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第11:WHO星系、手紙の配達~其の8。失敗。

 

 足軽鬼を発見したが、星守り渋い顔、何せ二体、この蒼き翼からすれば雑魚でも、アルトの修行には難しい、何せ一体の半分を削ってMPがすっからかん、これはどうにかしなければならないが、スキルを上げるしかないかとも思う。


「おっし狩るぞ」

「祭りに賛成」


【スペル:タイプ祭り:花火大会】

 怒涛の二千発が二つに半分になって当たる、相変わらずの把捉的な制御力に星守りは下を巻く、素早くスペルを使い二体を固定し、薬師のレンズがアルトに薬を飲ませ回復したアルトが再び花火大会を使う、2千発に一つのミスも無い所が良い。


「硬い」


 アルトがぼやく、鬼の固さとタフさは尋常ではないレベルだ。


「二体ですか、うーん」


 姫の方も訓練用の矢を使う、神器の神弓『鴉』により放たれた矢は一体の喉を貫通し、背後の二体目の片目に直撃していた。


「相変らず硬いです」


 凄腕の狙撃手によりダメージが与えられると、バッファーによる歌と舞が行われる、戦いの歌、剣舞の踊り、これにより全能力にバフがかかる。


「半分に別れるぞ」

「二人とも駆けるわよ」

「心得た」

「分かった」


 姉妹PTの三名が駆ける、アルトPTの方も冥夜が先頭になり駆け出す。

 鬼たちは固定を破壊しようとするが、星守りの固定のスペルは強固であり、これを破る事は叶わなず、接近を終えたサツキがレシピスペルを使う。

【レシピスペル:タイプ攻撃:結晶化】

 二体の防具が結晶と化し、そのまま破壊される。

 最速の忍者達がタイミングを合わせ神器の忍者刀で心臓を一突き、貫きアーツを使う。

【アーツ:タイプ忍者刀:月下】

 突き上げる忍者刀による跳躍ごとの切り上げにより空中に跳躍、回転しクナイの投擲、後方に移動しつつ忍法による攻撃。

【スペル:タイプ忍法:神雷の術】

 放たれた雷撃により鬼達がバットステータスの感電を引き起こし、大きく下がったDEFにより、戦士が斧槍を振るい、鬼の頭に叩き付け、アーツを使う。

【アーツ:タイプ斧槍:パワーシフト】

 MP全てをSTRに変換し、このまま叩き潰した。

 侍の二人も強化は終えており、二人同時攻撃を行う。

 スペルに属する魔法剣、この中でも秘奥義に分類される光剣、放たれた灼熱の刃が鬼の首の両側より切断し、クリティカルに寄って倒した。


「祭り完了」


 アルトの呟きに、薬師の方も薬を取り出し一人一人に配る、ドロップしたアイテムを受け取り、観察の後に調査、様々調査用のスペルにより笑うしかない性能に心底リアルに持って帰りたいと思う。


