デートは武道館(転の章の始まり)
みなさん、お待たせしました。
やっと、僕こと近藤 奏夢とキラちゃんこと僕の恋人
森 星明が、登場します。
さて、前話までの清廉 珠美と、どう絡むか。
怪しい土御門高校の秘密は、何か。
乞う、ご期待です。
「怪しい。」「私も、そう思う。」
今日は、キラちゃんと柔道部の関東地区大会、団体戦の最終日の
試合を都立武道館まで見に来ていた。
僕の祖父が特別顧問として指導している柔道部が順当に準決勝まで
勝ち進んだので、祖父に代わりに見てくるように言いつけられたからだ。
折角の日曜日の午後なのに、自分は野暮用だからって酷くない。
きっと、奏絵さんとデートだよ。正直に言えば良いのにね。
「これも良い勉強、修行と思って。」
まあ、キラちゃんがそう言ってくれたから、いいようなものの、
普通の女の子は、まずデートに柔道の試合見学を120%選ばない。
確かに、柔術と柔道は共通点も多い。僕たちの柔術は主に型稽古で
試合がないので、その点も勉強になる。
しかし、準決勝2試合目、去年の優勝校の帝国館高校と一木山高校の
試合は秒殺で勝負がついた。大人と赤ん坊のようなものであった。
そう、大人は、一木山高校。赤ん坊は帝国館高校。
今まで地区予選一回戦負けの高校が、決勝まで勝ち進んだのだ。
大会5連覇を狙う相手に快挙と言えばそうだが、会場の観客は
騒然となった。大相撲なら多くの座布団が舞っているだろう。
柔道は、簡単に言えば、崩し、つくり、かけの三つの手順で投げ技を
かけるのだが、一木山高校の柔道部員は、体のどこでも掴んだ瞬間、投げる。
相手が警戒して、腰を深く落としても、畑から大根を一気に引き抜くように
投げる。僕たちのやっている大東流合気柔術の合気ではなく、単に力任せの
投げ技だ。しかも、片手で体重100kgを超える相手を投げ飛ばす。
とても、人間業とは思えない。それに、全員の表情が不気味で、体が纏う気が
どす黒く見える。これは、絶対に怪しい。
「近藤先生、お疲様です。」
「いよいよ、決勝ですね。ところで、気を付けてください。あいつら、
絶対に怪しいですよ。」
僕たちは、柔道部の顧問の近藤先生に応援がてら、忠告にしに言った。
「おう、おまえたち。応援に来てくれたのか。ありがとうな。
おまえたちも、そう思うか。しかし、安心しろ。こんな時のためにも、
おまえの御祖父さんに指導してもらっている。それに負けたら、大変だ。
御祖父さんに殺されるかも。」
「確かに。」「そうかもしれませんわ。」
柔道部員もそこらへん十分わかってるし、何と言っても男子生徒の人気が
高い、星のビーナス、神の舞を踊る森 星明が応援してくれると
あって、俄然、気合が入る。
「まあ、大丈夫かな。」「様子を見ましょう。」
僕たちは仲良く並んで、決勝を見ることにした。