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第九十四話 十の狼

「で、なんでレオーネがこんな所にいるんだよ」

「それはなぁ、トールから連絡があったんだぁ。ソルが生きてるってなぁ。で、行き先を聞いたから全速力で追いかけてきたってぇわけだぁ」


 ギルドマスターが教えたのか。遠距離で連絡できる魔道具でも使ったのかな。


「! それ、アイツには――」

「伝えてないから安心しろぉ。こればっかりは外野がどうにかしちゃいけないからなぁ」

「ちっ」


 ソルがいつにも増して不機嫌だ。何か事情があるみたいだけど……僕には話してくれないのかな。まぁ、仕方ないか。魔導師としてのソルのことを話したがらないのは前からだしね。

 ……でも、いつかは話してくれるといいな。


「そういえば、ソルがすぐに気づいたってことはレオーネの見た目は変わってないの? この都市の魔術は?」

「あー? この都市に入ったときのアレかぁ。アレなら弾いたぞぉ」

「は、弾いた!?」


 え、魔術って弾いたりできるの?


「そ、ソル?」

「当然俺にもできるぞ。ただソーマが魔術を楽しみにしてたみてぇだった――いや、なんでもねぇ」


 ふふ、そうか。僕のためか。うんうん、やっぱりソルは良い奴だなぁ。


「へぇ、あのソルがここまで心を許すかぁ。お前さん、ソーマって言ったかぁ、やるじゃねぇかぁ」

「うるさいぞレオーネ。それよりも、行き先はわかっててもここにいるってのはわからねぇはずだろ?」

「ソルが魔術と聞いて何もしないわけないじゃあないかぁ」

「ちっ」


 流石昔の仲間。ソルのことをよくわかっていらっしゃる。


「だからさっき言ったここに来た理由ってのは建前だぁ。人探しでここまで来たなんて不自然すぎるからなぁ」

「だが、ここまで来たんだ。魔術の研究資料を手に入れるの、手伝ってもらうからな。こき使ってやる」

「ははは、相変わらず横暴だなぁ。まぁ、元よりそのつもりだぁ」


 ソルの昔の仲間なら実力は申し分ない。心強い仲間になってくれるね。この先どれだけ強力な魔物が出てくるかわからないし、戦力は多いに越したことがない。


「というわけでぇ、よろしくなぁ。ソルにソーマ、そしてそっちのお嬢ちゃん」

「ん、セリア」


 人見知りが発動して、僕の背中に隠れていたセリアがぽつりと呟いた。


「おぉ、セリアだなぁ。よし、覚えたぁ。じゃあさっきソルが言っちまったけど、改めて自己紹介だぁ。俺はレオーネ=グラディス。ソルの仲間で、Sランク冒険者だぁ」


 え、Sランクなのか。いや、でもソルの昔の仲間ならそれくらい強くて当然か……。


「おい、もういいだろ。さっさと先に進むぞ」


 ソルはそう言うと、一人でずんずん奥に進んで行ってしまった。慌てて追いかける僕達。


 ――それからの探索は順調すぎるほど順調だった。ただでさえソルがいて過剰戦力なのに、そこにSランク冒険者のレオーネが加わったのだ。時折現れるBランクの魔物も敵ではなかった。


 ただ、一つだけ気にかかったのは、レオーネは一度として背中の大剣を抜かなかったのだ。全ての敵を自身の肉体のみで倒していた。


「ねぇ、その大剣は使わないの?」


 考えるより聞くほうが早いだろうと、僕はレオーネに問いかけた。


「あー、これかぁ。これはなぁ、神具なんだぁ」


 あぁ、確か、Sランク冒険者になった時に貰えるんだっけか。ならレオーネが持っているのは自然なことだけど、どうして強力な神具を使わないんだ?


「知らないのかぁ? 神具ってのは大抵強力なデメリットを持ってるんだぁ。俺の場合は、使えば使うほど記憶を失うってもんだぁ。だから滅多に使わないんだぁ」


 強力なデメリット……。

 僕はちらりと自分の左手の親指を見た。この世のものとは思えないほど透き通り、青く美しい光を返してくる宝石がはめ込まれた指輪。これはアゼニマーレに、神様に貰ったものだ。


 つまりは、これも神具だ。


 だというのにデメリットらしいデメリットがない。この指輪が特別なのか、あるいはデメリットが隠されているだけなのか……。


「どうかしたかぁ?」


 急に黙り込んだ僕とソルに、レオーネは不思議そう目を向けてきた。


「何でもないよ。それにしても、記憶を失うって大きなデメリットだね」

「まぁ、ちょっと使うくらいなら一日、二日の記憶が飛ぶくらいだけどなぁ。それに残しときたい記憶は消えないからぁ、そこまできついわけじゃあねぇ。とはいえ、積極的には使いたくないけどなぁ」


