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第八十二話 最終競技 魔道対戦その二

 あの速度で魔道を発動できたってことは、魔法が使えるのか……。このレベルの魔道の使い手はセリアとフューくらいしか知らなかったよ。僕でも戦闘しながら魔法を使うのは殆ど出来ないってのに……。世界は広いってことだね。


 さてと、この冒険者の戦い方は大剣による隙を魔法で埋めていくスタイルか。なかなか厄介だけど……何か違和感があるような……。体の動きか?


『ソーマも何か気づいたみてぇだな。アイツの動き、どこかで見たことがある』

「みたいだね。だけど何処で――っと! ゆっくり考察する暇はくれないみたいだね!」


 全方位から飛んできた石の礫を、ネシアとヴェルクに作ってもらった新武器で周囲の参加者に向けて弾き飛ばす。突然飛んできた石に対応できなかった者は気絶、あるいは当たって怯んだ隙を突かれて他の参加者に倒されていく。


「おぉ、新しい武器の使い心地はなかなかだね。それじゃあこの武器の力、もっと試させてもらうよ!」


 防具と一緒にこっそり受け取っていた(素材の無駄遣いだとセリアに言われたくなかったため)新しい武器――前世の愛刀そっくりなこれには様々なギミックが仕込まれている。


 ――ギミックその一、仕込み針!


 刀を振り下ろすと同時に切っ先から見るのも困難なほど細い針が勢いよく飛び出した。魔力を通すと切っ先の仕掛けが開き、振ることで魔道具が発動して振った速度以上に速く針が発射されるという寸法だ。


 だが、相手の冒険者にはその針が見えていたようで大剣を盾にされてしまう。


 ――残念! この針にも仕掛けがあるんだ!


 針は大剣にぶつかる直前にかくんと軌道を変え、冒険者の眉間へと真っ直ぐに突き進む。


 この針は僕の意思で動かせるようになっているんだ。無属性魔法の応用だよ。


『前に熱心に鍛冶屋の野郎共と話してたのはこれか……。ったく、変な小細工仕込みやがって』

(失礼な。これが僕の本当の戦い方なんだよ)


 針は今度こそ冒険者に突き刺さるかと思いきや、突如現れた小さな石に妨害された。針と石が接触すると、針が爆発を起こした。


『……えげつねぇことしやがるな』

(だって、対人なら針でも弱点をつけば充分な攻撃になるけど、魔物相手なら火力不足でしょ?)


 爆発によって砕け散った石の破片が冒険者の目に刺さり、右目から血が流れ落ちた。


 これで視界が狭まったね。かなり有利になった。でも油断せずにドンドン行くよ!


 僕は刀を上段に構え、突きの姿勢をとる。上体を捻り、勢いよく刀を突き出すが冒険者まではあと数十センチ届かない。


 ――ギミックその二、伸縮刃!


 刀身が急に伸び、届かなかった距離を埋めた。完全に不意をついたはずの突きは、しかし冒険者の腹を掠めるにとどまった。


(ソル、今の感触……)

『あぁ、変だったな。服の下になんか仕込んでやがったか?』


 およそ人を切ったとは思えない感触だった。なんだか妙な弾力を持った何かだった。


 瞬時に後ろに飛んだ冒険者は腹を撫でて傷の具合を確かめると、近くにいた参加者の頭を掴むと、こちらに向かって投げてきた。


 なっ!? それを投げるの!?


 僕は目の前に飛んできた男の胸ぐらを掴んで地面に投げつけた。すぐさま冒険者に視線を戻すも、その姿は既になかった。


 何処に行った!?


 気配を探るも、一向に掴めない。参加者達に紛れ込んだのか?


