第12:WHO星系、手紙の配達~其の9。成功。
中学校の夏祭り、特に冴えない日常の一コマのような冴えない祭。
帰れると知ったサツキはいつものような元気を取り戻し、余りの単純さに周りは呆れていた。姫としては友人は元気な方がよい為に二人で遊ぶ。
アルトは猪と半分を見守りながら、この猪を押し付けるしかなかったレドの苦労を思うと涙が零れそうになる。
「あの単細胞の猪、バカじゃないか」
「サツキなりに色々と有ったのでしょう、全財産を叩いてでもこの星に来たがる理由が」
「だろうな。碌な事を考えない奴だからな」
「言わぬが花ですぞ若」
「ああ」
誰もが薄々は気付いていたが、とても極端というか単純な頭の持ち主の為に、碌な事を考えないで来たらしく、後先すら考えない、アルトからすればこいつはバカだとしか言えない。
護衛の二人はサツキを見る、姫野は懐かしい様な、眩しい様な、失ったものを全てものがサツキで、本当に子供らしい子供なのだ。
地球にはいないタイプで有り、今時いないタイプの少女、姫と気が合う様な穢れがない。
この少女が何を考えているかはわかる、何故そんな事をしに来たのかはわからないとしても、この少女なりの理由があるのだろう。それがどれほど単細胞な物だとしても。
腕の良いイーニャの細工師の少女、銀色の髪をした猪のような考えの持ち主、戦闘能力はまあマシな方であるが、なにも真正面からの戦いとは限らないのが現実というものだ。
ある意味は妥当なのかもしれない、主君が何故に守っているか。
猪を親元に帰すためというべきかもしれない。
優しい主人に、感謝して欲しいものだと、この猪に言ってやりたいが、我慢した。
「あの猪」
「言うでない」
「小波は思わないっすか」
「確かに剣呑な考え、ただ猪にそれを言って通じるのかは別です」
「そうっすね」
さすがは相方、猪の通訳を任せてもよいかもしれない。
「髪が銀色の猪ってだけの事ですし、単細胞は何かと」
「言うっすね」
「あれを聞いてこいつはバカと思わない奴は地球にはいない」
「確かにっす、頭が付いてる方が不思議っす」
「しかも家事万能」
二人が舌打ちする、姫野は銀髪の猪の頭の悪さはさすがは猪であり、この軽量級過ぎる頭に関してはどうしようもない、細工の腕前の方は至宝級でも、頭が付いていない猪でしかないのだ。
「主君の獣遊びも勘弁してほしいっす」
「全くです」
二人は愚痴る。あの猪のせいで甘い時間が減る、それは二人には歓迎は出来ない事だ。
珍しい風景、アルトのスペル芸術による祭り、基本的なテーマは日常で有り、主に人の日常なのだが、今日は珍しい事に獣の日常、銀髪の細工師は無邪気に喜ぶ、友人の姫は複雑そうな顔で見る。
メタルグレイの髪の小波、黒とピクの髪の姫野、二人は懐かしい風景に表情が消えていた、忘れていた様な遠い昔、この光景の再現に、何故主君がスペル芸術を追求したかようやくわかっていた。
星守りは学校の空を見て、続くような日常はない事にも気付いていたが、懐かしい光景に、なんとも記憶が蘇る、全ては過去の忘却の中、今を得る為に踏みつぶした物。
なんといってもそんなものでもあり、目を背けたくなるような光景でもあるが、星守りは眺めていた。
(色々な事がありましたな)
2001年から続いた戦争、2012年より始まった開戦、2040年まで続く、2054年まで続い冷戦は終結し、もう誰も振り返らないものとなる。
全てを裏切って得たコインで掛けたモノに敗北し、今に至るまで紆余曲折、昔と違い、今の方が遥かに充実し、今の方が遥かに良い、昔には戻りたくない、前に進む事が良い、しかし時々思う、あの時のあの時間は何だったのかと、全ては無情の中に埋没するものなのか、今がいい、だが昔を忘れたくない。
風景が変わり、空より星が降り始める、流星ではなく、御伽噺のようなキラキラと煌く星が一人一人の頭上に下り、中学校の敷地の中にいる者は全員が見上げる。
歴史が何度も揺れ動く激動の時代、何度も見たはずのモノすら見えなくなる、前を見続け、それだけが進む先と。
