6 嘘は身を滅ぼす
強い光と共に、私は『ぎゅっ』とキツく目を閉じて衝撃に備えていた。
が、何時まで経っても衝撃は訪れない。
まさか、即死攻撃だった?
苦しまずに逝かしてやろうと言う兄の心遣いか?
…全然嬉しくないな。
「ルーナ、ルーナ。大丈夫だから目を開けてご覧?」
「…ヴァンにいさま?」
私の頭をポンポンと優しく撫でるヴァン兄様。
あぁ、私と手を繋いでいたばかりに兄様まで亡き者に…
「ヴァンにいさまも、しんでしまったのですね…」
「……えっ?」
「ここは、こんどこそてんごくですか?」
「……ヴォル、やり過ぎだぞ」
「だって、こうでもしないとルーナは言わないだろ?」
「ヴォルにいさまもいるんですか?」
「あぁ、居るぞ。ルーナ目開けてみな」
そう言われ、恐る恐る目を開けると
そこは目を瞑る前と何の変わりもない、私の部屋だった。
「……えっ?」
「ルーナも悪いんだぞ?ヴァンとばっかし仲良くして」
「元はと言えば、ヴォルが僕のルーナの日邪魔したからだろ」
キャンキャンと言い争いをする兄様達。
…えっ、攻撃魔法はどこに!?
「ヴォルにいさま、まほうはどこに…?」
「…俺がルーナに攻撃魔法なんて撃つ訳無いだろうがっ!」
ハァー、信用ないなぁ俺。
そう言いながら頭を掻くヴォル兄様
…しかし兄様、よく考えてください!
信用がある人は、普通攻撃魔法を妹に向かって放たないと思います。
「もし万が一撃ってたら、僕ヴォルを全力で殺ってると思う」
「我が弟は怖い事言うな」
「当たり前だろ?僕はルーナの兄さんなんだから」
「俺もお前の兄さんなんだけど…」
「でも、でもにいさまえいしょうして…」
確かにヴォル兄様は詠唱していた。
しかも、攻撃魔法をだ。
「俺が唱えたのよく思い出してみな?」
「えっと、たしか…」
ディア・ローラン、
我ヴォル=フェルト・レィリレースの名の下に命ずる。
我の前に立ち塞がりし者に……を与えよ…
「一ヶ所、聞こえない所あっただろ?」
「たしかに」
「我の前に立ち塞がり者に光の祝福を与えよ」
「しゅくふく?」
「最初が攻撃魔法の呪文だったから、光って終わりだったんだ」
ちゃんと祝福も贈れるんだからな?
そう言いながら『えっへん』と胸を張るヴォル兄様
いや、胸張られても…
「攻撃魔法に、援護系の呪文混ぜたから発動しなかったんだよ」
「つまり、わたしはだまされたんですか?」
「言い方が悪いな。俺はルーナの愛を確認しただけだよ」
「あ、あい?」
「そう、愛」
ニッコリウィンクを決めるヴォル兄様。
すっかりご機嫌になったようだが、私の心は逆に曇り空だ。
何だ、愛を確認って?
私がヴォル兄様を愛してる前提か!?
……えっ?
さっき愛してるって言ったって?
イヤイヤ、あれは一種の…そう、寝言だ。
最近流行りの白昼夢だ
「さーて、ルーナに告白もして貰ったし昼食いに行こうぜ」
そう言って、私の左手を掴みルンルン気分のヴォル兄様
右手はヴァン兄様にずっと握られているので
そう、これはさながら囚われた宇宙人ポーズ
ズルズルとそのまま連行される私は
自分で言うのも何だが凄く可哀想だ。
「ヴォル、忘れてるかも知れないけど、
ルーナは兄様って言ったんだからね。
ヴォルだけじゃないからね?だよね、ねっ、ルーナ?」
激しく私に同意を求めてくるヴァン兄様。
あれは『夢』ですよ。
そういくら言っても全く聞く耳無しだ
…サンタクロースとか、絶対信じないなこの兄は。
しかし、さっきのあれは
ヴォル兄様に対してと言うか、なんと言うか…
口から出任せなので、はっきり言ってどうでも良い。
しかしまぁ、言った事は取り消し不可能みたいなので
(いくら夢だ、兄様達の聞き間違えだと言っても無視なので)
私はあれが、兄様達からの記憶から自然消滅し、
そのまま忘れてくれることを、今は切実に祈るのみです。
「ヴァンにいさま、そんなのどっちでもいいで…」
「よ・く・な・い!!」
そんな被せ気味に否定しなくっても…
兄様、3歳児からの告白がそんなに大事ですか?
