第七十七話 第一競技 的当て
短いですが、きりがいいのでここで切ります。
「先手は貰った! これで決めるぜ! ファイアーボールっ!」
勇ましい声と共に、ゴルトアイの生徒の手から大きな炎の球が飛び出た。炎は勢い良く的に向かう――が、少し狙いを外し、的の右上を焼き焦がすだけに留まった。
「はっ、狙いを外すとはまだまだだな。私の制御力を見よ! ロックボルト!」
ノービリスの生徒が嘲笑と共に岩の矢を放つ。矢は狙い違わず的の中央に当たった。だが威力が足りなかったようで、的にヒビを入れ、動きを止めた。
「ふ、ふふ……破壊力は何より大事……全部、壊す……!」
クーランクの生徒は懐から球状の魔道具を取り出し、的に向けて投げた。しかし、投げる力が足りずに的からかなり遠い所で落ち――大爆発を起こした。
爆風が最前列の僕達にまで届く。砂や石は目の前の魔力壁によって防がれたが、風だけは透過してくるようだ。
巻き上がる土煙が晴れると、そこには巨大な怪物が抉りとったかのような大きな穴があった。
観客たちはそれを見て大きな歓声を上げる。それを煽るように実況が甲高い声で叫ぶ。
「三者ともに初手では決まらず!! 勝負はここから! 特にクーランクの魔道具の破壊力には注目だぁ!」
ゴルトアイの生徒が更なる魔術を放とうとするが、それをノービリスの生徒が水の魔法で集中を乱し、妨害した。同時に再びロックボルトを的に向けて放った。そうはさせじとゴルトアイの生徒は的の前に土の壁を築き的を守る。
「水ぶっかけるなんて、舐めた真似してくれるじゃねぇか」
「君こそ、的を壁で覆い隠すだなんてふざけた事をしてくれたな」
赤い髪をぐっしょりと濡らしたゴルトアイの生徒と、額に青筋を浮かべたノービリスの生徒が睨み合う。
一方、クーランクの生徒の女は、フードの下でニヤニヤと笑っているばかりで行動を起こさない。
そんな彼女を横目でちらりと見ると、ノービリスの生徒は岩の塊を飛ばし、的を覆う壁を破壊した。すぐさま次の魔術を放ち、的を破壊しようとするが、その魔術はゴルトアイの生徒によって焼き尽くされた。
その仕返しとでも言わんばかりに、ノービリスの生徒はゴルトアイの生徒の周りに水の膜を張った。水は揺らめき、ゴルトアイの生徒の視界をぐにゃりと歪ませる。
「これで狙いを定めることは出来まい。私が的を破壊するのをそこで指をくわえて見ておくんだな」
「おおぉーっと!! ゴルトアイの選手が水の檻に閉じ込められてしまった! これは万事休すか!?」
臨場感たっぷりにオーバーに話す実況者の声のおかげか、観客たちは皆緊張した面持ちで手を握り締めている。
これは結構大変だね。水の膜を炎で消そうにも近すぎて危険だし、かと言って無視することも出来ない。かなり有効な手だろう。もっとも、実際の戦闘で相手が動かない状況などそうそうないので使い道は限られているが……。
さて、ゴルトアイの生徒はどう出るかな。
「卑怯な手を使いやがって……。ま、俺には無意味だったけどな! 狙いが定められないなら、広範囲を焼き尽くせばいい!」
魔力を突き出した両手の先に集めていく。既に最初のファイアーボールの五倍の魔力が集まっていたが、それでも更に魔力を込め続ける。
「なっ!? そんな力技で……いや、君の魔術よりも早く私が的を壊せばいいだけの話!」
ゴルトアイの生徒の魔術を妨害することは出来ないと思ったのだろう。的を破壊する事だけに集中し、可能な限り素早く魔術を発動させようとする。
ゴルトアイとノービリスの生徒が魔術の発動に専念し、周囲――クーランクの女生徒への警戒がおろそかになった。
その時を待っていたのか、クーランクの生徒が動き出した。懐からゆっくりと取り出したのは、先程大爆発を起こした魔道具。それを的に向けて――ではなく、争いあっている二人の目の前に投げた。
二人の生徒はやはり優秀だったのだろう。瞬時に状況を理解し、後ろに飛び退いて自分を守ろうと別の魔術を発動させる。そして、魔道具が鈍い音をたてて地面に落ちた。……いつまで経っても爆発は起きない。
静まり返った会場に響くのは、フードを被った女の笑い声。
「ふ、ふふ……動いた、動いた……ルール違反だ」
ルール違反……? あ、そうか。最初に言っていたね。「ルールは簡単だぁ! その位置から一歩も動かずに的を破壊するだけ――」って。
つまり、回避するために動いてしまった二人はルール違反――敗北ってわけか。
その呟きでようやく事態が飲み込めたのか、審判が前に出て旗を振った。
「そこまで! ゴルトアイとノービリスの選手は所定の位置より動いてしまった為、ルール違反となり失格。よって、勝者はクーランク!!」
数瞬の静寂の後、会場が喝采に包まれる。立ち上がって大声で叫ぶ者、惜しみない拍手を送る者。様々ではあるが全員が盛り上がっていて、クーランクの女生徒の勝利を讃え、惜しくも敗れたゴルトアイとノービリスの選手に声援を送っている。
「いやぁ、凄かったね」
「学生らしい、柔軟な作戦じゃったの」
「魔法の腕はまだまだ……でも、面白かった」
『戦闘のための魔法じゃねぇからな。ったく、魔法がこんな遊びに使われるようになるとはな……』
口調こそ悪いが、嬉しそうにしているのが隠しきれていない。魔法が争いの道具だけじゃ無くなったことが嬉しいのかな。
「第一競技はクーランクの戦略勝ちか。第二競技はどうなるかな!」
「ん、楽しみ」
「そうじゃのう。楽しみじゃわい」
『ま、悪くはねぇな』




