第01:プロローグ。道別れるその日まで。
VR法により1日1時間の制限のある現代、ゲーム会社は試行錯誤の末にゲームの高速化を提唱し、リアルでは1時間という鉄の法を守るので許可され、ゲームは高速化時代へと突入した。
その中で一つのタイトルが公開された、VRMMOのジャンルの中ではSFに属する様なストーリー、一つの星系を舞台に、この数多い伝説を攻略するのが大筋の目的の、ゲームタイトル『プラネットオーシャン』通称はPO。
このSF的概要なのに現れるのはファンタジーの様なスキルや、アイテムに、モンスターのゲームなのだから、微妙な所がある。
POの最大のメリットは年間接続料を支払いの一括支払い、この接続料から一定金額の還元もある、この還元のメリットからプレイを考える者もいたが、1日1時間しかできない、この為に高速化の倍率が気になる。
だが、POの1時間の倍率は168倍、換算すれば七日間も可能なのだ、他の運営が4倍というのが当たり前の時代には破格を通り越したような数字だった。
当然に本当なのかと素朴な疑問が出るが、ベータテスターによれば本当であり、数多いベータを繰り返した結果、既に多くの支持を集めていた。
1年間の接続料金も安いとは言えない、月額に換算すれば5千円にも上る、年間を考えれば6万円、学生には厳しい金額だ。
保護者との相談の上、将来への借金という所もあったらしく、21世紀の日本では最も成功したゲームの一つと言えるほどの結果となる。
この中で、ゲーム法によりゲームは一日一時間の鉄の掟が課せられたとあるゲーマーは、コツコツと貯めていた正月のお年玉を崩し、年間接続の契約を行うべく学校の帰りにこっそりと向かう。
ゲーム運営の企業の受付でその用紙と説明を受けて愕然、保護者の印鑑がいる。
学校の成績もよいとは言えず、両親が習わせていた習い事も真面目にもいかず、それでも両親は特に怒らなかったが、これは不味かった。
帰宅し、葛藤の末に片割れに頼んだ。
「ゲーム?」
「そうなんだヒメ」
「ボクはゲームは好きじゃないし」
「それは知っている」
「・・・」
「自分がやりたいのにお前を巻き込むのはどう考えても身勝手は解っている」
「はい。身勝手です」
「いつもいつも世話を掛けるのに何一つ恩返しが出来ない俺だが、ゲームの世界で恩を返したい」
「本当?ただ単にゲームがしたいだけじゃないのですか?」
「年間接続料は全額俺が負担する」
「シルト、幾ら何でもそこまでは」
「いや払う、払わせてくれ頼む」
「・・・分かりました、珍しい事があるものです」
「ありがとうヒメ」
こうして協力者を得てから保護者に相談、168倍という驚異的な数字にさすがに両親は反対し掛けたが、ヒメがプレイしたい切り出すと両親は困り、迷った末に何時間も相談し合ってから、運営にも確認を取り性的な事が不可能であることを何百回と確認し、数多い問題も確認し、さらに数日を掛けて相談し合い、ひとまず延期された。
年間接続料金の12万円、ハード費用、その他の様々な周辺機器、これらの一括料金を全て俺が負担する事に、父親からヒメを守る事を絶対条件に許可された。
自宅のVRルーム、アバターに関してのマニュアルもあるが、二人で行う為に二人用の物だ、こうすると二人用の為に数多いメリットがあり、結婚なども二人の許可があってはじめてできるようになるための安全設計、これに関しても両親は念を押して行わせていた。
「色々と出来ない事も多いんだ」
「一緒のお風呂とかも?」
「勘弁してください」
「・・・」
「それだけは勘弁してください」
「そうやって避けるのですか?」
「血の繋がりがあるのです。勘弁してください」
「何が問題なのかわからないです」
「色々と問題なのです」
「ふーん。まあ寝室は同じも可能だから」
「ベッドは別々です」
「・・・どうしてこんな可愛い女の子をそこまで避けるのですか?ボクには分からないです」
「血の繋がりがあるのです。自制してください」
