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第七十五話 新防具

 すいません、ちょっと短いです。

 あれからしばらく経ち、とうとうこの町に来た大きな理由の一つである魔道祭の開催の日になった。大図書館に通ったり、偶然出会った鍛冶師のネシアとその師、ヴェルクと新たな武器の開発にいそしんだ。

 僕の前世の知識、ネシアの柔軟な発想、それにヴェルクの匠の知恵が合わさり、なかなかのものが出来たと自負している。


 あぁ、ネシアとヴェルクと話すのは楽しかったなぁ。やっぱり武器作りは男のロマンだよ。それが自分だけの武器となると、なおさらだ。

 セリアは一日の殆どを大図書館で過ごしていた。夜になると、フューが変身した本の読み聞かせを僕にせがみ、ちゃくちゃくと知識を蓄えて言った。今ではエルフ語が読めるようになったらしく、読み聞かせの必要はなくなったけどね。流石セリアだ。




 僕とセリアは魔道祭に向かう前に、ドラゴニックゴブリンの素材を使った防具を受け取りに来ている。色々な武器や道具を開発してもらったせいでかなり遅れてしまい、今日やっと完成したとのことだった。

 魔道祭を見に来た旅人達や、金の匂いを嗅ぎつけてきた商人たちで賑わう道を歩いていく。


 店に着き少し大きめの声で二人を呼ぶと、目の下を真っ黒にしたネシアが出てきた。


「あぁ、ソーマさん。防具、ですね。出来てますよ……」

「だ、大丈夫? かなり疲れてるみたいだけど……」


 三日ぶりに会ったネシアはかなりやつれていた。セリアはそんなネシアの様子に驚いたのか、一歩下がって僕の後ろに隠れた。


「えぇ、平気ですよ。ちょっと三日ほど寝ずに鍛冶仕事してただけなんで……。魔道祭が終わると出ていく人も多いので、仕事の依頼が重なっていまして……師匠は奥で寝ています。」

「そ、そうなんだ、お疲れ様」


『三日も寝ずにかよ。これは重度の鍛冶バカだな』

(仕事熱心って言ってあげてよ。それに、三日寝ずになにかするなんてよくあることでしょ)

『ねぇよ、アホ』


 頭の中でソルとそんなやり取りをしている間に、ネシアが防具を持ってきてくれた。


「これが完成した防具です」


 ネシアが自信あり気な声と共に防具を見せてくれる。


 重みのある光沢を持った、頼り甲斐のある漆黒の装甲。鱗を貼ってあるので少しゴツゴツした見た目だが、それが力強さを感じさせてくれる。手に取ってみると驚く程に軽かった。

 ブーツは足に吸い付くようにフィットし、行動を阻害しない。小手を装着し、何度か腕を曲げてみるがほとんど違和感はない。他の防具も全て身につけてみて軽く走ってみるが、驚く事に全く音が鳴らなかった。


「すごいね! これ!」

「特殊な塗料を塗ることによって音を吸収しているんです。ソーマさんの戦い方だと、敵に気づかれるといけないんですよね?」

「うん、そうだよ。だからこれは凄くありがたいよ」

「それだけじゃないんですよ! この塗料は音だけじゃなくて光も吸収するんです。少し魔力を込めてみてください」


 言われた通りに魔力を込めてみた。すると魔力を注ぐにつれ、防具の光沢がなくなり、闇に包まれていった。輪郭がぼやけていき、ぼんやりと黒い何かがあるとしかわからなくなる。これなら、闇に紛れる際にはかなり有用だろう。


「これはですね、魔光草という植物の、日中は光を吸収して夜に光を放つ特性を利用しているんです。それに――」


 元気になったネシアの、専門的な解説を半ば聞き流しながらセリアの方をちらりと見る。セリアの防具はミニドレスのようなデザインになっている。上品さを損なわないまま防具としての安心感をも兼ね備えている。所々に宝石がはめ込まれていて、美しさを感じる一品だ。


「それで、防具としての性能はどんな感じなの?」


 ネシアの解説を遮るようにして僕が問うと、ネシアがさらに嬉しそうな顔をして説明を始めた。


「流石Aランクの素材ですね! 並大抵の攻撃じゃ傷一つつきませんよ! 物理にも魔法にも強いという夢のような素材でした。Cランクの魔物の攻撃なら無効化するほどです」

「それはすごい! 頼もしいね。ありがとう、ネシア」

「……ありがと」


 セリアが僕の後ろからぼそっと言った。僕と話す時とは全然違う音量だ。やっぱりセリアの人見知りは問題だなぁ。


「えーと、お二人共魔道祭を見たらこの町を出るんでしたよね」

「そうだよ。大図書館もめぼしいものは全部読んだし、色んなところを旅したいからね」


 館長から、どこにどんな本があるのか教えてもらえたのだ。教えるのをかなり渋っていたがプリンで懐柔できた。そして、時間が無くて読めなかった分はフューにコピーしてもらった。


「じゃあ、別れの挨拶は今した方がいいですね。魔道祭が終わるとこの町から出る人なんかで溢れちゃいますから。ゆっくりできる今のうちに」

「そうだね。とは言ってもまた来るつもりだし、そんなに大袈裟にしなくてもいいけど」


 ネシアもヴェルクも腕は確かだし、なにより二人と武器や道具について話すのは楽しい。アイデアを思いついたり、何か面白い素材を見つけたらまたここに来るつもりだ。


「そうですね、じゃあ簡潔に。……どうかお元気で。また会いましょう」

「うん、ネシアもね。ヴェルクにもよろしく言っといて」

「あなた達の旅路に幸多からんことを」


 大きく手を振ってネシアと別れた。セリアも横で小さく手を振っていた。


 一抹の寂寥を振り払うように明るい声を出す。


「魔道祭かぁ、どんなお祭りなんだろう」

「ソル、学園の生徒。知らない?」

〈オレが学生やってた頃は魔道祭なんてもん無かったからな。魔族との争いが一番激しい時期だ。遊んでる余裕なんてなかった〉

「そうだったんだ。平和だから出来ることだもんね。ある意味ソルのおかげで生まれたお祭りなんだね」


 ソルが魔王を倒して平和をもたらしたんだから、そう言っても過言じゃないはずだ。


『ふんっ』


 短く鼻で笑ったソルだが、喜びが隠せていない。声がうわずっていて嬉しそうだ。

 自分がしたことが無駄じゃない。そうわかって嬉しいんだろう。

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