見方を変えれば世界が変わり、夜空より降り注ぐ星、文字通り降り注ぎ、その中央で一つの惑星が、絶え間ない変化の中にあり、近くに現れた衛星、一つ一つの星が虚空より現れていった。
天体ショーのような光景、戦うだけの力のスペルがショーとなり、時代は大きく変わった事を示していた。
変化もない毎日の中で、僅かな間に全てが変わり、これに適応しろと言われても困るのが当たり前の反応で有って、これに適応できない者がむしろまともな方なのだともいえる。
(なるほど、若はその為に)
さすがはレドに見込まれた一人なのかもしれない。
幾つものものを背負い、星守りですら投げ出すような中で、ただ戦い続けた。
目指すものも、何もないただ戦うだけの少年と思っていた。
姫の保護者のようであり、結局は理解者であった。
星守りは確かに姫を愛したが、理解はしていたかと問われれば頷けない。
足りなかった。
絢爛に舞う世界でも、星々の世界でもない、どこまでもある冒険の世界でもない、どの様な美姫でもない、どの様な財宝でもない、ただ自らの半分と共に歩もうとしていた。
(我らは何処に行くのか、栓のない事ですが)
星降る夜の祭り、ただ一つの星系と、人々の星が降り注ぐだけのショー。
華やかさも、楽しさも、面白さも、それら刺激を求める様なものがなく、当たり前すぎる光景に、当たり前すぎる一日に、星の中にある星系と、人々に降り注ぐキラキラとした星々、地味でもあるが、優しかった。
(我らの星の導きが有らんことを)
□
中学校の祭りが始まり、サツキと姫は好く遊ぶ、何故か小波も姫野も祭りの日位は自由にしたくなった。
「なんか」
「自由が欲しくなったのか二人とも」
射抜くかのようなアルトの言葉、雰囲気の変化から読んだらしい、相変わらず鋭いと小波は思う、どうしたものかと考え、我儘というものをいう。
「甘い時間が欲しいです主君」
小波の言葉にアルトが驚き、小波の目を見る、期待するような小波の目に、アルトは驚いており、姫野はあまりに意外な言葉に、相方の突撃精神に感服していた。
「甘い時間が欲しいです」
小波の二度目に、アルトは冴えない地味な顔を振り、考えてから判断した。
「やれやれ」
小波の手を握るアルト、姫野の方も握りたいが、勇気が出ない。
「なんでこんな事が好きなのか俺には分からんよ」
アルトらしい言葉であった。
姫野の方の手も握る、姫野の心臓が飛び跳ねそうになるが、絶え間ない訓練で培った自制心で何とかしても、余りの嬉しさな涙がボロボロと零れる。
幼い頃からの記憶、生まれた頃からの訓練、出奔するまでの時間、その後の放浪、辿り着いた居場所、長いような時間、短いような時間、走馬灯のように蘇っては消えた。
小波の方も泣いていた。
二人の手を引き寄せ、泣き虫娘達の手を握りながら、二人の頭を手を当てていた。
「若もやりますね」
星守りが意地悪そうに笑いながら言う。
この青年も随分と変わり、驚くような短期間での劇的に成長している、その表れが今の言葉であった。
「お前も成長したな」
「おや若に言われると何やら」
「時々思うが、お前人が急に悪くなるよな」
「いえいえ、若が成長してくれればそれでいいのです。この星守り随分とネタに出来そうです」
星守り言葉にアルトは苦笑していた。
邪魔者は消えた方がよいらしく、星守りは人の悪い笑顔で歩いていく。
遠くで満に連絡し、通信が繋がる。
「最新のネタがあります」
『えーと。星守りよね』
「買いますか?」
『あんたがね。ええ言い値で買うわ』
「感謝します。報酬の方は若の周りをこれ以上は増やさない事です」
『それは高過ぎるわ』
「応援位したいのです」
満の言葉が途切れ、何やら絶叫が聞こえた。
通信が途絶し、星守りの方はこれかの事が楽しみでならない、人の恋路云々を言う奴は確かに居るが、これはとても楽しいし面白いし、何より同類が増えるのは嫌だった。
応援も出来たし、星守りは敷地の中で屋上に向かう、蒼き翼を使い空を舞い、屋上に行くと、一人の初老の男性がいた。
挨拶する男性には見覚えがある、この学校の校長だ。
「やあ」
「こんばんわ。好い祭りです」
「そうですね。何やらあの子に春が来たようです」
「見ていましたか」
