2 転生した?
ゲーム開始時のルーナの年齢を12→15歳へ変更
「てんしさま、お、おたわむれを!!」
おでことほっぺを押さえながら2人と距離をとる。
あぁ、熱い。
顔がすごく、すごーーーく熱いです!
何ですか、ここはキャバクラですか?!
高額なお金を支払らされるヤバイお店ですか
それとも、寝起きに天使はキスをするんですかぁーー!?
こんなショタイケメンにそんなことされたら
おばさん、お金も心臓もいくつあっても足りないですよっ
「天使様ぁ?家の姫様はどうしちゃったんだよヴァン?」
「さぁ?朝起きたらこうなってたけど」
「と、とにかくここはどこなんですか?」
キャバクラですか?
それとも天国ですか?
お金の問題でおばさんは後者を希望です。
前者だったら…全力疾走極め込みます。
「どこって、ルーナのお家だよ?」
「そんでここは俺達の部屋だな」
ルーナちゃんのお家ですか。
と言うことは、私はルーナちゃんの家に不法侵入し
天使の寝床に潜り込んだ、と
…
……
………私の足よ、走る準備は出来ているかい?
「おっ」
「おっ?」
「おじゃましましたぁーーー」
ベットから勢いよく体を投げ出す。
よし、うまく逃げ切れる、そう思った矢先
思っていたよりベットが高く、足がつかないではないかっ!
短足か、私は短足なのか…
「ルーナ!!」
天使様達の声が重なった。
あぁ、本物のルーナちゃんのお出ましか。
出来ればルーナちゃんに会う前に退散したかったな…
そして私はどうすることもできず、そのまま頭から床へダイブ
これからくるであろう衝撃に目をきつく結ぶ。
…
……
………あれ?
いくら待ってもくるはずの衝撃は私の頭には届かず
恐る恐る目を開けると、私は浮いていた。
ういていた。
「うっ、ういてる!?」
「ハァー。ルーナ、心配かけさせるなよ」
「いつもは下ろすまでおとなしく待ってるのに、ルーナ怖い夢でも見たの?」
「うっ、うううっ、だっ?!」
「えっ?」
「だって、わたしういてる!」
「あぁ、俺が浮遊の魔法ルーナにかけたからな」
「ま、まほう?」
魔法って、あれですか?
チチンプイプイ~とか言うあれですか??
「ちちんぷいぷい…」
「呪文は違うけど、そんな感じだな」
「ほら、ルーナおいで」
下ろしてあげる。
そう言って私に手を差し出す天使様その1
このまま浮いていても仕方無いので天使様の肩に手をかける。
「よっと」
うん、これは所詮『抱っこ』っと言うやつですね。
…逃げなきゃ良かった。
ガッチリ両手でホールドされている私は
もう逃げることを諦め、状況把握に勤めることにします。
「えっと、あなたたちは?」
「今日のルーナは本当おかしいな?俺はヴォルでこっちは俺の弟のヴァンフリードだろ?」
「ルーナ、僕ルーナに忘れられちゃうのは悲しいな」
「ルーナって、わたしですか?」
「ルーナ=フェルト・レィリレース」
「ルーナ=フェルト・レィリレース……って」
その名前は聞き覚えがあった。
と言うか、この二人の名前もだ
いや、でもそんなことって…
「わたしはルーナ=フェルト・レィリレース、15さいですか?」
「何言ってんの。ルーナはこの前3歳になったばっかだろ?」
「3さい!?」
「一週間後に父さん達が帰ってきたらパーティしてもらおうね」
「…はぃ」
落ち着いたことを散々確認され、やっと『抱っこ』から解放された私
ルーナ=フェルト・レィリレース
これは私が、私の為に作った乙女ゲームの主人公の名前だ
そして今鏡の前に立って居るのは間違いなく『佐藤しお』ではなく
私の理想の女の子、ルーナちゃんだ。
腰まで伸びた長い黒髪、ぱっちりとした黒い瞳
白い透き通るような肌、正しく私のルーナちゃん!
…
……
………我ながら可愛いじゃないか
「ルーナ、着替えるよー」
早くこっちおいで。
そう言われて鏡から目を離すと、ヒラヒラしたピンクのドレスを持つヴァン兄様。
…えっ、それ私が着るんですか?
ってか、私の着替え、兄様がやるんですか!?
