上を向かない睫毛
年齢制限はつけてませんが
遠回しな性描写があります
女の子は二つあるうち一つの華やかさが選べるんだよ
白くて艶やかで柔らかそうな肌が画面に映った
吸い付いたら甘そうな紅色の小粒の乳首はふとつまみたくなる程愛おしかった
迸る汗と自分を欲しがる嬌声が聞こえた
動画を削除して
自分は電源を落とした
画面に滴が一つ落ちた
美小夜の気持ちは中学生を卒業した日に初めて知った
わたしが昔告白したの覚えてる?
私それからずーっと好きだったの
もう会えなくなっちゃうから…
美小夜の髪 綺麗だな
美小夜はきっと何も知らないんだろうな
自分が抱き始めた汚い感情
周りの奴らの目線とか
きっときっと美小夜は純粋で綺麗なんだろうな
灯台の下で海風に髪をなびかせるような子だな
そんな美小夜がたまらなく愛おしくて、
ありがとう、って言って
自分も同じだよって思っていた
美小夜、忘れないよ
何歳になっても大好きだよ
また会えたらきつく抱きしめてあげたいな
サラサラの髪を撫でて 細くて自分の中にすっぽりと入ってしまう美小夜を包んで眠りたいな
たくさんの月が自分の、焦らされて熱がこもる心を溶かしていった
会いたい
って言われて
びゅーんって車を飛ばした
焦ってフォームなんて考えられなくて
もう頭には美小夜しかいなくて
美小夜 に会える
でもなんだか胸騒ぎがして
背中がぞわぞわして
眼光はいつもと違くなる
あれ なんか
これ本当に美小夜なの
化粧が濃いよ
唇と髪の毛が卑しいよ
なんでそんなに肌出してるの
ちがう 最後に見た美小夜とちがう
違う違うちがう
誘われた声は以前のままで
こんなお店入りたくないよ
美小夜と行きたいのは冷たい風の吹く海の灯台だよ
サラサラなびく美小夜の髪を撫でるはずなんだよ
何度も何度も自分をしつこく求めるこの女は誰だろう
なんで美小夜と同じ声をしてるのかな
昔の美小夜をちらつかせてるみたいで、自分を馬鹿にしてるみたいで腹が立った
だから動画を撮った
その女を乗せて帰路を辿っていたが
ふと考えた末
峠へ向かう道へ走った
家こっちじゃないよ?どうしたの?
もう なんかいってよ
そういえば今 家の旅館のお手伝いしてるんでしょ?
すごいね! 私にはできないよ!
ずっと軽い調子で話している
仕事とかプライベートなことかの人に聞かれたくないな 結婚なんて考えて欲しくないな
なんで美小夜と同じ声してるのかな
美小夜から奪ったのかな
綺麗で誰も触れられないような美小夜が羨ましかったのかな
自分の気を引きたくて真似してるのかな
「降りろ」
首を傾げてる
わからなかったのか
「降りろよ!!」
ドアを開けて 腕を引っ張って引きずり出した
やめてよ!!私なんかした?
全部あなたが悪いのに
こんな安っぽい女が美小夜の真似して良いわけない
思いっきり頭を蹴飛ばして
その女は吹っ飛んで
ガードレールにぶつかり その音が静かな峠へ続く山道には不自然な大きさで響いた
意識はあるが起き上がれない女は
置いてかないで
こんなところでひとりにしないで
って叫んでいる
どうせまた誰かがここを通るから
その安っぽい媚を売って乗せてもらえよ
冷たい夜風と一体になった車を走らせた
バックミラーから、女がズルズルとコンクリートに伏せていくのが見えた
美小夜をばかにしたからだよ
その罰だよ
それにしても
手の届かない海の香りがする汚れのないあの美小夜は今はどうしているのだろう
一つは
姫君の美しさは隠された完璧を匂わす手の届かない奥ゆかしい華やかさ
二つは
遊女の美しさは儚くて今にも壊れそうで垢にまみれた心に狂わされ 己のこの手で楽にしてあげたくなる華やかさ
また会えたらいいなあ
そう独り言で呟いて
期待と外の冷えた空気を肺にいっぱい吸い込んだ
恋を追い求める二人に生まれてしまったすれ違いの差をより誇張して描きました