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第08:WHO星系、手紙の配達~其の4。戦い。

 

 次に来た場所は欧州、中国での事、ロシアでの事は知れ渡っており、超高額賞金首の一行が現れたと、その代表は尋ねる者。

 通常戦力は意味はなく、欧州の主力戦力が集められ、陣を引いた。

 各国の騎士、聖騎士、魔術師、魔導士に、賢者も集められた。

 厭戦が蔓延する地球、どうしようもない滅びの中にあっても何も変わらない現状に、勇んで戦えという方がおかしいのだが、司令部の言い分は勇敢に戦え、いつもの芸のない台詞だ。


「何も変わらないいつも通りだ」


 賢者の長が言う、誰もが笑わない、もう愛想笑いを作る力もない、それ程に疲れていた。


「もういい」

「おい」


 一人が全てを放り出そうとして仲間が止める、その一人は仕方なしに言葉を収めた。


「賭けるしかあるまい、尋ねる者に、ベットするのがこんな物とは情けないがな」

「軍議中済まんが、もう現れた」


 司令官は疲れた顔でそうかといった席を立つ。


「我らが賭けに勝てる事を祈ろう、もう祈る言葉を知っている者は居るか」


 いるはずもない質問だった。賭ける事は敗北する事を願う様なものだという人がいたが、それも別に良い、賭ける物すらなくなった以上、失うモノがない。

 現れ一行、仙人達、騎士とその仲間達、アルト達。

 司令官は見てから苦笑した。


「賭けに勝ったらしいな、喜ぶというのか」


 司令官が道を開けさせる、アルト達が進み、地味な顔の侍姿のアルトが代表して言う。


「道を探している、知らないか」


 司令官は噂通りの事に、なんと笑えばよいのかが分からない、どうも何かが微笑んでくれたらしい、感謝してもしきれないものだ。


「とある賭けをしてな、今勝った」

「賭博が好きなのか?騎士なのに?」

「ああ好きだ。戦場ではそれしか娯楽がないからな」

「変わった騎士だ。他の騎士も同じか?」

「ああ」

「変わった騎士団だ。普通は規律というものがあるのではないのか?」

「昔は有った」

「変な騎士だな。昔は有ったのになぜ騎士なのだ」

「忘れた」

「北の騎士とは違うようだ。旅路に行く気はあるか?」

「残す者は残す」

「残した者はどうにかしよう」

「どうにもならんぞ?」

「大丈夫だ。道は必ずある、だから道なのだ」


 どうも大きなものは笑ってくれたらしい、失うモノがない以上、司令部の道具になる必要もない、悪くない人生である。


「準備しろ、行くぞ」

「総員準備せよ」


 □


 次に現れのはアフリカ、民族大移動のような尋ねる者の一団、アフリカ連合の若様は、ついの変革が訪れた事に一人狂笑し狂喜乱舞した。


 アフリカの戦士たちは、狂った若様に今後の話をしていたが、戦士長は、いつも通り、ただ初めて見る様な満面の笑顔だった。


「西を呼べ」


 アラブの事だ。

 伝令が走り、アラブの方もすでに情報から尋ねる者へと動いていた。

 ユーラシア全土に広がりかける、インドの方も司令部の制止を戦士たちは振り切り、一人の残らず移動した。

 道具にも意思はあるそれだけだった。


 集まったアフリカ、アラブ、インド、代表達とアルトが挨拶する。


「道を知らないか、地図でもいい」

「変わらないな、そんな便利なものはないといつも言っているだろ」

「全くだ。有れば当に手に入れている」

「結局こうなるしかなかった、道具だって生きたいしな」

「なら旅に出るしかない、人に至る道へ、いつかの日を取り戻すために」


 話は既に決まっていた。


 □


 鎌倉に戻ってきたというべきか、旅の途中というべきか、現れた民族大移動に、その先頭を歩くアルトに、アルト派はついにやったのかと呆れた。


 門番はひとまず何というべきか上司に尋ねる、上司としても解らないのでその上司に尋ねる、その上司も解らないのでと続き、侍の№3だった誉に質問された。

 誉も困っていた、戦うというべきレベルではない、何せ全ての敵を引き連れて現れた。

 上に呼び出され、誉が№3に復帰を言い渡され、全部を押し付けられた。

 忍者№2の風鈴もやりそうな奴ではあったし、ひとまず逃げたかったが、仲間が逃がさなかった。

 ヨーロッパ、ユーラシア、アフリカの主力を連れて現れたアルトに、門番ひっきりなしに応答を願う、心から願うが、なにかは冷たく無視する、現れた冷や汗だらだらの誉、風鈴も色々と考えながらアルトを見る。


