第三十話 フューの強さ
……一ヶ月も更新ストップしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。今日から更新再開していこうと思います。更新はとりあえず週一回程度は行うようにし、少しずつ週二回のペースに戻していこう思います。
ありがたいことに、早く更新しろとせっついてくれる友人がいるので、エタることだけはありません。
母さんは驚きからすぐに正気に戻り、フューを抱き抱える。
「まぁ、フューちゃんは魔法が上手なのね〜」
母さんはフューの頭? 上辺りを撫でる。フューは褒められて嬉しいみたいで母さんの手にすりすりと体を擦り付ける。
「そういえば、フューちゃんはどこから来たの〜?」
「あぁ、話してなかったね。父さんにも話さないといけないし、ご飯を食べながら話すよ」
そう言って僕達は父さんが待つ食卓に向かった。フューは定位置である僕の頭の上だ。父さんは食いしん坊みたいに、フォークとナイフを持って目の前の料理を凝視していた。
父さんは僕らに気づくと顔を上げ、待ってましたとばかりに目を輝やかせる。
「ほら、早く来いよ! 一日中動いてて腹減ったんだ。さっさと食おうぜ! すごいご馳走だしよ!」
「うわぁ、本当に豪華だね! 母さんどうしたの?」
テーブルの上にはいつもより凝った料理がズラリと並んでいた。見ているだけで涎が止まらなくなりそうなご馳走だ。
ドレッシングがかけられた新鮮な野菜。色彩豊かで見た目からして美味しそうだ。
時間をかけてじっくりと火にかけたであろう煮込み料理。立ち上る湯気が食欲をそそる。
その横に並べられているのが、ミディアムレアに焼かれた分厚いステーキ。ステーキを焼くのにワインを使ったのか、アルコールのいい香りが漂ってくる。
そしてテーブルの中央に置かれているのが大きな鳥の丸焼き。皮がパリッと焼き上げられているのが見ているだけでわかる。
普段はそうそう出てこないご馳走たちだ。どれか一つですら滅多にでないレベルなのに、どうしてこんなご馳走が? 今日ってなにか特別な日だっけ?
「ほら、今日はソーマちゃんもお父さんもよく頑張ってたでしょ〜? あ、もちろんソルちゃんもよ〜? それに、大きな戦闘が近いんだししっかり食べて精をつけなくちゃ〜」
母さんはそう言いながら鳥の丸焼きにナイフを入れた。ジュワッと肉汁が溢れてくる。
父さんの方に目を向けると父さんはゴクリと喉を鳴らしていた。もちろんそれは父さんだけじゃなく僕もだ。
待ちきれないという目で母さんを見つめると、しょうがないわねとでも言いたげに笑い、椅子に座った。
「それじゃあ食べましょうね〜」
母さんの合図と同時にフォークをサラダに突き刺す。シャキッという小気味の良い音を聞きながら、それを口の中に運び込んだ。野菜の優しい甘味とドレッシングの酸味が奏でるハーモニーを楽しむ。
食べてわかったが、このドレッシングもかなり手が込んでいる。一口食べただけでも何種類もの果実や調味料が使われているのがわかった。
『うめぇな』
僕と味覚を共有しているソルがボソリと漏らした。きっと自然と口から出てしまったのだろう。それくらいこのサラダは美味しかった。
このドレッシング、どうやって作ってるんだろ……今度聞いてみようかな。
日本にいた頃はサバイバルをよくやらされていたせいで、このドレッシングのことが少し気になった。サバイバル中は味付けをどうするかが大事だからね。獲物の肉を焼いただけじゃ飽きちゃうし。現地でとった果実や植物で頑張って味付けしてたなぁ……
サラダを食べ終わった僕はステーキに手を伸ばした。肉厚なステーキをナイフで切り分けると、すぐさま口に放り込む。ステーキを噛むと肉がとろけ、肉汁が口の中に広がった。控えめな味付けなので肉本来の味がよくわかる。
「ソーマちゃん。美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど、フューちゃんのこと教えて欲しいな〜」
その後も次々と食べていった僕だったが、母さんの言葉に手を止めた。コップを手に取り、その中のお茶を一気に飲み干す。
「ふぅ、そういえばそれを話さなきゃいけなかったんだ。えーと、まずはフューがどういうものかだけど、フューは僕が作った従魔なんだ」
「ソーマちゃんが作ったの? でもフューちゃんってすごい魔法使ってたわよね〜?」
母さんは頬に人差し指を当て、首をかしげた。大人がやると違和感のある仕草だけど、母さんがやるとどこか様になっていた。
