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アカガシラ  作者: 直弥
二番目「火球の少女」
3/17

2コマ目

 事務所から徒歩二十分程の所にある私立西箒(にしぼうき)高等学校。

 国守雄人と茨木此亜はその学校の同級生でもある。当然、二人は同じ教室へ向かうことになる。彼らが一年四組の教室へ入った時、室内はざわついていた。とはいえ、ホーム・ルーム前の高校の教室が静まり返っているという方が異様である。だが、それにしても只事ではない雰囲気が漂っていた。


 その原因は雄人にも一目で分かった。

 教卓の前、教室の前方真ん中に人だかりができている。一人の生徒の席を、クラスの女子のほとんどが囲っていた。雄人に続いて教室に入った此亜も、いそいそとその中へ加わっていった。

「雄人、おはよう」

 雄人に声を掛けてきたのは彼と此亜の共通の友人、吾妻(あずま)(きょう)太郎(たろう)であった。

 ――俺より先に教室にいたこいつなら、何か知っているかも。

 そう思った雄人は恭太郎に尋ねた。

「おはよう、恭。なあ、何かあったのか? あの席って確か」

「ああ、真壁さんの席だな」


 真壁(まかべ)(あかね)

 日本、いや、世界でも有数の富豪である真壁幸光(ゆきみつ)の一人娘。


 それだけでも十分目立つ存在なのだが、彼女の場合はそれに加えて美人で秀才。おっとりした性格で、黙っていてもお嬢様というオーラを放っているというのに、嫌味な雰囲気は一切なく、悪い噂が広まったこともない。当然、男子生徒からは、学年どころか学校内でも一、二を争う人気を誇っている。


 そして此亜の親友でもある。それ故に雄人とも、親友とまではいかないものの、友人とは呼べる人物であった。


「真壁がどうかしたのか?」

「見れば一発で分かるけど、髪を切ったんだ」

「は? 髪を切った? それだけであの人だかりか?」

 如何に目立つ存在である彼女とはいえ、ただ髪を切っただけであそこまで注目を集められるものだろうか? 雄人はこの時、その程度の認識しか抱いていなかった。そんな雄人の心中を悟ったのか、恭太郎が指摘する。

「お前今『それだけ?』とか思っただろ」

「いや、だって……そりゃ真壁だって髪ぐらい切るだろ」

 雄人は「髪を伸びるだけ伸ばしっ放しにしてたら、その内、御付きの人間に髪を持ってもらわなきゃなくなるだろ。平安時代かよ」と、喉まで出かかった冗談を、何とか押しとどめた。


 ――いやいや、俺はそんなキャラじゃないだろう。


「あのなあ、ちょっと髪を切ったり、型を変えるぐらいなら誰もあそこまで騒ぎゃしないっての。まあ今は無理だろうけど、後で直接見てみろよ。幾らグールガイのお前でも絶対びっくりするって」

「何だ、そのカッコよさ気な化け物は」

 雄人はクールガイのつもりではなかったが、同じく屍食いのゾンビのつもりでもなかった。

 ――びっくりするかどうかはともかく、確かに髪の短い真壁というのは興味があるな。

 

雄人がそんな事を考えている内にチャイムが鳴り、担任教師が教室へ入って来た。

「っしゃぁあ! ホームルーム始め……るぞ」

 自然、真壁の周りにいた生徒達も自分の席に戻り、ようやく彼女の姿が雄人にも見えた。

 

 雄人は『びっくり』した。

 

 今まで腰の辺りまであった真壁茜の黒髪は、今や肩にも届かない程に短くなっていた。髪を切ったといっても、せいぜい散髪程度のものを想像していた雄人だったが、それとはまるで違う。席の位置の関係上、正面からの顔は彼には見えない。この後姿だけでは、言われなければあれが真壁茜だと気がつくことは出来ないだろう。

 

