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第九十六話 操り人形

 セリアとスケルトンナイト達との距離は四十メートルほど。鎧のせいか、スケルトンナイト達はBランクにしては遅いので、到達までには十数秒はかかるだろう。

 セリアは魔法使いだ。しかも、近接戦闘のセンスはないため、近距離での戦闘は得意ではない。近距離に持ち込まれた時点でかなり危険な状態になる。

 だからこの十数秒でどこまで削れるかが重要なポイントになってくるだろう。


「彼の者どもに凍てつく雨を。《氷弓兵の斉射(アイス・レイン)》」


 セリアの詠唱と共に、頭上に三十を超える氷の矢が現れた。矢は弓なりの軌道を描いてスケルトンナイトたちに降り注ぐ。

 スケルトンナイト達も黙ってその攻撃を受けたりはしない。各々が持つ武器、剣で、槍で、弓で、叩き落としたり撃ち落としたりと、次々に矢を防いでいく。


 だがセリアはその間にも次の魔術の魔法陣を描ききっていた。

 セリアはいつも通りの冷静な声で詠唱の言葉を紡ぐ。


「彼の者どもに大地の枷を。《土罠師の陥穽(アース・トラップ)》」


 スケルトンナイト達の足に、ギザギザの歯が噛み付く。トラバサミのような形だ。

 スケルトンナイト達は矢の対処の為注意を上に向けており、足元の警戒が薄かった。セリアの魔術によって、スケルトンナイト達は行軍を止められた。


 この時点でセリアとの距離は二十メートル。トラバサミで縫い付けられる時間はそう長くないだろう。さて、セリアはここからどうするのか。


 いや、セリアが動くよりも、スケルトンナイトが動く方が早かった。動けなくされたスケルトンナイトだったが、手まで動かないわけじゃない。弓を持った者はその弦を引き、矢を放ってきた。


 セリアはその矢を炎で焼いて落とすと、矢の持ち主目掛けて炎の弾を飛ばした。どうやら威力度外視で、速度のみを追求した魔法のようだ。


 だが、そんな威力の魔法を放ってどうするのか。その答えはすぐに得られた。セリアの魔法はスケルトンナイトの弓の弦に当たったのだ。


「なるほど。弓使いを無力化するなら、弦を燃やすだけで十分だもんね」


 弦の大半は植物から作られている。かなり燃えやすいだろう。とはいえそう簡単に使える手段ではない。魔法の制御において非常に優れたセリアだからこそ、二十メートル離れた細い弦に当てることが出来るのだ。


 遠距離攻撃を潰したセリアは、魔術の詠唱を始めた。高度な魔術を使うつもりのようで、長い詠唱だ。やがてスケルトンナイト達はトラバサミを破壊し、セリアへと迫り来る。


 距離は十メートル、九メートル、八メートルとぐんぐん縮んでいくが、セリアの魔術はまだ発動しない。距離が一メートル程になり、いつ攻撃が当たってもおかしくなくなった。魔術が間に合わなかったのかと思い手助けに入ろうとする頃になって、ようやく詠唱が終わった。


「――稲妻をその身に宿した剣士よ。私を守れ。《創造(クリエイト)雷の剣士(サンダー・ドール)》」


 雷を纏い、剣を持った人型の何かが現れた。


「あぁん? あれは……土と雷の融合魔法か? だが、人形なんて作ってどうするつもりだ」


 ソルの言葉通り、現れたのは人形だった。魔術で作った人形と言えど、ゲームでよくあるゴーレムのように自動で動くなんてことは無い。動かそうと思えば、人形に直接複雑な魔法陣を刻み込んで、魔道具にするしかない。

 それだってAIがある訳でもなし、単純な動きしかできない役立たずだ。


 スケルトンナイトは剣をセリアに振り下ろした。だが、セリアは動かない。剣はそのままセリアを両断するかに思えたが、剣とセリアの間に差し込まれた、雷を纏った剣(・・・・・・)によって防がれた。


