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誤字脱字修正しました。
ご報告ありがとうございました。
皇帝不在の城内の応接の間。
室内は決して華美というわけではないが、落ち着きのある色合いで統一されており、家具等は一目見て上質なものである事がわかる。
座り心地よさそうなソファーには男女二人が対照的な表情で座っていた。
女性というのが言わずもがな、カミルその人。男性と言うのがレオンハルトからの使者であり、カミルの婚約者でもあるルイス・ハイヴだ。
ルイスは彼女より三つ年上の幼馴染であり、レオンハルトの近衛騎士でもある。
亜麻色の髪に深い緑色の瞳。カミルといると平凡な顔立ちに見えてしまうが、目元も涼しく笑顔も爽やかな美しい容姿をしていた。性格もどちらかと言えば穏やかで、女性にはかなり人気が高い。
彼は伯爵家の長男でルイスの父親と国王が既知の間柄だったこともあり、幼い頃から彼等兄妹とは良く一緒に遊んでいたのだ。・・・と言うのは建前で、面倒を見させられていたと言った方が正しい。主にカミルの、と前に付くのだが。
皇帝陛下への求婚事件があったあと、レオンハルトはカミルの婚約者探しに躍起になっていたのだが、候補者からはことごとく断られ暗礁に乗り上げていた。
あの性格は求婚事件が起きる前から貴族間ではかなり話題になっており、いくら美しい容姿をしていても彼女と生涯添い遂げられるかと聞かれれば、皆一様に否と答える。
性格が発覚する前は、女神の化身とまで謳われた美貌の持ち主である。老若男女問わず彼女に群がってきていたのだが、その異常なまでの自己中心的なものの捉え方、考え方に一人、また一人と離れていき、残ったのは姫君という身分の彼女に媚び諂う数人の取り巻きのみだった。
それを彼女は「私と釣り合う殿方など、皇帝陛下以外いらっしゃらないもの」と、全くわかっていない。
国王が事実を知った時には、後の祭りである。
そんな中、白羽の矢が立ったのが幼馴染の彼だった。
幸いなことに恋人も好意を寄せる女性もいなかった彼。国王が直々に頭を下げ婚約者となってもらった経緯があるのだが・・・彼女は知る由もない。
なんせ、彼女は彼を婚約者と認めていないのだから。彼が国王に懇願し婚約者になったのだとすら思い込んでいる。
皇帝陛下に関しての事はカミルの耳に入らないよう箝口令を敷き、この国より一切出る事も許さず常に婚約者と行動を共にさせていた。
一緒に居ればお互いに心を通わせることができるのではという僅かな希望・・・なのだが本音は、彼女が勝手な行動を起こさないよう見張るためだ。
だが、徐々に酷くなる彼女の思い込み性格が原因で、婚約と言う枷も関係を変える布石になる事は無かった。
日々の生活の中で、例えこの場に居なくともアルフォンス中心に回り始めていたカミルの日常。なのに中々皇帝陛下の情報が入ってこない事に業を煮やした彼女が三年前、辛抱溜まらずツェザリ国へと家出するように押しかけてしまったのだ。
そして、勘違いも甚だしい傍若無人な振る舞いに城内の人間からはことごとく嫌われてしまっていた。たかだか三日間の滞在で、だ。
だが、それすら彼女には伝わらず「私が余りにも陛下とお似合いだから、皆が嫉妬しているのね」と、嬉しそうに話したとか。
その時も当然迎えに来たのはルイス。国王からの謝罪の手紙と共に、平然と悪びれる事のない彼女とは対照的に、皇帝の前で平身低頭しひたすら詫びていた事を思い出す。
思い出したくもない出来事だ。
そんな事があったため、当たり障りないアルフォンスの情報を与えつつ、再教育を施していたのだが・・・
女神ユリアナが使徒を連れてきた事、そしてその使徒と皇帝が結婚した事がとうとう彼女の耳に入ってしまった。
カミルはショックを受け部屋に閉じこもっていたのだが、その実、彼女は城を脱出し皇帝陛下の元へ向かうための計画を練っていた事は、彼女が居なくなっていた事で発覚した。
その事実に国王は声にならない叫びを上げ膝から崩れ落ちていくその様は、城内の語り草になったほどだ。
綺麗な顔に似合わず無駄な行動力だけは幼い頃から働く、お転婆娘のカミル。それを知っていて、幼い頃から尻拭いさせられ苦汁を舐め続けてきたルイスだからこそ、恋愛感情を持つことが出来なかった事を、例え国王であろうとも咎める事は出来ない。
だが、国王夫妻に頭を下げられれば断るわけにもいかず、此度の出奔の尻拭いも婚約者となってしまった自分に回ってきた事に、ただただ溜息しか出てこない。
「ルイ、いい加減ため息ばかり吐くのはお止めになったら?鬱陶しい事この上ないですわ」
応接の間に通されてから、既に両手では数え切れないほどの溜息を溢す彼に、カミルは綺麗に整えられた眉をキュッと顰めた。
「だったら次から次へと問題を起こさないでくれないか?後始末しなくてはいけないこっちの身も考えてくれ」
