第02:ニューゲーム。意味
回廊を進むむ中、再びの彫刻、厳しい顔のスターに、アルトも、ワイバーンも、サツキも武器を強く握る、姫の方は戦いにくい石像になるべく戦いたくないと考えていた。
「調べたいが、トラップがな」
「ダメージなら」
「お前が倒れたら姫を誰が守るのだ?」
父親との絶対条件でもあり、片割れを守るのがアルトの使命でもある為にどうしたものかと考える。
「なら壊れてもよい武器を使おう」
アルトの提案に、スターは優美な顔で思案し顎の手を添えて考える。
アルトは既に木刀、槍、斧槍、大鎌、薙刀を失っている、今手に持つのは鈍器のメイスで、失えばまた取り出さなくてはならない、ゲーム的には既に失点の多いアルト、他の者が失点を受けるよりアルトの方が何かと都合がよい。
思案から戻ったスターが頷いてから手を解く。
「アルトの案を採用しよう、具体的なプランは?」
「選択中の中、幾つかの射撃武器もあった、弓、クロスボウ、銃の三種類に、パチンコもある、他にも投擲武器もあるので、色々と活用できる」
「なるほど、メリットは大きい、ではデメリットの面は」
「選択した武器を失う、一つに付き1個、射撃武器なら本体が壊れるまで矢や弾薬が補充できるし、投擲用ならダメージを受けるまでは使える」
「なるほど、確かに両方の点から言っても、壊れる前提の武器とは言ったものだ」
「射撃系は使えるし、投擲系も使える」
「本当に何でもできるな、苦手な武器とかはあるのか?」
「ない、武器なら何でも扱える、その為の訓練も受けて来たしな」
「異星の武器は?」
「使えはするが訓練はまだ受けていない」
「なるほど、随分と一つの武器を熟練するわけではなく、どんな武器でも扱える訓練を受けるか、考えたものだ。では一番壊れても痛手にならない奴で頼む」
「それなら」
具体化したチャクラム、丸い円形の握りと刃の投擲武器だ。
確認してからスターが頷いてから反転し、彫像の前の方を調べる。
慎重に罠を確認し、道具もないのなら勘だけが頼りだ。
「思うんだけど、手裏剣でぶつけたら?」
ワイバーンの提案に、スターは苦笑しなんと説明すべきか思案し、アルトの方は苦笑してから説明を行う。
「別に宝探しじゃない」
「何を探してのさ?」
「罠を探している」
「罠?なんでさ」
「罠を解除すれば安全なエリアが出来る」
「あーなるほどね。地道だね」
「地雷原の解除と同じ要領だ、地味で時間がかかる」
「あーなるほどね。それなら分かり易いよ」
「あたしにはさっぱりよ」
「後で地雷の解除の仕方を教えるよ」
「要らないわよ」
「凄く面倒なんだ」
「要らないったら要らない」
「要するに面倒で地味で時間のかかるもの、しかも危険」
「それならわかるわ」
戦士の三名は納得していたが、姫としてはなんでそんな事をするのかが分からず、片割れの服の裾を引っ張る、重さから顔を向けるアルトに、素直に言う。
「何のためにするのです?」
「安全な道を作る、罠を一つ一つ解除してから」
「なるほどです。それならわかります」
「俺も手伝うかスター?」
調べていたスターが思案するが、首を振りトラップの解除から戻り、4名の前に振り返る。
「作った奴は性格が悪すぎる、余程の事に石像と戦ってほしいらしい」
「いるよなそう言う奴、見境がないって言うか」
「面倒だし壊そうよ」
「お前は単純で楽だな」
「アルトは?」
「爆発物で破壊したいと思うぜ」
「その手があったね、それでいこう」
「あー武器じゃないから訓練は受けていないんだ」
「安心して、僕が壊すから」
ワイバーンの言葉に、アルトも、サツキも、スターも、姫も、四人ともぎょっとしていたが、武器選択で選び出したワイバーンが、爆発物の武器を選ぶ。
手榴弾を実体化させたワイバーン。
「あっ手榴弾なら使えるぜ」
「簡単だものね」
「てっきり本格爆薬かと思ったが」
「うん。さすがになかった、皆下がって」
全員が下がってから手榴弾を起動させて転がし、ワイバーンも下がってから伏せる。
ボボボボボン
弾ける閃光と共に、爆炎の中でトラップごと爆発していた。
静けさを取り戻し、ワイバーンが伏せた体を起こし確認していた。
「派手に爆発してね」
