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第八十八話 ライバルとの別れ

 感覚のリンクをすべて切っているため、少し退屈を持て余しているとソルから声が掛かった。


「もういいぞ。話は終わった」


 どこか疲れ気味で、だけど少し弾んだ声でソルが言う。

 素直に答えはしないだろうとわかっていながらも聞いてみた。


『そっか。どうだった? たのしかった?』

「うるせぇ。とっとと入れ替わるぞ」

『わかったよ』


 入れ替わった瞬間、一気に五感の情報が押し寄せてきて一瞬クラッと来た。もう日が昇っているようで、朝日が目に突き刺さる。

 次に僕を襲ったのは倦怠感と頭痛、吐き気だった。


「うっ、もしかしてこれ、二日酔い?」

『ほんの数時間前まで飲んでたからな。なんせ後でソーマに代わればいいんだ。遠慮なく飲んできたぜ』

「酷いよ。うぅ、自分で飲んだわけじゃないのに……」

『感謝してないわけじゃないが、オレの意思を無視して強引に進めやがった仕返しだ』

「そんな善意だったのに……そうだ。魔法でなんとかできるんじゃ」

『残念だったな。酒は魔法じゃ抜けねぇんだよ。それにそんな意識朦朧の状態で魔法が使えるわけ――』


 二日酔いの原因は、アルコールを無毒化する為にアルコールを分解していく途中段階のアセトアルデヒドだ。アセトアルデヒドから酢酸へ変化すれば問題なくなるが、そこに時間がかかるから気分が悪くなるのだ。

 なら、話は簡単だ。アセトアルデヒドを酢酸へと変化させる場所、つまり肝臓の働きを活性化させればいい。


 肝臓に魔力を送り、強化魔法と同じ要領で肝臓を強化する。するとすぐに頭の不快感が無くなり、思考がクリアになった。どうやらアルコールが抜けたらしい。


「ふぅ、成功したね」


 いやぁ、スッキリした。さっきまで気分最悪だった分、晴れやかな気分だ。


『なっ……本当だ。頭痛が完璧になくなってやがる。ソーマ、お前何をした?』


 僕はソルにさっきの考えを説明した。ソルは数秒黙り込んだ後、少し悔しそうに言った。


『なるほどな。治癒魔法じゃなくて強化魔法か。確かに理にかなってやがる。体に元々酒を無毒化する機能があるんだから、それを強化すればよかったのか……ちっ、こんなことに気づけなかったとはな』

「ふふん、思いついた僕を褒めてもいいんだよ?」


 あれ? なんか僕テンションおかしいな。完全にはアルコールが抜けていないのかな? だとしたらこの魔法をあまり過信するのはやめておこう。……解毒とかにも使えると思ったんだけどな。


『で、もう一つ疑問がある。なんであの状態で魔法が使えたんだ? 立つのもやっとって体調だったはずだが』

「スルーされた……。こほん、そりゃ、慣れてるからだよ」

『あぁ? 慣れてるだぁ? 酒を飲んだのはこの前が初めてだったはずだろ』

「二日酔いは初めてだったけど、前世だと色んな毒を飲まされたからね……。頭痛と吐き気くらい、集中を乱す要因にはならないよ」


 思い出すのは前世の過酷な訓練。毒に耐性をつけると称して、毒料理を食べさせられるという拷問を受けたんだった。高熱を出して寝込んでも、出てくるお粥にもばっちり毒が入っていたっけなぁ。

 あの時に比べれば、大体の状況が天国に思える気がする。


『……そういやお前はそういうやつだったな』


 複雑そうに言うソルに反論するのはやめておこう。なんだか余計に虚しくなりそうだ。


「そんなことより! 今日出発するんだよね? 食料とかの準備しないと」

「もう済ませた」


 旅用の服に着替えたセリアがやってきた。胸にはフューをだき抱えている。


「ほんと? ありがとうセリア。じゃあもういつでも出発できるのかな?」

「ん、朝ごはんも食べた」

「よし、じゃあ出発だ!」


 宿屋に預けていた馬車を出してきて、フューにノワールホースに変身してもらって馬車を牽いてもらう。僕が御者台に座り、セリアは馬車の中にいる。フューに御者は必要ないが、怪しまれないためにも僕がここに座らなくてはならない。


 朝早くだが、人通りは結構多い。魔導祭が終わったばかりで、まだ活気が残っているようだ。


(ソル、ギルドマスターに挨拶にいったほうがいいかな?)


