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第七十六話 魔道祭開催

「おぉ、すごい人だね」

「ん。たくさん」

〈年に一度の祭りらしいからな。この町のほとんどの奴が来てるんだろ〉


 僕たちは魔道祭が開催される会場の前に来ていた。会場はコロッセオのような造りで大量の観客を収容できるようになっている。

 材質は石ではなく何かの魔物の素材を使っているようだ。恐らく、中での激しい戦闘に耐えられるようにだろう。


 中に入ってみると、既に席の九割ほどが埋まっていた。隣の人と楽しげに話している人もいれば、大勢の人が集まるこの祭りを商機とみた商人が、ジュースや軽食を売り歩いている。


 会場の最前列の一部は恐らく貴賓席なのだろう、身なりのいい人が独占している。よく見るとギルドマスターのトールもそこに居た。今日はしっかりと服を着ていて、組織の長として相応しい振る舞いをしている。


「ギルドマスターも、ああいう場ではしっかり出来るんだね」

〈いや、どうだかわかんねぇぞ。俺の知ってるトールなら長時間我慢はできなかったからな。そのうち暴走するかもしれねぇ〉

「いやいや、ギルドの長だよ? 貴族とかが集まる場ではそんなことしないでしょ……しないよね?」

「あの人なら、するかも」


 ぽつりと呟いたセリアの声に賛同しかけてしまった。確かにあの変態のギルドマスターならありえるかも、と。


「と、とにかく、どこかの席に座ろうよ」

「でも、席ない」

〈良い席はほとんど取られちまってるからな〉

「そうだね、どうしようか……」


 残っているのは外側の一番見辛い場所や、酔っ払いたちの周囲の席だけだ。


「おぉ、セリア君にソーマ君も来てたんじゃな」


 後ろから声をかけられ、振り向いてみると大図書館の館長がいた。


「さっきから辺りを見回していたが、どうしたんじゃ?」

「せっかく魔道祭を見に来たのに、席がないんだよ。見辛い席なら残ってるけど、せっかくならいい場所でみたいなぁって」

「ふむふむ、そういうことか……」


 館長は髭に手をやり、なにか考え事を始めた。しばらくしてニヤリと笑い、僕達を見た。


「もし良かったら、儂のところに来んか? 席はまだまだ空いておるからの。話し相手がいなくて退屈しとったんじゃ」

「ほんと? ありがたい。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「ん、ありがと」

「ほっほっほ、気にせんでええよ。それじゃあついておいで」


 そういうと館長はスタスタと会場の下の方に降りていった。下に行けばいくほど、魔道祭が見やすい良い席になる。だが、最前列は貴族や有力な商人達によって独占されているはず。

 なのに館長はとうとう最前列まで降りてしまった。


「ここって貴賓席なんじゃないの?」

「ほっほっほ、その通りじゃよ。儂も長く生きたおかげか、それなりの伝手と権力があるのでな。お主ら二人を貴賓席に招待するくらいは出来るのじゃよ」


 世界の叡智が集まる図書館の長だもんね。ある程度の権力はあるのかもしれない。


 最前列の席の前には、魔力の壁が張ってあった。魔法という危険なものを扱う場だから、安全には配慮しているんだろう。


(ソル、これの強度はどのくらい?)

