5 虐め、駄目、絶対。
「ヴァンにいさま、あまりヴォルにいさまをいじめてはかわいそうです!」
「ルーナ…!」
口ではヴォル兄様はヴァン兄様には勝てない。
流石に不憫に思って助けてあげる事にする
すると、パァッとヴォル兄様の顔色がみるみるうちに明るくなる
実に分かりやすい。
「ハァー。わかった、わかったよ。ルーナが言うならヴォルで遊ぶの止めるよ」
「…俺で遊んでたのかよっ!」
「ヴォルが猿のおもちゃみたいで、ついね?」
「さっ、猿?!」
「もうっ、ヴァンにいさまっ!」
「ゴメン、ゴメン。もう言わないよ。それにしても、もうこんな時間だ
ルーナお腹すいたでしょ?」
「そんなこと…」
そんなことは無い、そう言おうとしたが
それより先に『グ~』っと私のお腹が盛大に返事をしてしまった。
うわっ、恥ずかしいっ
「!!」
「ごめんねルーナ。ヴォルのせいで遅くなって」
「あのなぁ、俺は心に深い傷を負ったんだけど?」
「ヴォルの心よりルーナのお腹。さっ、食べに行こうか」
そう言って、私の右手を引き歩き出すヴァン兄様。
しかも、ヴォル兄様の横を大回り気味に避けて
…まだ根にもってますね?
「これは追い討ちかっ!?」
あからさまに避ければ、そりゃそうなりますよヴァン兄様
そう思いヴァン兄様の顔を伺うと、それはそれはニコニコと笑っていた。
……これは、兄様楽しんでるな
「うるさいなぁ…。そんなに言うなら回復魔法でもかけておくと良いよ」
「俺が回復魔法苦手なの知ってるだろ!
ってか、そもそも心の傷は癒せねーんだよっ!」
「…えっ、そんなの知ってるけど?」
基礎で習うんだし、常識だよね?
そう笑顔でヴォル兄様に笑いかける顔はヴァン兄様、流石に黒いです。
何度も聞いて悪いんですが、本当に、本ー当ーに兄様達8歳ですか?
私、今ならヴァン兄様の頭が『パカッ』て割れて
その中から、中年のオジサンが出てきても驚きませんよ。
むしろ『あぁ、やっぱり…』って納得出来ます。
「お前、本当は俺の事嫌いだろ!」
「別に、嫌いではないよ?一緒に育ってきた訳だし」
「好きでもないんだろ?」
「…まぁ、ルーナと比べたらヴォルなんて『提灯に釣り鐘』
比べるのも烏滸がましいよね。…ヴォルにルーナは勿体無いよ?」
「それはこっちの台詞だ!!」
ヴァン兄様はさっきからずっと楽しそうだが
ヴォル兄様はそろそろ泣きそうだ。目がずっと潤んでる。
ここはルーナこと、私が一肌脱ぎますか。
それに、ヴァン兄様が危ない方向に話を持っていこうとしてるのも
かなり気になるし、このままではこちらにも火の粉が降り注ぎそうだ。
一応私の名誉のために言っておくが
お腹が空いて、早く食べに行きたいからではない。
…本当、違うからね?
「にいさまたち、いいかげんにしてください!
なかよくしてくれないにいさまたちなんて、ルーナはきらいです!」
…
……
………
その場がシーンと静まり返る。そして私を凝視する兄様達
えっ、動かないの怖いんですけど。
と言うか、そんな目を見開いてこっち見ないでください
そんな大きい目に見つめられたら穴開く、穴開くから!!
「にっ、にいさま?」
呼び掛けにも反応なし。
…まさか石化?
私は知らぬ間に石化魔法修得したの?
ルーナ、レベルアップ…的な?
「ヴァンにいさま?ヴォルにいさま?」
尚も反応なし。
…まさか、これはあれなのか?
私のレベルアップ云々じゃなくって
妹に『お兄ちゃんなんて大嫌い』と言われてフリーズしちゃった感じか?
妹に嫌われたら生きていけない系男子か?
…まぁ、実際そうだな。
まだ1日、いや、半日しか一緒に居ないけど
この二人は生きていけない系だな…。
私中心に人生回しちゃってるもんなぁ。
日常エンドにいくために、兄二人には妹離れしてもらって
ついでに可愛いお嫁さんでも探してあげよう。
いや、私が探さなくっても可愛いお嫁さんは選り取りみどりか。
側室とか、ハーレム作り放題か!
…さて、原因もわかった事だし
そろそろ兄様達に復活して貰いたいのだが
なんて言えば良いだろうか?
ここで『嘘です。兄様大好きです』なんて言ったら
変なフラグが乱立しそなのでそれは無しだ。
だからと言って『仲良しな兄様が好きです』も違う気がする。
んー、ここは『仲良くするなら、嫌いは取り消してあげます』か?
一番これが無難かなぁ…
うん、これにしよう。
全く、面倒な兄様達だ。
「あのですね、にいさま…?」
私の手を握ったままのヴァン兄様は、まだ呆けているが
なにやらヴォル兄様の様子がおかしい。
さっきからブツブツと何かを言っている。
「ルー……嫌わ……界……」
「ヴォルにいさま…?」
「……に……て世……い…」
「えっ?」
何か、物凄く物騒な事をヴォル兄様が言っている気がするのは
私の気のせいだろうか?
…気のせいであって欲しい。
「にいさま、にいさま。しっかりしてください」
「…ルーナ?」
「…!はい、ルーナですよにいさま」
出来る限りの笑顔でニッコリ笑いかける。
しかしヴォルの目線は、私とヴァンの握られた手に釘付けだ
「俺はルーナにも嫌われちゃったんだな…」
「えっと、にいさま。そのせつめいはすこし、ながくなるんですけど…」
「大丈夫、分かってるから」
「にいさま…!」
説明無しでも分かってくれる兄様!流石です!!
でも、本当に大丈夫ですか?
目が据わってる気がするのは私の気のせいですか?!
「で、俺思ったんだ」
「えっ、あ、なにをですか?」
「…ルーナに嫌われた世界なんていらないって」
「………えっ?」
ルーナ3歳、まさかのヴォル兄様のヤンデレルート突入!?
嫌々、まさか。
ちょ、待って。待ってってば!
ルート分岐無かったって!!
傷心度?あれはヴァンに対してでしょうが!
とっ、兎に角、回避回避回避ーーーーー!!
「に、にいさまおちついて!」
「あぁ、俺の可愛いお姫様最期の時はせめて一緒に…」
最期の時?!
ヤンデレルートから死亡エンドに昇格いや、降格?!
どっちみち嫌ーーー!
生き返ったばかりで死にたくないーーー!
「にいさまおちついて、はなせばわかりますから!」
「もういいんだ、ルーナ」
「よくない、ぜんぜんよくないですにいさまっ!!」
「ディア・ローラン、我ヴォル=フェルト・レィリレースの名の下に命ずる」
攻撃魔法ー!
こんなところでぶっぱなす気ですか?!
死ぬ死ぬ、死んじゃうからーーー!
「にいさま、にいさまカッコイイ!だからおちついておちついてーー!」
「我の前に立ち塞がりし者に……を与えよ…」
「あぁ、さっきのきらいはうそです。うそ!
キャー、にいさますき、すき、だいすき。あいしてますからーーー」
だから攻撃魔法は止めて!そう言い終わる前に
私達は強い光に包まれた。
あぁ、私今度こそ絶対死んだ……