「恩を返すのだからベッドは一緒ですね」
「・・・」
凄まじい葛藤の末に頷こうとしたが、顔が動かずに硬直していた。
「そこまで嫌なのですか?」
「難しい様々な問題があるのです、女性にそれを言うのはかなり憚られる様な」
「中学に入ってからはそればっかり」
「難しい時期なのですはい」
「分かった。分かりました。ベッドも別々」
ゲームをプレイするのは良いが、家族とプレイするのは難しい問題が数多いと知った中学の夏休みの前日だった。
「さあニューゲームです。POにログイン」
「ニューゲーム、ログイン」
『アルト、姫のログインを確認、許可しますか』
「・・・大丈夫か?」
「あの子は、妙な事を考えかねませんし、一度拒否してから詳しく聞くべきかもしれませんが、中々尻尾を出しませんし」
「娘に対してそんな事を言うのはどうかと思うぞ」
「息子の部屋にやたらと行きたがるのですよ?問題ばかりです」
「しかし、冒険は許可すべきだろう、なんだかんだ言っても必要だ」
「そうなのですが、妙な事にならないか心配です」
「ヒメもあるが、倅の方はまあしっかりとしているし問題はないと思うし、ゲームにも慣れているし、基本的にそんなに強くはないが、確かに武器は扱えるしな」
「ログも確認しましたが、普通のプレイヤーでしたよ?」
「まあな、節操がない所が困る」
「親に似たのでしょうね」
「では許可するぞ」
『許可を確認しました。接続を開始します』
□
『アルト、姫のログインを確認しました』
二人が現れた一つのセーブポイント。
大きな建物の室内らしく、窓から見える青空に白い雲、緑の豊かな草原、小さな広葉樹が幾重にも生えており、葉は深い緑をしていた。
「おーすげぇ」
アルトが叫ぶ、内部で反響しより大きな響きとなる。
隣の姫は新鮮な驚きに、大きな造りの目を開いて周囲を見ていた。
「このゲームは好いわ。うん」
「ここで結ばれたいです」
隣の姫の呟きに、アルトは尋ねそうになったが怖くて聞けなかった。
片割れの恐ろしい所は色々と有る、見た目だけは清楚な可愛げな美少女でも、中身の腹の所には黒い物が有る、学校生活では勘違いした色々な奴らが不幸な目に遭った。
そう言う怖い所もある片割れなのだ。こんな片割れのどこが良いのかさっぱりなアルトだ。
「装備と」
システムコマンドから装備を確認する。
初心者用の装備がある、基本的な性能はそこそこあるが、所詮は初心者用だ。
「性能がよくないな」
「性能ですか?」
「ああ。初心者用装備だ。あんまりよくないって奴だな」
「どの様な」
「全部初心者用って頭文字のタイプ別だ薙刀とか、弓とかもあるぜ」
「それは助かります」
「俺としては」
「刀です。間違いありません」
「あーまあ銃なんかも」
「断然刀です」
「でも刀ってショートレンジだし」
「刀です」
押しが強い片割れに押され、渋々に刀を選ぶ、実体化した刀は打刀の形であり、日本刀のような金属ではなく、木製の木刀だ。
「随分と変わった刀ですね」
「初心者用だから最低ランクの木製なんだよ」
「そうだったら早く言ってください」
「刀はこれしかないんだ」
「残念です」
姫としては片割れの剣技が久し振りに見えると期待したのに、現れたのは単なる木刀というのはとんだ失敗であった。
「薙刀も木製ですか、なら弓となります」
「矢も木製だぞ?」
「矢まで?そんな役に立たない物でどうやって戦うのです?」
「そう言われても困るぜ」
「仕方がありませんね」
姫が装備を取ろうとするが、愛用の弓はなく、手が空を切り、姫は硬直した。
「あー。今出す。弓でいいのか?クロスボウもあるぞ?」
「選びます」
移したシステム、現れた射撃武器などの項目に、弓、クロスボウ、この他に有効な射撃武器と言えば無骨な銃、好みの武器が一切ない、渋々に弓を選ぶ。
現れた矢筒の中には、単なる木製の矢、矢じりまで木製だ。
「こ、こんな」
「だから初心者用って、訓練用の下なんだよ」
「訓練用がマシであることを祈ります」
