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第二十八話 対策

 セリアへの魔法の指導を早めに切り上げ、僕は一度家に帰ってきていた。と言ってもセリアに教えていたのはソルなので、僕はその間魔物の対策を考えていたのだ。


「色々思いついたことはあるんだけど、魔法が使えない今の僕じゃできないから……母さんに協力してほしいんだ」


 僕は家で父さんの武器や防具の整備をしていた母さんに話しかける。思いついた作戦は魔法が無くては実現が難しい。



「ふふふ〜いいわよー。お母さんは何をすればいいのかしら〜」

「村の柵にちょっと細工をしてほしいんだ」

「ん〜それなら、お父さんの許可が必要ね〜。お父さんは村の防衛を任せられてるから〜」


 父さんが村の防衛を? 知らなかったなぁ。でも父さんはAランク冒険者だったし、不思議じゃないね。


「じゃあ父さんのところに行かないと……父さんは今どこに?」

「今は村の男の人たちを集めて魔物の襲撃について話しているはずよ〜。だから村長さんのお家にいるんじゃないかしら〜」

「それじゃあ今行っても無駄かな……」


 大事な話の途中だと邪魔になるだろうし……なるべく早い方がいいんだけど、魔物が来るまではまだ数日はあるはずだし大丈夫かな。

 ソルの話だとフラムは重症らしいから、魔物にまともに指示を出せるようになるには数日はかかるらしい。禁術とは魂だけでなく肉体も大いに傷つけるそうだ。


「そろそろ終わってるはずだし、大丈夫よ〜。ほら、行きましょ〜。あ、魔法が必要なのよね〜? だったらこれ持っていかないと〜」


 母さんはそう言って部屋に引っ込み、大きな杖を持ってきた。先端に紫の宝石がはめ込まれている、いかにも魔法使いの杖というようなものだ。

 母さんはその杖を左手に持ち、右手で僕の手をとる。そのまま村長さんの家に向かって歩いていく。


 村長さんの家に着くと、母さんの言った通り話が終わったのか父さんと村の男達が出てきた。


「ん? どうしたんだ? ソーマとソレイユ、二人揃ってこんなところに。杖まで持ってきて」

「ちょっと魔物対策で思いついたことがあってね〜。村の柵に仕掛けをする許可を貰いに来たのよ〜」


 父さんは僕の方をちらりと見ると納得したようだった。僕が言い出したことだと気がついたんだろう。


「面白そうだな。俺も手伝う」


 父さんは少年のような笑顔を浮かべ、そんなことを言い出す。


「今からソレイユと村の柵に魔物対策を施してくる、みんなそれぞれ魔物の襲撃に備えろよ」


 父さんは振り返って村の男達に向かってそう言う。


「わかりました、スーノさん。村の柵の方はよろしくお願いします。俺達はまだ魔物の襲撃を知らないやつらに教えてきますんで!」

「おう! よろしく頼む!」


 男達は父さんに敬語を使っていた。やっぱりAランク冒険者の父さんは村でも一目置かれているみたいだ。


「よし、それじゃあ行くか。ソーマ、ソレイユ」

「うん!」

「ええ行きましょう〜」


 魔物対策をしに行くというのに緊張感が全然ないね……それに両手を父さんと母さんに繋いでもらっていると、なんだか本当に子供っぽい絵面だな。僕はそんなことを思いながら歩く。


 村の柵に着くと、母さんが僕の方を見る。どうすればいいのか僕の指示を待っているのだろう。


「えーと、母さん。鉄出せる?」

「えぇ、土魔法なら使えるわよ〜。他には火と風と水が使えるわ〜」


 四属性も使えるのか。全属性使える僕が言うのもなんだけど、母さんって凄いんだな。それにしても土魔法と雷魔法が使えるってのはラッキーだったね。これで僕の考えてた作戦が使えそうだ。


「でも魔法で出した鉄は不純物が多くて使い物にならないわよ〜?」

「え、そうなの? どうしよ……」

『不純物を取り除くくらいなら今の魂の状態でも問題なくできるぞ。必要なのは魔法の繊細な制御だけだからな』


 そういえばソルに刀を作ってもらったりもしたね。あの刀は切れ味が悪かったりなんてしなかったし、ソルには不純物のない鉄を出すこともできるんだろう。


(そういえばさ、鉄が出せるなら金も出せたりする?)