「どうですレンズ」


 星守りの問いかけに、レンズは微笑した。


「素晴らしい性能です。これが量産できれば良いが、まず無理です。諦めましょう」


 レンズの返答に、星守りはやはり素材の問題が強い事が頷けた。

 精密に作られたこれらのアイテムは、再現率も100%、完璧に再現されているためにリアルにでも使える物が多いのだ。手抜きゲームのようには作られない拘りらしい。


「宝箱?」


 姫が発見した宝箱、忍者三名も確認していたようで、道具を取り出して調べる。

 解除された宝箱、レンズと星守りが呼ばれ、異星の物の為にアルトが呼ばれる。


「おー。こいつはラッキー、いい値段になる」


 他なる小石のような物だが、アルトが説明した。


「こいつは魔法鉱石の破片だ。WHOの近くによくある、この星系の特産だ」


 興味の湧く話に二人が聞く。


「それは」

「興味がありまして」

「聞いたら吃驚する奴だ。こいつを砕いて調合し、染料や塗料にすれば全ての物にDEF+1」

「+1?」

「ランクが上がるのさ。性能に関しては桁違いに違う、全くの別物だな」


 サツキも興味から近寄ってみる、小石を取ってから観察し叩いてから音を確かめ、その他の観察を行う。

 ここにアルトが一つを教える。


「細工にしても最高峰だ。装飾品でも+1だぜ」

「ほー」


 男子二人はサツキを見る、サツキも欲しそうな二人を見る。


「じゃんけんな」


 三人が行う、ズル防止のために決まった後に行い星守りが勝つ。

 素早くアイテムボックスに入れる、サツキは舌打ちし大鎌を離した。奪おうとしていたのはレンズも同じで、取り出そうとした薬品を収めていた。


「金額もそうだがな、こいつは超貴重な奴だ。この解析の為に何処も必死さ。もし解明出来たら惑星与えるという所もある」

「「惑星」」


 金持ち種族はインチキだとスターは強く思う、こちらは惑星一つで大変なのに、惑星一つを与える、この単なる小石程度に、ふざけるなと怒鳴りたいのを我慢した。

 幼馴染二人はスターの相変らずに首を振る。


「大国め消えればいい」


 毒を吐くスター。

 弱小国家の流れスターにとってみれば、資源のある国や大国が嫌いになるよう歴史の中にいたので、そう言った全体が金持ちの所が嫌いなのだ。

 アイヌ出身のワイバーンも気持ちは分かるが、大国にとってみても問題は多いとは言わない。どうせ烈火の如く怒るからだ。


「じゃ次に行くぞ」


 次に向かったのは足軽頭の鬼、更に体格は上がっており2・4m、持つ槍も立派な鉄細工がされ、着込む和風甲冑も羽織がついていた。

 身長の低い者からすれば大き過ぎると言わない、こいつらはエネミーと認識からだ。

 薬師のレンズと星守りが互いに見てから、素早くスペルを使い解析する。

 二人の顔があまり良くない、星守りが説明する。


「あれは反則ですよ」

「なんでさ」


 ワイバーンの疑問に、星守りが説明した。


「頭というタイプはリンク範囲を持ちます。しかもリンクされた者へのバフも持ちます、更に魔法防御力が高くなっていますし、簡単なスペルも扱えます」


 誰もがそれは反則だろという顔でいた。


「特殊能力もあれですし、これは洒落になりませんよ。何か作戦でもないと」

「はい」

「なんです若」

「思うんだけど、俺ってアタッカーに向いていないから囮とかするわ」

「祭りによる囮ですか?」

「ああ。ちょっと試す」


【スペル:タイプ祭り:囃子太鼓】

 現れた太鼓と叩く人、鬼はそれを破壊しようとするが、アルトの制御によりあちらこちらへと誘導されていく、周りも感心する巧みさで、星守りもこれは使えた。


「そのまま誘導を」

「おう。近づけさせるぞ」

「ええ」


 釣られる鬼、ある程度の距離につくと星守りのスペルにより徹底した拘束を行う。

 感心の声が起こる、星守りとしてもアルトの能力に実に向いていた。


「これは、実に若向きです」


 スペルマスターの零が聞いたら、驚く様な事がまた増えた。


「じゃ」


 アルトのお得意の花火大会による連打、怒涛の連発は惜しくも二千本に届かないが、星守り忍者達はたった1個分の消費しかない事に愕然とした。

 効率が良いこの一言に尽きる。

 戦士のワイバーンが駆ける、後方から気付いたスターが追う、サツキも姉妹の勝手に文句を言いつつ素早くレシピスペルを使い、鬼の防具を破壊した。

 薄く発光するペールピンクヘアーの戦士、この必殺技のパワーシフトにより鬼の頭に斧が直撃するが、鬼は耐え、スターに投擲したクナイが突き刺さるがこれにも耐え、放った忍法にも耐え貫き、空中から接近したスターの忍者刀が鬼の片目を貫くが、骨が異常に硬い、貫けずに引き抜いて跳躍し後方に下がる。


