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第三十七話 開戦

 魔物達の行軍の音が聞こえてきた。地の底から響き渡るような恐ろしい音だ。音の発生源を見るとおぞましい様相の人型や獣型、虫型の魔物、決まった形を持たない粘液のような魔物や空を飛ぶ魔物の群れが村に近づいてきていた。


敵の数は優に三千を超えている。対するこちらの戦力は百にも満たない。数の違いは圧倒的だ。それでも僕達は負ける訳にはいかない。


「来たみたいだね。それじゃあ作戦通りいこう。ソル、魔法よろしく」

『あぁ』


 ソルの身体強化魔法が発動したのを確認し、僕は思いっきり地を蹴った。跳躍が最高点に達し、あとは重力に引かれ地面に落ちていこうとした時僕は空中を蹴った。

 いや、正確には空中にソルが生み出した石を蹴った。石は凄まじい音ともに地面に突き刺さる。その反動で僕の体はさらに高く浮かび上がった。


「よし、上手くいったね。この調子でもっと高くまでいこう」


 そう、空中に足場を作る魔法は今の状態では使えないが、石を生み出すことくらいなら出来る。ならそれを思い切り蹴飛ばして跳べばいいのだ。そして空中から魔物を狙撃する。これなら戦況も良くわかるし、窮地に陥った場所の手助けも容易だ。


「じゃあまずは……あいつだね!」


 魔物の中でも頭一つ飛び抜けて大きいオーガ目掛けて、ソルが生み出した即席の槍を投げた。落下しながらの投擲だったが、僕の槍はオーガに命中した。


 土製だから強度はそれほどないが、強化された僕の身体能力で投げた槍はオーガを吹き飛ばすことに成功する。

 他の魔物を巻き込みながら派手に吹き飛んだオーガはゆっくりと起き上がり、怒りに任せて手に持った棍棒を振り回した。


「この距離じゃ一撃で倒すのは無理か」


 でもそのおかげで敵の数も減ってるし、結果オーライかな。

 鬼が怒りに任せてがむしゃらに振り回す棍棒に巻き込まれ、散っていく魔物を見て僕はそんな感想を抱く。


『オーガはBランクの魔物だしな。そう簡単には死なねぇだろ』

「オーガって、力は強いけど知性が低いんだったよね。じゃあオーガを先に狙って、同士討ちさせるのもありか」


 知性が低いオーガなら、急に攻撃を受けてその敵の姿が見えないとなると暴れ出すだろう。現に僕が攻撃したオーガはまだ暴れている。


 僕は再び槍を違うオーガ目掛けて投げた。そのオーガも同じく魔物を巻き込みながら吹き飛び、暴れ始め他の魔物を次々に殺していく。

 その後も同じようにオーガを攻撃していったが、投げた槍の数が十を超えたあたりで、狼の強烈な遠吠えが聞こえた。ビリビリと鼓膜を揺らすその声が鳴りやむと、暴れていたオーガたちは途端に大人しくなり、村に向かって進軍を再開した。


「スコルか……!」


 僕はその遠吠えを放った狼――フラムのパートナーのスコルを睨みつける。


『ちっ、スコルがこの魔物共を統率してるってわけか』


 スコルは魔物の指揮を執るためか、少し離れた丘にいて戦闘に参加する気は今の所ないようだ。

 フラムの姿は見えないので、離れた場所に隠れているのだろう。

 スコルのさっきの遠吠えの指示を聞いてか、空を飛べる魔物達が僕の方目掛けて殺到してきた。


「さっきの攻撃をしたのが僕ってバレたのかな? それだったら僕が戦えないと思っている油断をつけないね」

『いや、この距離だからな、身体強化魔法をかけているオレらならともかく、スコルには個人の判別は出来てねぇだろ。攻撃してきたヤツがいる、くらいしかわからねぇはずだ』


 ならよかった。相手が油断してくれるならそれに越した事はないからね。ともあれ、今はこっちに来る魔物の対処が先か。

 空中だと機動力で圧倒的に劣るからね。少し厄介かもしれない。僕に空中で挑ませたスコルの判断はかなり的確だ。だからここは――


「フュー!」


 僕の合図で魔物の後ろから、鷲型の魔物に変形しているフューの分身が襲いかかる。見た目から仲間だと思っていたのだろう。急な攻撃に魔物達はパニックになっていた。その隙を突いてフューの分身は次々と魔物を屠っていく。

 空中の敵をフューの分身に任せた僕は地上に目を向けた。地上では今まさに魔物達と村の戦士達が接触しようとしているところだった。

 魔物達はソルと僕の予想通り、村を囲むように広がっていた。


 母さんとフューは派手な火の魔法で魔物達を蹴散らしていた。火だるまになった魔物は地面を転がり、何とか火を消そうともがいていると後続の魔物や、同じく火だるまの巨大な魔物に踏み潰されていく。


