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第09:WHO星系、手紙の配達~其の6。日常。

 

 服の買い物、連邦の社会は女性社会、多数派の女性が占める、この為に良くも悪くも女性中心、これは仕方がない事であり、この社会の中で飛行団の町は異彩を放つ。

 団長の方針で男女平等、男女同権、全てに於いてこれが徹底されている、この為に男性にとってみれば天国のような場所で、この中で育てば確かに性差別に走る様な奴は皆無で有り、この為にこの町は繫栄している。

 近代的な建物が多いこの町の外に対し、飛行団の町、飛空市は整理されながら自由な方で、露店やらなんやらの店もある、他の都市に比べれば100万名という人口も有ってか大都市であり、移動手段はもっぱら飛空艇などた。


「じゃサツキの反省も終わったし、服でも買うかね。いつぞやの礼もしなくてはならないしな、じゃ全部俺が持つよ」

「良いのか?」

「本気で言っているのですか兄様?」

「そうです。若の給与は」


 全員が止める、サツキには分からないが、飛行団長代理の給与はなぜそんなに低いか不思議だ。姫が苦笑し説明してた。


「いつも人事部と喧嘩するから給与が激減しているのです。ボクも半分の給与明細を見て驚きましたよ。学生のアルバイトの方は遥かに高給です」

「・・・いいの?本当にいいの?だってあんなに」


 サツキからしてもアルトの働きには報いるに足りるものだ。戦争の一つを止めたアルトに対し余りに無情ではないかと思うが、姫が説明した。


「給与は貰っているからよいと、お金に固執しませんから」

「・・・ちょ、ちょっと考えられないわ」


 色々と規格外の奴ではあるし、サツキにとってみれば超貴重な奴でもあるが、無欲にもほどがアルトしか思えない、最低限給与の復活はあるべきだ。


「はぁ阿保ね」

「かも知れません」

「仕方ないか、後でどうにかするわ。幾ら何でもこれはどうにかすべき問題よ」

「ボクは・・・サツキに頼みたいです」

「任しなさい、まあとりあえず資金確保ね」

「はい?」

「適当な店に入るわよ。アルト」

「ん?」

「適当な店に入るわよ。資金確保をしないと」

「いや別に」

「うるさい」


 適当な店と呼ばれても困るが、サツキが適当な店に入る、ただ全員硬直する様な店で、中に入るサツキに対し、全員が困ってから入る。

 店員も首を傾げる様な一向に、サツキは一番高い指輪を見付け、鼻で笑う。

 サツキが取り出した一つの指輪、店の店員に見せる。

 何の変哲もないリング、金属製位の特徴しかない地味すぎるリングで、受け取った女性も困惑するような地味な奴だ。これをサツキが填める様に言う。

 困惑する店員をサツキが押し切り填めさせる、そうするとリングが変質していく、次第に色とりどりの宝石、これによってつくられた幾条のもの文字、店員でも驚くような見事な指輪。


「買取りを頼むわ」

「保護者の」

「はぁ?なんで自作のリングに保護者がいるのよ?」


 店内の全員が沈黙し、一人残らずサツキを見る。


「ああそう、じゃ作るわよ」


 手近なリングを取り、細工用の工具が加工し、スペルの中でも異彩を放つレシピスペルにより更に加工していく、手慣れたモノであり、軽く作業する程度のではあるが、その全てが流れる様で無駄の一切がない、芸術的な加工で一つ完成させた。