「え? な、何で動いてるの!?」


 僕は驚愕のあまり、声を出してしまう。先ほど動かないと断じた人形が動き、セリアを守ったからだ。

 人形は剣を弾き飛ばすと、セリアを守るように立つ。さながらセリアを守る騎士のようだ。


 騎士は剣を巧みに使い、スケルトンナイト達に斬りこんでいく。剣の腕は熟練の剣士と相違ない。その身に纏った雷は、武器を通じて敵を感電させて動きを鈍らせる。


「……はははっ! そういうことか! セリアのやつとんでもねぇな」


 ソルがスライムの体を飛び跳ねさせて、愉快そうに笑う。


「ソルは何かわかったの?」

「あぁ、あの人形は勝手に動いてるんじゃねぇ。セリアが操ってんだよ。体を動かす足から、剣を握る指の一本一本に至るまで、全部な」

「嘘でしょ!?」


 セリアは人間の動き、それも戦闘という極めて繊細な動きが必要なものを、全て操っているということか。

 これがどれだけ難しいかは、ロボットに人間と同じ動きをさせる難しさを考えればわかりやすい。人間の動きというものは非常に複雑なのだ。


「あ、もしかして、チェスの時のあれはそういう……」


 思い返せば、チェスでリアルな駒を作ろうという話になった時、セリアが作った駒は妙にリアルで、動きもかなり自然だった。

 前々から人形を動かす練習を積んでいたのだろう。


 ……これは努力でどうにかできるレベルを超えている気がするけども。


 驚くのはこれで終わりではなかった。セリアは人形に戦わせたまま土魔法を発動し、自分のたっている場所を盛り上がらせた。後からでは敵が良く見えず、操りにくかったため上から見ようという考えだろう。


 非常に精密で複雑な操作を行いながら魔法を行使したのも驚きではあるが、セリアはそれに加えて詠唱を始めのだ。


「人形を動かしながら更に魔術まで使う気かよ。……ははっ、そんなのオレでも出来るか怪しいレベルだぜ」


 魔導師のソルをして、そこまで言わせる技だ。セリアとて容易いことではないらしく、白い肌には玉のような汗が浮かんでいる。


「彼の者どもに凍てつく風を。《氷剣士の剣圧(フロスト・ウインド)》」


 仰け反るほどの強風が戦場を走り抜けた。その風は、僕達や人形には害を与えず、スケルトンナイト達だけを凍らせた。凍らせたと言っても全身ではない。鎧の関節部のみを凍らせたのだ。

 この魔術の難易度については言うまでもないだろう。


 そしてこの魔術を受けたスケルトンナイト達は全員動きを止めた。体に作用する魔術ならば、Bランクの魔物であるスケルトンナイトならば容易に防げたかもしれない。だが、この魔術が凍らせるのはあくまで鎧である。


 全身を凍らせなかったのは、それだけ氷結を強固にするため。一点集中型の魔術と言えるかもしれない。


 更に、凍らせたのが関節部というのも大きい。関節部に大きな力をかけるというのは案外難しい。また、腕だけ動かせるようになっても攻撃に威力が出ないので、他の多くの関節部の氷をどうにかする必要がある。


 よって、スケルトンナイトはしばらく棒立ちになることを強制される。その間に人形は、鎧の隙間に剣を差し込んでスケルトンナイト達の命を奪っていく。

 最後の一体を殺そうとした時、そのスケルトンナイトは剣でそれを防いだ。どうやら氷の拘束が砕かれ始めたようだ。


 とはいえまだ人形が有利。スケルトンナイトの拘束は完全に解けた訳では無い。人形は早く決着をつけようと剣を振り下ろそうとし――――バランスを崩して地面に倒れた。

 スケルトンナイトが其のすきを見逃すはずもなく、人形は綺麗に首を落とされ、動かなくなった。


 恐らく、セリアの集中が切れて操作を誤ったのだろう。無理もない。Bランクという普段早々出会わない相手との戦い。少しのミスも許されない人形の操作。流石のセリアでも疲れが出たのだろう。


 セリアを見ると、魔術を使おうとしているようだが焦って操作が粗くなっている。上手く魔術が発動出来ないまま、スケルトンナイトの拘束が完全に解かれた。

 セリアには実戦経験が足りていない。想定外の場面での対処はまだ不慣れなようで、冷静さを欠いている。


「セリア!!」


 僕はセリアに向けて大声で叫んだ。セリアはその声にビクッと体を震わせると、ふぅと息を吐き出した。なんとかパニックからは抜け出せたらしい。

 セリアはスケルトンナイトを正面からしっかりと見ると、作りかけの魔法陣を破棄した。


 スケルトンナイトは上にいるセリアに攻撃するため、ジャンプをする仕草を見せた。ジャンプする瞬間、背後から首のない人影が立ち上がり、スケルトンナイトの首に剣を突き刺した。


「そっか、魔法で操ってるだけの人形だから、首が落ちようとも動くんだ」


 一部が破壊されようとも、それが魔術で作ったものである以上自由に操れる。スケルトンナイトは倒したと思い込んで、敵に背中を見せてしまったというわけか。


 セリアは最後の敵を倒したのを見届けると、その場にぺたんと崩れ落ちた。


 僕はセリアの元へと駆け寄り、《亜空間収納(インベントリ)》を使って水を取り出し、手渡す。


「お疲れ様、セリア」

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