第16:2055年、春。終わり
夏が過ぎ、秋となり、冬が訪れ、巡って訪れた春、三月の頃。
アルトの居なくなった地球、サツキも、スターも、ワイバーンも居なくなり、2054年の夏の事はいつまでも語られ、好い夏休みだったという。
子供は姫だけになり、親達は何が有ったのかは把握していた。
アルトの実の母親この夕霧は、どうやっても息子は帰ってこない事は分かったらしく、特に何も言わず、父親も美姫も責めずにいた。
学校の方は制服の事もあって、少し良くなった。
スペル芸術の事は今でも地球に根付いており、姫の半分が行った夏の軌跡は懐かしい記憶となる。
星守りは祭り師としての修行に励み、同じく残された零も祭り師を極めるべく励む。
そんな半分との想い出のあるPOは、姫の楽しみとなっていた。
『姫がログアウトしました』
リアルに戻ってきた。
騒がしい毎日であった14歳の夏、VRルームから出ると、懐かしい人々がいた。
優美な凛々しい顔のスター、可愛らしく陽気な顔のワイバーン、綺麗な顔の友人のサツキ、そして姫の半分のアルト。
「よう」
「お帰り」
どうも懐かしい日々の帰還らしい。
帰還したアルト達、15歳になった4名、身長の方も少し大きくなり、アルトは174cmとやはり大きくなっていた。腰に帯びるのは神器『祭り師』、三名も神器を持っていたし、懐かしい顔ぶれだ。
「ほんじゃ解散」
アルトは部屋に向かう。
サツキの方は一瞥してから姫の方に向く。
「只今」
「おかえりなさい」
「バカ1号も何かあったのかしらね」
「私も帰る、実家にでも寄る」
「僕も実家に行くよ」
二人が建物から出る。
サツキとの話は長くなりそうだと姫は思う。
□
アルト達の帰還は直ぐに広まる、冬が終わり春が来たらしい事に、また騒がしい事になるといった事になった。
DKのメンバーも喜んで、また騒がしくなるとも納得していた。
学校の方もあって、15歳なので中学4年生だ。
卒業式は本来は2月なのだが、校長の保留によって延期されていた。
制服に着替えたアルトは、腰に『祭り師』をつけてから、地上に向かう。
家族の方もいつも通り迎え、久し振りの温かい食事をする。
食べ終わってから学校に向かう。
地味な普通顔に身長が少し伸びた青空中学校の通常制服を着たアルト、飛空市の人々はまた騒がしくなるといった顔でアルトを見ていた。
中学校の敷地の前の校門、生徒会室に向かう。
挨拶する者は多く、アルトも短く返し、生徒会の部屋に来てから本来は卒業生の会長に挨拶した。
「よう先輩」
「よく帰った来たな」
「卒業式をしに来た」
「なるほど」
祭り師らしいというべきなのかもしれない。
次に訪れた校長室、校長はアルトを見て片手を揚げ、卒業式の準備に入る。
全ての学校に現れた氷の塔、今回は変化しており桜の彫刻が掘られ、氷の桜が幾重にも突き出る。
飛空市の春の訪れ、再び現れた氷の塔、そんな時に校長に足利より連絡が入る。
「おや将軍」
『ダンジョン計画の再スタートだ。今回も騒がしくなるようだ』
「春ですからね」
『娘達も喜んでいた』
「それは何より」
『支援は取り付けてある、場所の方はどこかの』
「考えておくべきだったね」
『面目ない』
「そうだね。今回は全員で決めてみるのもよいね」
『そうしよう』
通話が終わり、席に座るアルトに校長が説明した。
「考えてなかったそうだ」
「おいおい、まあ別にいいけどよ」
「卒業式の前にゲームの方もしておこう」
「ああ」
連絡し、再びサポート担当者が集められる。
DKの方の敷地も再び明かりが燈る。
仲間達も集まり始める。
青空中学校での卒業式、アルトの見事な氷彫刻によって飾られ、炎なども燈り、寒い筈の3月なのに、春のようで心地よく、制服の事もあって卒業式の最高儀式服となった。
生徒会にアルトより提案された三月の予定表、生徒会長もじっくりと読んでから、細かい修正し、生徒会のメンバーの他にも職員などとも話し合い、記念も有るのでダンジョンでの卒業式が決定された。
