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第七話 ゴーストな反省会、かーらーのっ

お気に入り登録数1000件を超えました!

読者の皆様、ありがとうございます!

 でろでろでーでーるるれれれ~♪


 重くおどろおどろしい、でも何処か間の抜けたメロディーが降ってくる。

 眼に映る光景の色彩が反転し、薄暗かった迷宮内が白っぽくなった。


『えー、それではー』


 地面に見えるのは5つの人影――――否、5人の死体だ。

 うつ伏せに倒れる者、仰向けで白目を見せている者、ブリッジの出来そこないのような体勢の者など、各々やられた時の状況によって倒れ方は様々。

 上から見ていると結構面白い。


 ――例え、そこに自分の死体が転がっていようとも。


『これよりっ、第1回チキチキ反省会を始めま~す!』


 独特のエコー効果のかかったフィリップの声が響く。

 地面に倒れてる死体の中には当然彼のものもあるのだが、べつに死体が話しているわけじゃない。

 フィリップの死体の上空に、同じくフィリップが居るのだ。

 青白い半透明で膝の下が無い……そう、正しく幽霊(ゴースト)として。


『……ざわ……ざわ……!』

『いやガルさん、合いの手ちがくね?』

『あははー。ドンドンぱふぱふー♪』

『そうそうそれだよ緋奈っち!』

『…………(こくこく)』


 彼だけではなく、俺含めた5人全員が幽霊の姿で自分の死体を見下ろしていた。

 どうやら、体力ゲージがゼロになったらこうなるらしい。

 眼の前には【保健室へ送還されますか?】の問いと【YES/NO】ボタンが表示されている。

 場所は自分の死体の上空で固定されているらしく、上半身以外は動かせなかった。


『反省会と言っても、何を話せと』

『あはは。まーさかもう一匹出てくるとは思わなかったからねー』

『…………!(こっくん)』


 5つの死体が転がる部屋の中では、俺たちを死に追いやった張本人――2匹目のライカンスロップイヤーがのっしのっしと徘徊している。


 1匹目を倒した俺たちだが、心身ともにズタボロの状態だった。

 魔力はまだ少し余裕があったのだが、体力ゲージが危険域(レッドゾーン)だったフィリップとガルガロが同時に一撃喰らって死んでからは、残りの全員もやられるのは早かった。

 いくら攻撃が当たるようになったとはいえ数の有利がなければ、レベルも魔術の威力も低い俺たちが、格上であるライカンスロップイヤーに勝てる道理はなかったのだ。


『――もっと、強い呪文があったら……』

『……』


 今回の敗因は、まさか2匹目が出てくるとは思わず、全員が油断してしまったこと――――ではない。一匹目を倒した時点で既に満身創痍だったということだ。

 事前に立てた作戦は初っ端から台無し。それに対するフォローやリカバリーも遅く、その後の対応も賭けの割合が多かった。

 しかしそれもこれも、全ての失態の要因はやはり1つに収束される。


 ――つまり俺たちが弱かったということ。ただそれだけだ。


 まあしかし、やはりダンジョンに来た成果は確実にあったと思う。

 呪文についての法則はある程度理解できたし、魔術による戦闘というものも経験できた。まだ弱く、出来ないことが多かったからこそ、今後の課題や自分の目指す方向というものも薄らとだが見えてきた。


 ――何より。


 俺自身が、『本気でゲームをプレイしてみようという気になった』ということが、今回のダンジョン探索で一番の収穫だっただろう。

 今までは初めてのVR体験ということもあり、ただの好奇心と、思っていたよりも理論的な内容の講義を聞いて思考が加速し突っ走っていただけ、という感じだったが、戦闘で無力すぎる自分を顧みて考えを改めた。


 ――全てがリアル過ぎるこの仮想世界では、自分自身の不甲斐なさが、弱さが、格好悪さが、全部現実(リアル)レベルで俺の心に突き刺さってくる。


 こんな体たらくを間近で見せつけられて、冷静にゲームだからと割り切れるほど俺は大人じゃない。これで奮起できなきゃ男じゃない!