 いつもハイテンションな挨拶で教室に入ってくる担任の石山も口を大きく開いたまま、面喰っている。


「な? ()(なえ)姉ちゃんが大口開けて面食らうほど衝撃的なんだよ」

 恭太郎は、雄人が真壁の後ろ姿を確認したのを見計らって話し掛けてきた。

「確かにびっくりした。後ろ姿だけでもあれだけ印象が違うもんなんだな」

「俺なんて正面からバッチリ顔も見たのに、一瞬、転校生かと思ったぜ」

 それは決して大袈裟な感想ではなかった。只でさえ目立つ存在の彼女だ。名前を聞けば頭の中に浮かぶのは髪の長い真壁のイメージ。そこに、突然あそこまで髪を短くした彼女が現れたら、雄人や恭太郎でなくとも混乱するだろう。


「でも、お前は茨木からなんか聞いてると思ったけどな」

「いや、聞いてなかったよ。あいつも今日知ったんじゃないのか?」

 それは、実際には心にもない言葉だった。雄人には、此亜はこのことを自分たちよりも前に知っていたという確信があった。


 結局、雄人が真壁を正面から見ることは叶わないまま、午前中の授業は終わった。 彼女は昼休みに入った途端、一人で教室を出て行ってしまった。その時、彼女の横顔が雄人にも一瞬見えたが、その表情はとても『プラスの感情』を伴っているものではない、というのが、その時の雄人の感触であった。


 彼は人から鈍いと言われることはあったが、こういうことに関してはそこまで鈍くはないつもりであった。


 たとえば『何故、真壁茜が突然髪を切ったか』かに関することなどは。


「やっと昼休みだな、雄人。お前はいつも通り弁当か?」

「いや、今日は弁当はないんだ」

「珍しいな。じゃあ、食堂行こうぜ」

 恭太郎が雄人を昼食に誘うが、雄人は親友のその誘いを断らなくてはならない。理由はもちろん、真壁茜にあった。

「悪い、恭。ちょっと用事があるから一人で行っといてくれ。場合によっちゃパスするかもしれないから、別に俺の席を確保しといてくれる必要もないぞ」

「? ああ、分かった」

 雄人の言葉を受けた恭太郎は一人で教室を出て行った。

 それを確認した雄人は振り返り、

「此亜」

 幼なじみの名を呼んだ。

「茜のことでしょ?」

 頬杖をついて、僅かに視線を教室の外に向けたまま此亜は答える。

「ああ、そうだ。あの髪はやっぱり……」

「うん、そう。昨日のアレにやられたみたい」

「そうだったのか」

 雄人はこれでようやく理解した。此亜があの妖怪に対して異常に攻撃的だった理由を。彼女は、親友の敵討ちをするつもりであったということを。

「一昨日学校で見た時はまだ髪は長かったし……、となるとその日の夜か? 真壁が髪切りに襲われたのは」

「そう。泣きながら私に電話して来たの。吹奏楽部の帰りに、おかしな人にいきなり髪を切られた、って」

「あん?」


 ――おかしな『人』? あの姿を見てなおアレを人と呼称することが出来るような人間はいないだろう。だとすると、真壁は……。


「見てないのか? 真壁は、あの妖怪の姿を」

「当たり前だよ。普通の人間があんなのを見て、たったの一日でショックが回復すると思う? 今日、学校に来るように説得するのも大変だったのに」

「まあ、それは当り前だとは思うけど……。暗かったから見えなかったのか? それとも隠避の術でも持ってたのか?」

「さあ、その辺は分からない。茜が言うには『いきなり髪を切られた感覚だけがあって、気がついたら足もとに自分の髪の毛が大量に落ちてた』って。それの時にはもう、犯人の姿はなかった、って。つまり気がつかない内に切られていたってことだよね」

「だろうな」

 雄人は、昨日の髪切りが、かなりの俊敏性を持つ者であったことを思い出した。


 ――気づかない内に襲われて、気づいた時にはもう消え失せているというのは十分にありえる話だな。


 そもそも妖怪変化というのはそういうもの。姿は見せず、為すことを為す。故に普通の人間には怪奇現象と妖怪変化の区別が付かないこともままある。


「それで昨日は、せめて髪を整えるために美容院に行ってた、ってわけ。何せ髪切りには無茶苦茶に髪を切られただけだからね。そのまま髪を伸ばしても、必ずおかしな伸び方になってたし」

