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第二十五話 家族の会話

 僕は父さんと母さんと存分に話したあと、自分の部屋に戻ってベットの上に腰掛ける。このベットはスプリングが入っていないみたいで弾力はあんまりないけど、十分に柔らかい。弾力がないのはスプリングとかがこの世界にはないのかもしれないから仕方ないね。


「ねぇ、ソル。フラムってまた襲ってくるかな?」


 本来なら真っ先に確認すべきことだったけど、色々あってあとまわしになってたんだよね。


『あぁん? しばらくは襲って来ねぇだろうけど、また襲って来るのは間違いねぇだろうな』

「そっか、やっぱり来るか……あれ? しばらく襲って来ないだなんてどうして言いきれるの?」


 そりゃあ今までフラムと戦ってきたソルなら、ある程度予測はできるだろうけどなんでそこまで確信してるんだろう。


『フラムが最後に使った魔法は禁術なんだよ。あれは魂を傷つける。そうだな、あのレベルの禁術だと十数年はまともに魔法が使えねぇだろうな』

「禁術? そんなのがあるんだ」

『あぁ、お前が読んでる《魔道の極め方》にも載ってるはずだぞ』


 あの本読んでる途中だからな……後の方に載ってるのかな? あれ? そういえばなんでソルがその本の中身を知ってるんだろう。ソルも読んだことあったのかな?


『というか、禁術でも使われねぇ限りこのオレが窮地に陥るはずがねぇだろ。フラムの魔法の腕はオレには遠く及ばねぇんだよ』

「ははは、すごい自信だね。まぁとりあえずしばらく危険はないってことか。それじゃあその間に強くならなきゃね」


 それじゃあしばらくは安心……いや、違う。


「ねぇ、フラム自身は来れなくても他の魔族が来たり、魔物達を使ってここを襲わせる可能性はあるんじゃ……?」

『……その可能性はあるな。フラムはプライドの高いやつだから、他のやつに頼ったりはしねぇだろうが今までに支配してた魔物を使うことはあるかもしれねぇ』

「それじゃあ父さんたちに伝えとかないとね」

『あぁ、そうだな』


 これでフラムに関する心配事はとりあえす置いといて、あとはセリアの問題だね。僕はセリアを助けたいんだ。今まではその気持ちに蓋をしていたけど、もうそんな必要はないんだ。


「ソル、明日はセリアの家に行こうと思うんだ」

『あぁん? あのガキの家だぁ?……そうか、関わることに決めたんだな』

「うん、そういうこと」

『好きにすればいいだろ』


 いつもどおりぶっきらぼうに聞こえるけど、声に嬉しさが混じっているような気がした。僕が自由に生きようとしていることを嬉しく感じてくれているのかな? そうだったらいいな。


「うん、そうだね。好きにするよ。それじゃ、おやすみ」

『あぁ』


 僕は布団に潜り込み、眠りについた。




「ソーマちゃ〜ん、ほら、起きなさ〜い」

「ん、んん」


 優しい声と共に体を揺さぶられ、僕は目覚める。


「おはよう、ソーマちゃん」

「ふわぁ、おはよう母さん」


 母さんに起こされるのは久しぶりだね。最近は自分で起きてたし……それに近くに人が来ても僕が起きないなんて……母さんに気を許したからかな?