 今の俺は、力及ばず悔しいという気持ちと、魔術を上達させたいというやる気で満ちていた。


 考えた末、今後の方針について、俺はみんなに言う。


『……俺は、色々な付加情報(タグ)を集めることにする。タグが無いと何も出来ないというのが、今回のことで嫌でも理解したから……』


 つまり、一旦パーティーを離脱して自己学習――単独行動をとると宣言したのだ。

 別に今後も一緒に行動しようと言っていたわけではないのだが、あんなにも燃える戦いをした後でいきなりこんなことを言うのは、何故か少し罪悪感を感じてしまう。


 俺の言葉を聞いた4人の反応は――――


『ほへ? いーんでないかい?』

『新たなタグを手に入れたいというのは同意』

『あはは。カラムスくん、やる気だね!』

『…………!(こくこくっ)』


 くすぐったくなるぐらいの好意的な言葉が返ってきた。

 何故だか分かららないが、目頭にじわっとくる。


『――ちゅーかね。オレも、決めたことがあるんだ……!』


 拳を胸に当てたフィリップが、何処か演劇っぽく目を閉じながら呟いた。


『陰陽術というのが気になる』

『あはは。あたしは契約魔術かなー。回復系は早めに覚えたいよね』

『…………可愛い子を、召喚したい、です』

『召喚魔術か』

『あはは。それもいいねー』

『――ちょっ、みなさん聞いて!? ねえお願い!』


 独白を無視(スルー)されたフィリップは必死に手を振ってアピール。

 ヤレヤレ、と肩を竦めたガルガロが彼に翡翠の半眼を向けた。


『で?』

『しくしく。うぅ……そろそろオレの結晶の心臓(クリスタルハート)が粉砕されちゃうよぅ、ガルさん』

『あはは。まあまあ。それで、何を決めたの?』

『…………?』


 そろそろ弄られキャラが定着しつつあるフィリップは、ぐふはぁぁああぁあ……と情けない顔で深い溜息を吐いたあと、少し真面目な表情で苦笑した。


『ま、そんな大袈裟なことじゃないんだけどねん。――オレ、やっぱ『戦士』になるわ』

『……え』


 ――戦士?

 戦士になる、とはどういうことだろうか?

 ゲームには触れてこなかった俺だが小説はよく読む。様々なジャンルを広く浅く読んできた中にはもちろんファンタジーなものもあった。

 ファンタジーの定番としての職業もなんとなくだが分かっている。

 魔術師や魔法使いといえば遠距離攻撃主体の後衛というイメージ。

 対して戦士といえば、武器を使い接近戦を主体とするというイメージがある。

 このMLOには魔術師しかいないはずだ。最初にナビゲートインターフェイスの『チーシャ』がそう言っていたはずだ。その正反対ともいえる戦士になるというのはいったいどういうことなのか?


『おろ? どしたいどしたいカラムっちょ?』

『ポッポに機関銃』

『あはは。ポカンとしてるねー』

『…………?』

『いや、その、フィリップが言った「戦士になる」ってのはどういうことなんだ?』

『……あ、あぁそか。カラムスくん、もしかして攻略サイト見てない?』


 緋奈の問いにこくんと頷く。

 他のみんなは解っているみたいだったのが疑問だったが、なるほど攻略サイトか。

 そのようなものがあると父さんも言っていたな。まあ、MLOプレイ中は見れないらしいからすっかり意識外だったけど。


『ふむ。……ふ、ふふふ、ふははははっ! ならば説明致しましょう!』

『解説キャラアピール乙』

『あはは。まあまあ』

『…………(ほわー)』

『え? あ、その、お、お願いします……?』

『うむ、その姿勢やよし! それではだね、まずは――――』


『――知っているとは思うが、MLOには魔術師以外の、他のRPGにあるような戦士や盗賊などの定番な職業がない。だがそれは「職業というシステムが無い」だけで、それらの「役割が無い」というわけではない』


『って、あれ? あれー? おかしくない? ちょ、ガルさん? ガルさ――――ん!?』


 他のRPG同様、ダンジョンやフィールドでモンスターと戦う以上、パーティーを組んでいる者たちそれぞれが担う役割というものも大体似通ってくる。

 それはこの魔術師しかいないゲームであるMLOでも言えることだ。


 敵の攻撃を一身に受けて詠唱中の味方を守る壁役。

 仲間の怪我や状態異常を癒して戦線を維持する回復役。

 後方から高威力の一撃を敵に浴びせる砲台役。

 様々な特殊効果を敵味方に付与する支援役。

 敵察知や罠解除などの技能を持つ斥候役。


 これらの役割はMLOにも当然ある。


 ――だが。


『……』

『あはは。魔術師と戦士が結びつかない?』

『……ああ、そうだな』

『それは――』


『ああそれね! それそれ! それはだなっ! イメージ通り、戦士ってのは剣や盾を持って自分の身体で戦うんだけど! ステ窓には【攻撃力】や【防御力】みたいな数値は無かっただろ?』

『そういえば、無かった気がする』


『――――チッ』


 説明を続けようと口を開いたガルガロにフィリップが割り込んだ。

 俺としてはどっちが説明してくれてもいいのだが、それよりもどうしてこんなにも競っているんだろうか?