顔を上げたスターが確認したのは、彫像と吹き飛んでいた周辺だった。アルトも確認し手榴弾の破壊力はまずまず、それ程の広範囲とは言えないが、初心者用としては中々の破壊力でもあった。
サツキが恐る恐る顔を上げると、吹き飛んでいる周辺に、物騒な桃色頭と思う。
「綺麗さっぱり吹き飛んでいます。爆弾って凄いですね」
こちらは分かっているのか、分かっていないのか、片割れのアルトにも分からない。
サツキからすれば、こいつ等は変過ぎると言った所だ。
「アルト調べるぞ」
「了解」
二人で調べ始め、暫く待つと二人が近くの破片で印をつける、スターより説明を受けた一同が安全圏内のルートを通り進む。
アルトが最も危惧していた姫は、覚束ない足取りではあるが無事に通った。
「この調子で是非に行って欲しい」
「ボクは鈍間じゃないですよ?」
「知っているが、そそっかしいからな」
「慣れてはいません、それは認めましょう」
「なるほど、姫は自分のミスはないと主張される?」
「さあ行きましょうか」
回廊を進み、扉がある、扉の前には鴉のペイントがされた旗がある。
「鴉」
スター厳しい顔でが呟く。
「こんな場所になんでさ」
ワイバーンも呆然と呟く、知らないサツキなどはよく分からない。
「厄介な事になったな」
知っているアルトが言う、姫やサツキなどは知らなかったようであった。
「アルト」
「この旗の事か?」
「うん」
「鴉の旗という」
「そうなのですね」
「意味するのは絶対の失敗だ」
「どういう意味です?」
「そうだなぁ。地球でも最高峰の軍事教育施すリンクスアカデミー、数多い傭兵を育成し、作戦の完遂を目的に作られた教育機関だ」
「へー」
「この中でも最高峰の傭兵の与えられる称号を持つ者、鴉という、コードネームはレイヴン、作戦完遂率100%のみに与えられる」
「凄いのですね多分」
「ああ。しかしレイヴンはとある作戦の中で消息を絶った、しかしその作戦は既に成功していた、無事に終わってから、何故か消息を絶った」
「転職ですか?」
「全てにおいて不明、その作戦は今でも詳しく調べられる、とあるアフリカの絶望的な戦争の唯一の奇跡、アフリカの奇跡という」
「大変ですね戦争の時代は」
「そうだなぁ何故そんな者のみに許された旗がある?」
これでようやく姫もサツキも理解した、絶対の失敗という意味に理解がおよんだのだ。
「リンクスに喧嘩を売る真似をするとも思えないしな」
「そうだね。鴉の事だけは絶対に許さないからねリンクスは」
「彼らの唯一の誇りだからな、仕方あるまい」
「もし、許すとしたら?」
「ない」
「でもあるじゃない」
「ない、100%ない、全傭兵に喧嘩を売る愚策を犯すバカはいない」
「全傭兵?」
「鴉の旗を許された者、コードネームはレイヴン、唯一傭兵組織の代表の資格を持つ意味がある」
「・・・」
「この運営も長くはないな、明日には全員が死んでいても不思議には思わない」
「残念だね」
「愚かな真似をしたものだ」
「どうるのよ?」
「失敗すると分かる道を通るのか?」
サツキが黙る、つまり回り道を探すしかないらしいと姫には思えた。
「通れない場所って意味だからな」
「それって終わりって意味?」
「通れない壁を見て、終わると思えるのかサツキは」
「だってそれ以外がないじゃない」
「下手したら傭兵に襲われるよ?」
「下手しなくても襲うだろうよ。運営の愚かさには感服したね」
「それだけ大切なモノなの?」
「ああ。絶対不可侵の領域だ」
「なんでよ?」
「傭兵は金を貰った作戦を行う、失敗すれば何かを失う、その何かは自らであり、仲間である、作戦の失敗は全滅を意味する、その中で100%の作戦成功率の意味する事は?」
「絶対の安全?」
「そうだ。その唯一の者に許された旗が目の前にある」
「絶対の失敗と、絶対の安全」
「接触すればそうなるな」
「つまり降参?」
「近いな、正確にはここを通ればもうお仕舞、傭兵達が許す事もなく襲ってくる」
「それって絶対に通れないじゃない」
「だから壁って言っただろ」
「別の道を探そう、さすがに傭兵に喧嘩は売れんしな」
「賛成、平和的な解決が望ましいね」
「お前からそんな言葉が出るとはな」
回廊を戻る、怪しむべぎ場所は唯一の彫像の有った場所だ。
戻ってきた個所を調べるスターとアルト、何かと荒っぽいワイバーンも鴉の旗の意味を知る者として、なるべく戦いたくないのか離れた個所に立つ。
