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アカガシラ  作者: 直弥
四番目「依頼者」
11/17

3コマ目

 電車に揺られること二十分。

 駅から歩くこと更に十分。

 彼らは目的の山の麓に着いた。


「ここが鍬折山ですか。名前は知っていましたが……栗原さん以外でここに住んでいる人はいるんですか?」

「いいえ。そもそも、ここに住もうと考える人はあんまりいないと思います」

「失礼かもしれませんが……そうでしょうね」


 鍬折山は、箒山とはまるで違っていた。

 ハッキリと言えば小さな山で、緑の茂る丘と呼んだ方が適当なぐらいであった。

 登山道が整備されていなくとも頂上まで一時間と掛からないだろう。

 勿論それは“普通の人間”の足で、と言う話である。


 ――それにしたって。


「どうしてまた、こんな所に一人で? しかも麓でもなく、山の中でなんて」

「二十年ほど前までは他の山に住んでいたんですよ。その時は家族と一緒に。その後は色々あって各地を転々と。その頃から、大人になったらまた山に住みたいと思っていたんです。もっとも、昔住んでいた所は山ごと人の手に渡ってしまっていたので、なるべく近い山に、と思ってここを選んだんです。熱心にお願いすると、地主さんも許可して下さいました。特に危険な動物もいないし、よほどのことがなければ遭難なんてしようがない小山ですしね。それで、一年ほど前からここで暮らしています」

「そうだったんですか。奇遇ですね。実は自分も、もっと小さい頃は山に住んでいたんですよ」

「そうなんですか!? 本当に奇遇ですね!」

 弥生は驚いた表情で雄人の顔をまじまじと見つめた。

 雄人は彼女に親近感を抱き始めていた。それは、ただ単に彼女が昔山で暮らしていたからということだけが理由ではない。実は彼もまた、いつか山に帰ろうと思っていたのだ。その場合の『いつか』とは、彼が普通の人間として生きるのを諦めざるを得ない、いわゆる『引き際』以降の『いつか』のことであるが。その時がくれば箒山に帰り、自分を育ててくれた父に親孝行しながら生活するのも悪くないと思っていた。


 根幹にある理由こそ違うものの、弥生は、雄人のその展望をすでに成し遂げていたのだ。彼は、将来的な自分のビジョンと彼女の現在を重ね合わせ、なんとなく詩的な気分に浸っていたが、

「うわ! 凄いよ、雄! こんなに大きなダンゴムシ!!」

 と、いう声でその気分をぶち壊された。

 此亜は通常サイズの五倍か六倍はありそうな大きさの、丸まったダンゴムシを両手の平に乗せ、雄人に見せてくる。

「少しは空気を読め。それと、一応、女の子なんだからそんなもん嬉しそうに手に乗せるなって。それは団子じゃないんだから、食うんじゃないぞ」

「そんな、かわいそうなことしないよ!」

「『かわいそう』じゃなかったら食うのか?」

「……分からない」

「そこはきっちりと否定してくれ!」


 雄人は心の底から叫んだ。


「さてと……。話はこれぐらいにして、早く探し始めないと。三人で手分けしましょう。狐を見つけたら九分九厘それが件の個体になるみたいですから、捕まえたらすぐに連絡を。バイブ機能を残したままマナーは解除して、呼び出し音を最大にしておきましょう。自分が探すのに夢中で、連絡に気付かなくては困りますから」

「分かりました」

「了解!」

 雄人と此亜は当然、互いの番号を登録していた。弥生は二人の番号を、二人は弥生の番号を、ここに着く前に交換していた。素早く且つ間違いなく連絡出来るように、紙に書くという古典的方法ではなく、赤外線交換によって携帯電話自体に登録した。依頼が終わったら登録は抹消するという条件付きで登録を提案した雄人であったが、弥生は「また何か依頼する時があるかもしれませんので、登録はそのままで」と申し出ていた。

「じゃあ、捜索開始! その前に……、お前はいい加減そのダンゴムシを逃がしてやれ」

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