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第百九話 迷宮の秘密

 前回の更新からまたしてもかなりの日が空いてしまって本当に申し訳ありません……。エタることだけはないよう頑張っていきますので、見放さずに読んでいただけると本当にありがたいです。


久しぶりですので簡単なあらすじを


 ソーマ達は姿を変える魔術の資料を求めて迷宮に入った。道中でソルの昔の仲間、レオーネと出会い共に迷宮の最奥を目指すことになる。

 夢の中で知識の神に出会い、神々が何かを企んでおり、その企みの全貌を知るには娯楽都市ラスベガスに行き、ある男に会う必要があると言われた。

 早くラスベガスに行くために迷宮攻略を急いだが、怪我をして怒り狂っているSランクの魔物に遭遇してしまう。辛くもその魔物を倒すが、ソーマを庇ってレオーネが瀕死の状態になってしまった。

 レオーネを助けるには迷宮の最奥にある魔術の資料を手に入れるしかない。ソーマ達は迷宮の最奥を目指すことになった。

 強力な魔物たちを何とかやりすごし、迷宮の最奥に到達したソーマ達だったが、そこで因縁の相手、《妖炎》のフラムと遭遇してしまう。

 《妖炎》のフラム。魔王に仕えていた魔族の一人。人間を強く憎んでおり、十年前に僕らの村を、正確には僕とソルを殺しに来た魔族だ。きっかけはあくまで危険の芽である僕を摘むことだったが、僕の中に魔王の仇であるソルがいることを知って何が何でも殺そうとしてきた。

 言わば僕達の宿敵だ。そんなフラムとこんな状況で会うことはもはや死を意味すると言っても過言ではないだろう。


(……どうする?)

『どうするも何も、隙をついて逃げるしかねぇだろ』

(それもそうだね)


 僕はフューとセリアに目配せをする。僕達はいつでも動けるように体勢を整える。

 だが、フラムの様子がおかしかった。襲ってくる様子がないのだ。魔王の仇で、十年前にフラムに大きな傷を負わせた僕らを前に、殺意はおろか戦意すら見せない。


「あぁ、警戒は無用よ。あたしにはアンタたちを殺す気は無いから」


 どういうことだ? フラムが僕達を殺さない理由がわからない。かといって嘘でもないだろう。嘘をついて油断させる理由が今のフラムにはない。フラムが魔術一つ発動させるだけで僕達には死しか待ちえないのだから。


 十年経過したからと言って僕達がわからなくなった訳でもないだろうし……あ、そうか! 今の僕達は元の姿とかけ離れているんだった!

 僕は前世の姿だし、ついでにセリアは猫だ。これではフラムも僕達の正体に気づきようがない。


 唯一の懸念は魔王戦の時ソルと一緒に戦ったレオーネの存在だが、血まみれでなおかつフューのスライムボディに包まれているから見えづらいおかげでフラムは気づいていないようだ。


「何黙りこくってんのよ……あぁ、喋らないんじゃなくて喋れないのね。喉でもやられたのかしら? 全く、人間は脆弱ね。これあげるからさっさと治しなさい。アンタ達に話さなきゃいけないことがあるのよ」


 フラムは僕の方にポーションを投げよこした。

 フラムの意図が読めない。僕達だと気づかなかったとしても、フラムは人間そのものを憎んでいたんじゃなかったか? もしかして毒か?


「ぐずくずせずにとっとと飲みなさい」


 考えている暇はなさそうだ。ここでフラムの機嫌を損なう訳にはいかない。僕は一息にポーションを飲み干した。まず焼けた喉が癒され、その後体がゆっくりと癒えていくのを感じる。どうやら効果は高くないが本物らしい。


「あ、あり、がとう」

「ふん、人間に礼なんて言われても鬱陶しいだけよ。それよりアタシの話を聞いてもらうわよ」

「ま、待った。先に仲間を治療しないと、とてもじゃないけど話なんて出来ないよ」

「はぁ? 仲間ってそこの死に損ないこと? こんなのどうやったって助かるわけないじゃない。生きてるのが不思議な程よ? 現実を見たらどう?」


 フラムはレオーネにちらと目をやると、馬鹿にしたように笑った。人間への憎しみがなくなった訳では無いようだ。尚更フラムの態度が不可解だが、今はそれに構っていられない。


「ここで研究されていた魔術を使えば、どんな傷でも治せるはずなんだ。だけど僕たちにはもう魔力が無くて……」

「……確かに魂を元に肉体を作り替えるこの魔術なら不可能ではなさそうね。……それで、話をするにはそいつを助けなきゃいけなくて、で、アンタらにはそのための魔力が無いと。それは何? 話がしたかったら治せってアタシに言ってるわけ?」


 フラムから感じられる威圧感が増し、息が詰まる。

 様子はおかしくてもフラムが短気なのは変わっていないようだ。だが今フラムの怒りを買うのは得策ではない。


「ち、違う! そんなつもりは一切ない!」

「……そう。でもどちらにしろ、治さなきゃ話には応じないわけでしょ? もしくはそいつを殺すか……」


 フラムの目が嗜虐的に細められ、レオーネを睨む。場の緊張が高まり、僕の額から汗が流れ落ちる。すると不意にフラムが唇を歪め、体から力を抜いた。


「冗談よ。最初に言ったでしょ、殺す気は無いって。殺せたらどんなに楽か……。うだうだやってても仕方ないし、さっさと治すわよ。そこのスライムを退けて」

「いや、スライムごと魔術をかけて欲しいんだ。スライムの魔道でなんとか命を繋いでいる状態だから」


 フューを剥がされてしまえばレオーネの正体がバレてしまうかもしれないので咄嗟に嘘をつく。治療後なら恐らく違う姿になっているから大丈夫だと思うけど……。


 フラムは無言のまま魔術の準備を始めた。かなり複雑で、大量の魔力を消費する魔術にも関わらずフラムはあっさりと完成させた。やはりフラムも十年前からかなり成長しているようだ。


