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有里の部屋から戻り、アルフォンスは力なくベッドへ倒れこんだ。


・・・・俺は、何をした・・・?

彼女に、何をしたんだ・・・?



――口付けだよ・・・・・



同じことへの自問自答に、もう一人の自分が冷静に答えを返してくる。


そんな事はわかっている。

何故、あんなことをしてしまったか、だ。


酒の勢い?いや、酔うほど飲んではいなかった。

雰囲気に流された?・・・何の雰囲気だ・・・

彼女に触れたかったのか?

――――触れたかった・・・・

それが当然であるかのように、彼女に触れたいと思った。



はぁぁぁぁ――――


アルフォンスは、深く大きな溜息を漏らす。



彼女の事は大事だと思っている。

独占欲丸出しにしてしまうほどに。



―――彼女が、好きなのか?



アーロンにも問われた言葉を、再度、自分自身に投げかけてみる。

すると先ほどの、顔を真っ赤にし恥じらう有里の可愛らしくも艶麗な姿を思い出し、今以上に心臓が早く脈打ち始めた。

柔らかな唇は、彼女が飲んでいた甘い果実酒の味がして、離れがたかった。

時折漏らす吐息も、甘く・・・・


そこまで思いを巡らすと、背中にぞくりとしたものが走った。


その姿に、自分は欲情している・・・?

俺は、彼女をそう言う意味で、好きなのか・・・?


そう思った瞬間、顔に熱が集まった。



嘘、だろ?

今になって、自覚だって?



アーロンに問われた時は、本当に、自分の気持ちがわからなかった。

何の冗談だ、と思ってしまう。

彼女に、口付けた事で自覚するなんて・・・

あのような触れ合いがなければ、自覚しないままだったのか?


それはそれで、馬鹿だ・・・と、自嘲の笑みを浮かべた。



最近、彼女に触れる事が多くなった。

いや、故意に触れる事が多くなってきた。

いつも傍に居たいと思うから。

だから会えば、手を握りたいと思う。

髪に触れたいと思う。

頬を撫でたいと思う。

抱きしめたいと思う。



あぁ・・・これが、恋情だったのか・・・




自分の気持ちに納得すると、心の中にあった壁の様なものが、ゆっくりと崩れていくような感じがした。

だが、皮一枚、いまだ膜が張られた様なぼやけた感覚にすっきりとはしない。

それはまるで、戸惑いの様な素直になれない気持ちに似ている。

が、改めて自覚した感情に納得し、己の間抜けさに溜息を吐く。


自分の馬鹿さ加減に頭痛がし始め、それを払う様に軽く頭を振ると、仰向けになって長い手足を投げ出すように伸ばした。

明日は、どんな顔をして会えばいいのか・・・

これまで通り、普通に接すればいいのだろうか?

いや、そもそも今までどんな風に、どんな態度で、どんな事を話していた?

意識してしまえば、これまでがあやふやになる現実に、アルフォンスは頭を抱える。

三日後にはセイルへ発たなくてはならない。

出来ることならば、険悪な雰囲気を残してだけは行きたくない。


ここは、思いを打ち明けてしまえればいいのだろうが、彼女はすぐには返事をくれる事はないだろう。

彼女が自分の事を、一人の男として意識していない事は知っていた。

触れても、抱きしめても驚きやためらいは見えても、寛大にそれを丸ごと受け止めている感じなのだ。

それは、親愛という言葉がしっくりくる程の親が子に与える不変の愛情。

自分らに向けられているのは、正にそれだ。

だから心地いいと感じる。それを失いたくないと感じる。

その一方でここ最近感じ始めた想いもある事も確かだった。

―――それを壊して、もっと深い愛がほしいと。

その意味を理解できなかったその時は、何て浅ましいのかとその想いを打ち消していた。

だが、自覚してしまえばその浅ましさが苦しくも心地良く感じてしまう。


発つ前に打ち明けるべきだろうか・・・それともしばらくは、様子を見るべきか・・・

どちらにしろ、落ち着かないだろうな・・・


どうする事が正解なのかはわからないが、思いは告げるべきという気持ちだけは変わらない。

せっかく気付いた、大切な感情。

認めた、愛おしさ。

気付いてしまえば、それは膨らみ続けて様々な感情をも呼び起こす。


彼女が誰かを見てしまう前に、誰かに奪われる前に、手に入れなければ。


この身を満たしていく甘くも、やるせなく切ない気持ち。こんな感情を与えてくれるのは、有里ただ一人だけ。

先ほど触れた柔らかな唇の感触を思い返し、長い夜になるな・・・と、何度目かとなる切ない溜息を溢すのだった。


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