暇を持て余した姫が天井を見る、綺麗な鳥の絵が描かれている、どこまでも続く鳥の絵、やはり鴉の絵はなく、傭兵という人々にとってみれば大切なモノなのだと言えた。
鳥の絵は全て鴉から逃れるような方向を向いており、鴉とはわかり得ないという意味があるのかもしれない哀しい絵でもある。
中央には必ず小さな卵があり、彫像の所にあった場所には卵がない。
「アルト、天井に哀しい絵がありますよ」
呼ばれたアルトが天井を見る、綺麗な鳥の絵、様々な鳥の絵、方向は唯一の鴉の旗のない場所を示し、鴉から逃れる鳥たちを意味するようである。
飛び立つ鳥の色は様々ではあるが、黒い鳥はない。
「旗の前に戻ろう」
「何故だ?」
「多分ヒントがある」
全員が頷いて向かう。天井を見る一同に、天井には変化があった。
逃れる鳥たちに対し、武器を持ち戦う冒険者たち、地上の者、海の者、空の者、中央には惑星をモチーフにした丸い物に乗る一人の青年がいる。
冒険者たちの守り神であるレド、鴉の旗のある回廊の天井に描かれる。
「冒険者たちと傭兵達の戦いか、熾烈だったからな戦争は」
「あの惑星は何?」
「知らないのか?」
「ええ知らないわ」
「惑星に乗る青年、冒険者の守り神であるレドだ」
「レド?」
「2001年に地球に現れた惑星サイズの宇宙戦闘艦、それがレドだ」
「それで」
「この年に地球は対レド同盟の時代へと突入し、聖戦の中、数多い戦争が起き傭兵と冒険者は何度も戦った、数多い戦いの中で傭兵達も傷つき倒れ、不死たるプレイヤー達も何度もPKされた無数の屍の中に2040年、戦争は終わった」
「39年も?」
「そうだ。数多い戦いの中、対レド同盟を裏切ったのが日本だ」
「・・・」
「日本はプレイヤー、犯罪者、ヤクザ、武装探偵、日本警察、一部の自衛官のクーデターにより政府は潰れ、混乱の中、レドに付いた日本は国防が最優先事項であった、翌年の2012年、日本防衛戦争、その第1次が起きた、日本以外との戦争に、プレイヤー達のスキルの力と知識によりこの戦争の打ち勝った」
「・・・」
「しかし戦争は続き、長い軍事衝突を毎日のように繰り返す戦争となった、地球を守るために起こされた対レド同盟、これを裏切った日本、この日本の協力したプレイヤー、この中で傭兵達は金を貰えば作戦を行い、対レド同盟にも、日本にもついた、しかしプレイヤーだけには雇われる事はなかった、傭兵達との相性は最悪であり、プレイヤーの冒険者とは何億と戦った、傭兵と冒険者は絶対に分かり合えない関係だ」
「・・・」
「傭兵達は、プレイヤーとだけは無理なのだ。その職業である冒険者と組む事は絶対にない、どんな事が有ってもこれだけはない、例え地球が滅びコンマ1前でも戦う関係が両者だ」
「分かり合えない関係、か」
「意味するのはこんな感じだ」
「ねえ。何で傭兵達はそこまで」
「・・・難しいかもしれないが、傭兵は必要とあれば何でもする、冒険者たちはこれを行わない、仲間を犠牲にする事だけは絶対に行わない、それを立案した者をPKするのも当たり前だ。しかし傭兵は違う、必要と有れば殺す」
「・・・」
「傭兵達には傭兵達の流儀があり、冒険者たちには冒険者たちの流儀がある、膨大な戦争の中でこの流儀は互いに絶対に譲れないもの、絶対不可侵の領域と言われた」
「・・・」
「互いに譲れない物が有る為に、この両者は常に戦ってきた、傭兵達は自らすらも犠牲にこれを行ってきた、冒険者たちも何度も傭兵達と戦い、分かった事は互いに争うしかない関係であるという事だ」
「・・・」
「2001年のレドの登場により、数多い組織が現れては消えた、その中で残ったのが金で雇われる兵士達、即ち傭兵、自由気ままな旅の徒の冒険者、地球の人を守るヒーロー、人を傷つけずに目的を達成する犯罪者、その異端である忍者、これらを狩る武装探偵、数多い興没の中、これだけが残った、残るのは普通の国家勢力だ」
「分かり合えないのね?」
「あり得ない、冒険者と犯罪者と忍者と武装探偵はよく組む、しかし四者にも譲れない物が有り、争う時は争う、この四者と常に争うのが傭兵達でもあるが、冒険者以外とは組む事もあった、ヒーロー達に雇われる事もあった傭兵達が、絶対に拒否するのが冒険者たちだ」
