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第四十九話 おとぎ話

 僕は、いつものセリアとの待ち合わせ場所に来ている。僕の筋肉痛なんかがあってなかなかここで待ち合わせすることが無かったので、フラムの襲撃があってからはこれが初めての待ち合わせだ。


 筋肉痛も一日あれば何とか動ける程度にはなった、痛いことには変わりないので、あまり動きたくはないけど。


 今日は珍しくセリアがまだ来ていない。いつも僕より早く来ているというのに。


『お前が早く来すぎてるってのもあると思うけどな。そんなに楽しみだったのかぁ?』


 ソルがからかうような声でそう言う。少しイラッとする声だ。その感情が伝わったのか、頭の上のフューがおろおろしだす。


「いつもセリアを待たせて悪いなって思ったからだよ」


 そんなふうにソルと会話していると、セリアが帽子を片手で押さえながら少し小走りになりながらやってきた。


「やぁ、おはようセリ、ア……」


 僕は近くまで来たセリアを見て息を呑む。

 今日のセリアの服装はいつものワンピースではなかった。


 所々にレースがあしらわれており、清楚な印象を与える真っ白なブラウス。上品なフリルが付いた淡い水色のスカート。スカートから伸びる真っ白な脚とのコントラストが美しい。

 腰には少し大きめの青いリボンがついている。頭の上に麦わら帽子がちょこんと乗っていて、そこから銀の髪が流れ出している。


「どう……?」


 セリアが首をこてんと傾げながら聞いてくる。服装の事を言っているのだろう。


「凄く似合ってるよ、とっても可愛い。お人形さんみたいだ。その服どうしたの?」


 僕は思ったことをそのまま言った。フューもそれに賛同しているのか、セリアを褒め称えるように踊り始めた。

 セリアはわずかにはにかんだかと思うと、麦わら帽子を深く被って顔を隠す。


「ママ、くれた……」


 ソレイユさん、セリアと親子になろうと頑張っているんだね。その第一歩として服をあげたってことか。順調に家族になっているみたいだね。本当によかった。


「そっか。よかったね、セリア」

「ん……」


 少し弾んだ声でそう言うセリア。あの日を境に少しずつ感情を見せることが多くなってきた気がする。良い傾向だね。


「じゃあ、魔法の練習始めよっか」

「まって……これ……」


 いつもは魔法に執着していたセリアだが、今日は練習の誘いを遮った。セリアが差し出してきたのは絵本だった。三人の男の人が、恐ろしい姿の竜と戦っている絵が表紙だ。


「これも、ママ……くれた……」


 セリアは大事そうにその絵本を撫でる。ソレイユさんから貰ったから、大切なんだろう。


「ソーマ……読んであげる……」

「セリアが読み聞かせしてくれるの? 是非お願いするよ」


 ソレイユさんに読み聞かせしてもらったんだろう。だからそれを僕にもしてあげたくなった、そういうことかな。


 セリアは土魔法でテーブルを作ると、そこに絵本置き、僕の方に向けて開いた。

 僕は地面に三角座りして、絵本を見る。


「……むかしむかし、あるところに、とっても悪い魔物がいました――」


 セリアは絵本を読み始めた。書いてあることを読むのは平気なのか、いつもよりすらすらと喋っていた。


 セリアが読んでくれた絵本の内容はこうだ。


 悪い魔物は、人を襲い、たくさんの町や国を壊しました。その魔物を倒すために、三人の男が立ち上がりました。

 彼らは勇者と呼ばれ、神様からそれぞれ、剣、盾、杖を授かりました。それらは宝具と呼ばれ、特別な力を持っていました。


 剣は、自分の大切な人と引き換えに全てを斬り裂く力を。

 盾は自分の寿命を削り、どんな攻撃からも仲間を守る力を。

 そして杖は、杖をくれた神様を犠牲に、邪悪を封じる力を得ました。


 三人はそれらの宝具を使い、悪い魔物の体を消滅させ、魂と核をそれぞれ別の場所に封印することに成功しました。


 こうして世界は平和になりましたとさ。めでたしめでたし。





 セリアはパタンと絵本を閉じ、僕の方をちらりと窺う。


「どう、だった……?」

「面白かったよ。セリア、読むの上手だね」


 セリアの語り口は淡々としているのに、どこか引き込まれる、不思議な感じだった。フューも楽しめたのか、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。


「ありがと……」


 絵本の内容で少し気になったことがある。それは神様から貰った武器のデメリットが大きすぎることだ。

 武器をさずけて協力したってことは、神様的にもその魔物は倒して欲しかったはずだ。

 なのにそんなデメリットが大きい武器を渡す理由がわからない。まぁ、作り話だから盛り上げるためにそうしただけなのかもしれないけど。


『有名なおとぎ話だな。大体のやつが知ってるはずだ。あまりにも広まりすぎて実話なんじゃないかって噂もあるくらいだ』

(実話ねぇ。これが実話だとしたら、国を幾つも滅ぼすような魔物がいたって事になるんだけど)

『下手をするとお前の親父が会ったっていうエンシェントドラゴン以上かもな。ま、どうせ作り話だろう。真面目に考えるだけ無駄だ』



 その後はセリアと魔法の練習をして、お昼ご飯を食べてと、極めて平穏に過ごした。

 村の復興も、壊れた場所がそもそも避難所として使った集会所だけだ。その集会所にしても、フューの補強のおかげで大した損傷はない。今日にでも復旧作業は完了するだろう。

 僕の魂も明日には完治する見通しだ。


 フラムも、戦力を再び集めるか、自分が完全復活してからしか攻めてこないだろうから、あと数年は問題ない。

 セリアと両親の関係も解決したし、厄介事はすべてなくなったはずだ。


 これからは、冒険者になるための訓練でもしながら、のんびり暮らしていこう。


「ソル、これからもよろしくね」

『なんだよ急に。気持ち悪ぃな。……ちっ、よろしくな、ソーマ』



この話で第一章幼少期、完結です。次回からは一気に時間が飛びます。

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