『ソーマ! 下だ!』

「下!?」


 慌てて足元を見ると、時すでに遅し。地面からゴツゴツとした手が伸びてきていた。右足首をがっちりと掴まれ、逃げることが出来なくなる。

 手に続き、大剣までもが地面から出てきて僕の足を切り落とそうと迫る。刀を足と大剣の間に差し込み、更に大剣の勢いを殺すために地面に突き刺した。


 辛うじて足切断は防げたが、その代償として刀の切っ先は折れ、地面に突き刺さったままになった。


 地面から、スキンヘッドの頭が出てきて、とうとう冒険者の全身がぬっと現れた。

 彼は僕の足を掴んだまま腕を持ち上げ、僕を振り回し始めた。そして勢いをつけて地面に叩きつけようとする。

 僕は体を強引にひねり、なんとか拘束から抜け出して距離をとった。


 ……武器は切っ先が折れ、さっきの強引な離脱で右の足首は使い物にならない。


『オレの助けが必要か?』

(いいや、全く必要ないよ)

『ハッ! ソーマならそう言うと思ったぜ』


 右足が潰れても、まだ左足が残っている。そして武器は……


「壊れたわけじゃない!」


 ――ギミックその三、飛来刃!


 地面に刺さった切っ先が独りでに浮き、冒険者へと飛んでいく。目が潰れて完全に死角となった右側(・・)から。


 切っ先は折れたんじゃなくて、外したんだ。そして刃が動くのは針を動かしたのと同じ原理。


 死角からの攻撃だから反応が一瞬遅れるはず。その一瞬にこの刃は距離を詰める。魔法か大剣で防いだとしても切っ先に詰まっているのは大量のさっきの針。大爆発が起きるんだ。


 だが予想は外れ、飛来刃は動いたその瞬間に石の礫によって撃墜され大爆発を起こした。


 なんで!? 見えてるの!?


『見えてなきゃおかしい反応速度だ。ちっ、どうなってやがる』


 想像していた未来とはかなり違ったが、訓練されたこの体は動揺に一切影響されずに動いてくれた。

 残った左足で思いっきり地面を蹴り、土魔法でその足を思いっきり押した。結果、僕の体はミサイルのように冒険者の体へと突っ込む。


「これでも、喰らえ!」


 僕は速度を拳に載せて渾身のストレートをみぞおちに叩き込んだ。そしてそのまま体を()()()()


「え、え、えぇ!? そんな威力があるはずないよ!? え、こ、殺しちゃった?」

『……ハハハハハッ! こいつは傑作だ! なるほどな、そういうことかよ!』

「何呑気に笑ってるんだよ!!」

『そいつの体をよく見てみろよ』

「体って……」


 貫通した腹を見てみるが、まずおかしなことに気づいた。血が一滴も出ていない。腕一本が貫通したんだから僕の手が血塗れになっててもおかしくないのに……。そして、感触も異常だ。人の肉とは思えないほど柔らかくてツルツルとしてて……あれ? この感触知ってるぞ? 小さい頃からずっと触っていたような……。なんだったか――あ、


「フューか!!!」


 そう叫んだ瞬間、目の前の冒険者が消え、小さなスライムが現れた。


「何処にいるのかと思ったら、こんな事をしてたのか!」


 あの冒険者がフュー、スライムだとするなら謎の全てに説明がつく。刀で切った時の妙な弾力はスライムボディだったからだし、潰れた右目側の攻撃が見えていたのは、スライムの視界は目に頼らないからだ。

 最初の違和感、動きに見覚えがあるのも僕が教えた動きだからだ。


 フューは申し訳なさそうに体を震わせる。垂れた耳と尻尾が幻視できそうなほどの落ち込み方だ。

 なんだろう、小動物に潤んだ瞳で見つめられている気分になる。


「わかったわかった。怒ったりしないから! ここ最近フューが戦う機会もなかったし、暴れたくなる気持ちも理解できなくもないよ」


 フューとしてはただの遊びだったんだろうし、そこまで怒ることではない。最近あまり構って挙げられなかったしね。

 フューは一転、さっきまでの落ち込みようが嘘だったかのように喜び飛び跳ね、僕の足へと擦り寄ってきた。


「フュー、他の参加者に見られると厄介だから、こっそりとセリアのところに行っておいで」


 幸い、今のところは他の参加者達はこちらに注目しておらず、フューのスライム状態を見られてはいないが、そのうちフューに気づくだろう。


 フューはこくんと頷くと、体をステルス状態にして消えていった。


 激戦が意外な形で終わりを迎え、周囲に目を巡らせると、かなり数が絞られてきていた。残りはざっと五十人くらいだろうか。

 魔道対戦の終結は近いようだ。

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