「うーん駄作」


 作らた見事な細工のリングを店員が手に取る、店の最高額の指輪、見比べても分かるが、話にならない。


「購入させてもらいます」

「話が分かるわ」


 支払われた金額は、恐らく沢山働いて稼げるような金額、それを現金で受け取っていた。

 少年少女は沈黙、姫が代表して言う。


「細工師だったのですね」

「ええ。最近はスランプなのよ」


 高額紙幣の入ったアタッシュケースをアルトに渡し、アルト本人は付いていけない金額に困る。


「あたしからのボーナス、受け取らならければ処刑」

「し、しかしこんな」

「処刑?」


 誰もが初めて見る様な事ではあるが、あのアルトが非常に狼狽している、どうしたらよいかが本当に分からないらしく、これに他の少年少女も法律がというべきなのかが困る。


「いいから受け取れ」

「・・・なんで受け取るしかないんだよ」

「うるさい」

「滅茶苦茶理不尽」

「やかましい」

「・・分かったよ」


 珍しい事ばかりだ。あのアルトが金を受け取る、これで同行していた者達はサツキへの評価を大きく改めた。

 店長が現れ、一行の顔ぶれには非常に困るが、サツキの腕前に関しては評価していた。

 珍しい事ばかりだとサツキは思う。こんな小娘の作品に評価するとはと。


 店を出てから、大金が重いアルトは仕方なしにスペルを使う、サツキ以外が困るほど重そうな高額紙幣の入ったケース、それ程に店の評価は高く、恐らく地球でも屈指の腕前に入る細工師なのがサツキらしい。下手すれば宇宙レベルの細工師なのかもしれない。

 露店の方も有って、サツキがちらちら取る見る、アルトが立ち止まり、その間にサツキは細工などを見ていた。姫の付き合い、何を見ているのかはわからない、もしかすれば細工師の腕前を見ているのかもしれないと思うと、やはりサツキは細工師なのだと思う。


「若」

「ん?」

「あの細工は、知っていましたか」

「いや」

「・・まあなんといいますか、イーニャの細工です」

「・・・おい」

「間違いありません。店も買い叩きました」

「店側の限界って奴だな」

「イーニャの細工がそんな銭ですか」

「仕方ないさ」

「どうも至宝が歩いている様に見えます」


 他の者からしても似たり寄ったりだ。

 気に入った相手にしか作る事もないイーニャの細工師が生み出す、一つの種族に一個の国宝レベルの芸術品、それがイーニャの細工だ。

 これに纏わる噂も多く、宇宙でも屈指の秘宝の細工でもある。


「大鎌を持つ事からもしやとは思いましたが、細工師という彼女の言葉、恐らく」

「・・・ちと後で確かめる」

「ええ。言うのもなんですが、手放す事だけはおやめください」

「いやだって」

「これは俺からの一生の願いです」

「分かったよ」

「いつか結ばれた時に」


 夢の世界に飛び立つ星守り、他の者もあの見事な細工での結婚式は確かに夢のようなもの、いかなる権力でも資産でもない、職人が持つ、腕前だけに生きるサツキのみが作れる世界の秘宝だ。


「うーん。これは面白いわユニーク賞ね」

「買います?」

「ええ。」

「あの代金は半分に送ってください」

「いいのかヒメ?」

「たまの我儘ですから」

「了解」


 他の者も探していた。サツキに見込まれた腕前の者は、星守りが素早くスカウトしていた。こんなボロい儲け話を他人に渡す様な奴ではない。

 そんな事をして露店を回り、サツキが一人の細工師の前に停まる、一つの作品をじっと見て、アルトを手招きする。


「間違いないわ」

「なにが」

「秘宝級の人よ」

「・・・なんで」

「光と風景とのコラボ作品、あの場所に合わせ作られた、でも周りには工具はないわ」

「・・・」


 さすがにアルトも言葉がない、サツキはこの細工師の前に一つの作品を置く、細工師の方はにこりと微笑んで話し出した。

 サツキも嬉しそうに会話し、二人は細工の事で意気投合していた。

 星守りとしてもスカウトしたいが恐らく無理だ。

 職人は作品の一つを売ればいい、一生でそれだけで十分食っていけるからだ。

 だから気にった相手のみに売る、もしくは作る、この為に何にも縛られない、縛れない側なのだ。

 アルトがスペルを使い周りの音を遮断し、光すらも調整し、細工師もサツキも驚く様な幻想的な光景になっていく、その一つ一つの光のが一つの細工を目指し、コラボ作品、この調整をアルトが行い、星守りとしても見事な腕前に言う事はない。

 周囲もいきなり始まった幻想的なショーに驚き、絶え間なく変動していく光をアルトを自在に調整し、一つのショーとなる。

 細工師の周りに小さな炎が生まれる、次第に数を増やし、細工師の周りを乱舞し始め、子の炎が動く度に細工に光が当たり、変動し煌き続け細工。


「素晴らしい」


 星守りでも思わず呟く、スペルというものへの、根本的な考えが変わるような衝撃でもあった。アルトは武器ではなく、芸術品としての考えの元に鍛えていたらしく、破壊だけの力が、芸術品をより芸術品にする正しく神業に極まる様なものだ。