えっ、大事ですか…
わっ、分かりましたから兄様、そんなに鼻息荒く詰め寄らないで下さい!
折角のイケメンが台無しです。
だぁっ、頬っぺたスリスリしなくって良いですから!
なになに、まだルーナから言って貰ったことがない?
そりゃあ、ルートに入る前はルーナは超、鈍感設定ですんで
まず言いませんよ。
今だって言う予定無かったんですからねっ?!
この年から好き好きアピールしたら
それこそフラグ乱立半端ないじゃないですか。
…それにしても、ここら辺は私がほぼシナリオを作ってないとは言え
双子の兄達が性格歪み過ぎてません?
ヴァン兄様は、もっとクールでしたよね?
ヴォル兄様はもう少しソフトな感じの性格じゃありませんでした?
「ヴォルにいさまは、せいかくゆがみましたか?」
「なに言ってんだよルーナ。
俺の性格も、ルーナへの愛も真っ直ぐ一直線だっての」
…一つ、悲しいお知らせです。
確実に私への愛は歪んでますよ、ヴォル兄様…
それからは、お昼を食べに行こうとするヴォル兄様と
好きと私が言うまでは、絶対手を離さないと言うヴァン兄様に挟まれ
私のお腹が限界を迎えるまで、暫くはこの攻防戦は続く。
しかし、3歳児の体は正直だ。
私のお腹はもうかなり限界で…
私が根負けしたのは言うまでもない。
「ヴァンにいさまのこともすきですよ…」
「ルーナ…!僕もルーナの事大好きだよっ!ルーナだけを愛してるからね!」
ぎゅーっとヴァン兄様からの熱い抱擁。
あぁ、全然ご飯にありつけない…
早くごはん食べに行きましょうよー
ごはん、ごーはーんー!!
「…ルーナ、俺は?」
今度はヴォル兄様ですか…
しかも、何で貴方がそんな捨てられた仔犬みたいな顔してるんですかっ!
さっきヴォル兄様には告白?してあげましたよね??
「ヴォルにいさまにはいったじゃないですか」
「俺、名指しでは言われてない」
「にっ、にいさま…」
…面倒くさっ!
私が考えた双子はこんなにも面倒だったのか?!
画面の中ではキャッキャ、ウフフッしてたけど
これが現実なのね…
「ルーナ、勿論俺にも言ってくれるよな?」
「…もちろんです。ヴォルにいさまもすきですよ」
「だよなっ!」
もう私諦めました。
今私、死んだ魚の様な目してるんですけど、兄様達わかってます?
「ルーナ」
「ルーナ」
…わかってませんねっ?
私は、ヴォル兄様とヴァン兄様にぎゅうぎゅうと抱き締められる。
うぅっ、フラグ…
死亡フラグとか立ってないよね?
…
……
………
無言の圧力…!
何ですかっ、兄様達!!
そんなにじっと見つめて
えっ、続きはって?
もっ、もう続きませんよ!
ちょっ、潰れるっ、潰れるって!!
…あぁっ、もう分かりましたから離してくださいっ!
「ヴァンにいさま、ヴォルにいさま」
二人の腕から抜け出し向かい合う。
私はルーナ、私はルーナ。恥ずかしくない。
だって私はルーナだからっ…!
「ルーナはにいさまたちのこと、とてもだいすきですよ。あいしてます」
ルーナの公開処刑、執行。
兄様達の記憶から消えるどころか、刻み込んでしまった
自らの手でフラグを立てに行くのは、もうこれきりにしたい…
「僕も。ルーナずっと一緒に居ようね」
「ヴァンよりも俺の方がルーナの事愛してるからな」
「そんなこと無い。僕の方がルーナの事愛してるからね」
そしてまた、キャンキャンと言い争いが始まるのは言うまでもない。
それにしても、8歳から愛だの何だの言っている
兄達の将来が少し心配なのは言うまでもない。
「にいさまたちっ、もういいかげんにしてください!」
そんな私の声が、兄様達の耳に届くのはまた少し経ってからの事。
そして私は、兄様達が再びキャンキャン言っている間に
1つ、心に決めた事がある。
好きと、嫌いは禁句にしようと…