「だといいが、進むぞ」
「はい」
「別にうんでもいいぞ」
「そう言うと怒られますし」
「別にいないから」
「ばれませんか?」
「リアルで使わなければれない」
「そうですか。うん」
こう言う子供のような所が本来は好きな片割れなのだが、両親は許さないために我慢していたのだ。
姫は周りを確認していた、両親の姿がない事にホッとしてから軽く頷く。
「大丈夫ですか、うん最高」
「リアルでは使うなよ」
「うん」
「じゃ行くぞ」
進んだ室内、中央に大きな彫刻があり、武器らしきものがない事を確認し簡易的な鑑定も行い、特に問題はない事を確認し、周辺も調べる。
「特に問題なしか、どう見ても怪しいけどな」
「シルト」
「リアルネームは禁止」
「ボクの名前は姫ですよ?」
「いいから禁止」
「狡い」
「ダメったらダメ」
「分かりました。シルトの意地悪」
「規定に合っただろ?」
「・・・はいはいわかりましたアルト」
「了解、彫像の周りは歩くなよ、トラップがあるかもしれない」
「それで、了解」
回り道をする中、姫がアルトの腕を絡めようとして逃げられたので、八つ当たりに彫像を蹴飛ばし、硬直するアルトだが、慌てて姫の手を掴んで駆け出した。
「何てことすんだよ、あれ程トラップがあると言っているだろうが!?」
「うん。八つ当たりも悪くはないですね」
「好くない!断然よくない!!」
起動し始めた彫像、武器を実体化し、しかも正面の別の彫像も動く。
「二度するなよ!?」
「う、うん」
「全く、このままじゃくそ」
彫像の動きは鈍いが、それ以外は高そうだ。
このままではヘイトを稼ぎ迎えるのは全滅だ。
「戻るしかない、走るぞ!」
アルトの声に姫も慌てて駆け出し、アルトの手をほどいて弓を構えるが、弓の矢は単なる木製、彫像の素材はどう見ても石、木製で突き刺さるとはとても思えない。
戻る先には一人のプレイヤーがいた、黒髪のショートの女の子だ。
その近くまで駆け出し、黒髪の女の子はやれやれといった顔で首を振りながら呟く。
「何たる体たらくか、不甲斐ないナイトだ」
「そこの黒髪、このままは倒されるぞ」
「であろうな。真正面から戦えばとなる」
「なんか案でもあるのか?」
「誘導し、切り抜ける」
「冴えるな」
「ついてこい」
黒髪の女の子は、彫像を誘導し、上手く抜けていく二人も駆けるが、黒髪の女の子のような敏捷な動きは出来ず、攻撃を受けそうになると、黒髪の女の子が手裏剣でタゲを取り、誘導しまた上手く切り抜ける。
長い通路にはすでに数多い彫像が集まっており、一体、二体を倒したところで意味のない焼石の水のような状態だ。
黒髪の女の子に先導されて奥に行く、最奥には一体のゴーレム、明らかにボスのような存在だ。
「ふむ」
黒髪の女の子が渋い声を出し、装備の一つを実体化させる。
刀の様にしては短い、反りのない片刃、所謂の忍者刀という種類の刀だ。
「まあ軽く倒しておこう、ナイトとお姫様は逃げておけ」
「恩に着るが、そうもいかないらしい」
「ほう?」
「あれだ」
ボスの後ろから見える扉、その前に広がるバリケード。
「なるほど、これは不味い」
「逃走防止のオブジェクトだ。恐らくボスを倒すまでは無理だ」
「中々に厄介な状況だな」
「姫、弓でオブジェクトを攻撃できるか?」
「やってみます」
弓を構える姫に、ボスは動かない、矢を放ったこの矢をボスが撃ち落とした。
黒髪の女の子も、アルトも互いに頷く。
「倒せば通れる」
「ですが相手は石ですよ?」
「どうにかする」
「了解です」
「話は済んだか?」
「ああ」
「私がタゲを取る、その間にお姫様が弓で破壊、ナイトはボスの妨害を行え」
「了解だ。いいか姫?」
「了解です」
黒髪の女の子が手裏剣でタゲを取り、ボスが動き出し、二人が離れてから待機する。
十分に追い込まれた黒髪の女の子に、ボスが攻撃するが、軽く避ける。
「十分だ」
黒髪の女の子の合図に、アルトが姫に頷き、姫が弓矢で攻撃し始める。
