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第五十話 十年後



 フラムの襲撃から十年が経った。その間、フラムが襲ってきたりはせず、平穏な日々が続いていた。


 とはいえ、十年もあれば色んなことが変化する。

 まず、一番の変化は村の大きさだろう。Aランク冒険者である父さんと母さんがいるこの村には、外から移住してくる人が非常に多かった。

 Aランク冒険者がいる村ならば、下手な町よりも安全だからだ。安全を求めて引っ越してくる人々で、どんどん村は大きくなっていった。


 村が大きくなれば、必然的に子どもの数も増えるのだが、僕とセリアに同年代の友人ができることは無かった。

 僕らは基本的に、体を鍛えるか魔法の練習をするかのどちらかなので、そもそも接点が少ないのだ。


 それに、僕は中身が既に大人なので同年代の子どもとは話が合わない。セリアも大人びているし、なにより口下手で無表情だから、なかなか友人ができないのだ。


 そんな僕らに対して、フューは村の人気者だった。元から村にいた人はフューの活躍を知っているし、新しく村に来た人もフューに親しげに接する村人達を見て、少しずつ警戒を解いていった。


 今では村の中を歩けば必ず話しかけられる程になっている。この間なんかは、一日どこかに行っていると思ったら、野菜やお菓子をどっさり貰って帰ってきたくらいだ。


 フューは大人気だが、僕らは人気が無いのかと言われると、そうではない。


 僕はそのフューの主人だということと、Aランク冒険者の二人の息子ということもあって、村人達からは一目置かれている。

 常に鍛錬をしているせいで、話しかけてくる人は少ないけど。


 セリアはというと、その容姿のおかげで男たちの憧れの的だ。セリアに見とれてパートナーに怒られている姿は、村の中では珍しくない。



 変化があったのは村だけではない。十年もあれば僕らももちろん成長する。


 僕は細身だけどしっかり筋肉がついたし、父さんに似ていると言われることが多くなってきたので、男らしくなったと思う。……身長だけは父さんに似ず、平均より低いままだが。


 セリアは、十年前より幼さが抜け、少女と大人の狭間の絶妙な色気を持つようになった。例えるなら氷の精霊だろうか。人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している。美しい銀の髪と、イーナさんがセリアに着せる可憐な服もその雰囲気に一役買っている。


 セリアが時折見せる笑顔に僕もくらりとしてしまうほど、セリアは美人に成長した。



 村の男達は、そんなセリアに憧れてはいるがほとんど話しかけてこない。どうしてか聞いてみると、セリアの雰囲気もそうだし、なによりいつも無表情で話しかけづらいとの事だった。


 前に比べれば、かなり表情豊かになってきたと思うんだけどな。セリアをあまり知らない人には無表情に見えるみたいなんだよね。



 そんなふうに成長した僕らは今、建て直された村の集会所にいた。成人式を執り行うためだ。この村では十五歳から大人と認められるため、年に一度十五歳に達した村人を集めて成人式が行われる。