「いえね。いつもいつも姫の事ばかり、いつもいつも他人の事ばかりで、自分の事は一切関係がない様な顔、自分の事なのに大切にしない、他人の為だけに戦うあの子が不憫でしてね」
「なるほど、よく見ておられます」
「ええ。それが取り柄ですので」
「もし若が自分の戦いを開始するならば、今ではないかと思っています」
「そうですな、少なくても変化が起きた。あの自分の事は全く関心のなかったあの子が、初めて歩み寄った。自分の譲れないものを譲ったのだから」
よく見ている男性、問題ばかりしか起こさない札付きの問題児のアルトを見ていた、どうも奥深い男性である。
星守りは空から男性の前に降り立つ。
「若も色々と有りました」
「君も色々と有ったそうだね」
「ええ。全てを裏切って敗れました」
「・・・なるほど、どうも私のイメージとは随分と違う情熱家だったようだ」
「意外でした。俺自身も」
「あの子かな?」
「ええ。姫です」
「あの子も変わった、まさかシルト以外と話す事が有るとは、しかも友人と遊ぶ、普通の幸せという奴だね」
「・・・なるほど、貴方は」
「昔は昔、それ以上でもないものだ」
「それ以下でもありません」
「そうだね」
「全てが移ろいましたな」
「ああ。全てが変わった」
「何もかもが変わる中、貴方は何を選びます」
「見続ける事だよ。それが私の使命だ」
「好い旅を」
「もう少しいいかね」
「・・ええ」
「あの二人、随分と風変わりだね。個性的な髪という奴ではないよ。あのシルトを守ろうとしていたが、結局はシルトとの普通の幸せが欲しかった、でもシルトを守るのも諦めない、なら彼女たちが取るのは守る方と思うが」
「・・・まあ正直、俺も意外でした」
「人は分からないものだね」
「ええ。なんというべきか、まるで戻りつつあるのかもしれないと俺は考えています」
「戻る?」
「全てが戻りつつある、移った時代の中で、戻りつつある」
「なるほど、戻りつつある」
「それを行ったのはあの子、銀髪の細工師です」
「・・・単なる子供ではないようだね」
「なんというべきなのかわかりませんが、俺も信じてはいませんでした。有るはずのない御伽噺ですし」
「それは」
「戦争のない惑星の出身なのです」
初老の男性は、何かを考えているかのような顔で、星守りは続ける言葉を紡ぐ。
「彼女は叫んだそうです。何故、同族と争うのと」
「・・・なるほど、それが彼女の星の当り前か」
「はい。若はそれを知ったからなのか、この少女を常に高く評価し、常に守っています、それ故に誰も手出しができない」
「・・あの子がね。あのシルトがね」
「若は言いました、我々が持っていない物を持っている、平和を当たり前と考え物だと」
「・・・御伽噺だね」
「ええ。幾つかの時間の中、彼女は色々と考えていたようで、若は見抜いていたからこの少女の考えを改めさせようとしているようなのですが」
「中々と?」
「いえ、我々の常識が全く通じない、若い以上に型破りな少女なのです。あの若が振り回されるぐらいと言えば」
「・・・意外な事ばかりだね。あのシルトがね。これは面白い事になりそうだ」
「ええ。俺もそう思うから守る事にしております。あの細工師によって若が変わりつつある、全てが移ろった中で、戻りつつある中、若すらも変化が表れ始めた」
「凍った世界にも偶には変化があるものだね。あの怨嗟ばかりの世界に、あの狂気しかない世界に、これは意外なこと過ぎる。変化が大き過ぎる気がするがね。君の事も有るしひとまずは考えておくよありがとう」
「ええ」
「好い先がある事を祈るよ」
校長が離れる、星守りはその後ろ姿を見ながら、どうやら色々な者が動ている、その渦中のど真ん中がここなのかと思うと、守ってきたはずの中に於いても動ける者がいる、驚異的なレベルの腕前で、一考の余地があった事は助かった。
「やれやれ、こんな環境とは、これは手を打たねば」
通信機で呼び出した相手は、正直あまり会いたくはない。
『なんじゃ小僧』
「お久しぶりです」
『何じゃと聞いたがの』
「色々と有りまして、全てを話すしかなくなりました」
『バカを抜かせ、小僧が話す?騙すの間違いではないのか?』
