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第八十四話 魔道対戦 決着

 合図と同時に僕は地を蹴った。それはアニミスも同じで、僕達は互いの武器を重ね、衝突した。勢いではアニミスが勝っていたようで僅かに押し戻されるが、右足を後に動かし、全力で踏ん張った。

 だが腎力では向こうの方が有利なようでじりじりと押されてくる。

 魔法による重りは既に外していて、正真正銘僕の全力なのだが、それでも彼の筋力には及ばないようだ。このままでは押しつぶされると判断した僕は足と腕に瞬時に魔力を流し、強化した腕力で強引にアニミスを弾き飛ばした。


 体勢を崩したアニミスに刀で切りつける。当然の如く彼はそれに対応してきた。僕は先程のように鍔迫り合いになるのを嫌い、素早く刀を戻して再度切りかかった。何度も何度も切りつけ、その度にアニミスの剣に阻まれて甲高い金属音を奏でる。


 その後も僕の激しい攻勢は続いた。アニミスは防戦一方で、反撃の隙すらないはずだ。傍から見れば優勢なのは僕だろう。だが僕は焦っていた。アニミスは僕の攻撃を全ていなしていたのだ。自らの腕に負担のかからないよう攻撃を受け流し、涼やかな顔をしている。

 剣術の技量では僕が劣っているのは明らか。アニミスに攻勢に移られてはなす術はない。


 だから、このまま押し切るしかないっ!


 焦りと疲労が重なり、僕はわずかな隙を作ってしまった。アニミスがそれを見逃すはずもなく、足払いをかけられて僕の視界は回転した。

 彼は追撃をかけようとするが、足払いなんて前世ではいやというほどかけられた僕はこういう時の対処法を知っている。地面に手を付き、体をひねってバク転を決めた。


 二人の間に距離が生まれると、両者は睨み合いを始めた。正確には互いの読みあいだ。わずかな動きでフェイントをかけたり、揺さぶりをかけたりする。


 精神を削る読みあいが続く中、ソルがため息をついた。


『バカが。慣れねぇことして相手につられてるんじゃねぇよ。ソーマの戦い方はそんなんじゃねぇだろ。正々堂々戦うなんて、ソーマにゃ似合わねぇよ』


 酷いこと言うなぁ。でも、確かにそうだ。アニミスの真っ直ぐな戦い方に引きずられたけど、僕の戦い方はあくまでアサシンとしての戦い方だ。

 まったく、慣れないことはするもんじゃないなぁ。


 僕はくすっと笑うと、魔法を発動した。空から人の頭ほどの大きさの岩の雨が降ってきた。アニミスは僕から視線を離さずに岩を切って捨てた。切断面からは砂が流れ出し、アニミスに降り注いで彼の視界を奪った。


 僕はその瞬間に彼の背後に回り込み、刀で切りつけた。彼は直感で僕の攻撃を察知し辛くも凌ぐが、どうやら急に視界を奪われたことに動揺しているようだ。


 戦闘のセンスと技術はあっても、戦闘経験は少ないのだろう。想定外のことへの対応力が低いようだ。


 だったらこの機を逃す手はない。地面に落ちた岩も、 砕けて中の砂を撒き散らす。岩の雨はもうやんでいるが、しばらくは砂煙で何も見えない。


 僕はアニミスの位置を覚えているし、何より視界が無くても相手の居場所くらいはわかるように訓練している。


 僕は立て続けにアニミスに攻撃を仕掛けた。一度攻撃しては下がって気配を消し、再び違う方向から攻撃する。

 彼は予想出来ない攻撃に対し、自分の直感だけで対応せざるを得なくなる。経験不足の彼ではこの状況を打破する答えは見つけられず、ひたすらに耐えるしかないのだろう。


 とはいえ、あらゆる方向からの攻撃を延々と防げているのは、彼の類まれなるセンスのおかげだろう。やはり油断できない相手だということを再認識しながら攻撃の手をさらに激しくする。

 ある時は切っ先のギミックを使い、挟み込むように攻撃したり、全方位から針の一斉掃射を行ったりもしたが、アニミスはそれを皮一枚で回避した。


 やがて砂煙が晴れ、中からアニミスが出てきた。彼は砂まみれで息を切らしている。回避しきれず受けた攻撃も数多あり、至る所から血を流しているがどれも致命傷には程遠いどころか、戦闘に支障はない浅い怪我だ。