 ――と、それは置いておいて。


 確かにステ窓にはそれらの数値は無かった。今は幽霊状態なので学生証が開けずステ窓が見れないが、魔術関係の数値しか記憶にない。


『MLOじゃ魔術関係の能力値(パラメータ)しか可視化されてないけどさ、それ以外にも【隠しパラメータ】ってのが多数設定されてるらしいんだよ!』

『うぃき参照乙』

『あはは。拗ねない拗ねない』

『…………(こくこく)』


 現在分かっているだけでも、【筋力】【敏捷力】【器用度】【視力】【聴力】【消化力】【存在感】【運】などが存在するという。

 可視ステとの違いは、レベルアップや講義を受けただけではそれらの値は上昇しないということ。

 ただやはり、戦士――つまり前衛になるからには【筋力】や【敏捷値】、それらから計算される【物理攻撃力】や【物理防御力】などの数値は高いほうが良い。


 ならば、どうすればそれらの数値が上がるのか?


『ふふり。その答えは――――』


『――【ルーン文字】や【オガム文字】などの、ロア女史が言っていた「文字記号を用いた魔術」だ』


『ぬぬぬぅ……!』


 特殊な記号を、武器や防具に刻み付けたり、自分の体に刺青を彫ったりすることで、キーワードを発すると身体能力が上がるという魔術があるらしい。

 それらは効果時間が長く、事前に発動しておけば突然戦闘が起こってもわざわざその都度詠唱する必要もない。


 ――いやそれは、戦士じゃなくても欲しい魔術じゃないのか?


 多少なりとも身体能力が上がるのならば冒険には十分に役に立つ。特に戦闘中に詠唱しなくてもいいというのが大きい。

 ……だが。


『あはは。でもルーンとかって相性があって、効果中に相性が悪い他の魔術を使うと反発しちゃうんだってよ?』

『な、なんだって?』


 なるほど。そうそう思い通りにはいかないってことか。

 その相性というのは後で調べる必要があるな。


『はあ……。ま、そういうわけで、オレは戦士を目指すよ。みんなはどうするんだ? カラムっちょはやっぱテンプレな砲台役?』


 フィリップの問い。

 今後、俺はMLOでどういう方向性を求めるのか。


『……色々言ったけど、MLOでは大きく分けて3つの戦闘スタイルしかない』


『オレの目指そうとする接近戦のエキスパート【魔法戦士(ウォリアウィザード)】と』


『あはは。MLOっていえばやっぱり、最後衛で魔術をどっかんどっかんする典型的な【魔術師(ソーサラー)】と』


『…………両方、出来る、【万能魔術師(オールラウンダー)】』


『――――』


 俺は、どうする? どうしたい?


 どうすれば…………一番面白い? MLOを、久しぶりのゲームを思いっきり楽しむことが出来る?


 ――そんなの、モチロン決まっている。





『俺は――――全部やりたい』





 爆笑された。

 だけどそれは嘲笑ではなかった。だから、俺も一緒に笑ってしまった。


 そして、「また強くなったらパーティーを組もう!」と約束した後、「また!」という言葉と同時に【YES】ボタンを押した。


 ……全員の死体が、それぞれ緑色に光る魔法陣に包まれる。


 手を振り合った5人の姿が次第に薄れていった。




   ◆○★△




 保健室。


「あ、あるぇ……?」

「まあ、保健室送りにされただけだからこの結果は必然」

「あははー。ちょっち恥ずかしいねー」

「…………(こく)」

「う……」


 凄くいい雰囲気で別れた後にしては、早すぎる再会だった。




   ◆○★△




 今度こそ4人と別れた俺は事務棟へと足を運んだ。

 クエスト達成の報告をして報酬を受け取り、講義の申し込みをするためだ。

 受けられる講義は今日中に全部受けよう。


 ――あれ?


 受講可能講義一覧を見ると、学園地下迷宮へと入る前に見たときよりも講義の数が増えていた。

 どうしてだ? レベルアップしたからか?

 まあいい。それはそれで好都合だ。


 俺は全ての講義を連続で予約した。


「……さて、教室に向かうか」


 最初の講義は【魔術理論基礎(2限目)】。場所は講義室A-1で、当然担当はあのロア女史である。


 現在の時刻はMLO時間で【15:46】、現実時間で【20:34】。


 本日のタイムリミットである10時までは約1時間半。こちらでは約15時間。


 受けられる講義を最初に受けて、講義の無い零時以降は商業区を見て廻ろう。


「……ふっ」


 ――さあ、精一杯このMLOを楽しもうか。







■本日の取得タグ■

【火属性初級】【水属性初級】【風属性初級】

【事象速度】【時間延長】

【粗製成形】【付与】

【識別初級】【鑑定初級】

付加情報(タグ)には一部例外を除いて等級があり、それぞれ初級、中級、上級、特級とあります。


なかには当然、ユニークなレアタグもw


2014/9/27 追記

本編中のセリフの内容を一部変更しました。

信仰魔術 ⇒ 契約魔術


タグ名称を一部変更しました。

【事象加速初級】【時間延長初級】【付与初級】⇒【事象速度】【時間延長】【付与】


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