「まあこんな物か」


 全てが暗くなってスペルの力が消える。

 秘宝級の細工師もサツキも惜しむべき才能であった。


「スペル芸術の一つだ。気にするな」

「・・・正直くらっとしたわ」

「大した芸じゃない」


 つくづく規格外の奴だと改めてサツキは思う、見て目は地味な少年なのだが、見た目に騙された奴らしかいない事になる。


「若、素晴らしい」

「そうか?素材がいいんだろ。他じゃあこうはいかないからな」


 秘宝級の細工師も、レシピスペルを使い一つの細工を作る、一つの塊というべき変哲のない水晶、これを細工師がサツキの前に出し、サツキも嬉しそうに加工し、アルトが再びスペル芸術を行う。

 一度見たら忘れる事は出来ない程の光景、幻想的な光が、絶え間なく変化し炎が乱舞し、その中で一つの細工が作られる。光を受け煌き続け、細工の破片すらも秘宝のような輝きをともし、細工に対する考えその物が変わるような衝撃を与えていた。

 通行人も、他の露天商も、アルトと愉快な仲間達も、この光景を見ていた。

 水晶が加工され、一つの指輪が出来る、全方位からの煌きを受け、太陽の光と炎の橙色の光が混ざり、まるで夕陽の様な中にある水滴のような輝きとなる。


「これは好いわ。うん完成」

「適当に調整するぞ」


 スペル芸術の一つが追加される、水、これによりより芸術性が増していき、光がより煌き、一つの芸術品を、スペルの芸術品によって何億倍もの美しさを与えた。


「三つ」


 アルトの規格外さには常に驚くが、3個のスペルを同時に操り、これを精密に操る。

 惜しむべき才能であった、もしスペルを本格的に学べば世界でも屈指のスペルを操れる、その方が断然いいが、残念な事にアルトは侍なのだ。惜しむべき事だった。

 今度は水が氷に変わり、小さな雷球が生まれる。

 四個を操るアルト、精密さにかけては天性のものがあり、これらを一つの芸術品のみに行う、贅沢すぎる光景だった。


「これ位だ。すまんな大した芸ではなくて」


 精神力を使い過ぎたらしい、あれ程の事をすれば確かに頷ける。

 秘宝級の細工師はアルトを見る。


「よい腕前でした」

「大したレベルじゃない」

「これは」

「趣味だ」


 言葉に困る、これだの事をして、趣味の一言で片付けられたらどうしようもない。

 サツキはこの少年が気に入った、とても気に入った。


「おし次に行くわよ」

「いやさすかに若でも無理です」

「えー」

「本来操れるのは1個です」

「四個だったわよ?」

「はい。これを4倍にして、精密に操り、これを長時間続ける若の方は変なのです」

「そうなんだ。見たかったな」

「ええ。俺もそうなのですが、そう易々とも行かないのです。何より仕事もありますし」

「もったいない」


 疲れたアルトが近くの店に入る、他の者も続き、店の人も直ぐには対応できなかったが、店長が何とか対応し、普通のソフトドリンクとバーガーを注文していた。

 イーニャの細工師として、サツキとしてもこのスペル芸術家とのコラボが楽しみでならない。考えただけでワクワクする。


「兄様は色々出来ます」

「見惚れる様なものであった」

「でも侍ですからね」

「ああ惜しいな」


 侍の二人は心底惜しそうに言う、忍者の二人は主君が倒れないか心配でならない。

 姫も半分の隣で早く回復しないかなと思う。

 星守りは友人に連絡し、零を強制的に呼んだ。


「何の用だ」

「これを見たら変わります。貴方の全てが」


 録画していたスペル芸術の映像に、零は顔から表情が消える、じっと映像を見続けていた。映像が終わり、零はアルトを見てから星守りに移し。


「変わりましたか?」

「ああ。全てが変わった。この映像をネットに流してくれ、多くのキャスターに見せてくれ、頼む」

「了解です」


 店側と交渉し、ネットに流した。