「そういえば昨日は欠席してたな、真壁。で、昨日小太郎さんから髪切りの話を聞いた時にピンときた訳か」

「そう。タイミング的にどう考えたって茜を襲ったのはその髪切りに違いないって思ったよ」

「でも、何で俺にそのことを言ってくれなかったんだよ」

「うーん、それは……」

 此亜は少しの間言い淀んだが、結局、

「別に、雄を信用していない訳じゃないし、見くびっているつもりもないんだよ? でも、もしかしたら、てこともあるし……」

「もしかしたら、てこと?」

「うん。たとえば『髪なんてすぐまた生えてくるんだから、そんなに目くじらを立てることでもないだろ』なんて言い出すかもしれないってこと。そんな言葉、雄の口から聞きたくなかったし」

「……」


 事実だけを聞いていたら、確かに雄人はそう思っていたかもしれない。流石にそれを口に出すようなことまではしなかったであろうが。


「まだあの妖怪がシンプルな奴だったのは不幸中の幸いだったよ。もし髪を切るだけじゃなく、二度と髪が伸びないようにするような妖怪だったら、父さんの命令を今後も無視し続けるつもりだったもん」

 つまり、息の根を止めるつもりであった。と、此亜は続けた。

「それにしても、この時期にいきなり髪をバッサリ切るっていうのを疑問に思う奴はいないのかね? 人の髪を切る変質者が出没してるってことは皆知ってるんだし。まさかその正体が妖怪だなんて誰も思っちゃいないだろうけどさ」

「心の内では『もしかしたら』って思っている子もいるだろうけどね。茜が自分から言わない限り、わざわざそんな危ない爆弾を投げつける子はいないでしょ」

「確かに」


 これ以上広げる会話も無いと、食堂へ向かおうとして二人が席を立ちあがった瞬間、真壁が教室に戻って来た。自然、雄人の視線は教室の入り口に注がれる。そしてその視線は真壁のそれとぶつかった。

「あ、国守君……」

「よ、よう」

 思わず雄人の声が上擦る。でも、それも仕方のないことであった。

 美人、美人とはよく言われていた彼女であるし、実際彼もその通りだと思っていた。が。


 ――これは美人というより『可愛い』じゃないか?


 それが彼の感想。

 ボーイッシュなまでに短く整えられたその髪型で、確かに彼女は一昨日までとはまるで別人のようになっている。しかしそれは決して悪い意味ではない。雄人にとってはむしろ好印象であった。以前の彼女の髪型も悪かった訳ではないが、あれはどうも近寄り難さを助長していた感じがあった。だが今の彼女はどうだろう? 

 無論、見た目でそう言うことを判断してはいけないということは雄人にも分かっている。しかし、それでも彼には、今の茜の髪型の方があらゆる面でプラスに感じられた。

「へえ……、結構似合ってるんじゃないか? 俺はそっちの方が好きだな」

「ちょっと、雄!」

「あ……」


 ――しまった! 今のは失言だった。失言にも程がある。真壁は望んで髪を短くした訳ではないのに。


 雄人は思わず目を顔を伏せた。

 小声で雄人を叱咤した此亜は、彼を睨んでいる。それも当然。雄人には弁解のしようがなかった。

 そもそも此亜に謝るのは筋違いだし、かといって、茜は彼が事情を知っているなんて思っていないだろうから、彼女に謝るのもまた藪蛇になりかねない。

 苦悶の表情を見せる彼女を想像しながら、雄人は再び視線を前に戻す。

 すると、茜は彼の目の前の位置にまでやってきていた。

 だがその表情は苦悶や怒り、悲しみを孕んだものではなかった。不安げで、しかし期待がこもったような、いうなれば、祭りでよく見られる『出店で、くじ引きの結果を待つ子ども』のような表情。そんな表情のまま、彼女は口を開いた。

「国守君は、その、こっちの方がいいと思う? 前の髪型よりも」

「あ、ああ。っていっても俺の好みの問題かもしれないけど」

 雄人にとって、茜のその反応は予想外のものだったが、彼の言葉は嘘や煽てではない。彼にとって、以前よりも彼女が魅力的に見えたのは事実であった。

「そ、そうですか? 良かった」

「?」


 ――何が良かったんだ?