「あら?私がいつ頼みました?そんな事」
「レオンハルト様直々だ。カミルはあの方の娘なだけであって、僕を動かせる力はない」
権力があるのは国王で、例え娘であろうと自分を動かせることはできないのだと、傍から見れば不敬罪にでも問われそうな事をルイスは平気で口にする。
そして、カミルがどうなろうと自分には関係が無いのだ・・・という意味合いも含めていたのだが・・・
「お父様にお願いして私を婚約者へと仕立て上げた位ですものね」
「はぁ・・・何度言えばわかるんだ。国王が僕に頭を下げたんだよ」
「またそんな事を。いいのよ、そんな嘘をついてまで、私と婚約したかったのでしょ?」
その言葉にルイスは頭を抱えた。
「そんなわけないだろ?相変わらずおめでたい脳みそしてるんだな・・・」
何時もこうである。全く話が通じない。
そんな彼女の婚約者となって五年も経った。巷ではルイスを憐れむ者もいれば、勇者だと揶揄する者もいる。
正直、ルイスも結婚したい。言っておくが、カミルとではない。普通の感性を持った女性とだ。
実はここに来るに当たって、レオンハルトには婚約解消を願い伝えてきていた。
此度のカミルの行動は国王もかなりご立腹で、遅くとも明日には皇帝への直接の謝罪と、カミルへの罰を言い渡す為に此処にやってくる。
それなりの処罰を考えているようで、その中には恐らく婚約解消も入っているはずだ。
そんな事をつらつら考えながらカミルを見れば、自分とは対照的に浮き立つようにそわそわしていた。
「カミル、皇帝皇后両陛下にはくれぐれも失礼の無いように」
これ以上、迷惑をかけられるのは御免とばかりに釘を刺す。
フォランドより、アルフォンスは夫婦水入らずで休日を満喫していると聞き、思わず天を仰いだことは言うまでもない。
皇帝が妻を溺愛している事は、この大陸中の人間が知っている事。カミルの耳に入った時点で、彼女も知っているはずだ。
なのに何で、何の目的で皇帝に会いに来たのかがわからない。
出迎えてくれたフォランドには「皇帝陛下の機嫌が心配です・・・・まぁ、ユーリ様がいらっしゃるので大丈夫だとは思いますが」と、大きな溜息を吐いていた。
それだけで、皇帝にとって今日がどれだけ特別な日なのかが分かってしまう。
「なぁ、なんで此処に来たんだ?」
皇帝に会った所で、この現状が覆るわけがないのに。一体、何を求めて此処に来たのかがルイスには理解できなかった。
「この目で確かめるためですわ」
「え?何を?」
「アルフォンス様をです」
何を言いたいのかがわからず、首を傾げればカミルは見下すような眼差しをルイスへ向けた。
「アルフォンス様は、女神ユリアナより召喚された使徒様を無碍に扱う事が出来なかっただけですわ。本来、私が立つべき場所に使徒様が立っているんですの。ですから、私と使徒様が揃えば、アルフォンス様が本来、選ぶべき相手が私だと気付くはずですわ」
ルイスは一言「終わった・・・・」と、力なく呟いた言葉は、幸か不幸か彼女の耳には届いてはいなかった。
アルフォンス達が城へ戻るとアーロンとエルネストが迎えた。
「楽しみにしていた休暇中に悪いな」
と、申し訳なさそうにアーロンが顔を歪めるが、彼等の予想に反しアルフォンスはこれといって不機嫌な表情を見せることなく軽く手をあげアーロンの言葉を遮った。
「大丈夫だ。それよりも客人は?」
「初めはフォランドが対応していたんだが、早々に白旗を上げてね。今は、応接の間で二人を待たせているよ。・・・・相変わらずで、ルイスが気の毒だ・・・」
その言葉にアルフォンスもそっと小さく息を吐き「だがそれも明日までだ」と胸元から手紙を取り出しアーロンに渡した。
一応「読んでもいいのか?」と断りを入れ目を通すと、彼は何処か気の抜けたように肩を落とした。
「レオンハルト様もようやく決意したんだな・・・・」
「あぁ。王族としての自覚が無いのであれば致し方あるまい。被害をこうむるのは民だからな」
「確かに。・・・・それよりも、大事な夫婦水入らずを邪魔されて怒っているかと思っていたが・・・どちらかと言えば、機嫌がいい?」
アーロンが少し不思議そうに小首を傾げ、アルフォンスを見た後に有里を見た。
その視線を避ける様に、ふっと気まずげに横を向く有里に何となく事情を察したのか、アーロンは「なるほどね・・・」と、意味ありげにアルフォンスを見る。
「まぁ、機嫌がよろしくて何よりだ・・・・さて一旦、着替えるか?」
「いや、このまま行こう。面倒な事はさっさと済ませたい」
そう言いながら、有里の腰を引き寄せその顔を優しく上向かせると、その唇のそっと口付けを落とす。
一瞬固まり、そして茹蛸の様に真っ赤になり暴れる有里を難なく抱き寄せ、アルフォンスは上機嫌に笑い声を上げた。
足取り軽い皇帝とは対照的に、歩みも遅く引きずられる様な皇后。
そんな二人の後ろを歩くアーロン達は、心の中で有里に向けそっと合掌したのだった。