 館長や他の人たちには、元々の出発予定日だった魔導祭の日にお別れを言ってあるし、後はギルドマスターくらいのはず。


『必要ねぇよ。あいつなら今ギルドの酒場で酔い潰れてるはずだからな』

(酔い潰れて……仮にも組織の長なのに、それで大丈夫なのかな……)


 しばらく街並みを眺めながら歩いていると、門が見えてきた。門の近くには見覚えのある人影があった。

 人影は僕達に気づくと、ゆっくりと近づいてきた。

 僕は馬車を道の端に停め、馬車から降りてその青年に声をかけた。


「アニミス! どうしたの? こんな所で」


 そこに居たのは、魔道対戦で僕と優勝争いをしたアニミス=レオーダスだった。


「好敵手が旅立つと聞いて、見送りに来たのさ」


 アニミスはニカッと爽やかに笑う。

 好敵手。アニミスはそう言った。ライバルだと思っていたのが僕だけじゃなかった事が分かり、自然とほほが緩む。


「朝早いのにわざわざありがとう」

「なに、気にする事はないさ。それで、どこへ向かうのかな? やっぱり入場券を貰ったし、ラスベガスかい?」

「うん。そのつもりだよ。でも、その途中のエンデルグをまず目指すつもりなんだ」

「あぁ、あの幻の都市か。それは良い。でも、そうなると次会うのはかなり先になりそうだ」


 アニミスが残念そうに言う。また会うことがあると確信しているような言い方だが、不思議と僕もまた会える気がする。


「僕はソーマ達とは反対方向に行くんだ。もっと強くなりたくてね。強い魔物が多いと言われる場所に向かうつもりなんだ」

「武者修行の旅ってわけか。アニミスは強くなりたい理由、あるの?」

「今はまだ見つけられていないんだ。レオーニダス家の為ってのはあるんだけど、それはどうにもしっくりこない。理由が見つかれば、もっと強くなれると思うんだけどね」


 理由が見つかれば強くなる。きっとそれは正しい。僕自身も、十年前にソルのおかげで見つけられた理由があったから、今ここまで強くなれたんだと思う。

 僕は、和麒を殺した時みたいな悲劇を二度と起こさせないために、理不尽に屈しない為に強くなる。この覚悟があればきっと、どこまでも強くなっていける。


「そうだね。アニミスならきっと見つけられるよ」


 根拠はないけど、心の底からそう思えた。


「そうかな。そうだといいな。まぁ、理由が見つかるまでは、お家の為に頑張るってことにしておこう。仮初でも理由はあった方がいいだろうし」

「そういえば、気になってたんだけどレオーニダス家って貴族? アニミスは貴族だったの?」


 この世界ではほとんどの平民には苗字がなく、苗字があるのは貴族だけだったはず。


「そうだよ。といっても騎士爵家の三男だから、貴族と名乗るのも烏滸がましいけどね」


 騎士爵ってたしか、貴族の中で一番くらいが低いんだっけか。それでも平民とは一線を画しているんだったね。


「そうだったのか。道理で動きに気品があると思った」

「そう? 自分ではあんまり思ったことないんだけどね。ありがとう」

「それでアニミスは――」


 話に夢中になっていると、馬車の窓からセリアが顔を出していた。



「ソーマ?」


 中々僕が戻らないので、どうしたのかと思ったんだろう。これ以上セリアを待たせるわけにはいかないね。


「ごめんね。セリアを待たせてるしそろそろ行かないと」

「僕も長く引き止めて悪かったよ」

「ううん。僕もアニミスと話せて楽しかったよ。今度あった時はまた勝負しようね」

「あぁ、そうだね。次は負けない」

「次も僕が勝つよ」


 しばらくの沈黙の後、僕達はどちらからともなく拳を突き合わせた。

 アニミスは背を翻し、振り返ることなく去っていった。僕もアニミスの背を目で追うことなく、馬車に乗って門へと進んだ。


 門番と少し話してから、学園都市、ビブリオートニスの外へと足を踏み出した。


 僕は空を見つめ、ぎゅっと拳を握りこんだ。



 これにて第二章終了です。次回からは第三章に入ります。第三章はそんなに長くならない予定です。

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