「・・・」
「その冒険者のゲームのプレイヤー、天井にある冒険者たちとレド、地上をモチーフにした鴉の旗のある部屋、入れば闘争しかない関係の両者が遭遇すればどうなる」
「戦いね。旅の終わりって意味なのかしら?」
「あるのは唯一の掟、自らで決めよ」
「もしかして?」
「父が描かれている」
アルトが指さすところに、空を飛ぶ歩兵達の先頭の青年が居た。
「冒険者の空を統べる者達、飛行団の飛行歩兵達の隊長なのが父だ。姫の父でもある」
「うん。あれは父さん、空飛ぶ歩兵達の先頭に入れるが父、名前はスカオ、その近くに白い翼のある人が母親の美姫、その上にいる女性の様な男性がコウ、その後ろで杖を持つのがアキラ、四人の後ろにいる黒髪の女性が夕霧、一番後ろにいるのが飛行団の長の楓、これは冒険者たちの絵なのです」
「確かにね。斧槍を持つ人、銀髪の忍者、鳥と大鎌を持つ女性、竜の翼の生えて槍の戦士、杖を持ったエルフ、斧を持った青年、海の所にも英雄たちが描かれているね」
「空を統べる飛行団、海を統べる潜水団、地上たる惑星、全ての戦い」
「よく聞く御伽噺だ。聖戦などなかったのだからな」
「どういう意味なのかしらスター?」
「日本が何故対レド同盟を裏切ったか、その真の意味は日本に全てを押し付けた世界へへの恨みからだ。日本からすれば地球の犠牲を押し付けられた、そんな日本が自らの破滅を回避するためにレドに付いた、その象徴が刀を持った侍たちだ」
「・・・」
「犠牲を押し付けられた日本は、聖戦と言ってくる胸糞悪い連中に牙をむくために10年間、密かに世界の裏側を探していた、世界を根本から覆せるような情報を探していた、何せ当時の日本の力は低く、地球全域と戦うレベルの力はなかった」
「それで」
「日本が裏切った時、翌年に戦争が起きた、日本は自らの破滅を回避するために地球全域に宣戦を布告、死か生かの二択しかない戦争に臨む、2012年の日本防衛戦争から続く地球の戦争、2040年まで続いた戦争に、地球全域で日本人は迫害された、容赦なく狩られていったそうだ、日本人は裏切りの象徴であるが、日本は周辺諸国への支援も行い、なんだかんだ言って勢力を広め、今ではAZAの主導を行う、そのAZA内部では戦争と平和の両方を守る存在となった。その日本と組んだのがプレイヤー達だ」
「歴史って面倒ね」
「そうだな。確かに面倒だ。しかし当時の切迫した状況の中、始祖たちは血の滲むでは済まない努力の末に得たのが現代だ。正真正銘に血を流してきた」
「・・・忍者なの?」
「そうだ。私は忍びだ。犯罪者たちの異端者であり、冒険者たちの末席に居る者達であり、膨大な戦争の中で諜報と暗殺を行う者達、それが忍びだ」
「ワイバーンは?」
「僕は戦士、それ以上は要らないからね」
「相変らず見かけどうしじゃないのね。アルトは?」
「武器を扱う訓練は受けたといったはずだが」
「よくわからないの」
「裏切り者達の矛、即ち侍の訓練は受けた」
「姫は」
「ボクは見ての通りの翼人ですし、まあ分かり易く言えば巫女です」
「日本って随分と変な所なのね。あたしは異星で暮らしていたのよ。中学の時にこっちに来たの、まあ良くわからない事しかなかったから気にはしていなかったけど、そんな歴史と常識があったのね」
「なるほどね。道理で何も知らない筈だ。僕はねハーフなんだ。綺麗な言葉でいえばダブルとかね。よく薄汚い混血がと言われたものだね」
「・・・」
「異星人との間に生まれた者はみんなそれを知っている、地球人は憎んで憎んで憎み切っていることも知っている、日本人であり混血の僕の様な奴らは、地球では最も憎まれる生まれなのさ、最初からね」
「そう言うのって」
「理不尽?」
「ええそう思うわ」
「優しいね。僕の様な奴らに家族を殺されればそうは言わないさ、決まって言われるのは罵詈雑言、みれば憎しみの目、話す挨拶は口汚い罵り」
「ワイバーン・・・」
「だから言ったじゃないか、戦士以外は必要じゃない、それ以外の意味がこの星ではないのだからね。戦って果てる定め、それだけの意味、、それが僕ら戦士の生きる道だ」
「哀しくならない?」
「なんでさ?」
「・・・スターは?」
「裏切り者たちの影、混血の私もワイバーンと同じだ」