逃走防止オブジェクトの攻撃妨害ルーチンのあるボスは、動き出すが、忍者刀で斬りつけて来た黒髪の女の子を鬱陶しそうに反撃し、これを避けるころ合いに、アルトがボスのアキレス腱を木刀で殴る。
ダメージの表示に、弱点HITと追加されていた。
「弱点!」
更に彫像のアキレス腱を攻撃し、黒髪の女の子に教え、納得とした顔で頷いた黒髪の女の子は、弱点と思しき場所に攻撃を開始する。
間接に攻撃し始める事で、ボスへのダメージは飛躍的に増え、ボスも反撃するが、黒髪の女の子は軽く避けていき、掠りもしない。
オブジェクトは中々壊れず、かといってもボスの耐久度は高い、他の彫像も集まってくるという状況の中、奥より他のプレイヤーの姿が見える。
透き通る様な銀髪の女の子、薄く発光するペールピンクの女の子。
「なんで男がいるのよ」
銀髪の女の子が不機嫌そうにアルトを睨んで言う、片方のペールピンクの女の子は苦笑してから装備を実体化させ、斧槍を握る。
「ひとまず加勢するよ、銀はどうする?」
「名前は別にあるのよ?」
「でも皆さんは納得しているみたいだよ」
「桃色頭」
「はいはい。じゃ加勢するよ」
斧槍を握ってボスに向かう小さな桃色頭の女の子、銀髪の女の子の方は不機嫌そうにアルトを睨んでから、イライラと苛立たしげに装備を実体化させてボスに攻撃する。
まともそうなタイプは皆無という状況はアルトの精神を苦しめる。
黒髪のクールな女の子、銀髪の男嫌いの女の子、黒髪の清楚な方は片割れ、桃色の方は巨大な斧槍を振るい、顔には嬉しそうな戦っている戦闘狂だ。
夢も希望もない様な環境だ。
「くそ、くたばれ!」
アキレス腱への力一杯の攻撃が、木刀の耐久度を突破し壊れる、だが気付いた黒髪のクールな女の子の方が飛び出して役割を受け持つ。
「装備を実体化する間は持つ」
「了解だ」
次に選択したのが槍、木製の槍に構える。
「もういいぜ」
黒髪のクールな女の子がちらりと見る、槍に特に何も言わずに元の持ち場に戻り飛び出した。
槍でアキレス腱を突き、木刀より大きなダメージが入り、微かにヒビが入る。
「おっひびが入った」
更に突き刺し、二度、三度の攻撃を与えると石が壊れていく、蓄積されたダメージによりついに崩壊前らしい。
「おーい。そろそろ壊れるぞ」
アルトの気の抜けた様な声に、銀髪の方は一瞥もしない、黒髪のクールな方は何やら思案顔で、桃髪の戦闘狂の方は残念そうな顔だ。
誰一人喜ばない環境はあまり歓迎できなかった。
首を振ってから渾身の一撃を繰り出し、突き刺した槍の穂先が壊れたが、ボスのアキレス腱は完全に破壊され、ボスが倒れる。
「また壊れた」
「よく壊すね」
「武器が脆いんだ。そうに違いない」
槍を捨てる、倒れたボスのHPゲージはまだあるので、行動は不明になっても健在だ。
次の装備を選択し、斧槍を実体化させる。
「ナイト、お前はオブジェクトを壊せ」
「了解だ」
「桃色、銀髪は私についてこい」
「何を?」
「後ろの足止めを行う」
「戦えるのなら賛成」
「了解」
接近する一般の彫像の先頭に向け、黒髪のクールな女の子が手裏剣を投擲し、タゲを取る、桃色髪の戦闘狂の女の子が嬉しそうに斧槍を振るう、銀髪の方は大鎌を器用に操り彫像の関節を切断していく。
アルトと姫の方はオブジェとを攻撃し、耐久ゲージがレッドになる。
「耐久ゲージがレッドになったぞ」
「そろそろ壊れます」
攻撃を続行し、次第に崩壊し始める逃走防止用のオブジェクト、最後の一撃を加えると斧槍が壊れ、アルトが悪態をつく。
「またかよ」
三度目の武器の耐久度限界に、知らなかった姫の方は驚き、知っていた三名の方はまたか言った顔で後方に退く。
装備を選び今度は大鎌を実体化させる。
「四度目だぜ」
「・・・どうしてそんなに」
「このゲームの装備は脆い、直ぐに壊れる、酷い粗悪品だ」
アルトが装備の実体化を終えてから、後方の三名に声を掛ける。
「そろそろ行くぞ」
「殿は持つ行け」
「了解」
