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第九十七話 明白な実力差

 セリアは水を受け取り、喉をこくこくと鳴らしながら水を流し込んだ。


「ありがと」

「そういえば、使わなかったんだね」


 セリアはさっきの戦いで属性眼を使わなかった。使っていればもっと楽に倒せただろうに……。


「ソーマと同じ」

「なるほど。実力試しと訓練か」


 ソルがセリアに戦わせた理由もそんな所だろうし、使わなくて正解かもね。


「よぉし、それじゃぁ、そろそろ先へ進むぞぉ。ソーマもセリアもぉ、結構戦えるみたいだしなぁ」


 それから現れたBランクの魔物は、ソルとレオーネが瞬く間に倒していった。レオーネが斬りこみ、ソルが援護する。二人の連携は流石はかつての仲間といったところで、十数年ぶりとは思えないほど完璧だった。


 ちなみに今まで倒した魔物の死骸は、使えそうか売れそうなもの以外の素材と魔石はソルが食べて(吸収して?)いる。これでフューの変身形態と魔力が上がったはずだ。


 大した問題もなく突き進んでこれたが、最後まで何事も無く――というのは無理なようだ。僕達の目の前には、Aランクの魔物、ゴブリンキングが居た。


「Aランクまで出てくるの!?」


 ゴブリンキングは、ゴブリンのような貧相な体つきではなく筋骨隆々といった力強い体を持っていた。その上ゴブリンには一切なかった品のようなものを持っている。達人の様なオーラ、といえばいいだろうか。

 もはやゴブリンとの共通点は浅黒い緑色の肌と濁った目くらいだ。

 木でできた棍棒くらいしか持たないゴブリンと違い、かなり上等な剣を持っている。


「ちったぁ歯応えのありそうな奴じゃねぇか」

「ここはぁ、俺とソルにぃ任せろぉ。とは言っても、流石に無手じゃ面倒だなぁ」


 レオーネは背負っている神具の大剣を、鞘から抜かずに構えた。抜かなければ神具としての能力は使えず、代償も必要ないのだろうか。


 ソルとレオーネは焦った様子もなく戦闘態勢に入った。レオーネは、一瞬姿を見失うほどの速さでゴブリンキングに斬りかかる。

 圧倒的な質量を誇る大剣がゴブリンキングを潰さん勢いで襲いかかるが、敵もさるもの。手にした剣で受けられてしまう。


 虜力では互角のようで、激しい鍔迫り合いが行われる。だが、ゴブリンキングの敵は一人ではない。


 レオーネは急に横へと飛ぶと、レオーネがさっきいた場所を炎の球が通り過ぎ、ゴブリンキングに襲いかかる。


 目の前の敵が消えたかと思えば、急に炎の球が現れたゴブリンキングは慌ててそれを回避する。だが、咄嗟の動きだったためわずかに重心がぶれた。それと同時に重心が傾いた側の足元の地面が僅かに沈み、ゴブリンキングはさらに体勢を崩す。


 それを見逃すレオーネではなく、上段から大振りで斬りかかる。ゴブリンキングは避けることも出来ず、無理な体勢で受けるしかなかった。レオーネの大剣の威力でゴブリンキングが地面に沈み込む。


 ゴブリンキングは剣を傾けてレオーネの剣を流した。その隙にくるぶしほどまで埋まった足を引き抜こうとするが、そうはさせじと地面から土の蔦が足に絡みつく。

 ゴブリンキングは引き抜くのを諦め、剣を地面に叩きつけた。拘束を解くのと同時に石の礫でレオーネを牽制する狙いだ。だが地面から放たれる弾丸は向きを変え、ゴブリンキングへと襲いかかる。ソルの風魔法の仕業だ。


 ゴブリンキングは硬い表皮のおかげで無傷だったが、レオーネの行動の阻害に失敗した。剣を下に向けたままのゴブリンキングにレオーネの力の乗った一撃がその首を刎ねようとする。


 ゴブリンキングは上体を思いっきり逸らし、地面に手をついて身体を跳ねさせた。綺麗なバク転だ。


「今のでも倒せないのか」


 二人の完璧な連携に見とれていた僕は、そうぽつりと漏らしてしまう。

 完全に決まったと思ったんだけどな。流石はAランクだね。でもソル達もまだまだ力を温存してるね。何せソルの魔法がちょっとした補助にしか使われてないんだから。



 ゴブリンキングとレオーネの距離は5メートルほど。この二人にとっては有って無いような距離だが、それでも当然動かないと剣は当たらない。だというのにレオーネは大剣を大きく振りかぶった。

 どっしりと地に根を張るかのごとく地面を強く踏み締め、全力を持って大剣を振り下ろす。大剣は何も無い空間を切り裂くが、そこから斬撃が飛んでいくかのように天井と地面を深く切り裂きながら不可視の刃がゴブリンキングへと襲い掛かる。