 零もアルトの変な訓練法などは知っていた、しかしそれは破壊の為にスペルの考えで有り、アルトは芸術としてのアプローチの為に行っていた。

 気の遠くなるような時間を生きるエルフでもこれは生まれなかった。

 これだから地球人はユニークなのだ。実に素晴らしい事であった。


「シルト」

「大した芸じゃない。あれは趣味だ」

「その趣味を教えろ」

「自分で試せ。音楽もあるぞ」

「音楽?」

「スペル楽器だ。面白いぞ。この二つを合わせた総合芸術が俺の好きな分野だ」

「ほう」


 面白い、実に面白い事になった、これは妻に教えねばならないと直ぐに駆けだした。


「スペル芸術っか、これは面白いかも」

「またバカはするなよ」

「ええ。こっちの方が遥かに面白そうよ」

「技はを盗まれるから野外練習はするな」

「了解」


 姫以外は使えるので、ひとます芸術的なアプローチを行う事が決定した。


 □


 休みながら1時間も休むと回復した。


「やっと回復、ああ疲れた」


 アルトの復活で、一行は動き始める。


「次に行くわよ」

「次って言われてもな偶の休暇なんだからだらだらと」

「ダメったらダメ」


 サツキにダメだしされ、渋々にアルトは動く、他の者としてもよい教材になる為に見学に向かう。

 向かった先は映画館、萎びた感じの渋い映画館だ。


「ここ!!」

「交渉してきましょう」


 星守りが交渉に向かい、映画館の人は訝しながら話を聞き、損害に関してはアルトに回された。

 サツキが突っ走り、一つのミニシアター、丁度映画が終わった頃だ。


「本気でやるのかよ?」

「モチ!」


 他の者は見学するだけなので特に疲れないが、精神力を維持するのが難しいスペルに、これを4個までの制御を行う精神力は尋常ではないが、無尽蔵ではないのだ。


「若、楽しみにしております」

「気楽に言ってくれるぜ」

「私も楽しみだ」

「私もです」

「同じくっす」

「同じく」

「半分頑張って」


 アルトはやれやれと頭を振る。

 室内に入り、最前列に入る。


「映画の上映と共にな」

「了解」


 アルトはホッとした。この小さな細工師は後先を何も考えない。当然苦労はアルトが引き受ける事になる、少し洒落にならない。

 席に着くと5名の手にはジュースとポップコーン、アルトの半分よりノンアルコールビールを受け取り、最前列に腰を下ろした。

 細工師のサツキは一点を見つめていた。最前列の中央にある、小さなスポットライトの光が差し込む場所だ。

 次第に暗くなり、広告が映され、年代物のまだ平和な時代であった20世紀の映画が上映される。


「おし始めるぞ」


 アルトの合図で、サツキが作り始める。

 雷球、炎球、氷球、水球の四種類の小さな塊が現れる。

 部屋中を埋め尽くさんばかりの小さな塊、それが次第に形を作り、上映する映画を見る客の様な人型になる、動きもまちまちで一様に映画を見る。

 制御された四種類の人型の人達、まるで本当の人の様に動き、中には眠り、中には足を前に出し、前の客に嫌われる、大人も子供もおり、絶え間なく続く映画を見る。

 映画の内容は一組の男女の逃走劇、金を奪って逃げる話だ。

 最前列の炎の人が席を立ち、サツキの元に向かう、何やら話しかけているようではあるが、声はない、身振り手振りでの話しかけ、そこに氷の人が来る。

 身振り手振りでの会話、そこに雷の人が来る、そこに水の子供が現れる。

 そうやって集まり出した人々。

 手に持つ物も様々、飲み物、煙草、食べ物、雑誌、新聞、バッグ、極普通人々のような日常の物、そこに雨が降る、最前列の端から氷の車が現れ、中には一組の男女、蛇行運転をしながら進み、他の人達が迷惑そうにしている。

 サツキの前に停まり、一組の男女が下りる、氷で精密に作られた男女はサツキに退くように身振り手振りで行う、男性が痺れを切らしサツキを掴もうとすると、一羽の鳥が現れる。