「選択の余地がなくなりました」
『・・・どうなっておる?』
「大変申し上げにくいのですが、来てもらえますか」
『・・・この星が人使いが荒過ぎじゃな。しばし待て』
虚空より現れたプレイヤー、侍のような刀に胴着にミニスカート、狐の尻尾に耳は金髪のストレートと同じ色合いの少女の様なもの。
「お久しぶりですサクヤ」
「ええ」
「まあ人生は分かりませんね。それだけは確かです。こちらの確認を」
渡したデータに、サクヤは読んでから呆れた顔で、星守りを見てから、殴る。
「詰んでおるではないか!?」
「全くです」
「主はバカか、なぜこのような事を放置し、あろうことか」
「話せば長くなりますが、なんというか、若のような若い以上の様な」
「・・・あの小僧以上?」
「言葉に困りますが、まあ非常識の塊です。常識が全く通じません」
「主は本気で殺されたいのか?そんなに妾を苦しめたいのか?」
「いえ全くです。」
「・・・何故、妾ばかり育児をこうも押し付けられるのじゃ」
「恐らくベテランですから」
「まあよい、どのみちせねば家が壊されるのはさすがに嫌じゃ」
「すみません。手はつくしたのですが、イーニャの細工師は手が負えません」
「札付きばかり押し付けられる、妾は、なぜこんな事をせねばならぬのじゃ」
嘆くサクヤに、星守りは言うべき言葉もあるが、感謝の言葉を発した。
□
屋上から地上、泣き虫忍者娘二人が泣き止み、手を握ったままひとまずベンチに座る。
アルトからすればなんでこんな事をしたがるのかさっぱりで、恩やら借りやらなんやらも有って、珍しい事ばかりの日常のせいか、何故か譲った。
色々な所から下手したら殺されかねない、覚悟の中で行うしかない身にも成って欲しい、逃げようにも逃げられないような渦中で、態々弱みを与えるのは理解しがたい。
二人が寄り添う中、空を見る、翼があれば飛んで逃げたくなるような悪夢のレベルだ。
全てが崩れて決定するような悪夢の連鎖反応が見て取れる、しかも相手が相手なので問題しかない、首をチェーンソーで引っ搔いた方がマシな傷であった。
しかも学校で、バカみたいな青春絵巻、悪夢の方が何兆倍もマシな状況。
(なんでこうなった)
100%の戦争が起こる事が決定していた。
これは深刻というレベルではない、しかも二人は幸せそうだ。
この時間の為に全てを手放した。
(はぁ。終わりか)
「二人とも離れろ」
「主君?」
「・・主君?」
「幸せタイムは終わりだとさ。まっそうなるよな」
幾人もの暗殺者が現れる。手に持つのは神器。
二人は素早く抜こうとするが、動かない、後方より現れた魔術師、魔導士、素晴らしいまでの暗殺者の大群。
「こうなると分かっていないがらか、幾億との刹那、度し難いものだ」
襲ってくる暗殺者達、苦笑するアルトがスペルを使う、強烈な花火が全員に直撃し吹き飛ばす。
「はいはい。囮さんは適当に」
動かないアルト、回復していた暗殺者が再び近接に動く。
どうしようもない、万策尽きて花火でお仕舞、正しく祭人生だ。
戦った所で何も変わらず、護衛の二人がまさかの心が替え、所謂の罠だ。
咆哮が聞こえる、全員の動きが止まり、根本からこみ上げる恐怖、生物としての格が違う生き物の咆哮に、暗殺者達はその方向を一斉に見上げる。
狐の侍、跳躍しそのまま降下し始め、途中で再びの咆哮。
地面に下りる。
「やるではないか小僧」
プレイヤーが褒める、化け物登場に暗殺者達が一斉に殺到する、当然のようにアルトに、プレイヤーが刀を抜き、一閃する。全暗殺者の神器が砕け、その刃が全て持ち主にぶつかる。
吹き飛ぶ暗殺者達。
「全てとの引き換えの幸せタイム、まあ小僧にしてはの、いやはやの」
二人が動こうとするがアルトが話さない、この為に片手で抜いて構える。
「主らも幸せに現を抜かしたか、分からぬの、忍びがの、なんたる間抜けか」
「そう言うなよ」
「ほう。主はあれか、この星の人々と幸せタイムの不等式は同じとな」
「いや全く思わんわ。どう見てもな、いくら考えても釣り合う筈もない」
「そうじゃの、釣り合う筈もない誘惑に主は負けた」
