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その後は、面白いほど簡単に事が進んだ。

すでに満身創痍で瀕死のアークルに対し、攻撃の手を緩めることなく有里は、自分に対する噂の事を切り出した。

あの現場に本人が居たことを知ったアークルはもはや死人の様な顔色で、身動きすらできずにいる。

自分が話していたデマが、こんな大事になるとは思いもよらなかったから。正に身から出た錆とはこのことを言うのかもしれない。



「伯爵の聞いた噂は全くのデマだけれど、内容が問題ですの。この城内で一番警備が厳重である私室での事が上がっているようですから。ね、宰相閣下」

わざとらしく困った様な面持ちで有里がフォランドに、「好きにやっちゃって」と言わんばかりの見事なパスを回した。

「そうですね、警備の面で見直しが必要かもしれませんので、アルカ侍従長を同席させたのですよ」

それを見事に受け取り、嬉々として話を膨らませていくフォランド。まるで水を得た魚そのものだ。

「噂の出どころも、か、な、り、気になりますが、まずは警備強化が最優先でしょう」

背後に黒い霧でも漂いそうな程の爽やかな笑みを張り付けた、宰相閣下。正に今、何かがご降臨されたようだ。


相当、面白がってるわね・・・・

まぁ、見せしめの様にここで彼を叩けば、今後ありもしない噂をたて取り入ろうとは誰も思わないだろうし。

―――だって、皇帝の懐刀が全力で息の根止めに来るんだからね・・・・

彼には気の毒だけれど、これからの私の心と生活の安寧の為に!

生贄、感謝です!


心の中で有里はアークルに合掌するのだった。

そのアークルに至っては、ある事無い事にどんどん話を膨らませていく彼等に、もう勘弁してくれと言わんばかりの悲壮感を前面に出している。

最後には耐えきれなくなったのか、今にも泣きそうな顔で「気分が悪くなりましたので・・・申し訳ありませんが・・・」と、逃げるように退出していった。


それを見届けると有里は立ち上がり先ほどの優雅さは何処へやら、といった感じで「よっしゃ!やった~」と、嬉しそうに叫んだ。

そして、フォランドに向かって右手を上げれば、彼に首を傾げられてしまった。

「あぁ、私の世界ではねハイタッチって言って、皆で目的を達したりした時とかに、喜びを分かち合うのよ」

こうやってね、とフォランドの右手を取って、パンッとタッチさせた。

「へぇ、面白いですね」

そう言いながら、右手を上げればそれに有里が再びハイタッチした。

そして有里は後ろに控えるエルネストに、リリに、ランにとハイタッチしていき、顔を見合わせ声を上げて笑うのだった。


ひとしきり笑った後、有里にエルネストとリリ、ランが頭を下げた。

「えっ??どうしたの?」

「ユーリ様、我等の事を、リリとランの事をかばってくださって、有難うございます」

その言葉に有里は、キョトンとしたように首を傾げた。

「いや、あれはかなりムカついたからね。陛下からお許しは貰っていたけど、左翼守護者の事ばらしちゃったし・・・反対に、ごめんなさいね」

この世界に来てから、一通り必要な情報はフォランドから聞いていた。双翼の守護者の事も。

護衛に関しては誰がどこの地位にあるという事を、特に厳しく叩き込まれていたのだから、必然とそう言う話にも及んでいたのだ。

「頭をお上げください!守護者の件は、どうかお気になさらずに。あの男は、恐らく言いふらすことはないと思いますよ」

陛下に目を付けられてしまったに等しいこの状況を、これ以上悪くしない為に、今後は保身に徹底し大人しくなるだろうとの事。

そして、これだけこてんぱんに打ちのめしたのだ。ちんけな噂を流し優位に立とうとした小者らしい結末だ。

ましてや、左翼守護者が実在したことで、しかもその人物が有里の護衛責任者と知れば、もう、関わり合いになりたいとは誰も思わないだろう。

皇帝の守護者に楯突いても、良い事など一つもないのだと身をもって体験したのだから。

だが、そこら辺は鈍感でよくわかっていない有里は「そうなの?」と小首をかしげたものの、「みんなが無事であれば、それでいいわ」と息を付いた。

そして「明日からもよろしくお願いしますね」と花が綻ぶ様な笑みを浮かべたのだった。


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