 鳥は上空を旋回し男女の車の上に止まり、フロントガラスから運転席に入り、そのまま運転して車を持ち去る。

 人々は笑っており、男女も周囲に困惑しながら後ろを見る。車がない事に気付き慌てて追いかける。

 氷の男女の女性は男を殴る、何やら言い争いが始まり、そこに一匹の猫が現れる。

 猫はつまらなそうに人々を見ていた。

 何の変哲もない、平凡と言い切れるような光景、何も変わらない町の、毎日の一つのようであった。

 雨が降り止む、人々が空を見上げ、男女も喧嘩を辞めて空を見る、猫は変わらず人々を見る。

 反対側より氷の車が現れる、運転席には肥満体の男性、イライラとしきりにタバコを吸う。

 そこに車を盗んだ鳥が現れる。

 運転する鳥はイライラとした様子で、葉巻を銜えて吸いこみ、吐く。

 気付いた男女が車による、鳥は全く気にせずに進み出し、反対側の肥満体の男が運転する車も進み出した。

 そこに車が衝突する、男女は絶叫し、肥満体の男はが車から降りる、鳥の方は葉巻を吸いながら、面倒臭そうにクラクションを鳴らし、肥満体の男がガラスを叩く、鳥は全く見向きもしない。

 肥満体の男がキレてガラスを殴る、ここではじめて鳥が葉巻を吐き捨てる。

 鳥がフロントガラスから飛び立ち、人々はそれを見上げ、猫は退屈そうに欠伸をかみ殺していた。

 車を手に入れ男女が乗り込み、人々は迷惑男女に面倒そうに席に戻る。

 肥満体の男は懐から煙草を取り出し火をつけて加え、サツキの頭を灰皿代わりに使う。

 つまらなそうに見つめる肥満体の男が、ふと指を見る、そこにあるのは指輪。

 肥満体の男はこの指輪をじっと見つめ、サツキの頭を灰皿代わりを辞める。

 肥満体の男はサツキを見つめ、何か言いたそうにした後、戻っていく。

 そこに雪が振る。

 全てがなくなった後でもサツキはただひたすら細工を行う。

 そこに氷でできた猫が退屈そうに近付く、後ろからは水の海が満ち引きする。

 海より一人の海女が現れる、サツキの横を興味もなさそうに歩き通り過ぎる。

 サツキの作業が止まり、どうやら完成したらしい。

 全てが砕けサツキの細工に収束していく、炎も、氷も、雷も、水も全てが収束しサツキが填める。

 完成していたリングは姿が変わり、小さな色取り取りの宝石、文字の羅列、膨大な光の中で作られたリングに、サツキが嬉しそうに飛び跳ねる。

 膨大な光の渦が収束を続け、上空よりサツキの指輪に一直線の光が現れる。

 この光が拡大し、スポットライトのようになっていく。

 収束と変動を繰り返し躍動し、光が全て途絶える。

 映画は終わっていた。


「まあこんなものだ」

「最高傑作完成」

「さすがに疲れたな」

「名前は日常ね。うん凄く好い」

「こう言うのは疲れんだよな。まあいいけど」


 5名も拍手をする、実に見事なスペルであったし、ありふれた日常の一つをテーマにしていたらしい、至極ありふれた物のみで構成されたものだった。


「半分、タイトルは?」

「猫の日常」


 一貫して現れていた猫が主人公だったらしく、確かにと頷いていた。


「腹減ったから飯でも食いに行こうぜ。後疲れた」

「今度は」

「勘弁してくれ」

「食事の事よ?」

「ならよいが」

「サンドイッチ」

「ああ行くか」


 星守りも撮影を終える。

 室内から出て、アルトは非常に怠そうに歩き、護衛の二人が支えていた。

 映画館と交渉した星守りが直ぐにアップした。

 タイトルは細工に続く二番目、猫の日常。

 冥夜としても実に面白かった。どんな映画よりユニークな物、スペルによる日常を創り出し、今まではあり得ない事であり、誰も考えなかったが、冥夜の兄はこれを行い、少なくても冥夜も真似したくなる。

 そこに十兵衛がポツリと言う。


「なんか日常ですね」

「ん?」

「何の特別もないありふれた日常、何も冴えない毎日、その延長線にいる様な気分です」


 妹の感想に、冥夜は嬉し気に微笑した。そう言ったものがない人々もいる為に、どれ程望んでもなかったものが手に入ったらしい、冥夜は兄の行いに笑いがこみ上げるが自制した。

