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第四十五話 宴

 セリアの問題はこれで解決、かな? あとは家族水入らずってことで、おじゃま虫は退散しようか。


 セリア達三人をその場に残して、僕はささっと避難所から出た。外では、フューが大量の魔物の死骸を背に、胸を張って誇らしげにしていた。


「フュー、お疲れ様。ありがとね」


 僕がフューを抱き抱えてそう言うと、フューは体を胸に擦り付けてくる。


「甘えるのも良いけど、まずは他の魔物を倒さないと」


 村を襲う魔物はまだ残っているはず……あれ? 


 村の外の方に目を向けるが、そこに魔物の姿はない。どういうとことだ? 流石に全て倒したってのはありえないだろうから、逃げ出した?


「ソルはどう思う?」

『逃げ出したんだと思うぜ。あの魔物全てに支配の魔法がかかっていたわけじゃなかったからな。あの魔物達の殆どはスコルに従っていただけだ』


 そのスコルがいなくなったから、スコルの支配下の魔物達は逃げていった、そういう事なのかな。


 僕は詳しい事情を聞くべく、母さんのところに向かった。母さんは、体調も回復したらしく、顔に血の気が戻っていた。


「母さん、魔物達は?」

「あら、ソーマちゃん、無事だったのね〜。魔物達は逃げちゃったわよ〜。今はお父さんがそれを追いかけに行っているところなの〜」

「そっか、逃げ出した魔物も倒さないと後が大変だもんね。僕も手伝ってくるよ」


 あの数の魔物が逃げたなら、生態系が崩れたり、群れを作ってどこかの村を襲ったりするかもしれない。


「魔物達は森の方に向かったわ〜。気をつけて行ってらっしゃい〜」


 僕は森に向かって走り出した。

 森の中に入り、気配を探ってみると、たくさんの魔物が逃げているのがわかった。それを追いかける強い気配も感じた。それは恐らく父さんだろう。

 その父さんの気配の他にも複数、魔物を追いかけている者がいた。こっちは、空を飛んでいることからフューの分裂体だと推測される。


 父さんと分裂体達が取り逃がした魔物を追いかけ、始末していく。逃げることに必死で、背中を無防備に見せている魔物を倒すのは簡単だった。

 ものの一時間ほどで、逃げ出した魔物の殆どを掃除することに成功した。


 村に帰る途中、父さんと合流した。


「おぉ、ソーマ。無事だったか。よくやったな」


 父さんは僕の頭をわしわしと乱暴に撫でる。父さんは返り血で真っ赤なので、当然髪の毛にも血がつく。


「ちょ、ちょっと、父さん! 血!」

「そんな、血が着くなんて今更……って、ソーマは綺麗だな」


 父さんは、血の染み一つ無い僕の体を見て、驚いている。


「前世でそういう風に訓練させられたからね。返り血を浴びないように戦うなんて簡単だよ」


 暗殺の時に返り血を浴びてしまったら、目立ってしまい、逃げるのが難しくなる。だから、返り血を浴びないというのはアサシンにとって必須の技能だった。



 その後も、父さんと雑談しながら、ゆっくりと村に戻った。


 魔物の残党処理を終えても、やるべき事はまだ残っている。

 それは、魔物の死骸の処分だ。このまま放置していると腐ってしまうし、なによりこっちの世界では死体を放っておくとアンデットになってしまうらしい。


 だから死骸の処理は必ず行わなければならないのだ。森で倒した魔物の死体は気にしなくてもいい。森の生き物達が食べてくれるからだ。


 村で行う処理の方法は大体二つだ。燃やすか埋めるか、どちらかで処分する。今回は殆どの死骸が穴に落ちているので、楽に埋めることが出来た。


 穴には母さんが出した水が入っているが、その水の処分は簡単だ。魔法で出した物質は、出した本人ならば容易に消せるのだ。

 加工されたりして形が変わってしまうと何故か消せないらしいが、今回の場合はフューが凍らせた表面以外は消すことが出来る。


 村の男衆総出で魔物の金になる部位や利用価値のある部位を剥ぎ取ってから、穴を埋め、穴に落ちていない魔物は一箇所に固めてフューやフューの分裂体に燃やしてもらう。


 その間、女性や子供たちは宴の準備をする。村の広場に机を並べ、料理を作り、酒を準備する。自分たちを守ってくれた英雄達を慰労するための宴でもあるから、彼女達の気合いは十分で、豪勢な宴の準備が出来上がっていく。


