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第五話 呪文実験

 無事に最初のアサルトロップイヤーを倒した俺たちだが、当然クエストはまだまだ続く。ロア女史の依頼だけでもあと最低9匹倒さなければだし、他のクエストだってあるんだ。


「――それは置いておいて、さっきの呪文はなんだよぅカラムスっち」

「…………」


 わくわくキラキラ、という形容詞が似合いそうな瞳をした4人に、俺は溜息を我慢しながら自身の考察を踏まえた説明をした。


「ふーむふむ」

「なるほ」

「ほほ~」

「…………(こくこく)」


 ――って、おいそこ! 


 俺の呪文をそのままパクるんじゃない。まったく……。

 話を聞き終えた4人は、それぞれ魔術構築画面を見ながら唸っている。

 なんだかどっと疲れが出て俺は溜息を吐いた。


「……ふぅ」


 しかし、戦闘には参加していなくても多少経験値は入るらしい。無論、実際に戦った者の方が量は多いようだが。

 だとしたら十分な広さもある此処ならば、個々に分かれて戦った方が良いのかもしれない。


 そう提案し、じゃんけんの末、フィリップとガルガロ組、そして俺と緋奈とロロ美組に分かれることにした。




   ◆○★△




「【イッツ、ショータイムだよ!】【杖先の虚空に生じし火の玉よ、眼に映る敵へ飛べ】ぇ~!」

「…………【其は常闇より出でしモノ】【杖先の虚空に生じし火の玉よ、眼に映る敵へ飛べ】」


 緋奈とロロ美の同時呪文。

 二つの火球を食らったアサルトロップイヤーはあっけなくその身を紫煙に変えた。


 ――こっちは問題なさそうだな。


 向こうの方でフィリップたちがワーワー騒いでるが、助けを呼ばないところを見る限り大丈夫だろう。


「じゃあ俺も始めるか……」


 学園地下迷宮へ来た本来の目的。

 呪文について、色々と実験をすること。

 まずは新規登録した呪文を試してみるか。


「【我、魔の法を紡ぐ】【掌前の虚空に点火せよ】」


 言い終わると同時、ボウッ! と一瞬だけ突き出した掌の前が燃えた。

 なるほど。言葉通り【点火】だな。ということは対象に触れながら詠唱すれば、対象を燃やすことも出来るかもしれないな。

 まあ、その『触れる』というのが一番の問題かもしれないが。


 よし次だ。


「――――【掌前の虚空に生じし火の玉】」


 これはロア女史に教わった呪文の後半を削ったもの、火の玉が起こる事象部分だけを登録したものだ。

【眼に映る敵へ飛べ】の文言が無いので、掌の前に火の玉が生まれ、そのまま数秒後に消えた。


 これも推測通り。しかしこの呪文について実験したいのはこの次だ。


「――――【掌前の虚空に生じし火の玉『ボオゥッ!!』よ、眼に映る敵へ…………やっぱりか」


【掌前の虚空に生じし火の玉】

【掌前の虚空に生じし火の玉よ、眼に映る敵へ飛べ】


 同じ文章で、途中までで成り立つ呪文も登録した場合、どうなるかを確認したかったのだが…………どうやら短い方の呪文が優先的に実行されるらしい。

 これは新呪文作成時には気を付けなければならないな。


 よし、次の実験だ。


「――――【掌前虚空発火しょうぜんこくうはっか】……!」」


 ボガーン!! 「ぐっは!?」


 爆発した。魔術失敗のようだ。

 予想はしていたし、痛みはないのだが、煙と衝撃が凄かった。


「ごほっごほっ……」

「あはは。ちょっと、大丈夫ー?」

「…………っ(おろおろ)」

「げほっ。あ、ああ、問題無い。こっちは気にしないでくれ……」


 声をかけてくる緋奈とロロ美に手を上げて応える。

 遊んでないで真面目にやってよー、と言われたが、こちとら最初から大真面目だ。


 ――いまの失敗でいくつか解ったこともあるしな。


 中国語は分からないが、漢字だけでも意味が分かる呪文では駄目のようだ。

 もしかしたら、声に出して意味が分かる文章である必要があるのかもしれない。

 または文法的に可笑しいものは駄目だとか?