「・・・理解できないわ。そんな事をする意味が分からないわ。全くの理解不能よ、なんでそこまで、同じ同族でしょ、なんで」
「人の話を聞いていたかサツキ?」
「裏切り者たちの矛って意味の侍?」
「そうだ。基本的に性別によるものはないが、俺は侍の訓練を受けた、生まれてからずっと受けてきた、もう14年になる」
「・・・」
「日本に生まれれば生まれた頃に親が決める、何の訓練を受けるかをな、俺は侍、姫は巫女だった」
「なんでそこまで同族を殺そうとするのよ、同じ」
「相手が殺しに来るからだ、地球人は裏切り者たちを許さない、滅びるか、それとも僅かな未来を得るかだ。日本に生まれる事は即ち闘争の中に生きる事だ。戦う術を得るのは当たり前で有り、長い闘争の時代から永遠と続いたのが俺達侍だ。これが終わる事はない、日本に生まれ親が侍を選ぶ、このリサイクルは決して壊れない、侍が消える時、即ち日本が消えた時だ」
「なんで」
「そう怒るなよ。そう言う歴史と事情から、俺達は常に戦うしかない人生なのだ。日本人は自らを守るためにアイヌの戦士、琉球の空手と組んだのだから」
「・・・」
「日本の戦士、即ちアイヌの者、日本の侍、忍者、巫女、日本本土の生まれ、日本の空手、即ち琉球の者、これらは長い闘争の時代から永遠と続く戦う者達だ。これは決して壊れる事のない話なのだ。このリサイクル、仕組みは決して壊れない、どちらかが倒れる時は、日本の終わりなのだから」
「まるで戦闘兵器のようね」
「まあな、スターに姫が兵器と呼んだ、その時にスターが納得しかけたのは忍者だからだ。忍者は、諜報と、暗殺を行う、出会えば絶対の死である、忍者が見せるのは常に血である、魅せるのは死である、全て知らなかったのか?忍者とは人の形をした兵器の事だ」
「・・・訳が分からないわ。全くの理解不能よ」
「俺たち日本人は、アイヌ、琉球の二つと共に歩む、これは変わらない、だからこそ道別れるその日までなのだ」
「まあ僕らにも色々と有るのさ、僕ら前の前の世代から続く戦争だ。それが終わって14年、だからと言っても誰か信じる、相手が武器を下ろしてくれると、僕らウタリをヤマトは色々とやったけど、他は滅びを押し付けた、なら戦うしかないのが当たり前じゃないか、希望か、それとも滅びか、僕らのユーラカは永遠さ」
「地球の歴史は闘争です。特に近年はこればかり、20世紀の第1次世界大戦、第2次世界大戦、21世紀のレド戦争、そう言う歴史の中にいるのです」
「これが当たり前なのだが、異星育ちには難しいものかもしれないな」
「難しいなんてものじゃないわよ、訳が分からないわよ、地球なんて」
散々喚いて疲れたらしく床に座るサツキ、名前からして日本の名前である為に、両親のどちらかが日本人なのだと分かる、異星育ちの彼女にとってみれば、例えどちらかの親の故郷でも異国でしかないようだ。
「まあそう言った諸事情がある、琉球の者が居ても同じだろう」
「ああそれなら私だ。母がウチナーだ。まあ北欧系の帰化した場所が当時の琉球、忍者に憧れた母親は家から出てヤマトに行った、父と出会い、長い戦争の後に結ばれて私が生まれたという訳だ」
「なんで南の人がそんな事をするのさ?」
「まあ母は忍者達の長なんだ」
「うわー」
「よく父に暴力を振るい、愛情表現という言葉の中で、酷い事をしていた、いつも父は抵抗もせずにいたが、時々は回避したり防御もしていたな、酷い母親と思う」
「暴力忍者?」
「そう言う母親なんだ。入学式に出た時に父には絶対に来るなと教えておいたから来なかった、現れたらいつも通りに暴力だ」
「僕の家庭とは違うね。仲が凄く好いから、ただ訓練はやっぱり厳しかったね」
「ボクの所も似た様なものです。何せ父は飛行団の飛行歩兵隊長ですし、母は飛行歩兵の弓師指揮官ですし、母の兄が副隊長、父の友人が飛行団代表です。飛行団とは私達の家のようなものですね」
「大事にされそうだね」
「ええまあ」
「何か不満でも?」
「両親の教育方針は極端なのです。片割れの方は自由に、ボクの方は徹底的に教育されました、とても理不尽です」
「今度好い物をやるから」
「父は片割れだけには異星のお土産もありますし、色々な所に連れて行きますし、国外にもいっていますし、ボクはひたすら教育ですよ、理不尽です」
「君達の家庭も何か問題がありそうだね」