 ほどなくしてフューとレオーネの姿が光に包まれる。やがて光が消えると、その中にはフューに包まれた傷一つない少年の姿があった。


「良かった……ちゃんと傷は治ったみたいだ」

『あぁ、ひとまずはこれで大丈夫そうだな』


 まだ目を覚ましそうにはないが、外傷は見当たらないし神具の光も収まっている。これで問題が一つ解決した。


 残る問題は……僕はフラムに視線を戻す。フラムが言う話したいことってなんだろう。あのフラムが人間に話したいって言うくらいだから相当のことなんだろうけど。


「さて、これでいいわね? とりあえずこいつは拘束させてもらうわよ。話してる最中に襲いかかってこられても面倒だし」


 そう言うとフラムは魔術を発動させた。


「《魔物達の箱庭(モンスターハウス)》」


 何も無い空間から突如として巨大な蜘蛛が現れた。体は黒々とした鱗に覆われ、背にあたる部分から人間の上半身が生えている。そこは黒の鱗ではなく、穢れのない白の鱗で完全に覆われており、紅い水晶のような目以外は見えない。


「アラクネの突然変異種……」

「アトラ、そいつ縛って」


 アトラと呼ばれたアラクネはゆっくりと頷くと、レオーネに向かって黒い糸を吐いた。その糸は瞬く間にレオーネに絡みつき、漆黒の繭を形成した。


「それで、もうアタシの用事を始めていいいのかしら? まだアタシにやらせたいことでもある?」


 フラムは目を釣りあげて僕達を睨みつける。ここで他にも何か要求しようものなら腕の一本や二本は焼き尽くされそうだ。


「いや、もう何も無いよ。話をしてくれて構わない」

「そ。ならとりあえずこれ読みなさい」


 フラムはそう言うと僕に向かって分厚い本を投げてきた。上半身だけなのでその重みにぐらつきながらも何とかキャッチした。

 本の外装は随所に宝石が嵌め込まれていたりと装飾過多だと思えるほど豪華で、ページも紙ではなく動物の革で出来ていていかにも高級品といったオーラがあった。いや、そのオーラは見た目からのみ起こるものでは無い。この本からは妙な力が感じられる。


「神具……?」

「そうよ。そもそもこのダンジョンの攻略が神の試練で、その報酬がその本ってことなんでしょうね。本というよりその中の情報が、かしら」

『となると、もしかするとこのダンジョンはそのためだけに作られたのかもな。人間たちにこの情報を与えるために。そう考えりゃ研究成果を守るには無駄の多すぎるここの作りにも一応の筋は通る』

(神様たちは試練をクリアした人間にしか何かを与えることは出来ないんだっけ?)

『生まれる時に与えられる加護以外はな』


 僕は父さんが出会ったエンシェントドラゴンの「制約によって話せない」という言葉を思い出していた。これはその制約を掻い潜るためのものなのではないか。そんな考えが僕の頭をよぎった。


 もしそうならこの中の情報はエンシェントドラゴンが伝えようとし、神がわざわざダンジョンを用意してまで人間に知らせなければならない何かということになる。


 僕はゴクリと唾を飲み込むと、そっとページを開いた。

 その瞬間、視界がぐにゃりと歪んだかと思うと辺りは紅蓮の炎に焼かれた風景へと早変わりしていた。

 空に目をやると、どす黒い雲が空を覆い、雲間を紫の雷が縦横無尽に駆け巡っている。

 この世の地獄を思わせるその光景は、しかし現実ではないようで炎からは熱も息苦しさも感じない。


『ちっ、神具の効果か。幻覚を見せられてるみてぇだな』


 ソルに現状のより詳しい解説を求めようとしたとき、頭が割れんばかりの咆哮が轟いた。地から響いてくるように壮大で、それでいて酷く恐ろしい声だ。


 全身から汗が吹き出る。体は震え、制御を失う。視界は真っ白になり、意識も危うく手放しかけた。


 これはダメだ。かなわない。格が違う。


 体が生存を諦める。戦意どころか生きる意思さえ奪われた。ただ咆哮を聞いただけだと言うのに。

 僕は恐怖のままに振り向き、咆哮の主を目視した。


 ソレ(・・)は強大な生命力を秘めていた。その足はこの星を掴んでいるかのようで、その翼は一度羽ばたかせれば何処までだって飛んでいけそうで、その眼は睨むだけであらゆる生命を停止させてしまいそうだった。


 ソレ(・・)は神々しかった。一片の穢れも無い新雪のような白の鱗に、宝石の如き紅のラインが無数に走っている。美しく、一つの芸術作品のようにさえ感じさせた。


 ソレ(・・)は悍ましかった。見た目の美しさとは裏腹に、その存在は全ての生命を冒涜していた。僕の生物としての本能がソレの存在を全力で否定していた。




 ソレ(・・)は──ドラゴンの形をしていた。

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