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第九十九話 語らい



 テントの設置が終わると、僕達は食事をとることにした。亜空間収納(インベントリ)の中には調理済みのものもある。

 本当なら野営料理を体験してみたかったが、それでは匂いで魔物を呼び寄せてしまうかもしれない。この閉ざされた空間では料理なんておちおち出来やしないのだ。


 僕は人数分のサンドイッチを取り出して、全員に配る。ソルにも渡そうとしたが、味覚なんてないから要らないと断られてしまった。


 僕は人数分の椅子を作るった。背もたれのない丸椅子に座り、水魔法で手を洗ってサンドイッチを食べながら体を休める。勿論、周囲への警戒は怠っていない。椅子を作ったのも、地面に座るよりも咄嗟に動きやすいからだ。

 体を休めながらも神経は完全に休ませきらない。ある種の緊張を程よく残したまま休息をとる術は前世でしっかりと身につけている。


 一流の冒険者であるレオーネや魔導師のソルも問題なく休めているが、セリアはやはり経験不足だからか、過度に緊張している。


 そういえばセリアに課した訓練って戦闘訓練や魔道の技術向上がメインで、こういう旅やサバイバルの技術はほとんど教えてなかったね。


 旅の支度なんかも殆ど僕がやってるし……今度しっかり教えることにしよう。

 とりあえず今はセリアの緊張をほぐさないとね。この先どんな魔物が出てくるかわからないのに、しっかりとした休息がとれないのは問題だ。


「セリア、そんなに全力で警戒しなくていいんだよ。ほら、こっちに来てプリンでも食べよう」


 僕はセリアを手招きする。プリンの一言に釣られたセリアは、僕の隣に来るとすぐさまプリンをぱくつき始めた。

 プリンに夢中になるあまり、とても無防備になっている。プリンで膨らんだ頬をつつくのも簡単そうだ。


「……セリア、警戒しなくていいってことじゃないよ?」

「……! でも、休みながら警戒、不可能」

「うーん、なんて言うのかな、意識の外側で警戒する、みたいな? 頭で考えて警戒するんじゃなくて感覚だけ研ぎ澄ます感じだよ」

「難しい……けど、やってみる」


 今度は体があんまり休めてないけど、まぁさっきよりはマシかな。急に出来ることじゃないし、少しずつ慣れていけばいいんだ。


「さて、ご飯も済んだし後は寝るだけだね。見張りは二組に分けてやればいいかな? 二時間で交代ってことで。と言っても時計がないから感覚でだけど」

「オレは今スライムの体だから、睡眠は必要ねぇ。見張りはオレ一人で十分だ」


 ソルがぷるんとしたボディを見せつけるように、体を前に突き出す。……できるぞっていうアピールなのかな? いや、スライムってことを強調してるだけか。


「ダメ。肉体的な疲れはなくても、精神的には疲れてるでしょ? ましてやソルは自分で体を動かすのは久しぶりなんだし、休憩はしっかり取らないと」

「……本音、は?」


 うぐっ、流石はセリア、長い付き合いだけ合って僕の考えなんてお見通しか……。


「……冒険譚みたいに、火を囲んで夜通し話すってのに憧れがあるんだよ」


 そもそも、僕が旅に出ようと思った理由は冒険譚に憧れたからだ。未知の世界に仲間とともに歩んでいく。そういうロマン溢れる事がしてみたいんだ。


「はっはっは! いいじゃあねぇかぁ。そうだよなぁ、男なら冒険譚に憧れるもんだぁ。まぁ、今回はダンジョン内だし、火は起こせないがなぁ。よし! ソーマ、今夜は俺と語り明かそうじゃあないかぁ!」


 レオーネは僕の背中をばしばし叩きながら豪快に笑った。

 レオーネと話すのか。うん、とっても楽しみだ。なんていったって、レオーネはSランク冒険者。実力もあって、僕達の大先輩とも言える。そんなレオーネの話を聞けるのは本当に幸運なことだ。


「じゃあ、組み分けは僕とレオーネ、セリアとソル……おっと、フューもいるね。悪かったよ」


 自分の名前が出なかったことに、フューが怒っているのが伝わってきた。慌てて訂正して謝ると、フューはすぐに許してくれたようだ。


「ソルと……良い機会……かも」


 セリアが何か呟いているようだが、よく聞こえない。まぁ不満はないようだし気にすることじゃないか。


「じゃあまずは僕らが先に見張りをするから、セリアとソルは休んでよ」

「話に夢中になって、警戒を忘れるんじゃねぇぞ」

「ん、おやすみ」

「わかってるって。おやすみ」


 セリアとソルはそれぞれ別のテントに入っていった。それを確認した僕とレオーネは向かい合うようにして椅子に座った。


「さぁて、まずは何から聞きたいんだぁ? 折角なんだからなんでも聞くといいぞぉ」

「そうだね……」


 今の状況はソルに僕の行動が見られていないという滅多にない状況だ。だから昔の仲間であるレオーネにソルのことを色々聞きたいんだけど、それはまだちょっと早いかな。ソルもまだ寝てないだろうし。

 ソルはどうも昔のことを知られるのは嫌みたいだからね。


「レオーネのその大剣について詳しく聞きたいな。神具って初めて見たから」


 正確に言えば、転生の神、アゼニマーレに貰った指輪は神具なんだろうけど、貰った経緯が特殊だし、詳しいことはわかっていない。だからレオーネの神具について聞いておきたかった。