「まあな。親たちも何か考えがあるらしいが、俺らも色々で、身内の事は難しいからな、見ての通り翼人タイプだろ?飛行団の連中は気にしないが、日本人からしてもそれはもう珍しさ抜群だ。大して俺は普通の日本人、そりゃもう色々と有った」
「ヤマトも苦労するね」
「そっちほどじゃない」
「帰化した方も苦労があった?」
「あったらしい、何せ当時の状況から言っても白人は辛い思いをしたからな、その中で母が生まれ、母の方は忍者になり、初期の頃から長の立場に居て、つまり初代なのだ。並ならぬ苦労と血が流れた事は理解できる」
「大変だね」
「ああ。身内は常に減るものだからな」
「辛かった?」
「いや慣れた」
「重い、重過ぎるよ、もう少し軽い話題にしよう」
「例えば、やはり大河ドラマだな」
「もう少しましな方」
「年末の時代劇ドラマの」
「歴史から離れて」
「私の趣味は時代劇なのだ!それ以外は認めん!」
「姫の方は」
「ボクですか?自由のない生活ですよ。漫画の一つすらないのですよ。アニメ番組の1秒すら見えないのですよ。有るのはひたすら巫女の教育です。理不尽です」
「一途の希望を、アルト」
「ゲーム、漫画、アニメ、ラノベ、小説と幅広いな、オタク話なら得意だぜ」
「まあマシなのかな、ちなみに過激度は?」
「俺は品質が高い奴が好きだ。エロでも品質が高ければOK、過激な流血も品質が高ければOK、何せ金を払って時間を使うのだから相応なものが必要だと俺は思うね」
「なるほどね。品質の方か、まあ男の子らしいエロ話よりはマシだね」
「そう言うのはな、なんか品質が落ち気味になると大抵が走る傾向だ」
「分かるよ。特に最近の少年漫画はね」
「もう少し詳しい心理描写が欲しい」
「なんか雑っぽいよね」
「ああ。戦闘がメインになりがちで、日常が減り気味なのがな、希望溢れる高品質な日常を切望する、俺達に希望を」
「夢が欲しいよ、僕らに夢を」
何やらワイバーンとアルトの間に絆が生まれたらしい事に姫は軽く笑う。
「オタク共が」
理解されぬ少数派の忍者娘は、悔しそうに吐き捨てる。
「大河ドラマの真田丸とかですか?」
姫が言うと絶望から希望を見出したスターが大きく頷く。
「うむ。すでに三度目のリメイクだが、回数を増すごとに品質が向上し、様々な時代検証が役立ち、特に最近の火縄銃の再現率は素晴らしい」
「撃ち方も随分と訓練されたと聞きました、あれももう対物ライフルですよ」
「うむ。当時の射程からしてメートル法でいう50m、装甲貫通距離だ。真田丸の検証から高い射撃性能を活かす一種の防御兵器だ。合戦ではまず使えんな」
「重過ぎて運べませんからね」
「よしんば運んだとしても装填が難しい、あんな軽い大砲のようなものでは耐久度の問題もあるが、鉄砲鍛冶は苦労したな」
「だからこそ成功なのかもしれませんけどね」
「ああ。やはりあの当時の事もあるが、日本の刀は今でもすごいが、当時でもすごかった、私達の祖先はこれをもってあちらこちらに持っていき、何せ日本の10倍以上で売れるヒット商品だ」
「へー」
「よく鉄砲の事を言う奴は多いが、日本の金銀などもよく言う、しかしそんな物より日本刀の方が当時のアジアではよく扱える武器だったし、なにより性能が良かった、レキオと呼ばれた我らの祖先は、長い航海を行うも成功もあるが失敗もあるのは常だ。レキオの人達は、変な事ではあるが色々な所に便宜が図られたらしい、何せ中継貿易の最終地点だ」
「日本刀が欲しかったのですか?」
「欲しかったのだ」
「でも作れないのですか?」
「日本刀の原料なんやらは、日本で作るから意味があった」
「ブランドですか?」
「そうだ。何せ品質を保証するものがないからな、現代とは違う為に長年の事からコツコツと商品の実績を重ね、コツコツと販売経路を増やし、商人達は大変だったと思うぞ」
「あ、だから琉球の方に便宜が図られたのですね」
「ああ。日本の物を運んだりする人々だし、何より数は大きくはない、必ず成功する航海でもない、今とは比べようがない危険があった、それでも欲しかったアジアの人達は、どうにかしたかったがどうにもならない、何せ航海技術は国家機密だからな。欧州の方でも似た様なものだ。当時の戦国末期、大航海時代により世界に漕ぎ出した人々は、試行錯誤を繰り返し、多くの犠牲に上に日本まで通じた、欲しいが成功するわけではない、我らの祖先たちはこれを運ぶ、当然のような彼方此方からすれば危険な航海の末に運んで来た」