「ほら、早く準備しなさ〜い。朝ごはん出来てるわよ〜」


 母さんにそう言われて僕は手早く準備を済ませる。そして食卓へ向かおうとすると、母さんに呼び止められた。


「ふふふ〜手を繋いで行きましょうね〜」

「か、母さん。昨日言ったけど僕の中身は二十歳を超えてるんだからこういうのは――」

「だ〜め。ソーマちゃんは私の子供なんだから〜母さんに甘えなきゃ〜」


 母さんは僕の左手をきゅっと握る。うぅ、子供のフリをしてる時は気にならなかったけど、素のときにこういうことされると妙に恥ずかしいな……


 食卓に着くと、父さんが既に座っていた。


「お、ソーマ。おはよう」

「おはよう、父さん」


 挨拶をしたあと、僕は椅子に座る。母さんも席について、僕達は朝食を食べ始める。


「そういえばソーマちゃんは今日もセリアちゃんのところに行くの〜?」


 甘いジャムを塗った白くてふわふわなパンを頬張っていると母さんが話しかけてきた。


「うん、そうだよ」

「それじゃあ〜ソーマちゃんの看病をしてくれたお礼にクッキー焼いたから持ってってね〜」

「うん、わかった。そういえば昨日セリアはどうしたの?」

「お前が寝ちゃったから俺が家まで送ってったよ」


 父さんがコーンスープを飲みながら教えてくれる。


「そうだったんだ。ありがとね、父さん」

「気にすんな。それにしてもソーマも隅に置けないな。あんな可愛い子と仲良くなってたなんて」

「そ、そんなんじゃないよ! ただセリアに魔法を教えてるだけだよ!」


 僕は絞りたてのオレンジジュースを飲み干して、恥ずかしいのを誤魔化す。


「ほんとかぁ?」


 父さんがニヤニヤしながら言う。


「ほんとだってば!」


 そう言っても父さんは信じた様子もなく、いたずらっ子のような目で僕の方を見てくる。母さんに視線で助けを求めるが、にこにこと笑っているだけで助けてくれる様子はない。


「そんなことより! 昨日のことを話さないとだよね!」


 母さんの助けを諦めた僕は、露骨に話題を変える。


「そうだったな。ソーマが落ち着くまで待とうと思ってたんだが、色々あってすっかり忘れちまってたな!」


 僕の慌てる様子を十分楽しめたからか、父さんは僕の下手くそな話題転換に乗ってくれるみたいだ。

 というか、忘れてたって……いやまぁ、僕も忘れてたけどさ、息子が森で倒れてたって結構な大事(おおごと)だと思うんだけど。


「ふふふ〜私は忘れてなかったわよ〜。ほんとよ〜?」


 ……母さんも忘れてたんだろうね。父さんは適当で、母さんはちょっと天然なところがあるからなぁ。


「えーとね、昨日はフューに魔物と戦う経験を積ませようと思って、森に入ったんだ」


 父さんと母さんは何か言いたそうにしていたけど、話の腰を折らないためか黙ってくれていた。多分、そんな危ないことをするなとか言いたかったんだと思う。


「それでゴブリンに会って倒したんだけど、そのゴブリンが魔族の支配の魔法を受けていることにソルが気づいたんだ」


 父さんと母さんの顔が少し強ばる。魔族っていうのは悪の象徴みたいに言われてるし、基本的に人族より強い。まぁ、ソルの話では魔族全部が悪ってわけじゃないらしいけど。


「だから森の奥の方に進んでみると魔族が話しているのが聞こえたんだ。その魔族は僕を殺すために来たらしくて村に攻め入るつもりだったから、一度家に帰って準備したあとその魔族に挑んだんだよ」

「……その結果が昨日の惨状ってわけか」

「うん」

「とりあえずは……」


 父さんは立ち上がって僕の方に歩いてくる。


「危ないことをするんじゃない!」


 ゴチンと僕の頭に拳が降ってくる。かわそうと思えばかわせたけど、ここは受けるべきだと思ってしっかりと受けた。結構な痛みが襲ってくる。


「下手したら死んでたかもしれないんだぞ? もう無茶はするな。何かあったら俺に頼れ。母さんだってきっとお前の力になってくれる」


 父さんの言うことはもっともだ。本当に後少しで死ぬところだった。父さんたちに協力を求めていたらそんなことにはならなかっただろう。


「うん……」


父さんは険しい顔から、一転満面の笑みを浮かべる。


「それはそれとして、村を守ろうとしたのは偉いぞ。よくやったソーマ」


 父さんはわしわしと僕の頭を乱暴になでる。今までは撫でられても何も感じなかったけど、今はなんだか嬉しいな……


「あ、そうだ父さん。フラムは、あぁ、襲ってきた魔族なんだけど、その魔族は禁術を使ったからしばらくは襲って来ないと思うんだ。でも魔物を使ってこの村を襲う可能性があるから注意してね」


 ソルと話していて、気づいたことを父さんに伝える。村の男達も魔族ならともかく魔物となら戦えるだろうし、僕も柵を作ったりするつもりだ。


「おう。わかった……って今フラムって言ったか? まさか妖炎のフラムか!? しかも禁術だと!? そんなものを使われたのに生きてたのか!?」


 父さんが僕の肩をがっしり掴み、すごい剣幕でまくし立てる。暴走した父さんを止めてくれるであろう母さんも、目を見開いて呆然と立ち尽くしている。


「う、うん。そうだよ。妖炎のフラムだってソルが言ってた。ソルはフラムの事を知ってるらしいから間違いないと思うよ。禁術のことも魔導師であるソルのお墨付きだし、間違いないはず」

「そ、そうか……いくら魔導師のソルがいるからってよく無事だったな……妖炎のフラムと言えば俺でも確実に負けるような相手だぞ……」


 父さんが手の力を緩め、呟くように言う。


「僕の前世はアサシンだしね。戦い方はよく知ってるよ」


 前世がアサシンだったことを伝えることに僕はあまり恐怖を感じていなかった。この父さんと母さんなら受け入れてくれる、そんな確信があったからかもしれないね。


「あ、アサシン!? な、なるほどなそれなら戦いを熟知しているのも頷ける。だが、」

「ソーマちゃん。前世のことをとやかく言うつもりはないけど、私たちの子供である今はアサシンになんてならせないわよ。必要の無い殺しはしないこと。約束してくれるわよね?」


 父さんの言葉を引き継ぐかたちで母さんが諭すように言う。ここで、殺しをするな、じゃなくて必要の無い(・・・・・)殺しをするな、という辺りこの異世界の物騒さがよく表れている。


「うん。約束するよ。無駄な殺しはしない」


 僕は母さんの真剣な瞳をしっかりと見つめながら、ゆっくりと答える。自分の言葉を胸に刻みつけるようにしながら。


「よかったわ〜。ソーマちゃんはいい子ね〜。よしよ〜し」


 真面目モードは終わったのか、母さんはいつもの優しい口調に戻ってにこにこ笑いながら僕を抱きしめ、頭を撫でる。むにょんと柔らかい感触と甘い匂いが僕を包む。


「そ、そうだ。そろそろセリアのところに行かなくちゃ。昨日はちゃんとお礼も言えてないし、心配してるかもしれないし!」


 僕は照れくさくて、セリアのことを理由に母さんの胸の中から抜け出す。


「ふふふ〜そうね〜セリアちゃんのところに早く行きたいわよね〜」


 母さんも僕をからかっているのか、そんなことを言う。


「違うよ!」


 僕はそれだけ言ってセリアのところに向かう準備を始める。母さんがセリアへのお礼にと準備してくれたクッキーもしっかり持って、玄関に向かう。


「行ってきまーす!」

「ふふふ〜行ってらっしゃぁ〜い。セリアちゃんによろしくね〜」

「おう、行ってこいソーマ」


 このやりとり、なんか家族っぽくていいなぁ。そんな変なことを考えながら僕はセリアがいるであろういつもの場所に向かった。

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