EX-3 女性無双
「あの……陽さん……大丈夫ですか……?」
「俺を頭のおかしい人みたいに言うのやめてくれよ!? ちゃんと意味はあるんだよ!」
部屋を出てから陽は綾香と同じく、コントローラーへと何度も話しかけていた。知っている人ならともかく、削夜と同じ事をフレーレは聞いていたが言い方が悪かった。
「ったく……ローラ! ダメか……せめてつながれば綾香とも連絡が取れると思ったんだけどな」
「その手に持っているのが彼女……いつかちゃんとした彼女さんができるといいですね」
「さっきからなんだ!? ローラはともかく他の女の子の名前出してるんだからそうならないだろ!?」
フレーレは目じりに涙を浮かばせながら陽の肩にポンと手を置き困ったように笑う。陽はもういいとばかりに手を振り払いまた歩き出す。
「それにしても静か過ぎますね」
「ああ……しかも広い。フレーレ、さん、だっけ? 見覚えは無いんだよな?」
「そうですね。他に誰か居るといいんですが……」
「とりあえず出口を探そう。同じ方向を歩いていればその内突きあたりくらいには行くだろ……」
陽はおかしなことを言うものの、女の子は守らねばと庇うように慎重に進む。途中いくつかの扉を開けてみるが鍵がかかっていて開ける事は叶わなかった。
「ここもダメか。壊してでも入りたいが俺は今、剣が使えないしなあ」
するとここでフレーレが拳を作って話しかけてきた。
「わたしがやってみましょうか? 武器もありますし、ドア位なら壊せるかもしれません!」
「マジか。いや、まあメイスの破壊力は高いと思うけど、女の子の細腕で……」
と、陽が手をあげて言っていると、フレーレは構わずメイスを持ってドアの前に立つ。陽がフレーレを見ているとメイスがほんのり光っていることに気付いた。
「それは?」
「これは聖魔光といって武器や拳に聖なる力か魔力を付与することで攻撃力をあげたりする技なんです。見ててください!」
フレーレがメイスを構えると、先程よりも光が強くなっていった。陽はこの段階で魔力を感じ取る事ができた。
「(武器に魔力を付与……面白いな。これで威力があれば教えてもらうか?)」
陽がそんな事を考えていると、フレーレの一撃がドアを直撃した!
ドゴォォォォン!
轟音と共にドアが破壊された。フレーレはメイスを降ろして陽へ振り返る。
「やりましたよ陽さん! 中を見てみましょう!」
「げほ! げほ! め、めちゃくちゃだな!? まあいい……!?」
「どうしました?」
「危ない!」
グルルル……!
開いた扉の向こうから、先程レイド達が戦っていたものと同じオーガがフレーレの後ろに立っていた。分かりやすい棘つきの金棒を持ってだ。
すぐに陽は動き、フレーレを突き飛ばすと振り降ろされた金棒を両腕でブロックした。
「んぐ……!?」
嫌な音を自分の腕から聞いた陽はすぐにオーガを蹴り、奥へと吹っ飛ばす。レベルは上がっているので通常の魔物なら生身でもなんとかなった。
「いってぇぇぇぇ!? これ折れたよ! 折れたよね!?」
「お、落ち着いてください! ≪リザレクション≫!」
「お、おお!」
フレーレの回復魔法であっという間に腕のケガが治り、驚く陽。
「すげぇ……! 綾香のヒールとは比べ物にならない……おし、これなら! フレーレさんそれ貸してくれ!」
「え? あ、はい」
フレーレからメイスを受けとり、オーガの前に立つ。オーガも体勢を立て直して、蹴りを入れた陽へと怒りの咆哮をあげる。
グオオオ!
「へっ、蹴りでバランスを崩すような雑魚ならすぐに……」
「≪マジックアロー≫」
「え?」
ドスドスドス!