「全くだ情けない話だ」
「別にいいんじゃ、負けたら学習できるしの、まあ次があればのしかないでしかないがの」
「よく知っている」
「・・・何故じゃ」
「分からん」
「・・・このような状況では正気とは思えんぞ」
「ああ同感だ」
「分からぬの、全くわからぬ、そんなにこの星を焼き尽くしたいのかえ」
「いや全く」
「それを選んだのは小僧ではないかえ、誘惑に負けての」
「痛い、正しく痛い」
「普通の幸せもよかったかえ?」
「理解しがたい」
「なるほどの、どうも自らの自覚もあるのに選択した。破滅主義者かえ」
「酷い話だとは思うさ。全く酷すぎる話だ」
「まあ別によいがの、でどうするのじゃ」
「自宅にでも帰る」
「安全じゃからの」
「いや安全だった場所でしかない」
「なるほどのぅ。解せぬの、何もかもがも解せぬ、しかしそれ故に妾も力は貸そう」
「どのみち勝てないからな、抵抗はしない」
「ほう、賢いの、賢いが弱い」
「所詮は翼のない奴だった、それだけだ」
プレイヤーが刀を収めて、アルトのMPを回復させた。
「シルトだ」
「知っておるわ。妾は知っていおるな」
「ああ有名人だからサクヤ」
「やはりの、こうなるの前に動きべきじゃった」
「どうにもならん、全ては遅い」
「確かにの」
アルトが手を離し、二人も忍者刀を収める、そこに騒ぎから二人も現れる。
上空では星守りの蒼穹の翼が羽ばたく。
「援軍が遅いぞ」
「若のご希望には沿います」
「まっ帰宅するぞ」
武器を持たない二人もいる、アルト自身が引き金ひいた以上はどうにもならない。
帰宅する道、二人の忍者は意外に普通の顔でいた、全てが消えた以上、もう残るものしかなくなったと分かったのだろう。忍者と主君の恋歌なんて悪夢でしかない。
帰宅する中は安全、警告でもない、どのみち何の意味もなくなったとしか言えない。
帰宅した家、一応無事であった。
「帰ったぜ」
特に変化のない話、いつも通り何も変わらず。
父親も、母親も、美姫も苦笑していた。
父親が一つを言う。
「何故だ?」
「分からん。親父こそ」
「別にいい、それもまた星の導きだ」
「すまんな」
「ああ」
地下に下りる。
帰宅し、いつも通り、全てが崩れたが、結局は何も変わらず。
自室でのチェック、メールが届いていた。
読む前にどうしたものかと考えて、一つの手を打つ。
写真の転送、全関係者の通知した事になる。
「さて、全ての引き金を引いた親と息子か、笑える」
□
「よくしたわね」
「皮肉っすか?」
「いえ、あたしとしてはこちらの方がよい、全てを引き換えの幸せよ。物にしなさい」
「・・・そうっすね」
「・・もう影は嫌、もういい」
「そう。死ぬ時ぐらいは傍にいてあげなさい」
「うっす」
「ええ」
姫としてもまた繰り返されるだけの日常に戻る。
刹那の幸せのためにここまでの愚かをできるのは、少し信じられない、完璧な忍者の二人が、完璧故だったとしても、砂上の楼閣も消え去った。
「聞いてもいいですか?」
「・・・いいっすよ」
「何を言っても全ては遅い、あと少しで成功する予定、その途中の前で、何故です」
「・・・そうっすね。もう嫌だった、何もかもが嫌だった、手を伸ばせば手に入るものが全てない暗闇ばかりの人生、どうしようもない、だからっすかね。平凡な事を考える様になったのは、平凡な、全てに平凡な、当たり前な、普通の、刹那でもよかったっす」
「小波は」
「同じです。もう別に死んでもいいですし、これで全ては消えたし、主君と姫野と私だけです。一つ言うのなら、全ては罠でした」
どうしようもないほどの話、全ての罠に、刹那の幸せのために踏み込んで、半分はそれを取った、夢物語のような話ですらない、悪夢ですら可愛げのある話に、二人を取った。
「愚かじゃのが、それが人じゃよ。何をやっても何も変わらない、我らも同じく何も変わらない、まああの小僧に賭けるしかあるまい、弱いが賢いからの」
「あんたは何で」
「はっ小娘風情が大概にせえ」
「・・・」
「人を見てエネミーが決める?小娘程度が一つの星を決める?小娘、何故主が生きているかも全て小僧は知っておる、それでも守ってくれた者をよくもまあ試せたの」