「航海する人達はそれだけ貴重だったのですね」
「ああ。同時に情報も運ぶ、それが大きな国外の情報となる、重要な機密でもある」
「航海する人達、物と情報を運ぶ人達ですか」
「こんな話だが、日本人はあまり航海に馴染みがない、その大きな理由は航海する事でしか得られない側ではなかったからだ」
「日本って豊かな国なのですか?日本ですよ」
「豊かなのだ。金銀銅、鉄、アメリカなんて資源大国だ、ロシアなんてのも、オーストラリアも、贅沢に採掘できる側なのだ。憎き忍びの敵が」
何やら色々な怨念を両肩に乗せているらしいスターの台詞だ。
アルトとワイバーンは相変わらずオタク話、そんな連中の会話に異星育ちのサツキは付いていけなずに困る。
□
「あー楽しかった」
「いや全くだ。日本連邦の愛すべきオタク文化には感謝だな」
「うんうん」
こちらの二人はオタク文化好きの様で、近くでは忍びの歴史講和に入ったスターが度々憎しみというより嫉妬から大国に文句を言う、姫は愚痴になりつつある会話を聞いていた。
サツキはしょんぼりと暇を持て余していた。
「あー、サツキを忘れていた」
「・・・別にいいわよ」
「そう拗ねない」
サツキの綺麗な顔の口は子供のような尖っていた、どう見ても拗ねていた。
「で、どうしたものかね」
「退屈な時間も終わりだし、その傭兵ってのを狩ればいいのでしょ」
「無理だ」
「なんでよ?」
「恐らくGMだ」
「GMって」
「天井にあるモチーフから、地上のある鴉の旗、プレイヤーが入れば必ず戦闘になるもので、傭兵達が納得する物、それはGMを傭兵達が行うという事だ」
「平気なの?だってアルトと姫の両親はプレイヤーでしょ?」
「子供なのでプレイヤーじゃない、傭兵達もこの違いは区別する、俺も傭兵は好きじゃないが、区別はするものだ」
「難しいのね」
「ああ。あちらのくノ一が暴走しないかが心配だからな」
「くのいち?」
「女忍者の事だ」
「変な呼び名ね」
「そうかぁ?」
「ええ変、凄く変、でもなんで暴走するの?」
「忍者と主に争うのが傭兵なんだ。そんな傭兵を雇うのも忍者だ。傭兵と忍者と時には協力し、常に争う、出会えば流すのは血か金か、そんな両者だ」
「面倒だから全部刈るでいいじゃない」
「うん賛成だ。全部叩き壊そう」
「お前らは簡単でいいな、羨ましいぞ」
「スター、姫、そろそろ草刈りに行くわよ」
このサツキの言葉に、スターは大鎌を見て納得し、姫の方はきょとんとサツキを見る。
「草刈ですか」
「ええ伸びたら刈るでしょ、そういうものよ」
「分かりました」
結局内部に入る、中には一人の老人がいた、2m近い端正な顔の老紳士の美丈夫だ。
「名を名乗れ、まずはそちらの侍」
「アバター名アルト」
「簡単な経歴を」
「日本連邦に生まれ、両親は侍を選択、幼少部、初等部を卒業、どちらも侍の学校だ。現在は中等部、こちらは共学だ」
「出身と育ちは」
「あんたらの敵の飛行団だよ」
「なるほど、空と風の一族か」
「珍しい傭兵だな」
「長は元気か?」
「親父なら元気だぜ」
「親父?」
「スカオの息子だよ」
「・・そうか、なら片割れがいたはずだ」
「ボクです」
「・・なるほど、なら別に良いが、彼奴に娘と息子か」
何やら老紳士は顔の前で十字を切る、傭兵からの飛行団の呼び名は様々だが、空と風の一族とは決して呼ばず、傭兵らしい単語で呼ぶ。
「他の者も聞こう、そちらのアイヌ」
「日本連邦の北海道、両親はユーラカ、中等部の現在までずっと戦士の学校だよ」
「ユーラカ?」
「叙情詩」
「両親は叙情詩?」
「これだから国外の人とは話したくないんだよ。分かり易く言えばアイヌの英雄だよ」
「なるほど、文化の違いという奴か」
「そういう事」
「アイヌのプレイヤーの家庭?」
「うんそうだよ。母さんは戦士、父さんは薬師だから、人間のユーラカって奴だね」
「なるほど」
「これ位かな」
「そうか。なら次は、そちらの忍び」
「忍者は機密以上」
「簡単な物で結構だ」
「傭兵に情報をくれてやる気はないが」
「引退した者だ」