「もう少し戦いたかったな」
二人が離れるのを確認し、殴ってきた彫像の攻撃を避けながら反転しそのまま無視して扉に入る。
扉の先には回廊が広がり、銀髪の大鎌使い、桃髪の斧槍使い、黒髪の弓使い、唯一の少年はマルチウェポンのような使い手で、待機していた。
「今度は大鎌か」
さすがに呆れるかのような声を出した。
「アルトは何でも扱えますから」
「便利なナイトだな」
「便利?」
「何でも扱えるのならどのような状況でも戦える、便利と言わずなんという」
「・・・なるほど、まるで兵器のような台詞ですね」
「兵器?まあ確かに、軽い自己紹介を済ませよう、私はスターだ」
「俺はアルト」
「ボクは姫です」
「あたしはサツキよ」
「僕はワイバーンだよ」
「統一性は皆無だな。まあどうせそんなものだ。適当に切り抜ける」
スターが先頭になり進み出し、その後ろにアルトと姫、最後尾にサツキとワイバーン。
特に敵らしきものは見受けられず、罠の印になる様なものもない、回廊の両サイドには大きな窓があり、ガラスのようなものではなく風がそのまま突き抜けそうな物ではあるが、一切の微風すらない。
歩く中、回廊の丁度真ん中、床の微かな変化にスターが止まり、後ろも止まる。
「アルト、ここはを叩け」
スターの指さすところを大鎌を振り下ろし、大鎌が壊れる。
「またかよ。脆すぎる」
「いや、違ったようだ。恐らくLA、ラストアタックを決めた時に耐久度はダメージを負う、それも武器が一撃で壊れる様なダメージだ」
「じゃ何か、LAを決めたら武器は壊れる、ってことは敵は倒せなくなるって」
「近接用の武器に何らかの措置が取られるようなことがあった、それがなんであるかは興味はないので探らないが」
「それは困るよ」
「・・・本当に困るのか?」
「うん。僕は斧槍が好きなんだ」
ワイバーンの言葉に、スターは理解できない様子で困り、他の者は理解できるので納得していた、それがよりスターを困らせた。
「まあいい」
壊れた個所を調べ、小さな箱が隠されていた。
「宝箱か、悪くはないが」
「休憩って事でいい?」
「構わん。だが離れすぎるな」
「了解」
宝箱を調べるスター、その近くで装備の実体化を行うアルト、その傍で矢の実体化で補充を行う姫、サツキの方は窓の方に腰掛け、ワイバーンの方は武器の耐久度を調べていた。
宝箱を開ける、内部に鍵かあった。
「ふむ鍵か」
「スター」
「なんだ?」
「僕の耐久度はそれほど減っていなかった」
「ワイバーンの場合、LAは?」
「うん。何度も決めたその回数分減っている」
「なるほど、詳しく検証しなければならないが、基本的にLAはアルトに任せた方がいいな」
「そのようだね」
「アルト」
「ああ任せろ」
「すまんな」
アルトに詫びるスター、黒一点の方は考えてから尋ねる。
「さっき斧槍が好きだといったワイバーンに理解できなかった」
「道具は所詮は道具というのが私の考えだ。しかしお前たちは違うのだから、大切な物を壊すかもしれないのだから詫びる訳だ」
「なるほど、間違ってはいないが、恐らく全員が別に大切という訳じゃないんだ」
「そうなのか?」
「ああ。ただ武器は一種類に付き1個だ、使い慣れた物が壊れるのは嫌だという意味だ」
「なるほど、それならばわかる。感謝するぞ」
「ああ」
近くの方を調べ、更に発見した場所見付ける。
「アルト、ここを壊せ」
「あいよ」
薙刀で壊す、今回も壊れ、捨ててから別の武器を取り出した。
「ちくしょう。卒中壊れやがって」
次に出したのは鈍器のメイス、さすがに気の毒に誰もが思う。
スターも壊されたオブジェクトの下を調べ、内部にあった鍵穴。
「鍵穴だ」
「隠し通路か?」
「恐らく」
鍵穴に先程に手にいれた鍵を入れる、上手く嵌り、回したら、鍵が開いた。
「運がよければクリアだ」
鍵の周りを外し、一瞬で何か音を聞いたアルトがスターを止めようとしたが、黒髪のクールな女の子には間に合わない様子で、仕方なしに前に滑り込む。
バン!
