りを見渡すと、国善高校柔道部は全滅。無事に
立っているのは、僕一人。
五匹の鬼が、不気味に笑いながら、僕を取り囲む。
人間相手なら、十人でも怖くない。怪我をさせずに、無力化する
自信はある。大東流合気柔術の達人、現代に生きる武神と称されている
祖父に毎日稽古をつけてもらっているからね。しかし、相手は不死身の
鬼だ。まあ、鬼が相手でも、僕は攻撃を躱し続けることもできるが、早く
みんなを病院に連れて行かないとヤバいかも。
「ねえ、キラちゃん、どうしたらいいと思う。」
「ごめん、私もわからない。」
僕は、二階の観客席で心配しながら、心配してるよな、ワクワク
ドキドキしてないよな、キラちゃんに助けを求めたが、無駄だった。
どうしよう、僕、退魔師じゃないから。