「ひとまず鎌倉に来た」

「ええ。うん。これは」

「道を尋ねたが知らなかった」

「なるほど」

「彼らも旅に出る」

「う、うん」

「旅に出るからには準備がいる」

「そう、ね」

「だから鎌倉に来た」

「万屋じゃないのよダーリン」

「休憩には丁度良い」


 休憩と来たか、さすがは若様、言う言葉が違うと風鈴は思うが、迷惑のレベルも半端ない。


「誉」

「某は刀になりたくなった」

「奇遇ね」

「迷惑のレベルが違う」

「ええ」

「しかも下の事も考えておらぬ」

「そうね」

「これをどう支えろというのだ」

「頼むわ」

「無理に決まっている」

「どうにかして」

「どうにもならぬ」

「うん。そう思うわ」


 ひとまず休む。

 地球人口は6億人ぐらい、内10代が6000万名位、日本連邦は240万位だった、現在はその半分近くに減っている、これを立て直すのも大変なら、ヨーロッパ、ユーラシア、アフリカの若者たちも支えれという、無茶、迷惑、そう言った次元が違う。

 やけくそになって働くしかない、兎にも角にも水と食料。


 □


 タウンシップの方もかき集め、誉もやけくそになってなりふり構わず働いていた、こうなっては戦いという話は既に超越しているし、薬師も巫女も本気で戦いが終わった事は言うまでもなく、戦争の終わりに本来は喜ぶべき事だったが、若様の非常識な超弩級迷惑に振り回されていた。

 これだけの戦力を維持する兵站強化は言うまでもなく無理であったが、若様の非常識が発揮され、兵站が直ぐに統合された。

 しかも準備までしていたらしく、マニュアルまで作っていた。

 兵站を担当する者達の、主に連邦の若者は若様を睨む。

 三大陸の主力全て、人口は4000万名以上に膨れ上がり、鎌倉周辺にはタウンシップしかない、どこまでも続くタウンシップの艦隊。

 AZAも巻き込まれ、ホーはあまりの非常識さに卒倒したが、強制的に叩き起こされて働かされていた。台湾の星は逃げ出さなかったことを誉められるが、剣を抜かないか誰もが心配していた。

 他の国々は、全ての情報を纏めて、多数派から少数派になった事に愕然、アメリカの方に話がいき、少数派となっての会議を行う。

 元々少数派の連邦が、主力を得て多数派になった事で、戦争という構図は一転し、戦えは直ちに叩き潰されるのは目に見え、元々凄まじい強さを誇る連邦であるために、勝ち目の根本が崩れる。

 この現状を打開するには、どうしたものかは考えるが、いくら考えてもどうにもならない、戦力の比が違うのに、これに連邦が加わり、ドクトリンもくそもない。


 鎌倉では日本連邦の者はよく働くともっぱら評判、ただ連邦の者からすれば働くしかないんだよと怒鳴りたいが、そんな時間すら惜しかった。

 日本連邦も、AZAも、台湾も、兵站をフル起動させて働き、若様の超弩級迷惑を何とかすべく働く。


 日本連邦の方は非常事態に全人員が兵站に回されて、トップには不幸を押し付けられた星守りがなる、さすがに飛行団の星守りも単純な計算ですらも大変な数字の為に、零に泣きついた。零も仕方ないと言ってスキルを使う。

 大量生産された食料、水に、連邦が配る、台湾も、AZAも零を神の如く崇めかかるが、エルフは神ではないと言って一蹴された。

 大量の食糧、しかも各地域ごとの料理に、飲み物と酒、受け取った兵站の司令官たちは、ひとまず味見した、他の者も味見し、首をひねる。

 味が良いのは別に良い、しかしこれをどこから持ってきた?素朴な疑問しかない。

 しかも数はピッタリ、4000万の人口をただ一人で支えたのが、プレイヤーの一人の零と知れば、どれ程の兵站能力か桁が違う。連邦以外では有名な連邦の非常識の一つとなる。