 まぁ、成人したことを村長が承認するだけの式典なんだけどね。


 僕とセリアの他にも、若い男女五人が並んでいる。彼らもまた今年十五歳になる者達なのだ。

 さっきから少年達がチラチラとセリアの方を見ている。セリアは全く気にしていないようだが、なんだか少し不快だ。


「――――ここにこの者らが一人前になったことを認める。これからも励むように」


 十年前より貫禄を付けた村長さんがそう言って成人式を締めた。今この瞬間から、僕らは名実ともに大人として扱われる。


 まぁ、大人になって変わることはほとんど無いんだけどね。変化と言うと、お酒が飲めるようになったことくらいかな。

 この村では大人になるまではお酒を飲んでいはいけないことになっている。だから僕もセリアもお酒がどんなものかは知らない。


 成人式が無事終了すると、僕らはすぐにそれぞれの家へと帰り、荷造りを始めた。明日から村を出る予定なのだ。なぜかと言うと、それは数時間前に遡る。




 ◇◇◇◇◇◇


 成人式に行くために、いつもよりカッチリした服に着替えていると玄関の方から母さんの声が聞こえてきた。


「セリアちゃんが迎えに来たわよ〜」

「すぐ行くからちょっと待っててもらってー!」


 僕は手早く用意を済ませリビングに向かうと、セリアが椅子に座って待っていた。セリアは僕に気づくと、椅子から立ち上がった。

 セリアの服装は成人式を意識しているのか、いつもより装飾が控えめで大人びた服だった。


「ん、ソーマ、似合ってる」

「ありがと。セリアも大人っぽくてすごく似合ってるよ」


 セリアは少し嬉しそうに頬を緩める。その笑顔に少し見とれていると、父さんがぽんっと僕の頭に手を置いた。


「いちゃつくのはその辺にしてくれよ。俺たち少し話があるんだ」


 僕達がいちゃついていたというのには反論したいが、話の腰を折るわけにはいかず、我慢する。


『誰が見てもいちゃついてるようにしか見えねぇけどな』

(うるさいよ)


 父さんと母さんはコホンと咳払いをしてから話始めた。


「ソーマは冒険者になりたいんだよな?」

「セリアちゃんはソーマちゃんと一緒にいたいのよね〜?」

「そうだよ」

「ん」


 冒険者になるのは僕の小さい頃からの夢だ。セリアにそれを話すと、自分も冒険者になって僕の旅について行くと言ってくれた。


「じゃあ、明日この村を出て冒険者になってこい」

「え?」

「今日でお前らは大人になるわけだ。ってことはこの村から出てもいい頃だ。早く冒険者になって旅をしたいんだろ?」


 僕らは今まで子どもだという理由で村から出たことは無かった。だからって、大人になってすぐ村から出るなんて……。


「そんな、急すぎるよ。それに、またいつフラムが襲ってくるかもわからないし」

〈いや、フラムのことを考えるなら村から出た方がいいだろう。あいつがこの村を狙うのはオレ達がいるからなんだ。オレ達が別の場所にいるってわかればあいつはこの村を襲わねぇはずだ〉


 ソルが氷で文字を描く。この十年でみんなも慣れたのか、驚いた様子も見せずにそれを読む。


「旅をし続けていたら居場所も掴みづらいだろうから、かえって安全だと思うぞ」

「大きな町にいたら襲ってこれないわけだし、セリアちゃんも安心だと思うわよ〜」


 三人にそう言われ、僕は考えてみる。三人の言うことはどれも正しい。僕が村を出て旅をした方が、僕を含めた全員が安全になるんじゃないかな。もちろん旅の途中で襲われる可能性もあるけど、フラムへの対策はずっとやってきたんだ。


「……確かに、旅に出た方がいいかもしれないね。でも、セリアは? こんな急に言われても困るでしょ?」


 僕の問いかけにセリアは首を横に振る。


「急じゃない。知ってた」

「え?」

「セリアちゃんには前もって言っておいたのよ〜。もちろんセリアちゃんのご両親も了承済みよ〜」

「ソーマを驚かせようと思ってな! 秘密にしてたんだ」

〈よかったな、お前の前世のヤツらが好きだっていうサプライズだぞ〉


 ソルには前世のことを色々話したせいで、要らない知識まで身についてしまっている。


「嬉しくないよ! だいたい、食料とか馬車はどうするんだよ!」

「当然用意してある」


 父さんは得意げに大きな袋を取り出した。中を見ると、旅に必要なものがすべて揃っていた。母さんも同じく大きな袋を取り出した。その中身は大量の食料だった。


「……もう! わかったよ! 準備が出来てるなら文句はないし、明日から旅に出るよ!」


 秘密にされていたことは少し不満だが、別に問題があるわけじゃない。むしろ旅に出るのか早まって嬉しくもある。


「おう、それじゃあそろそろ成人式に行ってこい。終わったら荷造りと、別れの挨拶をするんだぞ」




 ◇◇◇◇◇◇


 こんなことがあって、僕は急遽明日からこの村を出ることになったのだ。

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