 彼の目からは闘志は消えておらず、剣をしっかりと握っている。


 すごいな、周りが見えない状況での攻撃にひたすら耐えるってのはかなり精神を削るはずなんだけど……。アニミスの精神力はただものではないね。


「これが君の戦い方なのか」

「そうだよ。卑怯だって罵る?」

「とんでもない。努力無くして成り立たない戦い方だ。尊敬するよ」


 戦闘の最中だというのに、胸が熱くなった。確かに彼の言うとおり、目に頼らず相手の居場所を探り、攻撃することが出来るようになるには血のにじむ様な努力があった。だが、結果可能になった戦い方は卑怯だとそしられて当然の戦い方だ。なのに、彼にその努力を認められて、どうしようもなく嬉しくなってしまったのだ。


「そりゃどうも。じゃあもっと見せてあげるよ!」


 僕は誤魔化すように軽口を叩くと地面に手を当て、魔法を発動した。僕とアニミスを囲むように土の壁が盛り上がってくる。

 アニミスは閉じ込められるのは厄介だと判断したのか、壁を乗り越えようとするがそうはさせじと僕の大量のクナイがばら撒かれ、彼の跳躍を阻害した。

 瞬く間に壁の高さは五メートルを超え、隙を作らずにこれを超えるのは難しくなる。


 アニミスは壁越えを諦め、僕に向かって剣を構えた。僕はそれに向かって走り出し、アニミスの一歩手前で大きく跳躍した。

 アニミスは、僕の突然の動きに戸惑いながらも隙をつこうと空中の僕へと攻撃を仕掛ける。

 戦闘で跳ぶことはそれだけで大きな隙となる。空中では踏ん張りもきかず自由に動けないからだ。

 だが、それは空に足場がない時の話。


 僕は何も無い空に足を預け、勢いよく蹴った。


 ありえないはずの空中での方向転換。全くの想定外にアニミスの反応は数瞬遅れ、僕の刀は彼の肩に浅く食い込む。もっと深く切りさこうと力を込めるが、引き戻した彼の剣に弾き飛ばされた。

 僕はその勢いのままに空へと再び舞い上がり、そしてまた空を蹴った。


 空を蹴っては弾かれて空へと戻り、また蹴って攻撃を仕掛ける。息をつく暇もない僕の猛攻は少しずつだが彼に傷をつけていく。

 終わりの見えない攻撃に、彼の精神力と体力が切れ、大きな隙を見せた。僕はここで決めようと思いっきり強く空を蹴ったが、その足は本当に何も無いところを蹴り、空振りした。


 そのまま僕は重力に従い地面へと落ちていくこととなり、大きな隙を晒した。それをアニミスは予期していたかのようなタイミングで全力の一撃を僕に加えた。辛うじて刀で防いだものの、地面に足のついていない状態では踏ん張ることは出来ず、自分で作った土の壁へと打ち付けられた。


 肺の中の空気をすべて吐き出させられ、目の前が一瞬真っ白になるが、その間にアニミスから攻撃が加えられることは無かった。彼もかなりの体力を消費していたのだろう。


「一体なにが……」

「君の仕掛けを僕が潰したのさ。こっそりと魔法でね」

「気づいちゃったのか」

「今さっき、だけどね。君が空で自由に動けたのは、糸があったからだ。壁に刺さった武器から伸びる糸が」


 ということは、彼がさっき見せた大きな隙は僕を誘うための演技ってことか。僕に足場がないなら、強力な攻撃をさせればそれだけ大きな隙が生まれる。

 アニミスは何も馬鹿正直な戦いしか出来ないわけじゃないのか。これは一本とられたね。


 素直に彼を賞賛しながら、僕は種明かしを始めた。


「正解。最初にばらまいたクナイは二本一組で作られていて、間に丈夫なワイヤーがつけられてるんだよ」


 今現在、この壁の中には空の足場が無数に張り巡らされている。ワイヤーは目に見えないほど細く、更に特殊な造りのためそうそう気づかれないはずなんだけどな。


「なるほど、よく考えられた武器だ。面白い。でも、いいのかい? 敵の僕にそんな簡単に仕組みを説明して」

「構わないよ。バレちゃった以上もう使えないし、それにこの壁の仕掛けはこれだけじゃないからね」

「ははは、それは怖いな。じゃあこの壁は壊すことにしよう」


 彼は剣を振りかぶると、剣に魔力を込め始めた。何かをするようだが、彼とは距離がありすぎて妨害するのは難しい。せめて何が起きても対応出来るようにすぐ動けるように準備をした。