 色々と満ち、休憩し、一人残らず昼寝。連邦はやっとの事で休憩、食事を見て軽く涙し、ありついた。


 鎌倉の2号区画、姫もサツキも暇を持て余し、帰ってきたアルトを迎えてから食事。

 アルトの食事の趣味は質素、お握り人も当たり前、贅沢な料理よりアルトにとってみれば作られた暖かい料理で十分ご馳走なのだ。


「迷惑はしたの?」

「あれは迷惑というか、うん、難しいね。言葉に困ります」

「戦争は終わった」

「そう、ね。確かに終わった、またのゴミ掃除もするの?」

「旅路を終えた彼らが決める」

「そっ。なんか色々と有り過ぎてお腹空いたわ」

「うん。それだけは確か」


 食事の後に、アルトは再び出かける。

 歩く超弩級迷惑に、連邦陣営は震えあがる、星守りも若と会うのは本気で勘弁してもらいたかったが、他の者では気の毒過ぎて無理だった。

 連邦陣営の主要幹部が集まる、祭事を司る巫女の方も大忙し、兎にも角にも若様の迷惑は桁が違う、この為に少しでも準備する。

 恐怖の為に行くのを渋る者は、強制的に忍者達が捕獲して運ぶ。

 そうやって始まった会議、テーマはお掃除大会。

 AZAの代表のホーも、台湾代表の星も、日本連邦の改革は知っているので、我々もついに来たかと喜ぶべきなのだが、何故か喜べなかった。

 準備が整い、全参加者が席に着く、アルトは何故か立っていた、この不吉な雰囲気に全員が目を伏せ、地面を見る。


「まずは大会主催者のアルトだ」


 翻訳すれば迷惑主催者だ。


「エントリーは台湾、AZAだ」


 二つの代表の二人は素直に喜べなかった。


「掃除大会の基準を示そう。星守り」


 この惑星で最も不幸な奴№1の名前だ。

 飛行団№2も、本気で辞職したかったが、許すはずもない。


「まずはまともな奴らは上、マシな奴らは左遷、ゴミな連中は捕獲、屑な連中は極刑です。分かり易く言えば、いえ綺麗な言葉を使えば改革です」


 どれだけ言ってもやる事は変わらない、それが掃除の名前の意味だ。


「掃除に関しましては、エントリーの代表のホー、星が担当、担当個所は御国です」


 どうしても避けられない事だ。二人も互いを見てから軽く笑い、今まで隠してきた牙をむき出しにした。


「じゃ掃除だ。しっかりとな」

「若、せめて少しだけの話位は」

「話は聞くさ」


 色々な者は逃げられない事は分かりきっているので、大人しく話した。

 出る所から色々と出る、温厚な平和好きなホーも激怒する事が多い、星も剣を抜かない事がない、これをアルトが宥め、一人一人から話を聞き、ちゃんと確かめ、丁寧に話を聞いていた。アルトは確かに迷惑かも知れないが、決して血の通わないやり方は行わない。