「…あの、ヴァンにいさま?」
「今日はルーナの髪二つにしてあげるからねー」
「……わぁ、ありがとうございます」
うっ…
キラキラした満面の笑みについお礼を言ってしまった
いかんいかん
「ヴァンにいさま、おてつだいさんは?」
「……えっ?」
記憶が正しければ、ルーナの着替えはメイドの仕事だ
貴族の中でも上位に位置するルーナの家は、メイドが売るほど居たはずだ。
なので、いくら妹の世話をよくする兄が居ても、決してルーナの着替えは兄の仕事では無かったはず。
「…あっ、いや、お手伝いさん忙しいからね?かわってあげたんだよ」
メイドが、忙しいを理由に着替えの手伝いを兄に押し付けるだろうか?
答えは否だ。
「…では、にいさまのてをわずらわせるわけにはいきませんので、わたしひとりできがえてきます。だいじょうぶです、ルーナはもう3さいなのですから、それくらいひとりでできます」
と言うかさせてください。
「ルーナはまだ3歳だから僕が手伝います。一人じゃ心配だからね」
「ルーナはりっぱな『れでぃ』なのでえんりょします」
「昨日も一緒にお風呂入ったのに?」
「ブフォッ…!?」
一緒にお風呂ですとっ!?
いや、3歳ならセーフか
むしろ3歳じゃ一人で風呂は入らないか…。
イヤイヤ、メイドが居るよね?!
「あれっ、ヴァンまだルーナの着替え終わってないのかよ」
「今日のルーナはご機嫌ナナメみたいで…」
いつの間にか身支度を整えたヴォル兄様
黒のフォーマルスーツらしきものはとてもよく似合う
「んー、じゃ交代ヴァンも着替えてきちゃえよ」
「えっ、今日は僕がルーナの日だろ!」
…ちょっと兄様達ストップ!
『ルーナの日』とは一体!?
「駄々こねてるんだからしょうがないだろ。ほら交代ー」
「あっ、ちょっとヴォル!」
グイグイと隣の部屋に押しやられるヴァン兄様
抵抗虚しく、隣の部屋で待ち構えていたメイドさんに引き渡された。
…メイド居るじゃん!
「あの、ヴォルにぃさ…」
「ルーナはピンクのより黒だよな!こっち着ようなー」
「あのっ、にいさま…!」
「今日は俺とお揃いだぞ!!嬉しいだろ?」
「えっと…」
「嬉しいよな??」
「……わ、わぁ、うれしいです」
結局、ルーナの日の説明も聞けず
私もメイドさんに着替えさせて欲しい
と言うお願いも聞いてもらえなかった…。
**********
黒のゴスロリチックなドレスに着替えさせられた私は
着替えが終わったヴァン兄様に髪を結ってもらっていた。
約束通りツインテールだ
…きっとこの兄達は私の専属のメイドに違いない。
「はい。完成ー。ルーナは今日も可愛いね」
そんな事をさらりといい放つヴァン兄様
可愛いのは貴方だよ!
お礼と一緒にヴァン兄様を誉め返す。
「ありがとうございます。ヴァンにいさまもかっこいいですよ」
「……えっ」
見る見るうちに赤く染まる頬。
妹に誉められただけ赤面する姿はとてと異様だが、仕方ない。
だって彼は重度のシスコンキャラだから
それから鬱陶しい、じゃない
妹愛重すぎる兄達と騒がしい朝食をとり、私は自分の部屋に戻った。
因みに兄達は家庭教師が来るので当分一人きりだ。
「まず、じょうきょうをせいりしなきゃ…」
分からない事が多すぎる。
何故私は死んでないのか、ここは本当に私のゲームの中なのか?
それに、他の電車の乗客はどうなってしまったんだろうか
…阿東君、無事だと良いけど。
「とにかく、まずはおぼえていることを、かみにかいてみよう…」
ゲーム開始時の年齢はルーナ15歳。
魔法の才能を開花させたルーナが魔法学校に入学する所からゲームは始まる。
そして、この物語は剣と魔法のファンタジーもの。
好感度の上昇は無く、攻略対象は基本好感度MAXで登場する。
選択肢では傷心度が設定されており、この傷心度がルート分岐に関係する
ハーレムエンドからデットエンドまで幅広く搭載してある。
(こんなことならもっとルート分岐簡単にしとくんだった…)
傷心度が高いと、キャラが病むルートも有るから注意が必要だ。
そして死亡エンドも多彩に用意してあるこのゲーム、自分で作っといて何だが、マジないわー
そして私自身。
佐藤しおは死んだ、これは確実だろう
だが、佐藤しおの精神だけは何故かルーナの中に転生?した。
そして困ったことにルーナとしての記憶が無い事に今気付いた。
作者としての記憶はある、が
ルーナとしての3年間の記憶が完全に抜け落ちている。
…困ったことになった。
ルーナは生まれもっての天才だ。
産まれたときからの最強チートの持ち主
やろうと思えば何でも出来るチートを持っていた、はずだった。
だがしかし、今の私は自分のステータスも出せないではないか!
