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僕の夢は 退魔師じゃない  作者: 三ツ星真言
17/46

決勝の大将戦で

 六年ぶりの大会優勝を狙う我が国善高校と初優勝を

狙う一木山高校は、両者お互い譲らず、関東大会史上、

最高、いや最悪、最凶の決勝戦となった。

 国善高校が「柔よく剛を制す」ならば、一木山高校は

「剛よく柔を断つ」だった。

 僕が言うのは何だけど、流石、御祖父さんのシゴキ、

いや特訓を受けているだけのことはある。じゃなかったら、

帝国館高校と同様に瞬殺されている。

 それにしても、一木山高校の柔道部員はいくら完全に締め技が

決まってもおちないし、いくら完璧に関節技が極まっても絶対に

まいったをしない。力任せに片手で相手の体を引きはがす。

 やっぱり、怪しい。

 ゴギッ

 一勝一敗一引き分けで迎えた副将戦で、我が国善高校の

柔道部員の腕十字が完璧に極まったが、相手はまいったをしない。

 ついに鈍い音がしたが、相手は全く苦痛を感じていない様子だ。

 痛みを我慢するならそれなりの体の変化や表情に現れるが、

まったく変化なし。審判も非常に困っている。

 僕は、ドーピングのチェックをしたかと心配する。

 結局、時間切れで、これも引き分けとなった。

 一勝一敗二引き分け、有効、技あり、一本もすべて同じ。

 大将戦へともつれ込んだ。

 我が国善高校の大将は主将である西郷三四郎。彼の父親は

長女、次女と授かったが、待望の男の子が生まれたので、

長男なのに三四郎と名付けたほどの柔道馬鹿。オリンピックの

銅メダル選手だったらしい。息子にかける金メダルへの期待は

ハンパなく、小さい頃からの英才教育はスパルタだったらしいが、

三四郎はめげることなく、曲がることなく、心技体調和した

立派な柔道家に育っている。今どき珍しい若者だと、珍しく

祖父が褒めていたから覚えているよ。

「始め。」

 会場にいる全ての者が見守る中、ついに決戦の火蓋が切って

落とされた。僕もキラちゃんも、瞬きを忘れている。

 西郷三四郎は、肚を決めていた。勝負は、一瞬。

 身長170cm、体重80kg。体格でも体力でも相手に劣る

自分が勝つには、あれしかない。

 自分の勝利を微塵も疑わない身長180cm、体重150kgの

相手の主将は、無表情に右手を伸ばし、三四郎の襟を掴もうとした。

 次の瞬間、相手の主将が宙を舞い、畳にドサッと落ちた。

「一本。」

 審判全員が、高々に右手を上げる。

「空気投げか。」「嘘、マジ。」

 僕とキラちゃんは、思わず顔を見合わせた。

 三船久蔵、講道館柔道十段。

 講道館柔道創始者の嘉納治五郎と『理論の嘉納、実践の三船』と

並び称され、「名人」、「柔道の神様」とまで言われた柔道家が

編み出した必殺技。

 この技は、相手に足、腰、背中をふれず、体捌きによって見事に

投げ倒す技だ。

正式名称は『隅落すみおとし』だが、僕は、これほどの優れた

技を実際に見ることができるとは、思いもしなかった。

 近藤先生と柔道部員は肩を抱き合い、涙を流して喜んでいる。

 僕とキラちゃんも、もらい泣きしそうになった。

 三四郎も湧き出る涙を必死にこらえ、開始線に戻ろうとしたその時、

悪夢のような惨劇の幕開けとなった。




 


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