「なんだよこいつ」


 ワイバーンが悔しげに言う、全力の一撃に耐え抜いた敵に称賛らしく、スターも同感であった、恐ろしく硬い。


「硬い、骨が防具並みに硬い」


 スターの呟きに、ワイバーンもどうして耐え抜いたかを理解した。

 鬼が咆哮を行う、このモーションに入った時に矢が喉を貫く筈だったが途中で止まる。

 全員が驚愕した、当然のように突き刺さる矢が貫通しない。

 完全にモーションを終えて、咆哮する鬼、回復し始めるHP、各種の拘束も破壊した。


「これはまた中々面白いです」

「外は柔らかく、中は硬い、骨ですね」

「でしょうね。しかしなぜし掛けない・・不味い若」

「ん」

「呼んでいます」

「あ?」

「し掛けずに遠方の味方を召喚してるのです」

「撤退しよう」


 逃走を選択し全員が逃げる、鬼の後方より、数体の鬼が現れるのを確認し、忍者達も撤退した。


 □


 鬼に追い回されて脱出、しつこさ加減には姫もウンザリしていた。


「鬼ごっこじゃあるまいし」


 お冠の後輩に、出雲が指摘する。


「仕方ないわ。だって殺そうとした相手を、そう易々とは逃がさないでしょ」


 実体験がこもった言葉に、姫はそう言えば、この人はそう言う人だったと思いだした。

 笑顔で始末するタイプの人だったと。


「そう言えは先輩はそう言う人でした」


 これに出雲が軽く笑う、褒めていないのにと姫は思う。


「頭タイプっすね。これは要注意っす」


 黒ピンク髪の姫野が言う、相方の小波も同意し、対策を言う。


「主君の囮です」


 二人の主君決定のアルトであり、実際の部下なので何の問題もなく、例えアルトに何度も怒られても改める気は毛頭なかった。

 睨むアルトに二人は視線を背ける。


「せめて一体ですか、これは」


 細面の青年のレンズとしても、これは反則的なもので、まさかリンクではなく呼ぶとは思ってもみなかった。


「あれはいくらなんでも反則ですよ。呼ぶ?冗談じゃない」


 蒼き翼のフェザートルクも、文句しかない相手だった。

 睨み終えてからアルトも考えて、薄くニヤリと笑う、バカの笑いにサツキが小突く。


「なにザ権力者をやっているのよ」

「いやいや、中々ユニークな能力だ。なるほどなるほど」

「話さないとPKよ」

「恐らく、あのダンジョンは全体が城なのだ」


 少年の言葉に、サツキは考えてから、なるほどと思う。

 城だったからこそ足軽であり、侍であり、侍マスターなのだと。城のような建物ではなく、実質的なあの鬼達にとってみれば城なのだと。


「トラップ、宝箱、言い表す事が多い、なのに採取系は一切なし」


 話を聞いていた者が納得し、サツキが一つの事を指摘した。


「階層とかはありっての?」

「あるだろうなタウンシップ全体が」


 細工師の少女が見上げる、凡そ200mもの巨大な階段、直径10kmもの全長、タウンシップ内部にある鬼の城、確かにこれは難関だ。


「もしかすれば、もしかするかものな」


 このバカ1号の悪い癖、もったいぶる。


「もったいぶるなバカ1号」

「なんで一々罵倒すんだよ」

「説明」

「いえねえな。言えば混乱が起きる。帰るぞ。どのみち鬼城を攻略するには時間がいるしな」


 帰還する中、アルトはこっそりフレンドチャットで連絡を入れ、大至急に集まれと最優先の命令を出した。

 帰還した鎌倉に集まっていた面々、会議になる前にアルトが伝えた。

 一つの問題が起きた、恐ろしい事であるが、タウンマップには謎が多い、恐らく隠しフロアがある早急に調査せよ。

 これを受けて直ぐに全員が呼び出され、鎌倉の調査が始まる。

 忍者達も動き調査、慎重に調べる中、作成された地図の中に変な個所を見付ける。

 数字の誤差かも知れないが、計算すれば2mの空間が幾つも見つかった。

 報告を受けたスターがPTを組ませ調査させる。

 №2の風鈴としてもこれは不味かった、ミスではなく、先入観で判断していた。安全だから何もないだろうと、これには誰もが疑わなかったのは、大変な疲労があった事で、また詳しく調べる時間がなかったこともある。


