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第四十一話 地下通路

 スコルは怯んだ様子など全く見せず、むしろより戦意を滾らせている。だがやはり腹の傷は無視できるものではないらしく、唸り声はどこか苦しげだ。


『で、どうするよ。作戦は失敗したみてぇだが?』

「もちろん、ここで倒すよ。ダメージは与えられたんだ。勝てる見込みはないわけじゃない」


 スコルは息を整えるためか、僕から距離をとって動こうとしない。その間に風の壁を解除してもらい、息を吸い込む。

 そして、刀を構えたままスコルをしっかりと見据え――地面を蹴った。


 狙うはスコルの目だ。目を潰せればここからの戦闘が一気に有利になる。目を突き刺そうと、刀を突き出す。

 だがスコルも簡単に攻撃を受けるつもりはないらしく、口を大きく開けて食らいつこうとしてくる。


 このままでは腕を食いちぎられてしまうだろう。だが僕は腕を引っ込めること無く更に伸ばす。僕の腕ごと、スコルの口の中に刀が吸い込まれる直前、スコルが黒い光を口から放った。


 予想していなかった一撃に、体をねじって必死にかわそうとするが、肩の一部がかすってしまった。


 くっ、あの光はなんなんだ!? 


 すぐさま光が当たった肩を見てみるが、何一つ異常は見当たらない。痛みもなければ、動きに支障があるわけでもない

 なら、さっきの攻撃は――!?


『ぐっ、気を、つけろ。今のは、闇の魔法の、精神攻撃だ』


 ソルの苦しそうな声が聞こえてくる。闇魔法の精神攻撃? たしか相手に苦痛を与える魔法だったはず。でも僕にはなにも無かった……ってことは!


「ソルが肩代わりしてくれたの!?」

『ちっ、勘違いすんなよ。ソーマが死んだらオレも死ぬから、仕方なくだ』


 理屈はわからないが、スコルの闇魔法をソルが受けてくれたようだ。ありがたい、もし僕が受けていたら大きな隙を作ってしまったかもしれない。


 スコルは闇魔法が当たったのに苦しむ様子を見せない僕を見て、一瞬不思議そうにしたが、もう一度喰らわせればいいと思ったのか、再び闇魔法を発動した。


 黒い塊が空中に次々と出現した。その数、五十以上。太陽を遮り、暗い影を落としている。

 一つ一つの大きさはバスケットボール程だが、この数を全てかわすのは難しいだろう。


 どうすれば――


 僕が対策を考えていると、スコルの体が空に打ち上げられた。同時に、闇魔法が霧散する。

 スコルの体を打ち上がったのは、地面の土が急に盛り上がったからだ。怪我している腹に突き刺さるように、尖った土の槍が地面から伸び、スコルを吹き飛ばしたのだ。


 そんなことが出来るのは、この場に一人しかいない。


 フューだ!


 僕の心の叫び声に応えるかのように、フューが空から降ってくる。いつの間に捕食したのか、オーガの姿で、だ。


 フューは上空からスコルに打撃を加えようとしていた。スコルはそれにまだ気づいていない。落下の勢いと、オーガの馬鹿力が合わさった強力無比な一撃がスコルを襲う。


「スコル! 上よ!」


 その声でフューの存在に気づいたスコルは、体をよじり、フューに向かって口を開ける。そして、スコルの牙がフューを捕らえた瞬間、フューの体が溶けた。

 フューが変身を解いたのだ。小さなスライムの姿に変わったことで、辛うじて牙を避ける。


 そして、フューもスコルも地面に着地し、互いに睨み合う。


 僕は、さっきスコルに注意を喚起した人物――フラムを警戒していた。さっきまで、禁術の副作用で意識を失っているようだったフラムだが、スコルが派手に動いたせいで目覚めたのだろう。


 起きてすぐに状況を把握し、スコルに危機を知らせた、か。流石だね。


 フラムは体調こそ良くなさそうだが、意識はしっかりとしているようで、その顔は憤怒に歪んでいる。

 スコルの首元の毛を掴み、なんとか跨っていられる様な有様ではあるが、今にも噛み付いてきそうな雰囲気だ。


「ソル! なんでアンタがここに居るのよ! 折角の作戦が……。まぁいいわ! アンタは今ここで殺してあげる!」


 やはりフラムは、ソル――すなわち僕達が重症で、動ける状態じゃないと思っていたようで、僕達がここに居ることに驚いていたようだが、すぐさま切り替え、僕達を殺しにくる。


 スコルは、フューの土魔法の攻撃を上に跳ぶことで和らげていたようで、思った程のダメージは受けていない。流石はAランク、といったところかな。


 それにしても、厄介なことになったな。スコル単体でも大変だったのに、そこにスコルに指示をするフラムが加わってしまった。

 スコルという強力な兵器に、優秀な使い手が現れたようなものだ。脅威は先程までの比ではない。


 だが、この二人には弱点がある。


『ソーマ、わかってるな?』

「うん、勝機があるとすれば長期戦だ」


 スコルは腹の傷のせいでどんどん体力を失っている。止血する時間もないため、血が垂れ流しだ。

 フラムはと言うと、禁術の副作用で体がボロボロだ。そんな状態で、緊張感溢れる命懸けの戦闘を繰り広げればどうなるか、容易に想像がつく。


 つまり、この戦いは長引けば長引くほど僕に有利だ。


 そうと決まれば、僕の戦い方は一つだ。ひたすら遠距離から攻撃をすればいい。


 僕はフラム達から距離を取り、短剣を投擲しては逃げ、逃げては短剣を投げ、を繰り返した。

 もちろん、業物でもない短剣を投げただけだと、スコルの毛皮にあっさりと弾かれてしまう。だが、その短剣が目や腹の傷に当たれば話は別だ。

 スコルは急所に当たらないよう避ける必要があり、なおかつフューが散発的に放つ魔法もかわさなければならないので、距離をなかなか詰めれないでいた。


「この! ちょこまかと! 仕方ないわね、スコル!」


 フラムのその指示で、スコルが再び魔法を発動させた。今度は僕を囲むように黒い球体が発生する。

 それは一斉に僕の方へと、弾かれるように向かってくる。


 三百六十度、全ての方向から向かってくる魔法。僕は空へと活路を見出し、空に逃げる。魔法は僕がいた場所でぶつかり消滅するかと思いきや、合体してその大きさを増し、僕を追いかけてきた。


「なっ!? 追尾機能まであるのか!」

『ちっ、跳べ!』


 空中にいるのに、跳べ? そんな疑問が一瞬頭をよぎるが、ソルを信じ、何も無い空中を思い切り蹴る。

 すると、僕の足は確かに何かを蹴り、その反動で体が更に上へと浮かぶ。

 ソルが土魔法で石を作ってくれたのだ。村で空中に登った時と同じ方法だ。


 ギリギリで魔法をかわし地面へと落下していく最中、僕は地上に不自然な大きな穴を見つけた。明らかに自然にできた穴ではなく、人工的に作られた穴だ。

 いや、穴と言うより通路と言った方が適切かもしれない。生き物が降りやすいように、一部がスロープのように斜めになっており、穴は何処かへと繋がっているようだ。


 一体何のために……?


 激しく嫌な予感がする。

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