「・・・」
「愚か過ぎる話、愚か過ぎる小娘話、何も変わらぬよ。姫もよくまあ、言うのも何じゃがの、止めなかったの同罪じゃぞ」
「・・・」
「小僧は賢かった、だが結局は弱みに付け込まれての破滅、それだけじゃよ」
「全てはご破算、まっ俺としても戦に出る事になりますし、打てる手はすべて打つことにします、まあ若の事ですらどうにかは出来きると思いますが」
「・・・出来た小僧じゃの」
「ええ。それ故に付き込まれた、押し付けられて、破滅を選ぶまで待たされた。しかし俺はそうは思いません、あの若が黙って死ぬなんて笑い話過ぎて、いやはや」
「不屈じゃからの、高潔じゃしの、それ故に多くを惹きつけた」
「ここで死ぬのならそれもまたよしでょうし」
「・・・意外な事ばかりじゃの星守り」
「ええ意外です」
「変わらぬはずのモノが変わり、また戻ろうとする、変わったものもあり、選んだ者達もいる、時代は揺れ動く、安定などせぬ」
「別にいいです。俺としては、若を守って死ぬだけですし何も変わりせん」
「そうじゃの」
□
『まさかな』
「俺自身が意外だ」
『・・・お前は高潔過ぎた』
「そうかね」
『別にいい。失敗から学べ』
「ありがとうソード」
『・・・また振出か』
「ああ」
『人とはつくづく度し難い、それ故に守る、我らの意思だ』
「ああ」
通話が切れる。
最後のシナリオを描き終え、これを転送した。
意外なことしかない日常ではあるが、あちらこちらも状況もありスキャンダルネタとしてあちらこちらに出回る。避けられないのなら逆に全てに流した。
大きな流れとなり、一部では制御できないものへと化す。
流していた情報に釣られ、テレビでは特番、ラジオでも同じく、一斉に釣られる事に、そんなに飢えていたのかとも思うが、それが情報の世界だ。
作業を終えてから部屋を出る、私室の集まりの前にある広場に6名はいた。
「反撃完了」
短く伝え、いつもの席に座る。
全員の注目が集まる中、一つの話した。
「情報の世界で制御出来ない情報が流れる、これらに乗るのは危険な為に何処も手を引くというシナリオ、こちらのカードの幾つかを切りシナリオ、まあ外交とか政治の話だ」
「どうなるっすか」
「聞きたいです」
「いつもと変わらんよ。何も変わらない、単なるスキャンダルが流れただけ、お仕舞」
政治の世界にいる星守りは、それだけの話にしたらしく、恐らく腹を探られたくないあちらこちらは手を引くのは頷けた。
相手が悪すぎる、アルト派と喧嘩できるような勢力は地球にはない、どの様な勢力も結局はアルト派をどうにか切り崩すので精一杯、これには時間が足りないので、暗殺に出た。
「あんまりバカは考えるなよ。死ぬなんてのは最ものバカだ。忍者なんて忘れてしまえ」
二人はまた泣く、仕方なしにアルトが傍による、二人を抱き、後ろ頭に手を回していた。
□
いつもよりマシになった環境で、何故か今日はログインできず、緊急メンテ中だ。
楽しみのゲームが出来なくなり、非常に気まずい雰囲気、サツキからしてもストレス発散の為にゲームなのにできないとは暴れ出したくなる。
「マジ?」
「・・この運営、問題ありっすよ」
「情報が多いですし、まあ仕方ないかと」
「祭用の服が遠くの!?」
「好いゲームなのですけど」
四人とも不満げに言う、恐らくあちらこちらで同じ様な文句が噴き出る事間違いなし。
アルトはとても困った。まさか運営がこんな事をするとは、まさかの不意打ちだ。
部屋に戻り各所に連絡、あちらこちらから仕方がない、あのゲームの情報は巨大すぎるという返答だ。
ちなみに子供達から最もやりたいゲーム№1の作品だが、10代限定なのだ。
不吉な予感に、睡眠薬を飲んで寝た。
翌日、爽快な朝、チェックした情報に、新しいものはなく、どこもかしこも手を引いたらしい。
風呂に入り朝方の衛生、私服に着替え、地上に上がる。
食卓には家族三名、他の4名は遅い。
「反撃は終わっているぜ」
「やり過ぎだ」
「制御する気が無い」
三名も分かった様で、父親が大きなダールブルーの瞳を動かし、真剣な顔で大きく息を吸って言う。
「で、いつ」