 雄人はそう思わずにはいられなかったが、彼女の顔が急に明るくなったところを見て、少しほっとすることが出来た。もっと破滅的に落ち込んでいるものかと思っていたのだ。そしてほっとすると同時に、「此亜が説得したにせよ、こうして学校にも来れている以上、そこまで心配する必要はないのかもしれないな」と、勝手に合点した。


 彼の都合の良いように解釈し、結論づけた。


「そうだ! 今日は皆で一緒にお昼食べない?」

 雄人が何事かと思うほど突然に、此亜がそんな提案をする。

「真壁っていつも弁当じゃなかったっけ? 俺たちは今日は食堂だろ?」

「実は今日はお弁当持ってきていないんです。本当は今朝ココと電話で話すまで学校に行く気はありませんでしたから。作ってもらってなかったんです」

「ははあ……」

 朝に彼が感じていた、疑問というには少し大袈裟な、ちょっとした違和感もこれで明らかとなった。

 いつもより起こしに来る時間が遅かった此亜。

 珍しく作れなかったという弁当。貴重な朝の時間、彼女はその許す限りを茜の説得に利用していた。今日来なければ、以前と同じ様に髪が伸びるまでこない、などということを言いかねないから。

「あのー、国守君?」

「え? ああ、悪い。ちょっと考え事をな……。大したことじゃないんだけど。昼飯のことは、真壁がそれでいいっていうんなら、俺はもちろん構わないぞ。どうする?」

「あの、それじゃあご一緒してよろしいでしょうか? 私、食堂って利用したことなくて」

 幾ら普段は弁当持参組でも、三ヶ月この学校に通っていれば、一度や二度くらい食堂を利用するものだ。何故ならこの高校の食堂は、その味とメニューの豊富さが有名で、この食堂目当てで受験した学生もいるぐらいなのだから。