 護衛の忍者娘達は、主君の疲れ気味に非常に困っていた、なせ体力でも傷でもない、二人にはどうしようもない精神力だ。


「はい配るわよ」


 サンドイッチ、受け取って食べる、アルトは怠そうに齧り、どう見ても疲れ切っていたが、姫はもっと見たかったから半分に頼む。


「半分、もっと見たい」

「お前は鬼か」

「見たい」


 半分の頼みに渋々にアルトはスペルを使う。

 氷でできた人、手には剣と盾、このまま映画館の前で戦う。

 いきなり始まった戦いに、人々は吃驚、警官が呼ばれ、警官も困惑しながら仲裁を行う、若い警官は年上の警官に助けを求めるも、年上の方は関わらない。

 今度は上空に二つの騎士が現れる、翼を生やした馬に乗り、手には4mもある槍。

 上空での戦いに、年上の警官は本部に連絡していた。

 若い警官は不幸にも押し付けられ、泣き顔で仲裁を行う。

 更に上空に一人の女性が現れる、炎の翼を生やし、氷で出来た体、水で出来た武具を身に纏い、舞い降りる中、騎士達は戦いを辞めて見上げる。

 そこに雷の槍が降り注ぎ、騎士達を打倒し、騎士達は消滅し、地上の戦士達にも降り注ぎ、やはり消滅した。

 全ての人が見上げる中、炎の翼の女性はそのまま降下していく。

 地上に激突する前に炎の翼を広げ滞空し、手に持つ剣を収めながら消えた。


「凄いです。半分これは凄いです」

「もう勘弁マジ勘弁」


 さすがのアルトも根を上げる。


「ヒメ、これ位でお願いします」

「これ以上はどうか」

「うん。休めば大丈夫」

「お前は鬼か」


 □


 夕方、映画館の前で休む一行、さすがのアルトもくたくたで、護衛の二人が世話をしていた。


「ちと洒落にならん、このままでは死ぬ」

「戻りますか?」

「いやだ!もっと見たい!」


 姫が我儘を言うが、実を言うと他の者も同じだった。


「うむ。私も見たい」

「兄様には辛いかもしれませんが」

「ブルータス」


 二人の裏切り遭う。


「チェックしたのですが、祭りがあります」


 再びの裏切りに遭うアルト、周りは目を輝かせる、護衛の二人も嬉しそうだ。


「祭りに行くわよ」

「鬼か」


 くたくたのアルトは二人が運び、ふと星守りがプレイヤーを見付け、交渉した。


「あMPポーション?」

「はい」

「小僧、なんに使う?」

「若の回復です」

「空若のか?」

「大変疲弊しております」

「あの小僧がね。敵か?」

「いえ、なんといいますか、みればわかります」

「要領を得んが、少し待て」


 作られたMPポーションを受け取り、アルトに飲ます。


「生き返った、これは奇跡の飲み物だ」


 復活したアルトにプレイヤーが近付く。


「何があった」

「スペル芸術を行いし過ぎた」

「スペル芸術?」

「ああ。良かったら祭りに来てくれ、好い光景が見える」

「ふむ。どうせ暇だしな」


 祭りに向かう。

 小さな小学校での夏祭り、何の変哲の無いモノだ。

 星守りが運営と交渉し、信用もあって承諾される。


「若、準備は良いようです」

「おう。祭りと言えば、まああれだな。舞うかね」


 小学校全域に現れた水の天女、炎の侍、氷の戦乙女が踊り出し、一つの舞を踊る。

 周囲に吹き荒れる炎、舞う度に小尾を引く炎、誰もが上空を見る。

 舞う、この中に上空より鴉が現れる、幾万の鴉、炎の軌跡を上げ、上空を舞う。

 更に上空に天馬が現れる、これに乗る一人の侍、大きな炎の太刀を握り、地上へと駆ける、地上より騎士が現れる、大きな盾を持ち一振りの炎の剣を握る。

 騎士と侍の戦いが始まり、そこに一人の魔術師が現れる、氷の杖を持ち炎を作る。

 地上には幾万の兵士が現れる、槍を持ち、これを魔術師に投げ付ける。