『できねぇことはねぇが、割に合わねぇな。オレの全魔力を使ってやっと五グラムできるってレベルだからな。基本的に希少な金属になればなるほど必要な魔力は上がるし、技術も必要になる』


 そこらへんは上手くなってるんだね。魔術師が簡単に金を作れたら貨幣として金属が使われるわけないし……。

 おっとと、余計なことを考えている場合じゃない。母さんの疑問に答えないと。


「ソルが不純物を取り除けるらしいから大丈夫だよ」

「そうなのね〜それで、どのくらい出せばいいのかしら〜」

「えーっと、針金状にして村一周出来るくらい」

「む、村一周……それはちょっと大変ね〜。不純物を取り除いた鉄で村一周ってことでしょ〜? 今日一日じゃ無理かも〜三日は必要ね〜」


 三日か……なんとか間に合うかな? あ、そうだ。


「村のみんなも魔法使えるよね。手伝ってもらったらどのくらいになるかな」


 魔法は習得に時間はかかるが、特別な指導が必要なわけでもなく、やり方さえ知っていれば誰でも習得できる。もちろん複雑な魔法や強力な魔法はちゃんとした修練が必要だが、簡単な魔法なら習得は容易だ。

 だからほとんどの人が魔法を覚えている。その使い道は日常の生活で便利なものとしてだけだが。


「ん〜。それは無理ね〜鉄を出すのはちょっと難しい魔法なのよ〜。だからこの村だと使えるのは母さんだけね〜」

「じゃあ仕方ないか……その鉄を針金状にするのは大丈夫?」

「そのくらいなら大丈夫よ〜ちょっと歪になっちゃうかもだけど〜」

「うん、歪でも全然問題ないよ」

「それじゃあ、お母さん頑張っちゃうわね〜」


 そう言って母さんは次々と一辺三十センチくらいの正方形の形の鉄を生み出していく。正方形と言っても形にはこだわっていないのか、かなり歪な正方形だ。


『その鉄にさわれ。そうすりゃ俺が不純物を取り除いてやる』


 ソルの指示通り、鉄に触ると魔力が手に集まるのがわかる。そのまま鉄に触れ続けること十秒。


『もういいぞ』


 そう言われ手を引き上げようとすると、ズシッとした重みが手にかかる。力を入れ、無理やり引き上げると手には石の塊のようなものがひっついていた。とりあえずそれを鉄の横に置くと石の塊はひとりでに手から離れる。


「これが不純物? 元の鉄の半分もあるね……そりゃ使い物にならないわけだ」


 あれ? でも鉄鉱石って高品質でも鉄の含有量って五十パーセントくらいだって学校で聞いたことがあるような……魔法で生み出した鉄って鉄鉱石としては意外と良いものなのかな?


『ほら、さっさと次のもやるぞ』


 そう言われ、次の鉄に触ろうとするが父さんが僕を呼び止めてきた。


「ソーマ、俺にも何か手伝えることはないか?」

「父さんには柵の前に穴を掘ってほしいんだ。村をぐるっと囲むようにできるだけ深い穴を。これも村一周分だから多分父さん一人だと無理だよね……村の男の人にも協力してもらってね」


 そうだな……村の男達に協力してもらっても五日あってできるかどうか……間に合うかどうか不安だね。


「いや? 大丈夫だぞ? 村一周掘るくらいなら俺一人で十分だ」

「え、いや、でも」

「穴を掘るだけか? 何か気をつけることは?」

「えーと、柵を崩さないようにすることと、川の方に行くにつれて深くしてくれると一番いいかな」

「よし、わかった。任せろ!」


 父さんはそう言うと走ってどこかに行ってしまった。多分スコップかなにかを取りに行ったんだと思う。


「父さん一人でって……そんなの無理だよ……」

「ふふふ〜お父さんは嘘はつかないわよ〜?」

『Aランク冒険者なんだったらそのくらいできるだろ』


 Aランク冒険者ならできる? さすがにそれはないでしょ。村一周だよ? そんなに大きくないとは言っても百人近くが住む村だ。農地もあるし、人一人が一周穴を掘るなんてできる大きさじゃない。


「それじゃあ私たちは鉄を作っていきましょうね〜」

「う、うん」


 とりあえず父さんのことは放っておくしかないだろう。もうどこかに行っちゃったし、それなら自分たちが出来ることをやるべきだよね。


『ほら、さっさとしろ』


 ソルに急かされて僕は不純物を取り除く作業に戻った。と言っても僕は鉄に触っては不純物を持ち上げ捨てる。不純物を捨てたら鉄を触るを繰り返すだけだけどね。

 そんな単純作業を僕は日が暮れるまで続けていた。

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