 父さんの方を見ると、村の外に出て魔物と戦っていた。地面を掘っていた時と同様にして剣の刀身を魔力で伸ばしているのか、一振りで大量の魔物の惨殺死体が出来上がっていた。足場を確保するためか、時折魔法を載せた一撃で死体を吹き飛ばしている。


 鬼神のごとく大暴れする父さんを前にして、怯む魔物達も当然出てくるのだが、スコルの遠吠えがまた響いたかと思うと、そんな魔物達もヤケクソのように父さんに突っ込んでいく。


 当然、策もなく突撃してくる魔物など父さんの相手になるわけもなく、体を真っ二つに切り裂かれて地面に倒れ伏した。


「母さん達は大丈夫みたいだね」


 村人達はと言うと、今の所危なげなく戦っていた。

 魔物達の先陣は地面に偽造しておいた落とし穴にかかり、その上から村人達が松明を投げ、火をつけた。落とし穴の中には枯れ草や乾燥させた樹皮を入れておいたので、火は勢い良く燃え盛っている。


 先頭に立つ魔物達は落とし穴に落ちた仲間を見て立ち止まるが、後続の魔物はそれに気づかず前の魔物達を突き落としてしまう。

 しばらくはそれが続き、落とし穴には次々と魔物達が落ちていったが、またスコルの鳴き声が聞こえると魔物達の動きが変わった。


 魔物達は足を止め、落とし穴の対処を始めた。

 僕が潰し損ねた魔法を使う魔物が居たようで、その魔物が橋をかける。力の強い魔物は軽い魔物を柵まで投げる。

 そうして数は多くないが、魔物が村人達と柵を挟んで接触した。


 柵まで辿り着いた魔物は邪魔な柵を壊そうと、掴みかかったり、あるいは武器で攻撃した。だが、柵はびくともしない。フューが村を囲う柵全てに魔力を流し、強化しているからだ。

 更に不運にも素手で柵を掴んでしまった者は有刺鉄線でダメージを負い、フューが魔力と共に流している電流で体を痺れさせる。


 村人達は麻痺して動きが鈍っている魔物や、柵を壊そうと必死になって隙だらけの魔物を、柵の間に差し込んで槍で落とし穴に突き落としている。

 落ちた魔物は炎に焼かれ、後から落ちてきた魔物に潰される。


「よし、作戦が上手くいってるね」

『まぁ、悪くねぇ作戦だな』


 村人達にはろくな戦闘経験が無い。そんな村人達にまともに魔物と戦うのは無理だろう。

 だけど、この作戦なら村人達がやる事は一つだけだ。柵の前で右往左往する魔物達を槍で突き落とすだけ。

 技術は必要なく、大事なのは度胸だけだ。その度胸は父さんの演説のおかげでバッチリだ。


 柵を壊すことはフューのおかげで困難だし、乗り越えようにも有刺鉄線と電流があるからこれも難しい。

 これだけなら魔物を倒す決定打に欠けるが、それは炎と落とし穴でカバーしている。


 落とし穴の深さは父さんの頑張りで五メートルにも達している。五メートルもの穴に落ちれば運が悪ければ命を落とすし、戦闘復帰出来なくなる怪我を負う可能性は高い。

 しかも上から別の魔物が降ってくるのでダメージは更に大きくなる。


 炎は特に人型の魔物に有効だ。彼らはボロい布の様な物を身につけているので、非常に燃え移りやすいのだ。

 そして炎は魔物に恐れを抱かせ、熱はパニックを起こさせる。魔物の士気は下がり、スコルの指示を聞く余裕も無くなるかもしれない。


 懸念材料としては柵を乗り越えられそうな魔物。すなわち、不定形の粘液のような魔物や、巨大な体を持つ魔物だ。

 だが――


「そいつらは僕が始末すればいい」


 僕は槍での狙撃を再開した。投擲した槍は柵をジャンプして飛び越えようとしたオーガを吹き飛ばした。僕は次の標的、フューより二回りほど大きなスライムに狙いを定め、腕を振りかぶり――


「ソル、あいつどうやって倒せばいいの?」


 倒し方がわからず、槍を下ろした。


『はぁ……ったくお前って奴は……。ああいう魔物は魔石を狙うんだ。魔石は魔物の核だからな。そいつを壊せばどんな魔物だろうと死ぬ』

「なるほど、魔石か。魔石……あれか!」


 スライムはよく見ると中央に紫色の塊を浮かべていた。恐らくそれが魔石なのだろう。僕はその紫の塊目掛けて槍を投げた。

 槍は狙い違わず目標に吸い込まれていった。紫の塊が槍に砕かれると、スライムは動かなくなった。


「よし! 当たった!」

『この距離であんな小さな標的に一発で当てるのかよ。しかも落下しながら』

「クナイとか投げるの得意だからね」

『得意ってレベルじゃねぇけどな』


 その後も僕は、槍で厄介な魔物を始末し続けた。高度がおちれば再び石を踏み台にジャンプし、落下しながら槍を投擲し、また高度がおちれば――と半ば機械のように繰り返し続けた。

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