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執務室を後にしたフォランドと有里もまた、アルフォンスの事を話していた。

「ねぇ、・・・アル、疲れてるのかな?」

先ほどの、らしくない彼の行動に有里は首を捻る。

「陛下は確かに疲れているかもしれませんが・・・ユーリは、どう感じましたか?」

「う~ん・・・」

アルフォンスの一連の行動を思い返し「私が見た感じだけど・・・」と前置きをし、

「お気に入りの玩具を取られて、むきになった・・・みたいなのと、同じ?」

少しは色よい言葉を期待していたフォランドだったが、やはりそうか・・・と、ちょっとだけ肩を落とした。

「相変わらず我等三人は、息子レベルですか?」

「いやいやいや!恐れ多い!!私の息子なんかより、ってか、私よりもみんな大人で比べるまでもない!」

有里は焦った様にまくしたてた。

実際、一つの大陸をまとめ上げているのだから、凡人の自分等と比べること自体おかしいのだ。

彼等だけではない。リリやランに関してもはるかに精神的に大人でしっかりしている。

話をしていて、年ばかり食っていてもガキじゃないか・・・と、自分自身に嫌気が差し恥ずかしくなり、場違いな所にいるのではないかという不安感も半端なくある。

だが、時折見せる彼等の年相応の態度はひどく有里を安心させ、心の奥底に鎮座する葛藤の様な感情を綺麗に隠してくれるのだ。


「でもね・・・見た目は若返っても、やはり中身はおばちゃんなんだ」

少しずつではあるが、気持ちの整理というか、折り合いはつき始めてきていた。

あちらの家族の事も、此処に来たての頃に比べれば思い出す時間も随分と少なくなってきている。

思い出しても、心配しても、もう手が届かない事を自覚してしまったから。

でも、やはりまだあちらの世界が恋しい時があるのは仕方のない事だと思っている。

「だから今はまだ、おばちゃん目線になっちゃうのは、許してほしいな」

申し訳なさそうに上目遣いで見上げてくる有里にフォランドは、虚をつかれた様に目を見開き、空いている手で口元を覆った。

そんな彼をいぶかし気に顔を覗き込んでくる有里。その視線を避けながら大きく息を吐き出すと、ニッコリと宰相の笑みを向けてきた。

「ひっ・・・」と、喉の奥で悲鳴を飲み込む有里に、フォランドは握っていた彼女の手に少し力を込めた。

「今はまだ・・・ということは、貴女はちゃんと我らの意図を正確に理解されてると思っていいのですね?」


・・・彼の言う『意図』・・・つまりは、将来アルフォンス皇帝陛下の妻となることだ。

正式にはそんな申し出は受けてはいないのだが、まさに巷では決定事項として認知されている事を彼女はまだ知らない。

だが、周りの態度や今滞在中の部屋など総合して鑑みれば、恐らくフォランドの『意図』というのが見えてはくる。

今の状況がわからないほど有里は鈍感ではないし初心でもない。

あからさまにほぼ外堀が固められ、後は本人同士の気持ちのみという所に今いる状態だから、わからないわけがないのだ。


けど、何も言われてないし・・・間違ってたら「身の程知らずが!」って笑われそうだし・・・

でも、確かめて決定打になるのも、嫌だし・・・う~ん・・・


なので、敢えてしらばっくれてみる。

「お世話係でしょ?」と言えば、案の定怖い笑みを向けられた。

渋々頷きながらも取り敢えず、自分の気持ちを曲げる気はない旨だけは告げる。

「こればっかりは当人同士の気持ちだろうし、相手に好きな人だってできる可能性はあるわけだし・・・正直、私は一般人なんだからお妃様なんて絶対務まらないと思うんだよね」

「何故です?」

「身の程知らず」と笑われなかったことに、脱力したように肩を落としたものの、此処にきても正式に『妃候補』として申し出が無かったことは綺麗にスルーされてしまっているので、あえて食い下がってみた。

「第一、お妃になりませんか?なんて、打診さえされてないんだよ?なんで、本人抜きで話がすすんでるのかなぁ?」


・・・既に、女神ユリアナが召喚し、あの発言を落とした時点で皇后確定であるというのに・・・

と、フォランドは溜息を吐きつつ、無駄とは思ったが改めて有里に確認をする。

「では、正式に申し込めば貴女は了承してくれるのですか?」

「速攻でお断り!」

「でしょう?だから、敢えて正式には申し込まないんですよ。じわじわと追い込んで、自ら落ちてきてくれた方がこちらとしても都合がいいですからね」

爽やかな笑顔を向けながら、猛毒を吐くフォランド。


えぇ!えぇ!わかってましたよ!こんな奴だって!


有里は心の中で文句を言いつつ、げんなりとした顔で最後の抵抗を試みた。

「これでも私って人見知りするし、面倒事が嫌いだし、どちらかと言うと自分の世界に引きこもりたいタイプだし・・・おばちゃんだし」

「最後は余計ですね」と、サックリ切り捨てられる。おばちゃんである事を連呼はしているが、ここでの有里は二十代に若返っているのだ。

「しかし、そんな貴女がこれからアークル伯爵と面会するのは、どうしてなのでしょうね?」

クスクス笑いながらしらっと問いかけるフォランドに「・・・・・相変わらず意地悪ね」と有里は唇を尖らせた。

言われなくてもわかっている。

人見知りで面倒事が嫌いで事勿れ主義(ことなかれしゅぎ)を貫きたいはずが、自ら面倒事に首を突っ込みに行くのだから。

「だって、お世話になっている人に、私ごときの事で迷惑かけられないじゃない。私だってやる時にはやるんだもん」

そう言いながら、空いている手で拳を作り鼓舞するように振り上げた。

フォランドはちょっと可哀想な子でも見る様な目を向けてきたが、「期待していますよ」と言いながら柔らかく微笑んだのだった。




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