 それを利用したことがないというところに雄人は、ほんの些細なことではあるが、真壁茜がお嬢様であるという事実を再認識していた。

「じゃあ、行こうぜ。先に恭を行かしたんだけど、席は取らなくていいって言っちまったんだよな。広い食堂だから今行っても三人分の席くらい空いてるとは思うけど」

「はい」

「決まりだね」


 食堂には、一人で寂しくラーメンをすする男の姿があった。

「お前……他に誰か誘えばいいじゃないか」

 憐れみを含んだ目で雄人は親友に向かってそう言った。

「俺は浮気しない主義だからな」

「やめろ、鳥肌が立つ」

「あれ? 真壁さんも一緒か? 真壁さんっていつも弁当持ってきてなかったっけ?」

 冗談を言いっ放しにしたまま、恭太郎は話題を変える。そんな恭太郎の態度に呆れながらも、雄人はきっちりとその疑問に答える。

「今日は持ってきてないんだってさ。席も空いてるし、一緒でもいいか?」

「もちろん、俺は大歓迎だぞ。しかし、男二人に女の子一人か。どうもバランスが悪いな」

「あの、私もいるんだけど」

「ごめん、小さ過ぎて見えなかった」

「そこまでチビじゃないつもりじゃないけどね!」

 此亜は憤慨して言い返す。しかし実際、此亜は同年代の女子の中では背がかなり低い。といってもそれは人間と比べると、という意味である。

「いいから座れよ、小さき者」

「雄まで便乗しないでよ!」

「ぐおっ!!」

 雄人の腹に強い衝撃が走り、彼は昼飯を食す前に朝飯をリバースしそうになる。倒れかかりながらも何とか持ちこたえ、腹を押さえながら此亜に向かって言い放った。

「何で俺だけ……っていうかせめて手で殴れ! 頭突きはないだろ!?」

「だって殴ったらこっちの手が痛くなるだけじゃない。雄人のお腹、鋼より堅いんだもん」

「お前のツ――じゃなくて頭も相当だろうが!」

 二人のやり取りに恭太郎は馬鹿笑いしているが、此亜の言が過言ではなく事実であることまでは分かっていない。勢いさえつければダイヤモンドを軽く穿孔するような鬼の角が、此亜の頭部に仕舞われていることも。雄人への頭突きの瞬間、その先端が僅かに出されたことも。

「ふふっ」

「な、何よー。茜まで」

「こういうのっていいなあ、と思って」

「え?」

「今までずっとお昼ごはんはココと二人だけで食べてたじゃない? もちろん、それはそれで楽しかったんだけど、やっぱり大勢で食べるのもいいなあと思って」

「大勢といっても四人だぞ? まぁ、今まで茨木と二人きりで食べてたっていうのは同情すべき点だが」

「吾妻くん、そんなに口からラーメンぶちまけたい?」

「すみません、茨木様。調子に乗りすぎました」

 恭太郎は別人のような顔で別人のような声を出して此亜に許しを乞うた。

 以前、一度だけ腹に受けた此亜の蹴りが、彼の心には未だにトラウマとして残っていた。

「二人とも、もういいだろその辺で。さっさとしないと昼休みが終わっちまう」

「仕方ない。今日はこの辺にしといてあげるから、感謝してよ? 行こう、茜」

「う、うん」

 勝ち誇った顔の此亜が、茜と一緒に丼物の列に並びに行く。

 恭太郎が、今度は雄人に声を掛けた。

「時に雄人よ」

「何だ? 恭よ」

「お前、よく茨木と一緒に暮らしてて身体が持つよな」

「お前がまともに一緒に暮らせる奴っているのか?」

 余計なことばかりを口にする恭を一つ屋根の下で相手を出来るのはお前の家族ぐらいのものだろ。とまでは、雄人は思っていても言わなかった。

「ところで、お前も早く飯取りに行かなくていいのか」

「行こうとしたらお前が話し掛けてきたんじゃないか。今から行ってくる」

 親友のマイペースさに呆れながら、雄人は食券を買いに、券売機に向かった。


 此亜達とは別の列に並んだ雄人は、結果的に二人と同じタイミングで席に着いた。既にラーメンを食べ終わっている恭太郎も、そのまま席に座って話の盛り上げ役を務める。

「俺の人生史上で一番ヤバかった瞬間だったな、あれは。本気で命の危機を味わったからな」

「吾妻が先に下らないこと言ったからじゃない」

「だからって冗談に対する報復が教室でリバースするほどの蹴り、って。幾ら小学生の時の話でも、一生もんのトラウマだぞ」

「ふふっ。此亜って私が思ってたよりもずっときかん坊だったのね」

「思ってたより、ってどういうこと!?」

「いや、突っ込むべきはむしろ『きかん坊』だろ。っていうか、飯食いながらするような話じゃないぞ、恭」

「俺はもう食い終わってるし」

「俺たちはまだ食ってるし」

「本当にお前は……まるで、俺と茨木の保護者みたいだよな、昔から。同い年とは思えん」

「ほっとけ」

 結局彼らは、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴るまでの時間を食堂で駄弁りながら過ごした。恭太郎の、ともすれば低俗的としか思えないような話題にも茜の食いつきは意外に良く、それなりに話は盛り上がった。


 午後になると真壁茜が髪を切ったという話は他クラス、他学年にまで知れ渡っていた。休み時間の度に彼女のファンが押し寄せては此亜がそれを『穏やかな手段』でお帰り願う、という繰り返し。それは、放課後になるまで続いた。

 結局、此亜は茜を好奇の視線から庇いながら、彼女の家まで送ってやることになった。

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