 彼が魔力を漲らせた剣を振り下ろした。鮮烈に感じた死の予感。僕はそれに従って全力で地に伏せた。


 次の瞬間には轟音と石の破片が僕を襲った。幸い、石の破片は新品の防具に当たり、ダメージにはならなかった。僕は起き上がり、油断なく背後を確認した。そして僕は言葉を失った。


 僕の作った土の壁は大きく斜めに切り裂かれ、崩れ落ちていた。それだけではなく、斬撃の通った後の地面は、まるで地割れがごとく切り裂かれていたのだ。

 観客を守る魔力壁もその攻撃を受け、大きく揺らいでいた。卓越した技量を持つ、あの館長の護りを揺るがすほどの威力。かすっただけでも戦闘不能に陥ってしまうことは想像に難くない。


「どうかな。僕の切り札の一つなんだけど」

「……すごいね。こんなのくらったら死んじゃうよ」


 アニミスがこれを僕に見せた理由は、警戒させるためだろう。これを見せられた僕は、彼に時間を与えることが出来なくなった。この攻撃がまた出来るのかわからないが、万が一放たれれば手に負えない。

 だから僕は間を開けずに攻撃を仕掛け、この技の準備時間を奪うしかないのだ。たとえそれが彼の狙い通りだとわかっていても。


 それからは大きな搦め手を使うことも出来ず、ただただ攻撃を重ねていった。大がかりになるとどうしても準備時間が必要となり、アニミスを自由にしてしまう。だから僕は愚直に攻撃をするしかなかった。彼の狙い通りに。


 だが最初のように正々堂々と――という訳では無い。トリッキーな動きを混ぜてアニミスを撹乱したり、魔法で足場を崩したり、刀のギミックを使って不意をついたりもした。だがアニミスも慣れてきたようで、きっちりと対応してきた。


 どうやら彼はこの戦いで大きく成長したらしい。戦いの中で成長するという主人公らしさを理不尽に思うが、僕が極端に不利というわけではない。


 対応できると言っても余裕がある訳ではなく、着実に彼の精神力と体力を削っていく。それはもちろん僕も同じことで、勝負は持久戦へと様相を変えた。どちらが先に集中力をかくか、あるいは体力が底をつくかの勝負だ。

 両者とも汗だくになりながら剣を振るう。アニミスは笑顔で剣を振るっていた。気づけば僕の口角も上がっており、僕はこの戦いを楽しんでいたのだと気づいた。心臓が早鐘のように鳴り、心の底から熱い何かが湧き出てくるこれは、間違いなくこの戦いを楽しんでいる証拠だろう。


 永遠に続いてほしいとさえ思った最高の時はとうとう終わりを迎えた。


 度重なる剣戟を受けたアニミスの握力は、刀とぶつかり暴れる剣を捕まえていられず、手放してしまったのだ。そして僕の刀がアニミスに突きつけられる。


「……僕の負けだ」


 アニミスの降参を聞き、僕は刀を取り落とした。僕もとうに限界だったのだ。


「良い試合だったよ。また、やりたいな」


 そう言いながら僕は手を差し出した。


「あぁ、そうだね。次は負けないよ。今日から君は僕の好敵手だ。よろしくね、ソーマ」


 アニミスは僕の手を握ると、爽やかな笑みを浮かべた。前世での和麒以来の、僕のライバルが誕生した瞬間だった。


「こちらこそ、アニミス」




「決まったぁぁぁぁ!! 魔道対戦、その激戦を勝ち抜いたアニミス=レオーダスとソーマ!! 互角の勝負を制したのはソーマだぁぁぁ!!! さいっこうの勝負を見せてくれた二人に拍手を!! 天まで届く拍手を!!」


 意識の外に追いやっていた観客達を見ると、大盛り上がりで大歓声が聞こえた。みんな目を見開いて割れんばかりの拍手を僕とアニミスに贈ってくれる。

 セリア達の方を見ると、フューは飛び跳ねて踊り狂い、喜んでいた。館長もそこにいて、優しい笑顔で拍手をしてくれていた。そしてセリアは、めったに見れない笑顔でこの試合を讃えてくれていた。


 全身の疲労感とは裏腹に、僕の心は充実感に満ちていた。

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