 僕も男衆に加わり、死体の処理をしていた。日が傾き、辺りが赤く染め上げられた頃にようやく作業が完了した。宴の準備も同じ頃にちょうど終わったようだ。


 みんな、さっと汗を流してから広場に向かった。広場には、大量のご馳走がずらりと並べられ、子供たちがそのご馳走を前に涎を垂らしていた。


 男達も、慣れない戦闘でよほど腹を空かしていたのか、料理を見ると目の色を変えて走り出した。

 村人全員が集まってから、村長さんがみんなの前に出た。村長さんは、この村が比較的新しいせいもあってかなり若い。


「みんな、よく頑張ってくれた。これほど大規模の魔物の襲撃だというのに死傷者は一人も出なかった。これは(ひとえ)にみんなの奮闘のおかげだと思う。俺は勇敢なる戦士達を誇りに思う。さて、長ったらしい話はみんなも嫌だろう。俺の話はここまでとする」


 村長さんは、父さんの方を向き、アイコンタクトを飛ばす。


「では、乾杯の音頭はこの戦いの一番の功労者であるスーノさんにやってもらおうと思う」


 父さんは村長さんの言葉を受けて、前に出た。村人達の顔をゆっくりと見回してから口を開いた。


「それじゃあ皆! 約束通り、食って、飲んで、馬鹿みたいに騒ぎまくれ! この村の勝利に、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 村人達は手にした飲み物を一斉に煽り、飲み干した。そこからは各自好きなように宴を楽しみ始める。

 ある者は愛する家族と一緒に、またある者は気になる異性を口説きに、さっそく飲み比べを始める者もいた。


 セリアの方をちらっと見ると、イーナさんとイザギさんと一緒に宴を楽しんでいるようだ。まだどこかぎこちないが、セリアは両親と一緒に居れてとても嬉しそうだ。

 普段はあまり見せない笑顔を大盤振る舞いして、宴のご馳走にパクついている。


 ……豪華な料理が嬉しくて笑顔なのではないと思いたい。両親と仲良く出来ることが嬉しいのだ、そう思っておこう。


 父さんの方は、村の男達と飲み比べをやっているようだ。大きなジョッキに並々と酒を注ぎ、それを一気に飲み干している。実に楽しそうだ。


 母さんはそんなら父さんを少し離れた場所から、にこにこと見守っていた。少しすると、母さんの女友達の人がやって来て、そこからはガールズトークを繰り広げていた。母さんもまた宴を楽しんでいるようだ。


 フューはと言うと、村人達にひたすら可愛がられていた。今回の戦いでフューが活躍したのはみんな知っているらしく、フューの愛らしさも相まって大人気だ。

 頭を撫でられ、色んな料理を餌付けするように与えられていた。

 フューはそんな状況を嬉しく思っているらしく、体を踊るように揺らしている。



 楽しさうにはしゃぐみんなを見ていると、守れたんだという実感が湧いてきて、胸が熱くなってくる。


 僕も宴を楽しもうと、料理に舌づつみをうっていると、セリアが一人でやってきた。


「どうしたの? イーナさんやイザギさんといなくていいの?」

「お礼……言いに来た……」

「お礼? 僕は大したことしてないよ」


 セリアはふるふると首を振る。


「全部……ソーマのおかげ……」


 そう言ってからセリアは大きく深呼吸をして、僕に一歩近づいてきた。かなり近い距離だ。少し動けば触れてしまうような距離。


「これはお礼……」


 少し赤みが指した顔でそう言うと、セリアは背伸びをして僕に顔を近づけた。


 ちゅっ。


 頬に柔らかい感触を感じた。


 セリアはすぐに僕から離れ、「じゃあね……」と言うと走り去ってしまった。


 僕はセリアの唇が触れた部分を手で抑え、呆然とする。


「あぁ、もう……」


 頬に残る体温は、そう簡単に消えそうになかった。

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