『そうだな……オレでも壊すのは面倒なくらいだな。一年かけて魔力を注いだんだろうよ』


 ソルでも手こずるのか。まぁ、偉い人たちが最前列に座るんだから、怪我でもされたら大変だもんね。

 セリアは興味深そうに魔力の壁をぺたぺたと触っていた。するとしばらく考え込むように魔力の壁を眺め、右手を伸ばして壁に触れた。


「これなら、いける、かも」


 そう呟いて壁に触れた右手を通じて魔力を壁に流し始めた。次の瞬間には壁が微かに揺らぎ、サッカーボールほどの穴があいた。


「せ、セリア!? 何してるの!」


 セリアは壁の穴を塞いでから、不思議そうにこちらを振り返った。


「実験……?」

「実験なんてしたらダメでしょ!? もし壊れたりしたら大問題だよ!」

「そんな失敗しない。それに、壊れても直せる。……その、ごめん、なさい」


 セリアは少し気まずそうに目を逸らす。好奇心が勝って、ついやってしまったのだろう。そして、よく考えると不味いことだとわかり、反省しているようだ。

 セリアの魔法への熱意はとても大きいので、後先を考えないことがたまにある。


「ほっほっほっ。この魔力壁に干渉するか。大した技術じゃな」


 感心したように笑う館長。どうやら注意する気は無いようだ。魔法への熱意は館長も同じようなものだから、セリアの気持ちも分かるのかもしれない。


 周囲に居た他の人はセリアのしたことに気づいていなかった為、大事にはならなかったが、もし気づかれていたら魔道祭を見るどころではなくなってしまっていたかもしれない。

 もう一度言い含めようと口を開いた時、空に花火が打ち上がった。


 いや、正確には魔法の火だ。魔法を使える学生が少ないという事なので、魔術かもしれない。

 小気味いい破裂音を響かせながら、青や黄、緑や赤などの様々な色の火花が空を彩る。

 魔術という物理法則を無視した力を活かして、前世では不可能な動きも出来る。

 打ち上げられた花火は消えずにその場に留まり、やがて一箇所に集まり出した。集まった火花達は「魔道祭 開催」の文字を作る。

 文字はしばらく点滅して存在をアピールしたあと、雨のように客席に降り注ぎ、魔力の壁にぶつかり消滅した。


 凝った演出に観客たちは惜しみない拍手を送る。その拍手に包まれながら、学園の生徒達が入場してきた。


 天才達が集まる学校、ゴルトアイの生徒達は目立つ赤い制服を着て、観客に手を振りながら自信満々に歩いてくる。


 貴族達が通う学校、ノービリスの生徒達は質の良さそうな青い制服を着て、むっつりとした顔をしながらつかつかと歩を進める。


 変人たちの巣窟、クーランクの生徒達は袖がギザギザだったり、全身タイツだったりと、様々な形の黄色の制服を着て、ニヤニヤと笑いながら出てくる。


 それぞれの学校の生徒達が中央に整列すると、三人の老人が準備された台の上に立ち、生徒達を見下ろす。

 老人達の服はそれぞれ赤、青、黄であることから、学校の代表であることが伺える。


「「「今より学園対抗戦、魔道祭を開催する!! 今日までの鍛錬の成果を存分に発揮してくれたまえ!」」」


 三人は息ピッタリに魔道祭の開催を威厳に満ちた声で宣言する。だが、息が合っていたのはそこまでだった。


「お前達、才能の差を見せつけるんだぞ!」

「愚民共とは格が違うと理解させてやれ!」

「俺達の発想には適わねぇと教えてやれよ!」


 三人は学園の代表としての威厳をかなぐり捨てて、他校を煽るようにして激励を送る。それを受けた生徒達は違う学校の生徒達への敵意を燃え上がらせながら雄叫びをあげる。


 叫び声が収まってきた頃、ノリノリのアナウンスが聞こえた。音のした方を見ると、二十代くらいの男が杖に向かって声を出していた。

 恐らく声を拡散する魔道具なのだろう。前世のスピーカーがわりだ。


「それじゃあ、魔道祭第一種目、的当てを始めるぞぉ! 選手は位置についてくれ!」


 彼が進行役のようで、彼の声の後に五十センチメートルほどの大きさの的が素早く設置され、選手達は一列に並んだ。選手と的の距離は五十メートルくらいだ。


「ルールは簡単だぁ! その位置から一歩も動かずに的を破壊するだけ! 魔法、魔術、魔道具なら何を使っても、何をしても問題無し! ただし、選手に直接攻撃することは禁止だぞ!」


 やけに熱い声で進行役の男が説明した。


「的を壊すだけ? それなら簡単なんじゃ……」

「そう単純ではないんじゃよ。何をしても良いということは、妨害も有りということじゃからの」


 妨害も有りなのか。純粋に魔法の技量を競うんじゃなくて、ゲーム性があって娯楽としての側面が強いみたいだね。祭りなんだからそれも当然なのかもしれないな。


「楽しそう」

「そうだね。選手達も色んな工夫をしてくるだろうし」


 ゴルトアイからは赤髪の好青年が。ノービリスからは神経質そうな金髪の男が。クーランクからはフードを深くかぶって顔を隠した女が出場するようだ。


 各々気合が入っているようで、手にした杖を強く握りしめている。


「よぉし、準備は出来たみたいだな! それでは、的当て――開始!!!」

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