気合い入れてさっき『ファイヤーボールッ!』
とか叫んだ私は馬鹿みたいじゃないか!!
(室内で唱えるものではない事は唱えてから気付いた)
身体はルーナなのだからチート出来るかも知れないが、それには『努力』が絶対だろう。
何せ何も出来ないし。出ないし…
多分身体能力も只の3歳児だろう。
攻略対象については私が、覚えているだけでも6人+α
あの双子の兄達、それと隣の国の第三王子様、貴族の息子、城下町のパン屋の跡取り、あと魔法学校の同級生。
…どのルートにもハッキリ言って行きたくない。
特に面倒なのはあの双子の兄達だ。
兄妹として一緒に育っているが、血の繋がった兄ではない。
行儀見習いとして家に来たのだが、この国ではこの行儀見習いが少し変わっているのだ。
もちろん普通の行儀見習いも居るが…。
別名『嫁(婿)取り見習い』
家が嫁、または婿にしたい子供の居る家に自分の子を行儀見習いとして預けるのだ。期間は家によって異なるが、基本二、三年が一般的だ。
これは子供同士を仲良くして円滑に婚姻を結ばせる為、とも言われている。
家によっては普通の行儀見習い(家事)として家におく場合もあるが、家族同然に扱う家もある。そして私の家は後者だ。兄妹として育っている。
二人の家柄も考慮したのかも知れないが、詳しくはまだ考えてなかった。
作中のルーナはこの事を知らないが、二人の兄は知っている。
ルーナが兄妹では無いと知らされるのは学園への入学後だ
確かルーナが一歳の頃二人は来たからあと一年程で帰るだろう。
(まぁ私が、自分で作った設定なんだけどね…)
前世ではイケメンのお兄様に頭なでなでされたいとか思ってたけど、いざしてもらえる環境になると、その願望は薄れるようだ。
私が、作っただけあって見た目から全て私の好みなのだが
私は画面の中で楽しむを前提に作ったのであって、実際に体験したい訳ではない。
ルートに入れば、普段の倍増しで口から砂を吐くような甘ーい台詞を囁くイケメンにこれでもか、と言わんばかりに口説いてもらえるが
生憎、私にはそんな免疫は一切無いのだ。
…そして、忘れてはいけない。
このゲームが『口説かれゲー』だと言うことを。
普段から結構甘い台詞を吐かれることを
スルースキルか、聞き流しスキルを搭載しとけば良かったと心底思う。
イケメンは隣に侍らすものじゃない。
遠くで観賞するものだ!!
…この結果を踏まえて私が、狙うのはキャラルートに入らない日常エンド!!
このルートならイケメンを見ながらの、幸せな暮らしが約束されている。
攻略対象以外と結婚して最後は決して華やかではないが、幸せに暮らすのだ。
そう、エピローグにきちんと私は書いたのだ!
これはキャラルートに入らないため、バットエンド扱いで作ったルートだが
このルート自体は、とてもほのぼのとした良いエンドで
案外私のお気に入りルートの一つだ。
そして問題はここからだ。
このゲームはまだ完成していない。
つまり私が、分からないルートが存在している可能性がある。
(実際私は3歳のシナリオなんてメモ書き位しか書いてない)
これからの私の生活の仕方によっては、私の知っているルートに入るかも怪しい所。どんな状況になっても生きられるようにしないと。
折角生き返ったんだ、出来れば幸せに生きていきたい
『グシャ』とは死にたくない。
…因みに、グシャっとルートも搭載済だ
(当分はレベル上げして、まず、ステータスを見れるようにしないと)
ステータスは下級魔法だ。
多分すぐ使えるようになるはず…!
と言うか、ならなきゃ凄く困る。
他人のステータスは相手から見せてもらうか、『鑑定』で見るしか無いので鑑定もとっとと覚えたいところだ。
お父様?が帰ってきたら家庭教師を頼もう。
魔法に剣に、万が一の時に冒険者になれる位のステータスまで頑張ろう!
貴族の令嬢が冒険者と言うのも楽しいかもしれない。
うん、考えてたらちょっと冒険者目指したくなってきたな。
そんなルートは無かったけど、選択肢に入れておいても良いかもしれない
ルーナは磨けば光る宝石みたいな子だ。
3歳からならどうとでもなる、はず!
もう私は冴えない『佐藤しお』では無い。
ルーナとしてこれからは生きていく事になったのだ。
何だか嫌な予感はヒシヒシとするが
作者としての知識、そしてルーナとしてチート(努力)
この二つを上手く使って幸せになるんだから!