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第九十五話 狼の狩り



 僕は切っ先を回収して元の形になった刀を構え、ダークウルフたちを見据える。

 ……二体は足を怪我して、一体は片目が潰れてるみたいだね。その他は大したダメージにはならなかったか。怪我したダークウルフ達もまだ戦う気みたいだし、油断はできない。

 フューが魔術の準備をしているのを感じ、やめてもらった。ソルは僕一人で、と言ったのだ。だからフューの力は借りられないし、それに――僕一人で戦ってみたい。


 先頭にいる一際大きなダークウルフが、再び真っ黒な球を放ってきた。さっきよりも大きい。だが、このくらいなら相殺するのは容易い。僕はまた光魔法で相殺しようとしたが、それをやめて咄嗟に横に跳んだ。


 僕の横を黒い球が通り過ぎ、それを追いかけるようにしてダークウルフ達がさっきまで僕がいた場所に飛びかかっていた。


 やっぱり、さっきの魔法は目くらましか。どうりで大きさの割に威力がなかったわけだ。それにしても、かなり頭が回るみたいだね。

戦闘力よりも、そっちの方が厄介かもしれない。怪我したダークウルフをフォローするように動いているし、統率が取れている。下手したら人間並の知能があるのかも。


 でも、統率が取れているってことはリーダーを潰せば乱れが生じるはずだ。リーダーは十中八九この先頭の大きなダークウルフだろう。まずはこいつを倒す。


 僕は刀のギミック、変形を使って手裏剣を大量に用意する。そしてそれを一斉にばらまいた。リーダー以外のダークウルフたちは前方に向かって跳び、そこにある手裏剣を次々に牙や爪を用いて撃ち落としていく。


 リーダーは他のダークウルフたちが作った道を通り、僕に向かって飛びかかってきた。武器を一時的に失っている僕は、しゃがんでリーダーの真下に潜り込むと、その無防備な腹に向かって拳を叩き込もうとしたが、そこには真っ黒な球があった。


 くそ、罠だったのか!


 素早く拳を戻そうとするが、それよりも黒い球が僕の手に当たる方が早かった。触れた瞬間、脳を直接殴られたかのような衝撃と、魂から湧き上がるような恐怖に襲われた。典型的な闇魔法の精神攻撃だ。


「ぐっ!」


 硬直した僕に、残りのダークウルフ達の放つ、黒い球に襲われる。いくつかは光魔法で相殺できたが、残りをまともに食らってしまう。


 叫び出してしまいそうな程の激痛と、この場にうずくまって震えてしまいたくなる程の恐怖に苛まれる。視界には、一斉に攻撃してくるダークウルフ達の姿。恐怖に負けてしまえば僕は八つ裂きにされて死んでしまうだろう。


 だが、前世ではこれ以上の苦痛と恐怖に何度も会ってきた。この程度で屈するわけはない。


 僕は大口を開けて噛み付こうとしてきているリーダーのダークウルフの口に左腕を突っ込んだ。喉の奥まで異物を突っ込まれたリーダーはえずき、噛み付きをやめてしまった。


 僕はその左腕を振り回し、リーダーの体でダークウルフ達を吹き飛ばしていく。自分たちのリーダーを傷つけるわけにはいかず、ダークウルフ達は為す術もなく全員吹き飛ばされた。


 飛んでいくダークウルフ達の先には、撃ち落とされたはずの手裏剣が待ち構えている。刀のギミックで変形した手裏剣は無属性魔法で操ることが出来るようになっているのだ。


 僕にばかり注意を払っていたダークウルフ達は、背後から想定外の攻撃を受け、次々と傷を負っていく。的確に急所を狙ったが、流石はBランク。完全な不意打ちでも致命傷には至らなかった。


 無属性魔法で操っているだけなので、威力が不足していたのも原因かもしれない。それでもダークウルフ達は全身から血を流し、息を荒らげている。ダメージは相当のようだ。


 ダークウルフ達をなんとか凌いだ僕だったが、その間口に腕を突っ込まれたリーダーが何もしていなかったわけではない。どうやら魔法を準備していたようで、口の中に闇魔法が放たれて、突っ込んだ腕に闇魔法が直撃する。

 先ほどを上回るほどの激痛と恐怖がやってきたが、その攻撃は読めていた。あらかじめ身構えていれば、硬直することもなく耐えられる。


 リーダーは闇魔法が通じないと悟ると、その強靭な爪での攻撃に切り替えた。僕はすぐさま手を引き抜き、リーダーを蹴り飛ばした。


 ダークウルフ達が体勢を立て直す前に、手裏剣を戻ってこさせて刀の形に戻した。


 直後、一匹のダークウルフが飛びかかってきた。手裏剣のダメージで動きが鈍っているので、僕はなんなくかわした。間髪入れずに次のダークウルフが襲いかかってくるが、同じように攻撃を躱す。その後も何故か一斉にではなく一匹ずつの攻撃が続き、ようやく僕はダークウルフ達の意図に気づいた。


「くっ、囲まれたのか」


 いつの間にか、ダークウルフ達は僕を中心に円を描くように並んでいた。僕を睨み、ゆっくりと回りながらじりじりと円を狭めてくる。


 やられた。おかげで僕は全方位を警戒しなければならなくなった。睨み合いを続けること数分、ダークウルフ達が一斉に走ってきた。一糸乱れぬ走りで、全く同時に僕に辿り着く。