 話を纏めてから、一人一人の希望を聞いて、今度こそしっかりな都温情処置を取る。

 二人も、アルトのやり方はあまりに温いが、巨大組織の運営の為には人材が欠かせない、こればかりは避けられない。

 アルトが根気よく二人を説得し、本気で守る気らしい事に驚く者はいなかった。

 冥夜も、十兵衛も、兄の行動には相変わらず上手だなと思う。

 もう少し早く生まれていればよかったが、そういう訳にもいかなかったのだろう、そこが少し悔しかった。

 ソードとしてもアルトのやり方はあまりに温い、だからと言ってもそれ以外で話を纏るのは無理なのも解っていた。

 改革は必要、しかし血ばかり流す改革は不要、それがアルトのやり方だ。

 話を纏めてから、他の者も呼び出し、一人一人から話を聞いて温情処置を取った。

 各所の不満にもアルトはしっかりと説得し、連邦の不幸を繰り返す必要はないというのがアルトの口癖だった。

 話を纏めるのには時間がかかり、これらの説得にも行い、各所との調整も行う、星守りも不眠不休で行い、三日か経った。

 その後に三大陸の代表との話し合い、今までの事を話し、代表たちは黙って聞いていた。

 これらが終わり、まずは簡単な方からとなり、欧州の方の話し合いに参加、既に四日になるが、アルトは休まずに話、ひたすら話を聞いて説得していた。

 戦う事しか教えられなかった世代の不幸を繰り返し必要もない、それがアルトの考えの一つだ。

 繰り返す事を辞める事、それがアルトの一つのアプローチだった。

 本当に戦争が終わり、もう訓練をする必要もなくなった。

 14年続いた冷戦も終わりかかり、各所との話し合いも始まり、休み終えた者達も動き、アルトの道尋ねも実る。


 各所の代表たちも、大人の過ち、このツケを子供に押し付ける事、このツケを子供が生まれてこない奴らに押し付ける事、これはどうなのだといった議論にも及ぶ。

 根気よく話し合う、武器ではなく、言葉による話し合いが実っていた。


 各所との話し合い、既に六日目になるが、どこも休みがない、かといっても時間は短いタイムリミットも近い、各所には焦りがあった。この為に度々衝突も起き、その度に捕獲してからの話し合いにつかせるために忍者達が忙しく動いていた。


 難しい、しかし必要だった。

 ソードも仕方なく動き、各所との話し合いに参加していた。

 武器を置いて話し合う、言うが易し、行うが難し、戦う事だけを教えられた子供が、それ以外の手段を取るのは難しい事であった。

 時間が足りない、しかし話し合いは必要、コンマ一秒が惑星並みの金額とすら交換できそうな位の事であり、話し合いは続き、説得による説得、これを効率化させる手段はなく、何せ不満しかない地球で、これを鎮火させるのは話し合いしかなかった。

 アルト派も地球最大の勢力となり、この統括にも大変、これは零が行い、話し合わない事はなかった、ひたすら愚直にこれを行うしかない。

 焦るしかない時間、鎮火させなければ不満が爆発する、どうしようもないこの問題を押し付けられた世代、それも戦う事だけしか教わらなかった世代に行わすしかなかった。

 タイムアップまで1時間、星守りがアルトに切り出した。

 時間が足りない、今回はここまでと、明日に期待しましょうと。


 □


『アルト、姫、サツキがログアウトしました』


 戻ってきたリアル、アルトは直ぐに動き、父親に掛け合い、全プレイヤーを借りた。

 統括には零についてもらい、零も人使いが荒いと文句を言うが、かといっても行うしかない為に溜息を吐いて行う。

 星守りも既に精神力が残るかも怪しかった、しかし止める訳にもいかなかった。

 ログアウトした若者たち、三大陸で、厳戒態勢が敷かれかける中、アルトは全てを使いこれを防いでいた。

 連邦も死力でこれを支援し、台湾、AZAも同じ様に支援し、話し合う全てを使いどうにかしようとしていた。

 三大陸の若者たちも、司令部との対立もあり、かといってもアルトこともあり、とても信じる事は出来ないが、話し合う会議を提案していた。

 不満が爆発し掛ける中、この沈静化には政治家たちもさすがに動く。

 話し合いが始まる中、少数派となった同盟はこの妨害に動く。

 貴重なのは時間、刻一刻と迫る時間。

 これに国連が動き、各地域、各国家、各所の代表による話し合いを提案した。

 再びの戦争か、それとも胸を焦がすような憎い相手との話し合いか、この狭間の中、国家レベルでの話し合いは不可能と判断した各国による話し合いが承諾された。

 ひとまずは戦争は回避され、各組織は代表を選定し、これを一任するしかない。

 地球全土にプレイヤーが現れる、連邦が誇る最強戦力、行うのは治安維持と物資の支援。

 軍事のレベルを超越し、頼るべきは外交、考えるべきは政治となる。


 難しい、しかし必要だった。

 アルトの道尋ねは、地球の冷戦に一石を投じる結果となる。

 全ての作戦、必要以外の作業以外を中断、不要な外出は控える事が決定されていた。

 傭兵達も、ヒーロー達も、この状況に代表に一任した。

 武装探偵も、犯罪者も、ヤクザも、マフィアも、これを受けて代表の選定に入る。


 途方もない地球の変化に、全力でアルトを支援していた勢力も、これらの成功を受けて代表の選定に入る。

 飛行団も話し合う渦中にあった。

 家庭レベル、その後のコミュニティレベル、区画レベル、細かなレベルから大きなレベレルまでの話し合い、飛行団の若者も話し合う、まずは話を聞いてから互いに話をする、これらの過程を踏まない話し合いは何の意味もない事は知っていた。