 虚空より忍者が現れる、雷撃を放ちこの槍弾く。

 舞と戦い、スペルによってつくられた祭りの始まり。


「これは凄いな、なるほどスペル芸術か、ふむ」


 小学校に現れたスペルにより、誰もが上空を見る。

 見学のために人々がポツリポツリと小学校に入ってくる。

 舞と戦い、地上の祭り、夕方の中、夏のように雨が降り始め、これらの雨が全て雪に変わり、雪が降り始める。


「空若、これを飲め」


 プレイヤーり渡されたポーションを飲み、味わいの方はあまり美味しくない。

 不思議な事に回復していく、持続回復型のポーションらしく、素晴らしい性能だ。

 今度は更に上空に幾万の足軽が現れる、祭りと書かれた旗を持ち、一様にボロボロの武具を纏い、吹き荒れる炎の中で舞う。

 これらが全て幾層にも作られ、巨大な一つの塔を作る。

 完成し、最上階で一人の巫女が舞う、神楽の舞に地上からは見えない。

 最上階を除き、全てが消え、一人の楽士が現れる。

 笛を唇に着け、奏でる。

 次に幾万の楽士が現れ、笛を奏でる。

 雨が雪に変わる中、巫女の舞と楽士の笛、この中央に一人の吟遊詩人が現れ、手にはハーブを持ち、これを奏でる、今度は幾万の吟遊詩人が現れ、手に持つハーブを奏でる。

 一羽の鴉が現れる、虚空を舞い、地上に舞い降り始める。

 今度は光が変化する、光が全て一羽の鴉に当てられる。

 そこに一人の水の巫女が現れる、手に持つ扇に鴉が止まる。

 小学校の入り口に、一匹の狐が現れる、地上をとことこと歩き、巫女の方に歩く、小さな子供が現れ、狐を抱える。

 全てが炎へと変わり、水へと変わり、氷へと変わり、雷へと変り、祭りは続く。

 楽士と吟遊詩人の後ろに、様々に国々の時代の人々が現れ、佇みながら見る。

 光が全て消える。

 暗闇の中、再び光が現れる、最上階で舞っていた巫女が地上の歩く、地上の巫女と、子供と、狐と、鴉は、一様に見上げる。

 雪は消え、雨も遮断され、夕焼けの中、地上に歩いた巫女が、完全に降り、水の巫女に挨拶し、子供にも挨拶する、降りた巫女が一つを渡し、巫女の髪飾り、舞う為の装飾。

 始まると思う中、二人の巫女は子供を手招きし、子供が近寄る。

 子供の手を取り、そのまま虚空に消える。残された狐と鴉、狐は暇そうに欠伸をしてから手口に向かう、鴉は狐を見ながら飛び立つ。

 狐が出ると振り向いてから消える、鴉は上空で地上を一瞥し消える。

 終わったかに見えたが、中央に一つの火柱が吹き荒れる、氷の柱が現れこれに絡みついて上空を目指す、遥か上空に黒子が現れる、手に持つのは筆、炎の床に何かを描き、黒子が書き終えると、この黒子は一仕事を終えたように腰を叩いて消える。

 書かれた文字は

『ハイ今日は夏祭り』

 広告なのか何なのかは分かり難いが、祭りなのは分かるような内容だ。

 全体が見えなければ全てを掴むのすら難しい、そう言った祭りの始まり。


「あー楽しかった」

「半分、全部見れない」

「当たり前だ。それが祭りというものだ」


 この巨大な祭りの広告に、当然のように世界中に放送されていた。

 巨大かつ複雑なものに、全容を掴む事すら難しい。


「悪くない、これは流行るな」

「だと思います、祭りを楽しんでください」

「ああ。久し振りに楽しめそうだ」


 長い年月の人生の中で、プレイヤーは幼きまだ人の頃を思い出し、懐かしい記憶を見ていた。

 夕方の雨はまだ降るが、小学校には降り注がない。

 何かとても大切な印象を受ける、戦うだけの力が、まさかの祭りに使われた。

 ひとまずかつての仲間に伝えることにした。

 再会すれば祭りが始まる。


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