「それなら別に良いが、父は知らないが、母は初代の忍者の長だ。私は二代目になる予定だが、とあるものを探して旅に出る予定だ」
「忍者が探す者、主君か」
「詳しいな」
「ならそちらのアイヌは鞘探しか」
「詳しいね」
「そちらの大鎌は」
「異星育ちよ。母は日本人だし、他は話したくないわ」
「ハーフか?」
「当然よ。母は日本人、なら半分は違わないと混血にならないもの」
「WHO人か、とすると細工師か」
「ええ」
「ハーフWHO人の大鎌を持つ細工師、テイムと取る予定か?」
「そうよ?」
「なるほど、因縁の中にある子供達か、父親の名前は」
「知らないわ。教えないもの」
「情報隠蔽か、タイプは」
「・・・もし言ったらどうするの?」
「いつか借りは返そう」
「分かったわよ。兵器タイプよ」
「系統は」
「・・・レディに失礼な事ばかり聞く男ね」
「必要なのだ」
「戦闘艦よ」
「なるほど、随分と母譲りというべきか」
「ええよく似ているわ」
「イーニャの細工師、大鎌を持ち、細工師であり、テイムを持つ者と言えばイーニャの細工師以外ないからな」
「懐かしい話ね」
「まずは合格だろう。好からぬ考えの者ではなかった、GMとして祝福しよう」
「貴方は鴉なの?」
「鴉は消息を絶った、それ以外に必要なのか?」
「あたしは異星の生まれの育ちなのよ、この星の事を分からないわ」
「なるほど、確かにその通りだ。しかし鴉は消息を絶つそれ以外に空は続かないのだ」
「なぜ、傭兵達の代表になれるのに?」
「鴉は政治が好かん、外交も好かん」
「無骨な生き方ね」
「このゲームのモデルはWHO星系だ。近くには仲の良い森の星系もある、主にこの二つが初期の星系となる、後ほど追加されていく予定だ」
「あの質問よろしいでしょうか?」
「フェザーの事か?」
「はい」
「彼らもこの計画には賛成だ。安心しろ」
「やはり、宇宙全ての星系を出し、その体験を行ってもらうという事でしょうか?」
「その通りだ。ありとあらゆる宇宙の惑星が追加される、ただ宇宙船はない、星系の謎を解き、次の星系に渡る事になる」
「ならなぜエルフの」
「彼らは変化抑止政策は確かに有った、しかし日本と同じようにリアルでは1時間ならゲームの許可も下りる」
「夢も希望もねェ」
「健康には気をつけないとな、エルフの長老たちもこのゲームの有効性には興味を示し、各所での協力が進む、あの竜とエルフ達が同じ舞台に出るのはあれだがな」
「直ぐに争うぞ」
「その点は地球人に押し付けよう、後宇宙随一の温厚な人々にも」
「迷惑ね私達の星に恨みでもあるの?」
「運営なりに考えた結果だ」
「そう、いつか玉を潰してやる」
「母親そっくりだな、とても彼らとは思えない台詞だ」
「いつもそう地球人とエルフの喧嘩をいつも私達に押し付ける、他は知らんぷり」
「その話は運営に訴えてくれ、クレームの処理はあちらの担当だ」
「はいはい」
「そういう訳で、現時点では地球サーバーが稼働中だ。接続星系は二つ、エルフの森の星系、WHO人の星系」
「選べって事?」
「そうだ」
「あたしは、WHOにするわ」
「他は」
「同じく」
「同じくです」
「同じくだ」
「同じくだよ」
「分かった地球サーバーよりWHO星系への通行許可が出る、その中間にあるレドに渡ってくれ、進めばあるが、幾つかのギフトは送る、空と風の一族、北の戦士、二代目、イーニャの細工師、良き旅を」
5名が転送される。
GMの老紳士は、煙草を取ろうとして辞めた。
懐かしい人々の子供達が、今旅に出た事に、こんなゲームの仕事も悪くはないと思えた。
星の世界へと旅立つ前に、この星の世界の経験を行えるこのゲームは、若者の暴走に悩むあちらこちらの大人たちや、老人たちの悩みを解決してくれるものだ。
若者の無茶には冷や冷やさせられる側としては引き受けた仕事だ。
老人たちがいくら孫たちに行っても彼ら若者には通じにくい、挙句につまらないだのなんだの勝手に言う、そんな大人たちの悩みを解決してくれるこのゲーム、開発したのは有名な創作者達、開発者率いるゲーム会社だ。大人や老人たちの恨みが詰め込まれている。
そう言うゲームの仕事なのだ。実に気分がいい。
「若者たちか、孫か」
懐かしい人々の流れをくむ人々がいる事が少しだけ嬉しく、もう少し続けようと考えた。