「二代、恐らく先入観」

「詳しく」

「安全だから何もない、筈」

「・・・まさかこのような失敗とは」


 いつも詳しく調べよとか言うが、人は怠け癖が有るし、どうしても疲労が有ったり効率から手間を省きたがる者が人だ。


「地図を」


 用意された地図、薄い床の様な層、他からの計算では凡そ2m、人型が通れるような洞窟が無尽蔵にある。


「しまった」


 素早く指示を撤退させ、入り口を厳重に封鎖し、直に報告に向かう。

 会議の場所では一人残らず真剣な顔での祭りの練習、スターは帰りたくなるが報告した。


「ああ。なるほど、そういう事か、つまり神経とか血管とかだ、このタウンシップは元エネミーだしな。それを簡単に乗っ取っても、掃討はしていない、俺達は表面にいたに過ぎないんだ」


 4000万の人口を誇る鎌倉に、艦隊を構成するタウンシップの数は膨大で、これを一つ一つ調べるとしてら人海戦術しかない。

 大至急全員が呼ばれ、これが公開された。

 当然のように起こる混乱、ただ戦争の中で育っているためにそう簡単には動じず、なら潰すと簡単には決めないが、上に話を聞く。

 この問題には上層部が集まり、まずは安全に所を見付けるしかない為に、最重要な旗艦の機関部の調査が決定し、それと同時に艦隊の重要箇所にもPTをいれる事が決定した。

 誰もが、まさかダンジョンの上で暮らしていたとは、思ってもみなかったと言った所だ。

 しかし、喜んで狩りに行かせてというものが余りに多く、呆れた上層部は許可した。


 そうやって少しの時間で幾つものダンジョンが発見された。

 当然に戦闘系は大喜びで狩る、生産系は素材が手に入ると喜ぶ、ゲームの中の平凡な日常の一つとなるのに時間はかからなかった。


 □


『アルト、姫、サツキ、小波、姫野がログアウトしました』


 リアルに戻ってからの休み。

 翌日、風呂に入ってからの仕事に出る前にチェックすると、仕事が全て代わっていた。

 混乱するアルト、そこに護衛の二人が慌てて飛び込んでくる。


「主君!」

「不味いっす!」

「満がトチ狂いました!」


 全てが判明、人事部の長が行った画策らしい、道理で妙な事になったとかしいえない。

 頭が空白の中、二人からファックスの用紙が渡される。

 満の最優先命令。

『夏休みです』

 本気でやりやがった!!としか思えない内容に、軽くコーヒーを飲む。


「どうしたものか」


 色々と不味い、兎に角も不味い、関係先の方にも何も言っていない、これで全てが休まれたら激怒するところしかない、当たり前で有った。

 護衛の二人もいかに不味いかは分かっているらしく、恐怖に震えていた。

 大きな音に、姫とサツキが顔を出し、アルトが手招きする。

 近付いた二人に言う。


「どうしよう」


 二人が困り、困り顔のサツキが言う。


「説明しなさい」

「関係先に何も言っていないのに夏休みになった」


 聞いた二人ともあちゃーと言った顔、当然のように入ってくるメール、次第に増えていく、怒涛の様に増える、ひとまず考えた結果。

 親に泣きつくことにした。


 地上に上がり説明、家族も沈黙し、父親は通信機を取り調べる、強制的に夏休みになっていることに愕然、団長すら知らなかったという恐ろしい事に、当然のようにあちらこちらで大混乱が起きた。