爆発、アルトのHPゲージが減り、痛みの為に動けないが無理矢理動いてスターを蹴飛ばした。
バン!
二度目の爆発でアルトのHPゲージはさらに減少する。
「超痛てぇ」
「シルト!?」
「まだ近づくな、トラップが続くかもしれない」
「貴女という人は・・・」
「アルトにとってみれば姫を巻き込むのは本望ではない」
「言い過ぎました」
「構わん」
警報が鳴る、全員が聞き武器を握る。
「性格が悪いぜ」
「戦えるかアルト?」
「まあな」
「ここの地形は不利だ。前に進むぞ」
「空警報だという落ちは?」
「・・・ふむ。全員落ち着け、少しの間だけ待機するぞ」
特に来ない事にアルトの予想が当たったらしい、スターとしても助かる話でもある。
「空警報、つまり脅しだな」
「戦えると思ったんだけどな」
「誰かPOTないかしら?一応ダメージを負ったこいつを回復させないといけないのじゃない?」
「ないよ。ここが何処かはわからないけど、POTの方は必定品だから真っ先に調べたけど」
ワイバーンがそう言って首を横に振る、他の者もそれでは仕方がないといった顔でいる、唯一ゲームの初心者の姫はわからないが、HPゲージを回復させるアイテムと理解していた。
「さて、このダンジョンをどう攻略する、作戦会議と行こう」
全員がスターの下に集まる。
「まずは目的だ。ニューゲームの者は手を上げてくれ」
5名とも手を上げる、これにスターは微笑し、確認した。
「一人一人の動機、もしくは目的というものを尋ねてもよいか?」
四人が頷いた。
「まずは私だが、修行だ。次にアルト」
「冒険だ」
「お前は男の子だな。まあいい次に姫」
「アルトに巻き込まれてってのが本音です」
「そうか。もしかしてとは思うが、家族なのか?」
「隠してもな、まあそんな所だ。半分って奴だ」
「はい。片割れです」
「府に落ちんが、まあそう言う事にしておこう」
「いや本当だぞ?」
「・・・だとするとアルトは大変だな」
「なんでだよ?」
「・・・私の口からはとても」
「もしかして彫像で」
「もしあのままだと、間違いなく困った状況だったぞ」
彫像の横で、姫がアルトの腕を絡めようとしていた場面を目撃していたらしい。
「色々辛くなる」
「頑張れ少年、お前の理性が常に勝つことを希望する」
「ああ」
知らない二人は困った顔で聞いていた。
「さて、次にサツキ」
「修行よ。これでも細工師の見習いなの」
「次にワイバーン」
「僕も修行だよ。戦士と料理の二つの」
「なるほど、3名は修行、1名は冒険、1名は特になしという事にしておこう」
スターが纏め、思案した顔でアルトを見る。
注目が集まる中、スターは意を決してアルトへと質問を行う。
「武器の扱いは巧みだな、ただ単に振るうだけではないようだ」
「少し習っただけだ」
「とても大切な事だが、経験はあるか?」
「なんの?」
「実戦経験だ」
「いやない」
「なら何の訓練を受けた」
「武器の扱い方だ。自衛にはなるからな」
「そうか。表ならそう答えるしかないのだな」
「ああ。悪いな」
「いやいい。色々な厄介な時代たからな、ワイバーンは」
「ないよ。有る訳がない」
「そうか。アルトと同じ意味か?」
「どうかな。アルトの様な意見じゃないよ、何せ僕は戦闘狂な所があるからね」