「剣圧を飛ばした?」


 いや魔力が込められているみたいだ。一種の魔法なのかもしれないね。


 レオーネの放った剣撃に追従する形でソルが二つの氷の刃を放つ。隙間を埋めるように放たれたそれは、この狭い通路では回避不可能な攻撃となる。


 ゴブリンキングは迫り来る不可視の斬撃と氷の刃を前に、しゃがんで体を低くした。そして地面を後ろに蹴り弾丸のように目の前の攻撃へと突っ込む。接触の瞬間、剣を突き出して自らが通る穴を作り出す。


 面の攻撃に対して点で突破したわけだ。ゴブリンキングはその勢いのままレオーネへと件を突き刺そうとする。不意をついたつもりだろうが、そこは経験の差か、二人はその動きを完全に読んでいた。


 レオーネはその場に勢いよくしゃがみこんだ。ゴブリンキングは突きがかわされるならばと剣の振り下ろしへと攻撃を切り替えるが、レオーネがしゃがみこんだのは回避のためではない。


「これで終わりだ。【雷炎龍】追加で【水素爆発(ハイドロプロージョン)】」


 雷を纏った炎の竜が大口を開けてゴブリンキングに噛み付く。ゴブリンキングがそれを防ごうとするが体の左右で起こった小規模な水素爆発によって無防備な体を晒させられる。


 雷炎竜はゴブリンキングをその体の中に取り込むとそのまま飛び去っていき、かなり遠くの迷宮の壁にぶつかって消えた。壁が大きく抉れ、ヒビが入っているのがここからでも見える。その壊された壁の中央にゴブリンキングが埋まっている。


 ゴブリンキングは壁から体を引き剥がすと、ふらふらとした足取りで数歩歩き、地面に倒れ伏してそのまま動かなくなった。完全に死んだようだ。


「【雷炎龍】と【水素爆発(ハイドロプロージョン)】を受けても即死じゃなかったか。ちっとは頑丈なやつだな」

「いいところぉ、全部持ってかれちまったなぁ」


 少し残念そうにレオーネが言う。大して疲れた様子も見せない。


「僕とセリアがあんなに苦戦したAランクの魔物を無傷で……」

「……」


 セリアも言葉を失っているようだ。いや、僅かに唇を噛んで悔しそうにしている。自分とソル達との間にある力の差を感じているのだろう。

 それは僕も同じだ。悔しい。もっと強くなりたい。


 拳を強く握りしめ、俯いて地面を見ると微かに焦げた跡が見えた。変だな、ソルの魔法はここには当たっていないはずなのに。

 よく観察すると、そこ以外にもところどころ焦げ跡があった。

 僕らよりも前にここに来たことがある人がいたのかな? Aランクの魔物がいるって噂があったってことは、過去にここまで来てAランクと戦った人がいても不思議じゃない、か。


「じゃあとっととゴブリンキングの素材回収するぞ。つってもコイツの素材なんてほとんど使えねぇから、魔石だけだがな」


 Aランクを倒したのに、得られるのは魔石だけか。なんか損した気分だ。


 僕達はゴブリンキングが倒れた場所へと行き、魔石を回収した。ゴブリンキングの体はソルがスライムの体に取り込んだ。


 後に残るのは無残にも破壊された壁とゴブリンキングが流した血で汚れた床だけだ。振り返ると、飛ばした斬撃や魔法で破壊された通路が見える。


「派手に壊したね……このダンジョンって魔道具になってるんだよね? 機能しなくなったりしないかな」


 ここまで大きいんだから、僅かな傷で機能停止とかにはならないだろうけど、流石にここまで壊すと少しの不具合くらい出そうなものだけど。


「知らないのかぁ? ここは傷ついても勝手に治っていくんだぞぉ? この壊れ具合だとぉ、二日もあれば綺麗さっぱり治っちまうんじゃねぇかぁ?」

「自己修復までついてるのか。万能すぎるよ……」

「ん、とても興味深い。やっぱり壁剥がしたい」

「同感だ」


 再び魔道バカの顔になる二人。穴が開くほど壁を――正確にはダンジョンを見つめている。


「二人とも。後でだからね? 我慢してよ」

「ちっ、わかってるっての。……そういやそろそろだな」

「あぁ、この都市にかかってる魔術が来るタイミングか。魔力で弾けばいいんだよね?」

「あぁ、集中力こそ必要だがそう難しくはないはずだ。お前らならな」


 それならいいけど、失敗して小動物にでもなったらシャレにならないよ。


 僕達はしばらくその場で待機し、魔術が来るのを待った。数分としないうちに、鐘の音がこのダンジョンの中まで聞こえてきた。


「っ!! 来たね」


 注意していると、外からの魔力が体の中に入ってくるのがわかった。それを拒むように魔力を操作する。入ってこようとする力は中々強く、全神経を集中する必要があった。

 額から汗が流れ、目がチカチカしたが、なんとか魔力に侵入されることなくすんだようだ。


 魔術が終わり、余裕が出来てから周りを見渡すと誰も変身していないようだった。汗をかくほど必死だったのは僕だけのようで、セリアは多少疲れたようだが僕ほどの疲労ではない。


 修行不足、だね。さっき感じた強くならないと、という気持ちが更に強まった。


 とりあえずは、ここの魔物との実戦で鍛えようか。僕は近づいてくる複数の気配に、戦闘態勢に入った。

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