 飛行団本部に来た、全部厳重に封鎖され、ドアの前に大きく夏休みと書かれていた。

 誰もが途方に暮れ、団長も代理も途方に暮れる。

 会社を首になるより酷い目に遭う。

 当然の様にすぐに呼び出したが、応答がない、反応すらない。

 壊したと判明したのには少し時間が経っての事だ。


 自宅に帰り、家族に説明、実の母親はいつも通りの笑顔で茶をを砕き、美姫の方はそのまま失神、飛行団の関係先でもこれが起き、人事部には本気で賞金の話が出る。


 途方に暮れながら地下に戻り、一つ一つのメールに返答、何処からも激怒のメールが届く、恩のある人事部ばかりを敵にするわけにもいかず、仕方なしに色々とカードを切る。

 終わったのが夕方、死にかける人達も多く、サツキが料理を運ばなかったら本気で死んでいた可能性が非常に高い。


「祭りに行きましょう」


 姫も気を利かせて言う、アルトもそうだなと言った仲間達を呼ぶ。


 □


 母校の中学校での夏祭り、三名の転向先でもあるので、生徒会に向かう。


「ちわーっす」


 誰もが注目するが、いつも貧乏くじを引く生徒会長は、引き出しからの辞職願を取り出して、副会長に止められていた。


「祭り師登場って事でいいっすか?」


 生徒会も考えていた、悪くはない、いつもの迷惑に比べれば遥かにいい。

 許可が迅速に降り、今度は職員室、校長室に入り、説明、特に反対もなく許可された。


「後っすけど」


 転校生になるサツキ、小波、姫野の三名の手続きも済ませる。

 終わってから近くの学食に行く、休みなので食堂は本来休みだが、祭の為に解放され、そこそこの人がいた。

 周りを見るサツキ、なんというべきなのかとても気になってしまう事が多い。


「アルト、あたしってなんで」

「何故か敵を作り易く、何故か後先考えず、何故かバカを多くし、何故か」

「やかましい!」

「へいへい」

「なんというか珍獣扱いよこれじゃ」

「そうですね。まあ半分は学校の問題児なんです。毎日の様に問題ばかり、朝方に問題、授業中に問題、昼休みに問題、午後の授業に問題、放課後に問題」


 もしサツキがこの学校の職員なら、当の昔に放り出す事間違いなしの札付きの問題児だ。


「職員とも問題こし、生徒とも問題を起こし、生徒会とも問題を起こし、教育委員会とも問題を起こし、通う事のそれ事体が問題の問題児なのです」

「なんで無事なのよ」


 これに姫が満面に笑顔でいう。


「他人の為に問題を起こすからです」


 サツキもそう言う奴だとは知っていたが、そこまでの事を行う奴も貴重である。


「別に正義の人って訳じゃないのですけど、譲れない物をしっかりと持ってるので、この衝突ばかり、中学校も4年制ですし、今は三年生ですし、マシになった方です」

「相変らず戦う奴ね」

「ええ。毎日何かと戦う為に、学校に通うはずなのですけど、戦場に通っているようで、なんとも」

「よくまあ」

「何せ敵ばかりでしたから」

「・・・」

「好い時代になりました」


 姫の笑いには好い傾向があり、心から喜んでいるらしい事は分かる、アルトの方はつまらなそうに水を飲む、この少年が戦いを辞める日があるのかと不思議に思う。

 小波も姫野も特に言わず、星守りは苦笑していた。


「あんたも変わり者ね」

「気に食わないのは潰すに限る」

「はいはい」


 自身の戦いもあり、この少年の戦いも知っているので適当に流し、どこに行っても敵ばかりの少年なりに、戦い続けた人生だったようで、闘争に続く闘争で、結果的に戦争を回避できたのならマシな方で、今は祭り師ともなり、よりマシになる様な事だ。

 なんとも変な話である、幾つもの役目を背負い、幾つもの旅をこなし、様々な事をしたというのに、周囲の目で変わらず、報われる事もない人生の中でも諦める事もなく戦い続け、結果として今があるのだからまあマシであった。


「んで、他に聞きたい事とかあるのか」

「居たの?」


 サツキの険しい顔に、アルトは思案した後、数字を描いた、その対比率にサツキもそうかもしれないとは思っていたが、そう言う学校だったらしい。生まれながらの連中は屑ばかりの連邦らしい数字で有った。


「残ったのはマシな連中ね。まあ仕方ない事ね」


 何せ人口の5割と戦ったのが、連邦の革命事件だ。

 地球最大派閥のアルト派、三大陸、AZA、台湾、日本を纏めるは派閥、これを生み出すきっかけとなった事件かも知れないが、多くの血を流し、結果として日本は大きな痛手を受けるも、後にPOでの事もアルトの道尋ねもあり、これは功を奏し派閥を形成した。