この為に装備がいる、再び現れたダンジョンでのコイン集めと決定した。
自宅に戻ってから、姫野と小波と風鈴が待っており、アルトが挨拶した。
「お久し」
「久し振りっす主君」
「また騒がしくなりますわ」
「楽しみです」
「4月一杯まではいるから安心しろ」
三名が頷く、騒がしい日常に帰ったアルトも懐かしく思う。
自宅の地下、風鈴の部屋も増設され、今回は6名での子供部屋となる。
アルトは即ゲームのチェック、POの攻略情報を確認していた。
岩龍の攻略情報もあり、恐ろしく強い鬼系統、この難関のダンジョンには多くが挑むも、殆どが返り討ちに遭い、DKがコツコツと進め、それでも難しいらしい。
アルトの方もスキルがたったの三個、Lvは1、速くLvを上げなくてはと焦る。
今年卒業の仲間は居ない為に、最年長のレンズ、出雲は高校4年生、ふと思う。
仲間の事も有るので、全員が卒業するまでは地球に居るかと思った。
3月2日。飛空市の団長邸、朝方の支度、起きたアルトは風呂に入ったから衛生、5名の為に雑誌の購入、今日の雑誌という訳で場所に置き、仕事などは午後からとなっているので、午前中は暇で、どうしたものかと考えてから好い事を思いつく。
地上に上がってから朝食、馴染み深い質素な料理、母より腕の良い料理人がいない事が旅の最も辛い事だった。
「うん。さすがは」
と呟くアルトの言葉、母親の夕霧は嬉しそうに微笑んだ。
美姫の方も一応予定は聞いておく。
「今後の予定は?」
「仲間の大学卒業まではいるよ」
アルトの仲間達は最低年齢は満15歳、中学4年生が最低だ。
姫を除き候補は全員が祭り師を目指し、努力しており、それは何処もが認めているし、リーダー代理の星守りも熱心の修行し、元々の技量にさらに磨きがかかる。
DKのメンバーではないが、祭り師の零も奥さんと共に、あちらこちらの祭に出向き熱心な研究を行い、見事な花火が出たら零の居場所はそこだと有名な話だ。
好い結果でもある。
だがアルトの性格もあり、油断は決してできない事は鉄の掟であった。
食べ終わってから、DKのメンバーにメール、WHO星系まで行こうと。
そうやって仲間を一人残らずイーニャの運ぶ。
DKの公開情報に、来年まで時々は旅に出ますと記載し、関係者を相変らず予想が出来ないと困らせた。
□WHO主星、イーニャ。
運ばれたDKのメンバー、一人残らずアルトの非常識には文句が言いたいが、アルトにそれを言っても理解できない為に仕方なく話し合う。
場所を知るレドの姉妹の、サツキが説明した。
「ここはWHO星系の主星、その中心的な町のイーニャ。あたしの故郷よ」
「「同時攻略!?」」
どっぷりと、POにハマっているメンバーは、ネタを叫ぶ。
こうなっては仕方がいない、同時攻略を進めるしかないと決まる。
「PTの前に寄るところがある」
全員が頷き、向かった先にはセンスの良い宿屋、中に入るとキャットピープルタイプの女将が一瞥し、アルトが説明した。
「にゃー、地球から、非常識にもほどがあるにゃ」
女将さんも呆れる、他のメンバーも強く頷く、それが女将さんには複雑だったらしく息子を呼ぶ。現れた一人の青年、説明を受け仕方なしに宿を再開した。
全員が部屋に案内され、一人残らず個室だ。
PTを組む。
今回の編成はバランス重視。
アルトPT
アルト、姫、星守り、小波、姫野
サツキPT
サツキ、スター、ワイバーン、風鈴、シー、クー
レンズPT
レンズ、ティーラ、南風、出雲。
冥夜PT
冥夜、十兵衛、ナコルル、リムルル
アルトPTは知り合いの所に行く。
大きな敷地、幾つかの大きな工房、一つの工房にPTが入り、店番の羽の生えた女性が一向に困惑していた。
カウンターの近くの椅子にアルトが座る。
「何の用よ?」
「近くに寄ったので、遊びに来た」
女性は困惑の色合いを強め、一応工房に向かう。
失恋の中にいたピローテスに、言葉をかける。
「来ているわ」
ピローテスは女性を見てから考えて、少し明るくなった顔で頷いてから立つ。