 アルトの家庭も、ひとまずは話し合う。


「寝ていいか?」


 アルトの眠そうな声に、誰も頷いてくれなかった。


「ま、まあ仮眠位は」


 サツキの援護に、姫も同意する、親御さんたちは頷かない。


「さすがに今眠るのは不味い」

「ええ。不味い事しかありません」

「コーヒーでも入れましょう」


 再びのカフェイン作戦、拷問のようなコーヒーを飲ませるのでアルトは渋い顔だった。

 出された死に程不味いコーヒー、ちびり飲む、やはりくそ不味い、一気に飲み。


「不味い」


 それしかない味わい、コール―タールの親戚のような味わいだ。

 姫にもサツキにも出される、姫の方は真っ青な顔で固辞し、サツキの方は恐る恐る飲む、味わいは危険な味わい、不味いという比ではない激マズさだ。


「さて、なにについて話し合うか」

「まずは聞かねばなりません、シルト」

「なんだよ」

「ピローテスは知っていますね」

「ああ」

「連絡は入れましたか」


 アルトは沈黙し、空っぽのカップの底を見る。


「シルトにも言い分はあります、それは分かります、しかしピローテスはどうするのです、あの子の言い分は?」

「そう言われても」

「あの子にとってみれば大切な時間でしょ」

「いやだって」

「何が不満なのです?」

「色々と、特に恋愛とか興味がない」

「欠陥品ですね」

「だって」

「あの子から来るのはいつも一つ、連絡が欲しい」


 サツキからしてもそれは純粋な気持ちではないのかとは思うが、この欠陥品にも言い分はあるらしく、聞かねばならない。


「何故恋愛に興味がないのです」

「興味がないから」

「何故です」

「だってさ二人の時間がいるんだぜ!?」


 アルトの不満に、全員が首を傾げる。


「時間だぜ?惑星より貴重な時間がいるんだぜ?限りある時間じゃないか」

「つまり、相手との共通の時間を使うのが嫌だと?」

「ああ。凄く嫌だ」

「ではゲームに使う時間は」

「凄く最高」


 本気で恋愛に興味がない奴の台詞だと言い切れた。ゲーム命の少年に、サツキは愛用の大鎌を探し、姫の方は怒りから顔が赤い。


「ではゲームで会うのは?」

「それならよいかな」


 夕霧の素晴らしい知恵に、全員が感服していた。

 実の母親としても、やっとの事で希望を掴み、これを手放すとはまずない。


「話し合いって偉大」


 サツキはしみじみに思う。実の母親としては、息子が心配であった事は言うまでもない、あんな環境でデートの一つもない、かといって変態趣味でもない、ゲームと冒険ばかりしか考えない丸っきりのガキ、それは心配にもなる。