 今では過ごし易くなった地球ではある、これを行ったというのに貰った物も報酬の一つもなく、身近な周囲は相変わらず、友好的な者は常に遠く、それも並みならぬ地獄ばかりに生きてきた者達、平和の中で生きてきた者からすれば、理解しにくい様な絆で結ばれている。

 敵からすれば化け物の一種であり、短い付き合いとはいえ、この少年は奇特な性格らしく、僅かな利口さの一つもない、幼い頃からの闘争を毎日行い続けた。

 結果として待つは周囲とのすれ違い、向かえるのは破滅、強くなるしかない人生の中で生き、笑えるほど似ている人生にバカバカしくなる。


「案内して」


 アルトを真似ると、アルトは鼻で笑う。

 やはりいなかった、そう言う人生だったのだから当たり前だ。


「墓場にでも行きたいのか?」


 もう消えたらしく、サツキは何を言えばよいのかが分からない。


「俺の様な奴は早死にするのがこの国なのさ」


 恐らく地獄のような生まれならそれが日常で、平和とは空に輝く星のようなものだ。

 平和、誰にとってみての平和だったのか今でもわからない。

 事件の後でゴミと屑は全滅し、人口は多くが減り、残った連中は建て直し、その中でも平和を甘受する一方で犠牲の一つも払わない側もいる、何も感じない奴など要るはずもない。連邦のそういった人々にとってみれば、革命にかかわった者は所詮は権力欲しさのアルトの仲間でしかないようだ。

 そのアルトが今や祭り師、世界初の芸術を切り開き、地球人をメモ帳と呼んだ男に認められ、宇宙でも名前の知れ渡った星渡、結局認めない方が少なかったことになり、そんな少数派は、マシだった連中で今や閑職組、首謀者のアルトを嫌わない筈もない。

 この少年からすればどうでもよい奴ら、なるほど両者は立場から互いが好きになれない、何れは違いの事から対立し、また革命が起きる。

 国外ではアルトの革命の反省からこれは起こらず、結局アルトは地球でも屈指の政治家のようなものとなる、少数派からすれば面白くない事ばかり。


(不幸な話ね。何の為の戦いだったのか、結局)


 母親の戦友たちの戦い、地球戦争、28年間続いた総力戦、多くの犠牲を払った戦争、そのツケを子供達に押し付けて冷戦は崩壊、新しい時代になっても何も変わらず。


(何故?)


 地球人を見ればいつもそんな事を考える、何もかもが理不尽、非合理、母星とは全く違ったゴミのような惑星だった。

 今やは普通の惑星にまで回復し、その功労者達は何も受け取らない。

 変な話であった。


(片一方は平和、片一方は地獄、それは何)


 地獄に生きる者達の犠牲に成り立つ平和が崩れ、平和を味わったいて者達は倒れ、今は普通の惑星にまで回復した。確かに地球人はユニークだ。

 特に連邦の人々は実にユニークだ。

 宇宙でもここまでの事を行える人々はいない、あるのは常に戦争、これを辞める事はなかった。今は冷戦に入り、今は種族内での話し合いの最中、その期待の集まり地球。


(分からない、この人々は分からない)


 非合理、不合理、理不尽、非効率的、全てそうだったが、今は変わった。

 POの始まった日、夏休みの前日の日から、正しく運命の日でも言うべきなのか。


(何を確認したのあの鴉は)


 サツキは考えるが分からない、この少年ならなんというだろと思う、風変りなこの星渡は?