店側に来ると見慣れた少年、見慣れない4名。
「何の用だ」
「PTの誘い」
困惑するピローテスに、アルトは更に言う。
「暇だろ?」
考えるピローテス、仕方なしに頷いた。
「準備してくれ」
どうやら春の訪れらしいと、柔らかに笑みの中で考えた。
準備してきたピローテスは黒一色の甲冑、腰には曲刀、片手には小盾、騎士のような格好だ。
そこに一人の青年が現れる。
顔は大変に怒っており、アルトPTのメンバーは武器を掴むが、アルトは特に気にせずに言う
「ようレド」
これにPTメンバーは愕然、遍く冒険者の神、最古にして最強の賞金首の名前だ。
「娘に何の用だ」
「PTの誘い」
「娘を振ったお前がか」
「PTは自由」
「ちっ」
話は纏まった様で、ピローテスが加わる。
アルトPTのメンバーは、ひとまず装備の準備に向かう。
イーニャのとある複合ショップ、入ってから知らない4名が驚く様な冒険者の店だ。
「適当に選んでくれ、ただし今後の事から借金だぞ」
「ありがとう半分」
「世話になります若」
「感謝っす主君」
「礼の方は後ほど、主君」
四人が向かう。
ピローテスはアルトの装備を見る。
頭の右側には狐のお面、額にはハチマキ、防具はないが、服装は法被、股引き、靴の方は拗ねまである黒のロングブーツ、腰には刀。
「変な装備だ」
「ん?」
「お前の装備が変と言ったのだ」
「祭り師装備だ」
「まつりし?」
「お祭り師」
「どうやって戦う?」
「スペル」
「スペル?スキルは?」
「俺は地球人、スキルは使えない」
「それはそうかもしれないが」
「地球ではそれが当たり前なのだ。後で連れて行くよ」
「そうか。ならべつにいい」
「稼いではいるが、防具は高い」
「なるほど、確かに防具の方は高いのは頷ける」
「これでも最低限の初期装備だ」
ピローテスはこれ以上は聞かないが、アルトの侍のはずなのだがと奇妙に思う。
四人のうち男性の星守りが来る、侍甲冑に兜はない、ピローテスからしても高価な防具の中でも更に高価な物を選んでいた。
店側に大金をアルトが支払い、店側も数えてから了解していた。
次に来たのが小波、露出の多い服装の小波は、軽い防具を身に着け、防具の中でも比較的安値の軽防具、これを店側に金を支払い。店長も数えてから了解した。
三番目に姫野、女の子ファッションながら、防具の方は高額過ぎるキャスター用の法衣、この中でも羽織に属する高額商品だ。
これもアルトが支払う。
四番目に姫が来る、軽防具、弓使いなので胸当て、腰当て、腕具、足具、これもアルトが支払う。
店側も最高額の売り上げに喜んでいた。
「海に行くぞ」
店から出て、イーニャの町の東側のイーニャ海岸に来る。
モブのエネミーがいるが、特に襲ってこない。
海の傍に来ると、アルトがスペルを使い、一隻のガレー船を作る。
見事な氷の船に、ピローテスは感嘆の声を上げた。
「素晴らしい」
「乗るぞ」
6名が乗船し、氷のガレー船が漕ぎ出した。
船尾の方で、椅子に座りながら自己紹介した。
「俺の紹介はいらないな」
それぞれが頷いて、アルトがピローテスを指差し、ピローテスも自己紹介する。
「レドの娘のピローテスだ。得意分野は踊りと暗黒魔法剣だ」
次に姫をアルトが指差した。
「ボクは姫、半分の半分、得意分野は弓と飛行」
次に星守りを指差した。
「俺は星守り、若の右腕です。得意分野はスペル、主に祭りです」
次に姫野を指差した。
「私は姫野っす。主君の恋人候補、得意分野は忍術と忍法っす。と言っても忍法系なので、忍術は苦手っす」
次に小波を指差した。
「私は小波。主君の恋人候補、得意分野は忍術と忍法、とは言え、忍術系なので、忍法は得意としません」
「こんな感じだな。午前中は時間も有るし対岸の大陸に渡ろう」
星渡基準の言葉に誰もが困惑するが、こんな事で一々言っていては、アルトの非常識には付き合えないので、誰も言わない。
暫くの間の航海、対岸の大陸が見え、非常識すぎるアルトのスペルには言う言葉がない。