グオオォォォ……
陽の後ろから放たれたフレーレのマジックアローにより、オーガの体は穴だらけになり一瞬で絶命。他に魔物が居ないのでこれで終わりである。
「やりましたね!」
「やったのはあんただけだけどね!? はりきって前に出た俺の高揚感を返して!」
「まあまあ、陽さんが前にいてくれたから撃ちこめたんですし、良いじゃないですか。それより何か落ちてますよ」
「くっ俺をしっかりと立ててくるあたり悪気が無い……しかしそれゆえにタチが悪い……なんて人だ……」
ぶつぶつと言いながらオーガの近くに落ちているものを拾う。
「メダル?」
「ですね。魔物が持っていましたし、何か意味があるのかもしれませんね」
「ああ、一応持っていくか。他に何か無いか探してみよう」
コクリと頷くフレーレと共に部屋の物色を始めるのだった。
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「コケッコー!」
「おお! その声はベティちゃんか!」
頭上から声が聞こえ、削夜は歓喜の声をあげる。崩壊した階段を見上げると、狼に囲まれているベティちゃんを発見した。
「うおおお!? いきなり修羅場じゃないか! ベティちゃん、早く飛んで来い!」
「何? あのニワトリあなたのなの?」
「コケー」
削夜が叫ぶが、当のベティちゃんは狼の背に乗り、問題ないと言いたげに羽を広げていた。それを見て安堵した後、横に女の子がいることに気付く。すると向こうから話しかけてきた。
「あのーベティちゃんの飼い主さんですかー」
「ああ! 俺は削夜……出月 削夜って言うんだ。この屋敷の主人かい?」
「私はルーナです! ここは私も知らない場所なんです。気付いたら部屋のベッドで寝てて……削夜さんと、ええと彼女さんですか? あなたも?」
すると横にいた綾香が抗議の声をあげながら自己紹介を始めた。
「違います! こんな眠そうな目をした男は彼氏じゃありません! コホン……私は雨宮 綾香よ」
「あ、あはは……すいません……それじゃ私達みんな迷子って事ですね」
「まあ、屋敷内で迷子と言うのもアレだが……他に人は?」
「居なかったです。ドアも鍵がかかっていましたし」
「そうか……」
削夜が腕組みをして考えていると、綾香が目の前にある扉を見ながら呟いた。
「とりあえず人がいるのは分かったし、合流しない? 見たところ狼は居るけど、あの子一人みたいだし合流しておいた方がいいと思うのよね」
「それもそうだな。よし、綾香俺の背に乗れ」
「え? 何で? 女子高生のおっぱいを背中で感じたいの? 痴漢じゃない」
「違う!? というか背負うって言っただけでそこまで言えるお前が凄いよ!? いいから乗れ、合流するんだろ」
「? お尻触ったら首絞めるからね」
「バレたら俺が嫁に殺されるからするわけない……」
「<レビテーション>」
「あ、凄い!」
ふわりと削夜の体が浮き、ゆっくりと上の階へと上がっていく二人。それを見てルーナが感激し、綾香が興奮していた。
「え、空飛べるの! 凄い凄い! 私にも教えてよ!」
「暴れるな!? 流石に別世界の魔法を使えるとは思えないんだが……」
「コケー♪」
「良かったわね、ご主人様に会えて」
削夜はルーナの居るフロアに難なく着地すると、ベティちゃんが削夜の胸へ飛び込んでくる。それを見たルーナがにこにこしながらベティちゃんに言う。
しかしその時、三人が先程まで感じなかった気配を感じ取った。
「……こりゃどういうことだ」
「殺気かしら、急に気配が出てきた気がするわね」
「レジナ達、気を付けて。多分、来るわよ」
階段を中央に、両脇には廊下が伸びている。ルーナはその内の一つから来ていたが、特に何も無かった。しかし今は通路から鋭い殺気を感じ取っていた。
「来た……!」
廊下の影から、何かが襲いかかってきた……!
一ヶ月ぶりです! じわっと更新していくのでまったりお待ちいただければ幸いです……。
いつも読んでいただきありがとうございます!
【後書き劇場4K】
『で、私はいつ出るの?』
何いってんのお前?
『私もでたいぃぃぃぃ! お祭りだからいいでしょ!』
駄々っ子か!? その予定はない!