新しい玩具
私が人生に絶望した夜、玉藻の封印を解いた日から
早くも一週間経った。
私の人気はとどまることはなく、天にも昇る勢い。
全校生徒だけでなく、すべての教師も意のまま、
忠実なるシモベと化している。
今や、この学校は私の手中、いや玩具箱となっている。
あんなこと、こんなこと、色々、実験したりしているもんね。
そんなある日の放課後、私の脳に直接語りかける者が
現れた。精神感応だ。
「妖怪、おまえの悪行もそこまでじゃ。滅殺してくれる。」
「こんな可愛い女子高生に向かって、ヒドイじゃないの。
お仕置きしてやるから、どこへ行けばいいの。」
「決まっておる。おまえが封印されていた殺生石が置いてあった
場所じゃ。逃げても、無駄だからのう。逃しはせぬ。」
「誰が、逃げるかっちゅうの。首を洗って、待っててね。」
私は新しい玩具を与えられたように嬉しくなり、階段など
チンタラ使っている時間が惜しくて、三階から飛び降りた。
下校途中の生徒たちが拍手喝采する中、決戦の場所へと
疾風のように駆けてゆく。
そこに待っていた者は、頭に黒い変な帽子をかぶり、全身
白装束に身を包んだ初老の男だった。
「気を付けるのじゃ。そやつは、陰陽師じゃ。」
珍しいことに、玉藻が語りかけてきた。実は、玉藻は封印を
解かれた後、私の体の中にいる。
普段は、眠ったかのように表に出てくることはないのに、
よほど危険な強敵なのだろう。
「へえ~、陰陽師なの。初めて見た。で、あんたもスケートやるの。」
「たしなみ程度ならじゃなくて、馬鹿者。お主、陰陽師を知らんのか。」
「全然。」
「まったく、今どきの若い者は、何も知らぬ。そのくせ、アイススケートの
あの若い人気選手が陰陽師をお手本にした演技をしたことは、知っておる。
困ったもんじゃ。」
「愚痴はいいから、早く教えてよ。」
年寄りは、だから嫌なのよね。
「その身を持って、知るが良い。」
陰陽師は、生意気にも私に言うではないか。
そして、人知を超えた対決が開始されることとなった。