「だったらおかしくねぇか? 人工的に作ったスライムって弱いだろ? そりゃ、自然にいるスライムの中には強い奴もいるけどよ」
父さんは口いっぱいに詰め込んだ食べ物を飲み込んでからそう言った。
「それはフューを作った時にちょっと工夫をしたんだよ」
僕はそこで言葉を切り、料理に手を伸ばす。話している間に冷めちゃったら勿体ないからね。
「工夫?」
母さんは上品にステーキを切り分けた後、僕の方を見てきた。こころなしか、目がキラキラしているように見える。母さんは魔法使いだから、強いスライムを作ることに興味があるのかもしれない。
「フュー作る時に全属性の魔力を使ったんだよ。それに全魔力をつぎ込んだんだ。だからフューが他の人工スライムと違うのはそれが原因だと思う」
「ぜ、全属性? そんなの維持できるわけないじゃない。せいぜい三属性が限界よ?」
あ、また母さんの口調が少し崩れてる。それにしても三属性が限界か。じゃあソルが七属性も同時に使ってたのは異常なんだね。
「そこはソルに手伝ってもらったんだよ」
「他人の魔力は混じり合わないから、それじゃあスライムはできな……あ、ソーマちゃんとソルちゃんって魂が似てるのよね? だったら魔力も似てるはずね。それならいけるかも……。だとしたら融合魔法も二人で出来る……? それなら従来の魔法をはるかに超えた魔法が使えるわ。ソーマちゃんとソルちゃんに限らず魂が似ている者同士なら可能なのかしら。そうだとしたら……」
「か、母さん?」
突然自分の世界に入り込み、ブツブツと言い出した母さんに声をかける。すると母さんははっと顔を上げ、取り繕うよな笑みを浮かべた。
「ご、ごめんなさいね〜。ちょっと考え込んじゃったわ〜。それで、何の話だったかしら〜?」
うーん。やっぱり母さんも魔法使いだし、魔法のことに関してはかなりの興味があるのかも。
「あぁ、ソレイユは魔法のことになると熱中しすぎることがあるんだ。魔法関連の興味深いことがあるといつもこうなる」
父さんがこそっと僕に教えてくれた。そうなると父さんが冒険者だったときのパーティってキャラが濃い人が多いよね。戦闘になるとキャラ変わる人もいたし……。もしかすると残りのメンバーも変わったところがあるのかも。
「フューを僕とソルが作ったときに、全属性の膨大な魔力を使ったって話だよ」
「そ、そうだったわね〜。どれくらいの魔力を使ったのかしら〜?」
「僕のほとんど全魔力だから……魔導師のソル一人分だね」
僕がさらっとそう言うと、二人は唖然として動きを止める。ぎこちない動きでフューの方に顔を動かすと、再び僕に視線を戻す。
「さ、最高峰の魔法使い一人分の魔力? それがフューの中に?」
先に驚きから抜け出したのは父さんだった。硬さの残る声で僕に問いかける。
「そうだよ。まぁ、スライムの持つ魔力量はその十分の一くらいになるらしいけど」
僕は本に書いてあったことをそのまま口にする。
これこそが人工スライムが弱いと言われる最大の理由だ。放出した魔力全てがスライムになるわけではなく、霧散してしまう魔力も当然ある。そのせいでスライムの保有魔力はかなり減ってしまうのだ。
さらに、スライムを創った者の技量までは受け継げないようで、スライムの技術は使われた魔力量のみで決定する。一般的な魔法使いが全魔力を使ったとしても、スライムの技量は魔法を習い始めた子供程度にしかならないのだ。
「それでもかなり強いわよ〜? 伝え聞いたソルちゃんの話だと、普通の魔法使いの二十倍以上の魔力があるんでしょ? 単純に考えて二倍じゃない」
〈複数の魔力を使ってるからそんなもんじゃねぇぞ。魔力ってのは異なる属性を混ぜ合わせれば力が跳ね上がるからな。フューの魔力量はオレの半分くらいはあるだろうぜ〉
呆れたような母さんの声にソルが氷文字で返す。母さんは突然現れた氷に驚いていたが、すぐにその文字を読み始めた。
「……フューちゃんは私よりも魔力があるのね……ふ、ふふふ……」
母さんは壊れたような笑い声をあげた。さ、流石にスライムに魔力量で負けたのはショックだったのかな? そんな母さんに気づいていないのか、フューはどこか誇らしげだ。
父さんはというと、好戦的な光を目に宿しながらフューを見ていた。
戦ってみたいとか思ってるのかな……。思ってるんだろうな……
二人の反応をよそに、僕は食事を食べ続けた。どっちに対応するのも面倒くさそうだしね。