 どちらにしろ漢字だけの、出来るだけ短くした呪文は使えないようだ。


 そして、失敗時の体力魔力ゲージの減り。

 どうやら設定消費魔力分が両方から減るらしい。

 今回の場合、消費魔力を【7】に設定してたから、体力魔力共に7ポイント減っていた。これは今後強力な呪文を考えるとき、大量の魔力消費の呪文を失敗したらそれだけで死に至る可能性もある。今現在でも俺のパラメータは体力より魔力の方が大きいのだ。

 まあ、まだそんな強力な呪文は作りたくても作れないんだが……。


 ――さて。


 気を取り直して、新規登録した5つのなかの最後の呪文。

 これも失敗する可能性が高いのだが、消費魔力はたったの【2】。実験なのだからばんばん失敗しても問題はない。


「それじゃ、――――【発火】」


 …………。

 …………。

 …………あれ?


「何も起こらない?」


 この呪文は、文章ではなく、ただの単語だけの場合はどういった結果になるかを実験したものなのだが……結果としては何も起こらなかった。


 ――呪文失敗の場合は爆発じゃなかったのか?


 これらから立てられる仮説としては、読み間違えたり文法的に間違っている、または動作と差異のある呪文は爆発する失敗となる。

 そして、単語だけの呪文の場合、何も起こらない失敗になる……?


「…………ふむ」


 まだまだ検証が必要ではあるが、今回はこれだけにしてクエスト達成を優先しよう。

 見れば、俺以外は真面目にモンスターを倒し続けているし。

 俺は、いつの間にか周りに増えていたアサルトロップイヤーの一匹に向けて掌を突き出した。




   ◆○★△




「ありがとう。これで受けたクエストは全部完了だ」

「おわったー! うい、お疲れー!」

「乙ー」

「あはは。おつかれ~」

「…………疲れ様、です」


 それから俺たちは、時に分担し、時に協力して、5つ全てのクエストを達成した。

 時間的には、地下迷宮へ入ってから2時間。結構かかった印象だが、現実世界の時間に換算すればたったの12分だ。

 経験値も貯まり、全員がレベル4にまで上がっていた。


「いやー、最初はどうなるかと思ったけど、戦闘にもかなーり慣れたな!」

「デカ顎犬を見てめっちゃビビリップだったくせに」

「いやアレはしょうがなくない!?」

「ストロングチン・バウ。ストロング! チン! バウ!」

「なぜ分けた? ねえ緋奈さん、なぜ分けたっ!?」

「…………?」

「ロロ美が気にすることじゃないと思うぞ」


 このカオスぶりにもだいぶ慣れた俺が居た。


「んじゃ、とりまこれからどーするよ?」


 頭の後ろで腕を組んで訊いて来るフィリップ。


「同じ呪文飽きたなう」

「あはは。それには同意~」

「…………(こくこく)」

「そうだな。そろそろ新しいタグも欲しい」


 文章の並び換えなど、あの後も失敗しないように色々と試しては見たが、やはり今使える要素が少ないと出来ることも少ない。

 クエストも達成したし、その報告や装備も買いに行きたいな。


「んーなら、一旦迷宮から出るか!」

「賛成!」


 そういうことになり、俺たちは出口に向かって歩き出した。




   ◆○★△




 クエストの対象を探して、俺たちは地下3階にまで足を延ばしていた。

 レベルも上がり、精神力も上がったので、非攻撃的モンスターなら5人同時攻撃に抵抗できる奴はいない。


「俺TUEEEE!!」「貴様だけじゃナス」「俺らTUEEEE!!」「……うむ」「あはは。それでいいんだ」「…………(こくん)」などと話しながら来た道を戻っていく。