 特にデメリットついてが気になる。僕のこの指輪にもデメリットがあるとしたら、それは早急に把握しておかないといけない。アゼニマーレは完全に信用できるわけじゃないしね。


「ん? ソルの神具はまだ見てねぇのかぁ? ああそうかぁ、確か今はあいつが持ってるんだったかぁ。ここからはとんでもなく遠いしなぁ。よぉし、そういうことなら話してやろう」


 ? ソルも神具を持っていたのかな? いや、大賢者とまで謳われたんだから持っていても不思議はないか。それも気になるけど今はレオーネの話に集中しないと。


「ざっくりとは話したがぁ、コイツは俺の記憶と引き換えに力を発揮する代物だぁ。具体的に言えばそうだなぁ、ソルの【雷炎龍】並の攻撃をひと振りで出来るって言えば伝わるかぁ?」

「!? それってとんでもなく強くない?」

「はっはっはっ! まぁ、そんだけ力を引き出せばぁ、代償も馬鹿にならねぇがなぁ」


 そうだった。力を引き出せばその分だけ代償として記憶を失うんだった。


「でも、残しておきたい記憶は残せるんでしょ?」

「そうなんだがなぁ。それにも制限があるんだぁ。残しておける記憶はぁ、自由に選べるがぁ、合計で二十四時間までなんだぁ」

「それは……短いね」


 二十四時間しかないとなると、どうしても取捨選択が必要になるだろう。細切れに大切な記憶を集めたとしても、どうしてもこぼれ落ちる部分が出てくるはずだ。


「あぁ、だから俺は日記をつけることにしてるんだぁ」


 レオーネは鞄からしっかりした作りのノートを取り出した。紙ではなく羊皮紙を使っているようで、早々破れたりして読めなくなることはなさそうだ。


「日記をつけておけばぁ、記憶がなくなっても過去を知ることが出来るからなぁ。それに、たまに見返して思い出しておけばぁ、代償に使える記憶が増えるんだぁ」

「……あぁ、そうか。覚えておかないと代償として使えないんだね」


 それもそうか。代償にするのはあくまで記憶なんだから、忘れていることを代償にすることは出来ない。できるだけ多くのことを記憶しておくには日記が最適なんだろう。

 レオーネが開いて見せてくれた日記は、見た目に似合わず繊細で小さな字でびっしりと埋め尽くされていた。


「今日のことも書いておくかぁ」


 レオーネは鞄から羽根ペンを取り出すと、インクをつけてさらさらと書き出した。日記を膝の上に広げて書く様子は不安定な膝上だというのに、あまりにも自然で、レオーネが今までどれだけその日記を書き続けてきたのかかが伺えた。


 ……苦労、してきたんだろうなぁ。


 少ししんみりした僕は、それを振り払うようにレオーネに問いかけた。


「神具の効果とかデメリットってどうやって知ったの?」

「神具を授けてくださった神から直接聞いたんだぁ。神具は人の技術じゃ解析できねぇからなぁ。基本的に皆神から教えられてるはずだぞぉ?」

「そうなんだ……」


 うーん、この指輪のことが少しでもわかるかと思ったんだけどなぁ。まぁ、そんな方法があったらソルが既に試してるか。


「じゃあ、神具を得られる時ってどんな時なの? Sランク冒険者になった時に貰えるってのは知ってるんだけど、それ以外にもあるの?」

「あるぞぉ。国を救うほどの功績をあげた時とかぁ、神に何らかの役割、例えば勇者とかの役割を与えられた時とかなぁ。後は人を救う為にその人生を捧げた者に与えられたこともあったなぁ」

「なるほど……。神具は神が人に与える褒美みたいな扱いなんだね。ん? そうなると冒険者ランクが高くなると神具が貰えるのは何でなんだろう。ランクが高くなることが神様にとって都合がいいのか……?」


 そういえば、冒険者ランクの仕組みも神、創造神によって作られたんだった。ここまで神が関わってくることはあまりない。やっぱり何かあるんだろうか。


「さぁ、そこら辺は俺にはよくわからねぇなぁ。あぁ、そうだ、Sランクになった時だけじゃなくて、SSランクの冒険者になった時にも更に強力な神具が与えられるってのは知ってるかぁ? まぁSSランクまでたどり着いたのはギルド発足から今まででたった一人だけらしいがなぁ」

「ギルドで聞いたことはあるよ。なんでも一振で千の敵を薙ぎ払うんだっけ? SSランクが一人しかいないっていうのは初耳だけど」


 ポイントだけで考えれば、長寿のエルフなんかだと不可能ではないように思うけど……SSランクになるための試練がそれだけ厳しいのか。人智を超えた神具を手にすることが出来るのだから、当然といえば当然なのかもしれない。


「まぁ、神具についてはこんなもんかぁ。あと聞きたいことはぁ……やっぱりソルのことかぁ? ソルもそろそろ寝ただろうし色々話してやるよぉ」

「本当!? 是非頼むよ! ソルってば色々と隠したがるからさ……。レオーネのことだって今日初めて知ったし」

「とはいってもなぁ、何から話せばいいかわからないんだぁ。だから質問に答えていく感じにしたいんだがぁ、それでいいかぁ?」

「了解!」


 何から聞こうかなぁ。滅多にない機会だ。存分に活かさないと!

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