(男は頼らないってね)


 それが限界を示す物でもある。


(暴君の唯一戦った人々、なるほど)


 宇宙最古の賞金首と唯一戦った人々、それが地球人。


(なら裏切った日本人は)


 あの時言ったスターの怒り、吐き捨てる様な顔、聖戦などなかった。


(なるほど、少しの犠牲で済むのならか)


 何も変わらない考え。


(今やこれだけの数字、どうしたものかしら)


 ふと考える、やはりこの少年はユニーク、なら話してみれば解決するのかもしれない。


「アルト」

「ん」

「・・・」


 少年は地味な顔で黒曜石の瞳で見る、容姿的には地味な普通の日本人、冴えない容姿であった。


「前々からの疑問なのよ」

「ん」

「貴方は何をしているの?」

「戦っている」

「戦う、なにと」

「俺の戦うべきもの、敵ではない」

「なるほど、やはり貴方はユニークね」


 思案する、今まで何タイプ、博打を打つのは早いかもしれない。


「何の祭りなの」

「幸せな時間の記念日だ」


 平和とは言わない、なるほどやはりユニークな個人である。


「亡くなった人たちはどうするの」

「終わりだ。そこで戦いが終わって眠る」

「なるほど、風変りね」


 思案する、色々と居たが、こいつは確かに気に入るの足りるものなのかも知れない。


「質問とかある?」

「・・・言うべきか迷うが」

「ええ」

「まるで審判を下すのならどうしたらよいかと悩んでいる様だぞ」


 鋭い少年である。


「バカな事はするなと教えたはずだぞ」

「そうね。どっちなのかとは思うわ」

「人かエネミーか?」

「母星にいた事でもあるの?」

「何度も」

「・・ちょっと信じられないわ」

「そうか、星を渡り歩くからな、だから異星の知り合いが多い」

「でもWHOよ」

「それが?」

「宇宙で最も未知な星系の一つよ」

「だから?」

「セオリーの通じない奴ね」


 ふと思う。

 この地味顔の冴えない奴は、あれ


「えーと。WHOにいたの?」

「ああ」

「宇宙船もない地球人なのに?」

「お前さん星渡を知らないようだな」

「・・・え」

「俺達星渡は星を渡り歩く、文字通り」

「・・・つまり移動できるのか?」

「ああ」


 作戦崩壊。

 冴えない地味顔の奴に顔を睨む、アルトの方は何故そんな顔をされるのかが分からないようで、困っていた。


「反則」


 地味顔に言うが、この少年の方は肩をすくめる。


「渡れる?文字通り?インチキ、反則よ、違法じゃない」


 何のためにここまできたのか、どれ程の苦労をしてきたのか、頭が沸騰しかねない、こいつの首を刎ねたら、さぞ気持ち良さそうな奴だ。


「インチキ」


 ひとまず殴る、アルトの方はいきなり暴れ出したこの普通気取りの少女に、困った顔で殴らせていた。


「ここまでの旅費を払ってよ!」

「何通貨で?」

「・・・」


 地球には他種族の銀行の支店がない、それはどうしようもない失敗だった。

 泣きだしたサツキに、姫が心配そうに肩をさする。


「まさか全財産を使ったのか?」


 サツキが泣きながら頷く、アルトもそれはとしか思えない。


「お前は後先を考えろ」


 サツキは痛い所を突かれた。


「よく分からんが、帰るのなら送るぞ?」


 泣き止む、そして打算。


「もう帰れないかもしれないのに、よくまあ」


 呆れる様なバカさ加減に、アルトですらもう言葉がない。

 サツキは考えるが、一つの事を気付き、顔を上げる。


「帰れるの?」

「人の話を聞けよ。俺は星渡だといっただろ。一人二人ぐらいなら送れるぞ」

「マジ!?」

「お前はどうしてももう少し思量というものを使わない、俺が送らなかったら一緒この惑星にいるのだぞ?」

「・・・あ」


 周りは微妙な顔になる、致命的に頭が悪い猪娘だ。


「まあ時間はあるからよく考えろ、少しでいいから頭を使え」


 色々と苦労してきたアルトからの助言だった。

 銀髪の少女はコクコクと頷く、しかし周りはこいつは考えていないというような反応だ。


「超貴重、マジ助かったわ」

「言うのもなんだが、いつも猪なのか?」


 銀髪の少女は沈黙した。この少女のあだ名だからだ。

 誰もが分かったいつも通りなのだと。


「祭りにでも行くぞ。いいかサツキ」

「あだ名は言うな」

「へいへい。了解」

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