 俺たちにこれほど余裕があるのは、恐らく魔力に余裕があるからだろう。

約500ある俺の魔力で、基本的に魔術一回に使う消費魔力は10だ。つまり連続で50回は発動できるということ。

 しかし、5人で戦っていることもあり、それほど連続発動はしない。

 10秒で1ポイント回復することもあり、次の戦闘までにはだいたい全快になる。

 経験値などの効率はともかく、死ぬ危険が無いという意味では理想的な戦い方だった。


 ――――次の部屋に戻るまでは。


「にょわ!?」

「何事か」

「あはは。なんかデカいのいるねー」

「…………っ(ビクビク)」

「なんだ、あいつ……?」


 出口までもう少し。最初にアサルトロップイヤーを倒した部屋に入ろうとした俺たちだが、進行方向の先を見て足を止めざるを得なかった。

 来た時はうさぎしかいなかったこの部屋に、見慣れない大きなモンスターが居たからだ。


 顔はアサルトロップイヤーに似ているが、角は50cmはあるだろうか。

 身体は筋肉ムキムキの巨漢といった感じで、一言でいえばオオカミ男のアサルトロップイヤー版だ。

 広い部屋の中をのっしのっしと徘徊している。


「…………ほう。奴の名は【ライカンスロップイヤー】。地下一階に稀に出現するレベル8のモンスターらしい」

「俺たちの2倍のレベルか」

「ボスモンスター? ねえ、ボスモンスター来ちゃった!?」

「あはは。フィリップ嬉しそうだねー」

「…………(ごくり)」


 買ったという情報を見ながら呟くガルガロに、興奮するフィリップと暢気な緋奈、口を一文字にするロロ美と、さてどうするかと思考する俺。


「時間はかかるけど、迂回しようか?」


 一応別ルートでも帰れる道はある。まあかなりの遠回りになってしまうが。

 それでも、身長2mもあるようなウサギ男と戦うよりはましなのではないだろうか、と考えて俺は戦闘回避を提案した。


「えー、五人同時攻撃でイケんじゃね?」

「無理ポヨ」

「同意見だ」

「あはは。俊敏そうだし、力も強そうだもんねー」

「…………避けられちゃう?」

「今までの威力から考えて、レベル8なら5人同時でゲージ半分まで削れる……くらいか?」

「たぶん。でも敏捷値高そだし二回目は無理ポ」

「二回目の5人同時を放つ前に接近されてしまう……か」

「相手の攻撃力は分からんけど、こっちの防御力は最低。最悪、一人二人はDie(ダーイ)

「だな……」


 真面目にウサギ男との戦いを考える俺とガルガロ。

 そして残りのメンツは――


「ずずず……あー、お茶が美味いなぁおい……」

「あはは。エア茶だけどねー」

「それは言わない約束だろ、緋奈っつぁん!」

「…………(ほっ)」


 何故か少し離れた所でくつろいでいた。


「えと、じゃあ戦わずに回避するということで」

「おk?」


 俺とガルガロが聞くと。


「――いや、戦おうぜ!」

「あははー」

「…………!(こくん)」


 え、どこにそんな結論が出る余地があったんだ!?

 それになんで三人ともやる気に満ちた目をしてるんだ!?

 あのロロ美まで拳をぎゅっと握りしめて……。


「まあ聞け。ガルさんにカラムっちょ」


 そして俺のあだ名が『カラムスっち』から『カラムっちょ』にいつのまにか変わっていた件。


「冒険ってなぁ、危険に敢えて踏み込んでいくから冒険っていうんだぜ……? by冒険者フィリップ」

「ドヤ顔乙」

「あははー。MLOって死んだらどうなるんだっけ?」

「…………保健室送り」

「ヘルプには経験値5%減、所持金20%減のペナルティーと書いてあるな」

「恐るるに足らず!!」

「少年よ、それ人は無謀といふ」

「――って訳で参謀二人! 作戦を求む!」

「聞け」


 よくわからないが、無謀なことに挑戦する自分に酔っているのかもしれない。

 緋奈とロロ美もやる気の様だし……。


 ゲームで、MLOで死ぬというのがどういった感じなのかは分からないが、この3人を見る限り何が何でも回避する、というほどでもなさそうだ。


 ――だったら、行ってみるか?


「ガルガロは反対か?」


 さっきまで俺と一緒に反対派だったガルガロ。

 やっぱり全員が同じ意見じゃないと戦うにも戦えないと俺は思う。


「……」


 彼は瞳を閉じて黙考に入った。

 正直、勝てる可能性は俺も低いと思う。


 ただ、俺たちが5人いるという『数の有利』と、そしてその有利を最大限に活かせる――――


「――『作戦』次第」


 眼を開いたガルガロが言い放つ。

 その言葉を聞いた全員が、ニカッと笑顔を見せた。


「いよっしゃ! やったろかーい!」

「あはは。おーう!」

「…………!(こくっ)」


 とまあ、そうことになってしまった。


 仕方ない。――さて、頑張ってみようか。

※読者の皆様にお願い!

登場人物の設定は固まっているけど、重要な設定がまだ決まっていなかった!

――というわけで! 

申し訳ありませんが、急遽【始動用キーワード】を募集します!


10文字ではなく、【10音以上】で、【日常生活で言わない】ようなユニークな始動キーをお願い致します!

例としては、本編をご覧ください。


以上、宜しくお願い致します。

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