「そうか、ならサツキは?」
「あたしは細工師見習いよ。有る訳がないじゃない」
「男は嫌いか?」
「嫌いよ」
「なら男が声を掛けてきたら?」
「勿論股間を蹴り上げて吹き飛ばすわね」
「なるほど、まあ姫の方はないな、とするとふむ。悪くはない戦力だ。ありとあらゆるものが不足するが、戦士が二人か、悪くはない」
「あー。僕は経験がないよ本当だよ」
「どうせ陰で色々と暴れているタイプだろ」
「アルトそう言う過激な事は禁止だよ。僕だって色々と有るんだから」
「そうかぁ?どうせ暴れる話が来たら飛びつくんだろ」
「そう言うのはね、正当防衛という」
「酷でぇ話だ。相手が余りに可哀想だぜ」
「ちゃんと手加減したよ失敬な」
「手加減ね。どうせこいつはまだ生きているって意味だろ?」
「法的には問題はない」
「さすがに殺人はダメよワイバーン、相手にも身内は要るし」
「僕をなんだと思っているのさ!酷いよ!」
「戦闘狂?」
これにワイバーンが黙る、本人も自覚がある事に、戦えるのなら幸せという危険な一面のある趣味の持ち主、別にであったことがない訳ではないアルトも、まだマシな分類な奴ではあった、少なくても言葉の通じる相手だ。
「放置したら永遠に戦いそうだなお前は」
「そう言う夢のような」
本音が溢れる様な目を輝かせて言う、少なくてもアルトと同様にまともな奴じゃない、平和の方が好きなアルトに比べ、普通の一般人からは隔離した方がいいような危険な生物だ。見た目は可愛らしい桃色の髪の女の子としても中身が違う。
「外見と中身の不一致か」
「よく言われるよ」
「そっか、苦労したな」
「・・・なんで君はそんな顔をするのさ」
アルトは何かしらの経験から察したような顔で、ワイバーンを見ていたのが、本人からすれば実に心外そう。
「俺も色々と有ってね、いつも上手く行くとは限らないものだ」
「男の子にも何やら色々と有ったようだね。姫ちゃんが可哀想」
「仕方ないものだ。道別れるその日まで、故郷の言葉だ」
「・・・」
ワイバーンは何も言えなかった、いずれ別れるその日がある事を、少年が知っている事を言っているようなもの、哀しそうな姫の方は、泣きだすのではないかと思うほど悲しそうだ。
「道は繋がるのなら別れるのが定め、これは必定だ」
「冷たい台詞ね」
「経験のない奴、特有の台詞だな」
「・・・」
「冒険に出ればどこで躯になるかもわからないぞ、それなのに帰ってくる約束でするのか?」
「言い方ってものがあるでしょうが!?」
アルトの言葉に激高するサツキ、黒一点の少年は静かに苦笑して、侘びの言葉を口にした。
「すまん」
「どうだか」
「身内に居るのなら俺は失礼があった、心より詫びる」
銀髪の少女に、頭を下げたアルト、大鎌を構えから振り下ろそうとするが、耐えてから下ろした。
「貸しだから、ちゃんと返しなさいよ」
頭を上げてからアルトは軽く頷いてから、言葉を紡ぐ。
「感謝を、旅の人よ」
「・・・これだから男は嫌いなのよ」
それぞれには事情というものがあるらしい事を姫は知った。
流れを見ていたスターが、優美な顔で思案から納得のような顔になって、桜色の唇を開いた。
「色々と分かったが、前に進むぞ」
作戦会議は終わったという事らしく、それぞれが歩き出した。