別の大陸、イーニャの西部にあるフレイア大陸。
見えた玄関口の港。
姫のピローテスの傍に来て挨拶した。
「こんにちはピローテス」
「ああ」
「半分の事です」
「その半分はとなんだ」
「半分とはシルトの腹違いのボクです。だから半分」
「なるほど」
「恋人候補になる予定ですか?」
「ああ」
「じゃ質問です。何処が好きです?」
「・・・性格だ」
「半分の性格ですか。能力でも容姿でもなく、性格ですか。なるほどなるほど。非常識な所もですか?」
「そこもいい」
「なるほどなるほど。理解者というべきでしょうね。そっかぁ半分にも二人目が居たか、いいなぁ」
「一人目はお前か」
「はい。ボクです」
「なるほど、仲の良い家族というべきか」
「ボクらは兄妹とかではないですよ。同じ時間に生まれましたから」
「だから半分という訳か。なんとも」
「色々です。ご家族は」
「父、妹が2名」
「なるほどなるほど、サツキ達のご姉妹ですか」
「・・・」
「サツキはボクの友人です。スターもワイバーンの事も知っていますし」
「・・・」
「好い旅になる事を祈っています。風の導きが有らんことを」
姫が離れる。ピローテスはやはり家族というべきか、同じ事を言うなと。
港の湾口に入り、そのまま直進するガレー船に、人々が慌てて逃げ出していたが、波止場の前で正確に止まり、船首から階段が下りる。
アルトPTが下りる、そのまま離れると船は消えていた。
そのままアルトが先頭になって進み、一つの建物の前に来る。
「冒険者の店だ」
そう言ったアルトが中に入り、店の人々は見慣れない格好のアルトに、好奇の視線を送るが、続いて現れたピローテスの姿に、時が止まる。
他の四人も進み、カウンター近くの、6人掛けのテーブルの周りに座る。
「おーいネズミは居るか?」
名前を呼ばれた一人の青年、細面のヒュム、格好の方は普通の服装、武装は腰に帯びる銃、どうやら銃使いのようだと姫は思う。
アルトが用件を伝えた。
「遺跡か、相変わらず事ばかりだ。金払いの良いお前にケチをつける気はないが、妙な事になるぞ。タダでさえお前は色々とやっているからな」
「特になしか」
「いや、幾つかはある」
「PT結成初めてでな。適当な場所が良い」
「そうか、なら」
一つの地図を見せる。アルトが受け取って確認し、コインを支払う。
「コインよりジェムを貰えるか?」
アルトが懐から宝石を取り出して渡す。
地図を星守りに渡し、受け取った星守りは簡易的過ぎる地図に、困惑するし、この恐ろしく原始的なレベルの洋紙の地図。
幾つかの確認から配置は理解できた。小波に渡し、小波の方も苦笑して確認し、姫野に渡し、姫野の方は壮絶に苦笑、姫に渡され、確認した後にピローテスに渡した。
「楽ではない。難しくはないが」
「どの様な遺跡です」
「所謂のダンジョン、低くも無く、高くもない、平凡と言い切れるような、現れるエネミーの方もよく居るタイプの数々、ボスクラスの方も少々厄介だ」
「ボスですか」
「ああ。遺跡などに多いガーディアン系、この中でも指揮官級に属する」
「能力は」
「戦闘能力自体は大したことはない、持っている特殊能力も大したことはない、ただ非常にタフで、頑丈で、体力が尽きないようなタイプで、倒すのが途方もなく困難な奴だ」
「厄介な」
「現れる兵隊も、特には強くはない、平凡な歩兵級、危険視するような所は一切ないが、数が多い」
「やれやれ、これを指揮官級が操るのなら厄介です」
「ああ。普通に戦ってはどんな事が有っても倒せん」
「なるほど。若」
「真正面から叩く、無尽蔵な耐久度も削れば余裕だ。なに祭りの方は簡単だしな」
「なるほど、難しい作戦を考えるよりは単純、叩い倒れないで有れば足を壊せばそれで十分ですし」
「そういう事だ。今日こそは稼いで防具を買うぜ」
向かう事になる。
港町の近くらしく、砂浜の近くにある小さなビル、ここにいる門番にアルトが話し、了解を得て入る。