 そりゃそうだ。自身の記憶が一部とはいえ完全に消えるなんて、誰だって嫌だ。Sランクになった褒美として渡される神具なのに、そんなデメリットかあるのか。

 ってことは、そのデメリットを補ってあまりある性能を持つってことか。気になるね。


「ん、ここから先、危険」


 セリアが目の前の階段を指差した。階段の中は、明かりとなる苔の色が今までのような鮮やかな赤ではなく、ドス黒い赤へと変わっていた。


 セリアの言う通り、この階段の下から流れてくる空気は触れるだけで肌がひりつき、この先の危険を如実に表していた。

 まず間違いなく僕より少し弱いか、同等の魔物が待ち構えている。最初のメンバーだけだったら、撤退していたかもしれないが、今はレオーネがいる。


 それにしても、苔の色が緑から赤に変わって難易度が上がったのが地下十五階。で、今回の変化が地下三十階。偶然じゃないよね。十五階毎に難易度が変わるようになってるんだ。

 ということは、四十五階でも更に難易度が上がるのかなぁ。四十五階がゴールだといいんだけど。


 おっと、今はそんなこと考えてる場合じゃなかった。進むかどうかを決めないといけないんだった。


「ソル、いけると思う?」

「あぁ、オレとレオーネがいるんだ。ソーマ達が足でまといにならねぇ限りは死にはしねぇ」


 死にはしない、か。二人がいても相当な危険があるんだね。これはより一層気を引き締めていかないと。

 でも、その前に……。


「休憩だね」

「ちっ、相変わらず呑気な野郎だ」

「でも、ここから先いつ休めるかわからないし、休める時に休むのは大事だよ? 都市の魔術も弾けるってわかったし、焦る必要はないんだから」

「そうだなぁ。休息は大事だぁ」

「ん、休む」


 フューも同意を示したので、満場一致で休憩をとることになった。階段の前で各々座り込み、水分補給や栄養補給、武器の点検を行う。

 二十分ほどの休憩を終えると、僕達は立ち上がった。


「よし、じゃあ行こうか。都市の魔術が来るのは一時間後ってところだから、覚えておいてね」


 地下十五階からは、フロアが小さくなっていたこともあって、かなり早く踏破することが出来た。だからこの下も多分フロアが小さくなってはいると思うけど、流石に一時間で突破できるとは思えない。

 だから魔術を弾くのを忘れてはならない。弾き方は僕もセリアもソルに教えて貰ったし、気を抜いていなければ大丈夫だ。


 僕達は、血のような赤の階段を静かに降りた。降りた先は少し広めの大部屋になっていて、十の気配があった。


 Bランクの魔物、ダークウルフだ。


 彼等は弧を描くようにきっちりと並んで、涎を垂らしながら僕達を睨んでいる。


「いきなりBランク十体のお出迎えか。これは厄介だね」

「オレが一掃してもいいが……そうだな。ソーマ、お前一人でやってみろ」

「私は?」

「セリアは見学だ。次はセリアにも一人で戦って貰うからな」

「ん。ソーマ、頑張って」


 勝手に話が進んでる……。Bランクをこれだけの数相手したことないんだけどなぁ。まぁ、ソルがやれって言うなら出来なくはないんだろうし、前世で無茶な訓練を課されるのには慣れている。


「じゃ、やってみるよ」


 そう言うと、僕は地面を蹴ってダークウルフたちの前に躍り出た。僕の着地を狙って、ダークウルフ達が魔術を放つ。十個の真っ黒な球が一斉に僕へと襲い掛かった。


 僕はそれをきっちり同数の光の球で相殺し、同時に垂直に跳躍した。迷宮の天井に刀を突き刺し、ぶら下がる。ダークウルフ達が僕の居場所を見つける前に刀の切っ先を外すことで落下した。


 ダークウルフ達の視線は一瞬だけ、空から降ってきた僕だけに固定された。その隙に僕は天井に残した切っ先を無属性魔法で動かし、中の針を射出した。


 ギミック、飛来刃からの仕込み針!


 流石Bランクと言ったところか、不意をついた針にも反応できていた。だが全てをかわすには至らず、いくつかの針を受け、爆発をまともにくらった。


 爆発の煙がやみ、中からダークウルフたちの姿が現れる。ところどころ毛皮を焦がし、血を流しているがその目は射殺さんばかりにぎらついている。


 やっぱりこのくらいじゃ倒せないか。手強いね。

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