 僕は目の前のダークウルフを斬り伏せ、手首を返してもう一体のダークウルフの首を落とすと、後ろに刀を投げて更にもう一体のダークウルフを倒す。


 武器を失った僕は、横から来たダークウルフを蹴り飛ばす。蹴った勢いで体を回転させ、ダークウルフに突き刺さった刀を掴んでギミックで刀身を伸ばすと、回転の勢いを利用して四体のダークウルフを斬る。


 だが、対処できたのはそこまでだ。残ったダークウルフ二体が左足と右腕に噛み付く。鋭い牙は僕の足に容易く突き刺さり、骨にまで達した。


 僕は激痛に漏らしそうになった悲鳴を押し殺し、短剣を取り出し、左手でダークウルフ達を攻撃しようとすると、ダークウルフ達は噛み付くのをやめて距離をとった。


 残ったのは腕に噛み付いていたリーダーのダークウルフと、足に噛み付いていたダークウルフが一匹に、蹴り飛ばしたダークウルフが一匹の、計三匹だ。

 七匹が今回の捨て身の攻撃で命を落としている。だが、それによる僕のダメージも相当だ。立っているのも辛いレベルだし、右手だってろくに動かない。攻撃の威力は格段に落ちただろう。


 対するダークウルフ達は、一匹は片目が潰れた程度で、もう一匹は全身切り傷だらけだが、傷は浅いようだ。リーダーに至ってはダメージらしいダメージが見当たらない。


「ふざけた戦いしてるからだ。そんな魔術使ったまま勝とうなんて、ソーマにはまだ早いんだよ」


 ソルの心底呆れた声が後から聞こえてくる。確かにこのまま勝つのは難しそうだ。


「仕方ない、か。出来ればこのままで倒したかったんだけどなぁ。僕の実力が足りなかったか」


 僕は体を鍛える為に、自分の体に負荷をかけていた魔術を解いた。途端に体が羽根のように軽く感じられ、十分な酸素を取り込めるようになった肺が歓喜に満ちる。


 そう、僕は魔術による枷を付けたまま戦っていたのだ。


「ここからは全力だ」


 僕は無事だった右足だけで地面を蹴った。さっきまでとは段違いの速度で飛んできた僕に、リーダーのダークウルフは慌てたように躱そうとするが、僕が刀を振るう方が微かに早い。リーダーの首がゴトリと落ちる。

 リーダーの死にダークウルフ達が動揺している隙に近づき、ダークウルフ達が反応するよりも早く首を斬り落とした。


「ふぅ、これで終わりだね」


 全てのダークウルフが死んでいることを確認すると、僕は息を吐いた。すると、すぐさまセリアが駆けつけてきた。


「ソーマ。無茶、しないで」


 セリアは珍しく怒ったような表情で、僕に詰め寄った。きっと、ダークウルフ達に囲まれても尚、魔術の枷を解かなかったことを言っているのだろう。確かに、あそこまで追い詰められたなら解いておくべきだった。でも、


「ごめん。自分がどこまで戦えるのか試したかったんだ」


 それに、ぎりぎりの戦いでしか得られないものもある。ソルとセリア、そしてフューも治癒魔法が使えるので、怪我をしても治せる。だから少し無茶をしてしまった。


 セリアは目付きを少し鋭くさせたまま、僕の治療を始めた。僕の中のフューもそれを手伝ってくれる。


「ありがとう」


 セリアとフューに礼を言うと、僕はさっきの戦いを振り返る。


 一人でBランク十体を相手にするのは、かなりキツそうだ。最初から魔術の枷無しで挑んでも、きっと楽ではないだろう。最後あっさりと倒せたのは、満身創痍の僕の速度が急に上がったことによる動揺が大きかった。


 ……はぁ。僕もまだまだだなぁ。


「そう落ち込まなくてもよぉ、いいんじゃねぇかぁ? その年にしちゃぁ、かなり優秀だと思うぞぉ?」

「こんなんじゃ足りないよ。それに、この先にはもっと強い魔物がいるんでしょ?」

「上を目指す気があるのはいいことだぁ」


 レオーネは僕の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。完全に子供扱いだ。彼からしたら僕なんて子供なんだろう。


 セリアとフューの二人がかりの治療のおかげで、数分もしないうちに傷は完治した。違和感も残らない完璧な治療だ。流石は魔道が得意な二人だ。


「待たせてごめん。それじゃあ進もうか」


 僕達は走ったりはせずに、警戒しながら歩く。途中、何度かBランクの魔物に襲われたが、ソルとレオーネがあっさりと片付けてしまった。歩くこと十分ほど、鎧を着た骸骨の集団に遭遇した。全員、様々な武器を手にしている。剣や槍、斧やハンマーに弓を持っている骸骨もいる。


 弓使いというと身軽なイメージがあるから、鎧着てるのに弓を持ってるのはなんか違和感あるね。


「スケルトンナイトか。数は十三……丁度いいな。セリア、今度はお前の番だ。一人でやってみろ。あぁ、レオーネはオレの仲間だった奴だから、心配はない」


 今度はセリアにやらせるのか。後半の、心配はないって言葉は属性眼のことを言ってるんだろうね。

 セリアは一定以上の魔道を使うと、属性に応じて瞳の色が変わってしまう。

それだけ魔道の適性がある証明なのだが、それを持つものは魔王しかいなかった。そのせいで、属性眼を持つというだけでセリアまで邪悪な存在だとされるかもしれない。

 だから、極力他人にはバレないようにしているのだが、レオーネなら大丈夫だと言いたいのだろう。


「わかった。やってみる」


 そういうと、セリアは一歩前に踏み出した。

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