「前衛担当俺、小波、ピローテス、残りは後衛」
全員が頷き武器を抜く。
進む中、直ぐにエンカウント(遭遇)したモブ(一般エネミー)、魚系に属する空魚の群れ。
「邪魔だ」
ピローテスが暗黒魔法剣を使う。曲刀に纏う黒い霧、振るった曲刀より放たれた黒い霧が空魚の群れを一撃で片付けた。
奥の方から増援が来る。
警備兵タイプのロボットの群れ。
「お仕事熱心な事で」
アルトがスペルを使う。神器『祭り師』の周囲に火花が現れ、デザインが刀の神器を振るい、強烈な花火がロボットの群れに直撃し、一つ残らず消滅した。
更に増援が現れる。
甲殻類のカニ、星守りが神器『囃し』を振るう。
カニの群れの個体ごとの上に桜が現れ、そのまま根で締め付けて圧殺し消滅させた。
「おーし進むぞ」
全員が進む、簡易的な配置でも単純な作りのビルの内部、一層の方も軽く片付けて回り、登ってからの二層、空魚、警備ロボット、カニの三種類が襲ってくるが殲滅を繰り返し三層に上る。
現れる中型タイプ、骸骨の海賊服姿のスケルトンに、ピローテスが舌打ちし、踊る。
鎮魂の舞踏によりスケルトンが消滅し、奥より更に中型が現れる。
機械化された人型、防具に反して持っているのは粗末な武器。主に棍棒等だ。
これに姫野が忍法を使う。
黒炎の術により一瞬で燃え尽き、一体の人型は耐えきり、これに姫の放った矢が突き刺さり、そのまま力を開放し爆発した。
小波の方が、アルトに言う。
「言うのも何なのですが、これって普通レベル?」
「ああ。簡単だろ?」
「簡単というべきか、何か府に落ちない様な」
「まあまあ進むぜ」
四層に上がり、現れるエネミーは殲滅し、小波が気付いた一つの瓦礫をどかし、宝の入っていそうな小さな金庫を見付ける。
「これは」
「腕の良い盗賊だな」
「盗賊ではありません」
「ではなんだ?」
「忍者です」
「忍び?という事は、ウルカを知っているのか?」
二人が吃驚し、姫野が言う。
「なんで初代を知っているっすか」
「初代?」
「初代の名前を言ったからっすよ」
「ウルカの事か」
「どんな関係っすか」
「昔の仲間だ」
「・・・うそ」
「見た目通りの歳じゃないっすね」
「見た目?私はダークエルフタイプだぞ?」
「話は後回しです。宝を回収しましょう」
「後で詳しく聞くっす」
「ええ聞かせてもらいます。絶対に」
困惑するピローテスに、小波が金庫に取りつき、姫野はピローテスを睨んでいる。
金庫の方はダイヤル式、数も少ない為に容易く開く。内部にあったのは宝石を、小波が取って、袋に納める。
「姫野、調べますよ」
「了解」
二人が周囲を調べる。
お宝発見に姫も上機嫌になる、星守りの方もよい収入と言った顔だ。
中々次は発見できなかったが、アルトがいつの間にか消えていることに気付いて、ピローテスが声を出した。
「シルト!」
ピローテスは声に他の者も気付き、アルトが天井より現れる。
「どした?」
「天井に居たのか?」
「ああ宝が有ったからな。好い収入になる決定の宝石だ」
袋から取り出した宝石の方は、ピローテスが見ても十分な大きさの物だ。
「小波が金庫を発見し、内部には宝石が有った」
「マジか?二つか?」
「いや1個だ」
「ちっ」
「防具の金額か?」
「ああ。三個あれば大きさと色合いにもよるが、防具が買える」
「なるほど。しかし等分するのが掟だ」
「夢が見たかっただけだ」
「それはどうなのだ?」
小波と姫野が探るが既に空っぽの金庫が見つかった程度だ。
星守りが前を促して進む。
五層のモブを殲滅し、宝探し、見付かったのは開けられた金庫が数個、奥に進みエレベータに入り、地下に向かう。
地下一層。
エンカウントしたモブ、警備ロボットの群れ、アルトの神器が振るわれた消滅、増援の方も次々に現れてひたすら殲滅を繰り返していた。
一直線の道を進み、小波が微妙な変化に気付き立ち止まり、アルトの裾を引っ張って一つの亀裂を指差した。
「めーけっ隠しドア」
他の3名も喜ぶ、ピローテスもこいつら中々やるなと感心していた。