意味が通じていなかったのか、アルトは考えるがなかなか分からないので首を傾げ、両親たちは深刻に困った顔で溜息を吐く。
少年としては何が言いたいのかがさっぱりわからない。
「なんだよ」
「・・・孫が欲しい」
余りの発言にアルトは軽く殺意を覚える、色々と画策していることは分かるので、首謀者が判明し、どう焼いてやろうかと考えるが辞めた。
「100%ないから安心しろ」
「小波も姫野もよいと思うぞ」
「・・・あんたは一体どこの味方なんだ」
「嫁と孫」
刀を抜きかけたが、抑えた。
「真面目な話、暗殺者の手引きとか正気じゃない」
「丁度良かったかなと」
「星守りが掴めない筈だ。まさかサクヤが現れるとは思わなかった」
「ああ。それは計算外だった」
「火消も大変なんだがな」
腹が減るが四人は一向に来ない、メールを送ると気合を入れています返答が来る。
(サツキに任すか)
昨日の一件もあり、全ての画策が判明し、道理でおかしい事が起きていた。
なんで神器があったのかとは思うが、恐らくレプリカ、飛行団の神器を解析し、簡易的な量産、これを見た目を徹底して再現した。
そこに四人が来る、いつもと特に変わらない服装で、軽い化粧がされていた。しかも凄く慣れていたメイクなどに仕方だ。
半分の方は明らかに初めて、サツキは慣れていた、姫野も小波も慣れていた。
どうも半分は色々と手遅れかも知れない。
「一応だがな、飯の後にしろや」
やっとの事で食事、食べている時に姫は面倒臭くなり洗いに行く。
「初々しいわ」
銀髪の猪娘の正直な感想に、母親たちは仕方なしに席を立つ。
「で、今日の予定は」
「遊ぶとしか考えてねぇなお前はよ」
「色々と有んのよ」
「へいへい」
「アルト」
「ん?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
猪娘なり考える所があったらしい、好い事の一つであった。
「なんで姫野も小波も政治の事を知らないのよ」
「聞いたろ」
「聞きたいの」
「忍者は政治に関わりな、これが鉄則なんだ。小波も姫野も忍者癖がなかなか抜けなくてな」
「あんたが何もしないからよ」
「出来ると思うか?」
「無理よね」
「成長したな」
「後ね。前々から疑問なのよ」
「ああ」
サツキがスカオを指さし。
「似すぎて見分けがつかないの!?なんでこんなに若いのよ!?」
ちなみにスカオは16歳でプレイヤーになった為に、まだその当時のままだ。
父親と紹介されても、兄ですかと質問を返されるのが多い、母親です紹介しても、姉ですかも多い、もう一人の母親ですと紹介すれば、誰もが返答に困る。
「そっすね。最初見た時、理解できなかったっす」
「思いました。何言ってんのこの人はと」
「紹介の仕方は上手かったっすけど、どう見てもご兄弟っすよ。洒落にならない混乱だったす。どんだけ若い時の子供っすかと考えないこと自体が無かったっす」
「60近いですよね。どう見ても10代なのに」
14歳のアルトと、58歳のスカオ、これだけ年が離れていたも外見年齢の差はそれほどない、プレイヤーが両親の場合はこう言った場合が多いので、他の家庭に比べての様々な問題が付き纏うが、プレイヤーですと紹介すればOKなのだ。
だが馴染みのない所からは混乱する者が多い、この為に苦労は長年してきたので慣れているアルトだ。
スカオの方はアルトを見て、懐から何かを取り出しておく、それは小瓶のようで錠剤が入り、不吉な予感がした。
スカオが一つの紙も見せた、説明書のようで子供達が見る。
『妊娠薬』
「死にたいか親父」
アルトの恫喝にスカオは涼しい顔、女の子の三名は別に赤くなるわけではないが、この人が色々としていたのかは理解した。
「プレイヤーってすぐに子供の事を言うから好きになれないんだよ」
「速すぎます」
「何事も手順は必要っすよ。相互理解から環境の整備から色々と必要っすよ」
「男かマジ要らないわ」
「言うのもなんっすけど、優良物件っすよ」
「要らないわ。あたしは普通になりたいの、権力者は要りません」
風呂場ではうるさい会話が繰り広げられ、娘を母親たちが弄っていてる。