「次にヒメです」

「・・・よく言うよ」


 姫の顔は黒かった、怒りから黒くなっていた。


「シルトばかりに夢中で、他がなっていません」

「はいはい良かったですね」

「花嫁修業はどうするのです」

「虫にでも食わせろ」

「じゃあ振り向いたらどうするのです」


 姫の顔が急展開する、今度は真っ青。

 目まぐるしく顔色が変わる姫に、サツキはなんといえばよいかが本当に分からない。


「分かりましたね」

「はい」


 二人の問題が解決し、親御さんはホッとしていた。

 幸せな家庭かも知れないと思うが、サツキは自分がここに居る事に気付いて慌てて立とうとした、美姫がにこやかにスペルを使う。

 足が動かなくなったことに慌てるサツキ。


「よく耳にします。レドと不仲なそうでね」

「あんなゴミなんて」

「和解しろとは言いません」

「はっ」

「アリサを悲しませるのはどうなのです」


 沈黙した、それはとても嫌だった。


「母親を悲しませない程度に付き合う事を学んでください」

「・・・分かりました」

「後、一つ」

「なに」

「男性は嫌いですね」

「嫌い」

「ならシルトはどうです?」

「うぇ」

「遊び半分で扱える楽な物件ですよ」

「いやだって」

「安心してください。サツキの様なお子様では敵う相手ではありません」

「あぁ!?」

「ピローテスのバストサイズは90以上です」


 サツキは自分のささやかな胸を見た。どうしようもない平坦さだ。


「グラマスな美人、ウェストサイズは59」


 敵うレベルに居なかった。


「どうしました」

「・・・敵わない」

「ちなみに騎士としての腕前はアルト並みです」


 全てに於いての敗北だった。


「顔の方は芸術的な、騎士然とした凛々しさです。趣味は舞踏です」


 とことん勝てない、お子様のサツキではどうしようもない。


「得意なのは騎射、腕前はアルト以上ですし、テイマーとしてもアルト以上です」


 勝ち目の一歳がない、唯一細工の方が残る。


「細工は」

「興味が湧きましたか?」

「・・・はい」

「よかったです。ではお試し版シルトをお使いください」

「分かったわよ」


 親御さんたちの苦労か忍ばれる。


「他の説得にも後ほど参りましょう」


 説得者夕霧としか言えなかった。


「では私からは以上です」

「では僕でね」


 美姫の方の一人称はやはり僕らしい。


「まあシルトは良いとしても二人には料理を習ってもらいます」

「面倒」

「作って食べる時間の共有は嫌なのですか」

「了解」

「サツキは」

「家事ぐらいはできるわよ」

「ああ腕前は達人レベルだ」

「へー」


 親御さん方は感心していた。姫の方は何か釈然としない。


「特に料理の腕前は料理人並みだ。お袋たちより僅かに勝らないぐらいだ」

「随分と褒めるのですね」

「珍しい」

「ある分野においてはお袋たちより勝る」

「ほう」

「それは」

「それはサツキより聞いてくれ」

「随分と評価しているのね」

「ああ。意外だったか」

「ええ。意外だった」

「そっか」

「話し合うものね」

「ああ。話し合いは必要だ」


 意外な事ではあるが、サツキを評価する者は母親と家族位で、男性ならまず全否定、この為にサツキは意外な事ではあったが、このゲームバカもマシな方なのかもしれないと思う。

 母親たちもホッとしていた。父親としても冷や汗だらだら、何せサツキの父親はレドだ。

 切れたレドが、怒りに任せて惑星を破壊しても、全く不思議に思わない、そういう事をしない男ではあるが、それだけ娘が可愛いのだ。

 教育者には向かない奴の為に、戦友たちが一生懸命だ。


「僕からは以上です」

「まあ真面目な話に移るか、どうするのだシルト」

「俺は役目を終えた」


 アルトらしい台詞であるとサツキは思う、常に引き際を心得る、役目を終えたら素早く辞めて、別の役目を終える為に動く、何せ色々な役目を持つ少年なのだから、それはサツキ達より重いものを沢山持つ、そう言う少年なのだ。


「そうか、なら別に良い」

「話は以上か?」

「後なのだが」

「なんだよ」

「そろそろ応えてもよいのではないか?」

「興味ない」

「小波も姫野もお前を主君と呼びたがっている」

「だから」

「お前が封建的なものが大嫌いなのは知っている」

「ああ嫌いだ」

「呼ぶのは構わないだろう」

「・・・」

「呼び名位は自由にしてやれ。それ位はいいだろう」


 アルトは封建的なものが死に程大嫌いだ。それら全てが嫌いと言ったも過言ではない、偉そうなのも嫌いなら、身分も嫌い、名誉も嫌い、誇りも嫌い、何もかもが嫌い、その理由は生まれながらに全てが決まる所に起因する。