アルトが壁をスペルで破壊し、現れた隠し通路に進む。
内部の通路に先には大きな部屋、内部にアルトが入り、一つの美術品を見付けて取る。
「詳しく調べるぞ。ボスの方は無視だ」
「分かりました」
「了解っす」
三名が調べ、一つの隠し扉が発見されて進み、奥の方には小さな金庫、周囲を確認した小波が、取り付いて解除し、内部の宝石を取る。その後に調べる。
特に何も見つからなかったが、一層の方を調べるも他はなく、帰還し港町の冒険者の店に入る。一向の上機嫌な顔に、成功したと周りからしても見て取れた。
手に入れた宝石の三個、美術品の小さな絵、鑑定士が呼ばれて鑑定。
小さな絵の方は宝石10個分に該当、買取りを申し込まれるも、アルトは断り、代金の宝石一つを渡した。
「好い稼ぎだ。小波でかした」
「はい」
「今日はこれ位で帰還するぞ」
イーニャに帰還し、他のPTも狩り等をしていたが、アルトPTの変わりように何か言いたそうな顔で、日本の飛空市に帰還した
□
戻ってきたDKの敷地に、それぞれも一度準備してからと言ってアルトが連れて返し、その後に団長邸に向かう。現在の地球が初めてのピローテスは、物珍しいものしかないのできょろきょろ、人々もピローテスの容姿と装備に凝視。
帰宅し、親達は懐かしい戦友に挨拶した。
「久し振りだ」
「懐かしいです」
「元気だった」
「変わらないなお前たちは」
四人はそうやって笑う。
色々と質問したい風鈴に姫野や小波だが、これで分かった。かつての地球戦争の参加者だ。
姫の方も、この女騎士は戦友の息子に惚れたらしい事に、不思議な縁があるものだと感じていた。
ピローテスの妹のに当たるサツキ、この女騎士の事はあまり知らないし、進んで知りたいとも思わないが、アルトと結ばれれば、サツキは義妹になり、必然的に姫の義理の家族となるので早く結婚しろと言いたいのは我慢していた。
午前中も終わり掛け、地下での子供部屋に行って部屋を増設、装備などを外し普段着に着替えてから地上に戻り、ピローテスは戦友たちに混ざり料理。
「別にいいのよ」
「何が?」
「ああいう美女が好みなのね」
「外見に拘るな」
「どういう意味?」
「プライバシーは大切に、話したくなったピローテスが話すだろう」
サツキも黙る、色々な役目を持つこの少年は多くを知る、サツキなど比べようがないほどの知識を持ち、比べようがないほどの情報を把握し、それでもサツキの味方でいてくれる貴重な奴だ。
そしてアルトは外見に拘らない、どんな醜悪も美貌も気にも留めない事は、長い旅の中でよく知っていた。その幅広い知識や様々な文化に対する造詣の深さも知っている。
子供のサツキに比べ、アルトは多くの所で顔パスだ。支払いの方もいつもアルトが全て持つ、所謂の保護者のような物だ。ここがサツキの気に食わないところだが、いつも世話になり、何かと助けてくれるこの少年は嫌いになれない。
恋人候補の三名も、年増かよと毒づく。
異星人の年増女には用はないと言いたいが、アルトはそんなものに気に止める事すらないので、言っても無駄。
甘い時間が減る事に、今後の事もあり三名は同盟を結ぶが、積極的な妨害は辞める、アルトの意思は尊重し、可能な限り甘い時間は取る事を三名は決めた。
昼食は楽しく進む片側、ピローテスを歓迎しない三名となる。
食後、一つの小さな絵を父親に見せた。
「見付けた物だ」
「そうか。詳しくはないが」
「美術館に提供する」
「なるほど、それは善い考えだ」
「じゃ行くぞ」
アルトに言われ6名は美術館に向かう。
3月の春うらら、燦燦とした太陽の光が温かさを与え、外より振り付ける風が肌寒い季節を伝え、美術館までの道のりに、特にアクシデントもなく、到着した飛空市の美術館。
中に入る前に守衛に用件を伝え、館長が直ぐに現れる。
小さな絵を見せ、場所の事を説明し、館長は異星の宝に感動していた。
ただサツキは警告する、あの泥棒共がいるから気を付けてと。
昼間の時間はそうして流れようにあった。