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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

らき★どん

 ……こういうの何て言うんだっけ?

 床ドン? でもベッドだからベッドン?

 人間、あまりに異次元な状況に追いやられると、逆に冷静になれるらしい。

 生まれてきて二十五年。初めて知ったよ。


「あの……」

「え? あ、あぁっ! えっと、だね」


 目の前にっていうか、私の両手の間に中川さんがいた。

 ベッドに寝転がったまま、私のことをじっと見つめてる。

 酔ってるせいか、目はトロンとしてるし、顔は紅いし……もともとカワイイ顔だけど、いつもよりも数倍、いや数百倍かわいく見えた。

 中川さんは会社の同僚だけど、特に仲がいいわけではない。

 何度か同じプロジェクトになったことはあったけど、一般職の彼女と総合職の私では、あまり接点は無い。

 一応、顔と名前ぐらいは知ってるけど、ただそれだけの関係だった。

 ところが。


「あっ、片桐さん」

「え? あぁ……中川さん? 何?」

「今日はもう上がりですか?」

「この書類を部長に渡せば終わりだけど、何で?」

「ちょっと相談したいことがあって……軽くお食事でも、どうかなって」


 ちょこんと小首を傾げた彼女を、私は訝しげに眺めた。

 ……いったい、何が目的なの? 相談って、何で私に?

 黒のひっつめ髪に、グレー中心のパンツスタイル。

 靴は歩きやすさ重視のペッタン靴。

 化粧はファンデと色つきリップで終了。

 おしゃれなんて、置いてくる前に持ってすらない。

 カジュアルフライデーなんてバカげたルールが無ければ、毎日、スーツで出社するような私の対極にいるのが彼女だ。


 派手すぎない茶色い髪ふわふわさせて、襟と袖にボアのついた紺色のコートから黄色いスカートが顔を覗かせてる。

 カワイイけどそんなの履いて足が痛くならない? って思えるほどの高いヒール靴に、書類なんて入りそうもない、小さなバッグ。

 派手すぎないメイクだけど、見た目だけなら、彼女のまつ毛は私の倍ぐらいだろうか。


 ……別にいいんですよ。

 彼女たちと私じゃ、住む世界が違うんだから。

 男性社員の間をクルクルと踊る彼女たちは、カワイイ反面、滑稽というか、あざといというか。

 それが彼女たちの処世術なんだから仕方ないんだ……って思えるようになったのは、通帳の定期預金の位が一つ増えたからだった。

 ともかく、そんな世界の違う人に誘われても、断る以外の選択肢は存在しないのだが。


「美味しい地中海料理のお店なんですけど」

「あ、えっと、ちょっと……」

「ご相談に乗ってもらうので、今日は奢りますよ」

「えっ! あ、でも、悪いよ……」

「気にしないでください。ちょっとした臨時収入もあったんで。ほら、行きましょう」


 別に奢ってくれるから、じゃないよ。

 そんな厚かましさは持ってないから。

 ただ、ちょーっと、年末に散在しちゃって……だから、これは、うん。ちょっとした副業だよ。

 そんなわけで、中川さんと二人でレストランに向かったんだけど、これがこじんまりとした、いい感じのお店だったのよ。

 料理もワインも美味しくて、ついつい飲みすぎちゃって……

 そして良く分かんないまま、気がついたら彼女の部屋で、コンビニで買ったカクテルとお菓子でプチ飲み会をしてるところだったわけよ。

 これが友人の家なら泊まるって選択肢もあったけれど、さすがに彼女ではそういうわけにもいかず。


「あー、ごめんね。こんな時間まで」

「別にいいですよ? それより、泊まっていきません? もう遅いですし」

「ううん、いいよ。通りでタクシー捕まえるから」

「でも、京香さん、結構酔ってるし……」

「大丈夫だって。もう、真帆ちゃんは心配性だなぁ」


 そう言って立ったときだったんだ。足がもつれて、バランスを崩して、そんな私を支えようと真帆……中川さんが動いて。

 気づいたら、私が彼女をベッドに押し倒したようになってた。

「京香さん……」


 そう言うと、彼女がそっと目を閉じた。

 寝てるわけでも、気を失ったわけでもない。

 つまり、そういうこと……って、ちょっと待って! いったい、どうなってるの?

 イヤな状況じゃない。

 むしろ美味しい、美味しすぎる状況で。

 でも、だからこそ、怪しすぎる。


 何で彼女が? 何で私なんかと? え? え? ええッ?

 喉がカラカラに渇く。

 激しい運動なんかしてないのに、心臓がドクドクバクバクしてる。


 どうする?

 どうする?


 行くべきか、行かざるべきか。

 今なら酔っ払ったフリもできるし、そもそも、こんなに飲ませた彼女が悪いんだし。

 でも、あれこれ騒がれて、ウワサを流されるのも面倒だし。ここは無かったことにして、諦め……えっ?

 ガッと後頭部を掴まれたって思ったら、唇が触れ合ってた。


「……中川、さん?」

「真帆って呼んでくださいって、言ったじゃないですか」

「えっと……真帆、ちゃん?」

「何ですか? 京香さん」

「あの、えっと、ごめ……んんッ!」

「……そんなこと、言わないでくださいよぉ」


 二度目のキスをして、熱っぽい視線で私を見つめてくる。

 何がどうなってるのか、全く分からないんだけど……もう理性は働かなかった。

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