 それでは何のために生きるのかアルトには分からない、生まれながらが全てなら、生まれて生きる理由がない。


「何が嫌いなのよ」

「・・・生まれで全てが決まるのが大嫌いだ」


 アルトの吐き捨てるような言葉に、サツキも理解は随分と出来る、むしろ共感とすら呼べる、生まれが全てならサツキは生まれる価値すらない。

 自分と半分と仲間の自由に為に戦う、それを縛る全て戦うアルト、その中には生まれもあり、この生まれの為に理不尽に生きる者が多い社会、それが封建社会だ。

 それをアルトに受け入れろというのはいくらなんでも無理だ。

 だからこそ父親のスカオの思惑が分からない。

 だがサツキとしてもあんなに頑張っている二人を応援したい気持ちも本物だ。

 思案し、一つの事を思いついた。


「なら剣は?」

「剣?」

「刀でもいいわ」

「・・・俺は物じゃない」

「でも誰かが握るものじゃないの、使わない刀なんて単なる塊だし」

「・・・」

「刀、ひとまずその方向性で行きましょう」

「・・・ああ」

「刀、そうね。主君の刀、主君の自ら、刀は形」


 親御さんも、姫も意外な顔でサツキとアルトを見る。あのアルトがこれを考えているという事が驚きで有り、封建社会大嫌いなアルトが受け入れかかる、驚愕的な事だ。


「マイ刀かな。マイロード刀の略ね」

「お前も上手いな」

「色々と有んのよ」

「分かった。それなら妥協する」


 どうも二人の相性は良いらしい事に親御さんたちは焦る、これは困る。

 姫の方は何か敗北感に包まれる、途方もない敗北感ではないが、何か重要な戦いに敗北した感じのものだ。


「まあそういう結果になった、面倒になるなこれは」

「二人への報酬って奴」

「了解」


 二人の通信機で伝えた。

 サツキとしてもまずは第一歩と言った所であった。

 だからサツキも一つを伝えた。


「普通の女の子の人生が欲しかった。有り触れたと言い切れるような普通の人生が欲しかった。それを妨害する全てとの戦い、それがあたしの戦い」

「なるほど、お前の戦いか、心ながら応援するぜ。そいつが得られるのかは知らないし、それを支援するわけでもないが、応援はする」

「ありがとう」

「悪くない戦いだ」


 二人は自分の全てを使い全てと戦うと、姫は考えていた。

 二人は戦う、たぶんずっと戦う、果てるその日まで戦う、なら自分は何をしているのか、翼が有っても飛ばない、なんとも戦わず、何もせず、ただ過ごし、ただ夢見て過ごしている。半分とサツキ、共に何も嘆かず、なにも流さず、他の何も望まず、ただ純粋に戦う。

 なら自分は何をしている?

 自分がとても重要な事を考えている、それが何というものが有るのかはわからない、しかし決して避けられない何かが、決定的な何かが見え始めてた。


「ボクは戦うものが見えない、なんだろう難しい」


 思わず漏れる言葉、周りにいる人達が見ているが、姫には随分と見覚えないのない感じがする、しかし見覚えがある感じがする、とても大切なモノがある感じがする、懐かしい何かがあるような感じがする、昔を思い出し、半分との時間を思い出した。

 全てが懐かしい、幼き頃、あの時、半分は何を知った。


「ねえ半分」

「・・なんだ」

「あの時、あのボクらの時、別れるとき、何を知ったの」


 アルトは何も言わない、姫は己の半分を見る、退くつもりは毛頭なかった。


「ねえ。何を知ったの半分」


 こう見えてアルトは押しに弱い、いつもそれを受けて行動を起こす事が多い。

 そのアルトが、黒曜石の瞳を凝視していた。


「何を知ったの」


 アルトは黙っていた、姫の黒曜石の瞳を見ながら黙る。


「ボクらは一つだった、記憶はあるよね」

「ああ」

「何故別れたの?」

「それを知る時ではない」

「確かにね。まあボクら、一つから二つにした奴は絶対に殺す」


 ゾッとする程の酷薄とした獰悪な殺意、己らを引き裂いた者への復讐の誓いの宣言。


「大丈夫、半分は半分だ」


 うっとりとするような顔に、サツキは何か不味い事になっていないかと思うが、今言うのはかなり無謀だ。


「余りバカな事ばかりはするなよ」

「うん」

「リアルでは」

「あ、はい」


 いつもの姫に戻る、今のを見たらドン引き間違いなし、100億年の恋も醒めるようなものだ。

 姫の戦いが始まり、幼き頃から戦うアルト、サツキも自らの戦いに身を投じていた。

 子供達の戦いに、親御さんたちは微笑していた。


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