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第二十二話 困った時の○○頼み

長らくお待たせしました。

お待たせしたのに短めで申し訳ありません。

 【東邦街】の一角。

 プレイヤーが土地を購入して家屋を建てられるエリアがある。

 そこに、古の日本の町並みに溶け込みながらも、強く自身を主張する建物――五重塔を模した、大ギルド【森羅陰陽寮】の本拠地があった。


「さて……アッシャー? 経過報告を聞こうカナ」


 街を一望できる五階の望楼にて、金髪の陰陽頭【アベル】は遠くを見ながら己が背後に向けて声を掛けた。


「――イエス、ボス」


 短く応えたのは、彼の背後に膝を付く大柄な黒人。

 黒い烏帽子と狩衣に身を包み、強く威圧感を出しながらも、浸透するが如く闇に紛れるような希薄さを持つ奇妙な存在感を持つ者。

 腹心【アッシャー・ドーベルマン】は巌のような顔に張り付いた一文字を開いた。


「彼の者の名は――【カラムス】。後衛主体の魔術師(ウィザード)デース。固定PTは2つ。大会(トーナメンツ)が始まってからは、そのうちの1つ、メイド姿の斥候兼前衛と後衛の魔術師の2人と主に組んでいるようデース。他のプレイヤーとの接触は極力避けているように見られました、デース」

「……ふむーン」


 アベルは相槌を打つ。

 どうやら、あの少年と【魔法少女連盟(まじょっこユニオン)】との関係性は薄いようだ。偶然居合わせて参戦したという情報は虚偽ではなかったということか。


「戦闘スタイルは四属性を基本としたスタンダードな【詠唱魔術】。デスが、各属性を巧みに組み合わせて様々な形の事象を操りマース。優秀な護衛(ガード)が居れば、その力はより際立つと思いマース」


 それからアッシャーは、カラムスが所有していると判明しているタグを次々と(そら)んじてみせた。


「…………ほウ、【錬金術(アルケミィ)】カ。何か面白い発明でもあったかネ?」

「ノー。確認は出来ていませんデース。ですが、恐らく何かを温存しているように見えました。バトルスタイルに違和感を覚えましたデース」

「何か、隠していると?」


 主の問いに、一拍置いてから黒き従者が応える。


「可能性は高いデース。しかし、それも我らを超えるものであるとは到底思えません、デース」

HU()HU()HU()……そうだネ」


 金髪の陰陽師は何が可笑しいのか、扇子を口に当てて肩を震わせていた。


「マスター?」

「いや、ね。彼が次に何を魅せてくれるのだろうかと思ってネ」

「…………」


 期待、している。

 己が主と仰ぐ者が、風が吹けば倒れるほどの細木のような男に期待している。

 従者はそれに、微かな苛立ちを感じた。

 付き合いが長いことで信頼されていることは分かっているが、他人に期待をするということは、自分には興味を向けて貰っていないのではと考えてしまう。


 ――それはない。


 そうは思っても、苛立ちは無くならない。

 だとすればこの感情は発散されるべきもの。

 観察対象は雑魚だ。弱者だ。それは間違いない。

 彼奴が見るに堪えない雑魚だと分かれば、この金髪の陰陽師もきっと興味を失くすだろう。

 しかし、雑魚だという結論を確定付ける決定的な根拠が足りない。


 ……もし。


 もしも、大会で彼奴とまみえることがあるとしたのならば。

 その時は――――


「…………アイ、キル、ユー……」




   ★★★★★




 二週間が経った。

 大会の方は結果だけ見れば順調に勝ち進んでいる。

 まあ、内実は語るも無残な酷い物だったけど……。

 どろっどろの泥仕合。正直、負けたと思ったのは一度や二度じゃなかった。

 ネリアを使わなくても勝てるか勝てないかのギリギリなラインだったので、逆に判断に迷って自分で窮地に陥ってしまった、という方が正しいのかもしれない。

 それでも、今日の試合でも何とか勝利して、これで8勝。

 残り1勝で決勝トーナメントに進出できる。


 ちなみに、既に18名の予選通過者が出ている事が公式で発表されている。

 残り枠は12名だけど、最悪、敗者復活戦には出れるようになった。

 ガルガロは現在7勝、桔梗は秘密だと言って何故か教えてくれない。まだ負けてはいないようだけど。

 予選最後の相手はこれまでより更に強いプレイヤーだろう。これ以上はやはりネリアを使うべきか。

 だけど、ガルガロは断固として決勝トーナメントまでゴーレムを使わないようだ。


「当然。大事なのは決勝トーナメントに出ることじゃない。ベスト8まで勝ち進むことだ」


 とのこと。

 俺にとって、ネリアは切り札のひとつ。

 なのらや七火のような強敵が待っていると分かっている決勝トーナメントで、奥の手は幾つあっても困るものではない。

 かと言って出し惜しみして負けるのは本末転倒。いつでも出せる用意だけはしておこう。


 ――今はそれよりも……。


「見つからない……!」


 この台詞を今月何度言ったことか。


「週末までに見つけ出すと宣言してはや二週間。無様にも全く成果が上がらなかったわけなのだが……」


 流石のガルガロもこめかみを指で押さえながらむぐぐぐぐと唸っていた。

 結局、それ以上の成果は出ず、今週もお開きとなった

 そして翌日。


「おいおいおいおい、どうした我が息子よ」

「そんな顔をして、何か悩みがあるんじゃないかしら?」


 朝食時、焼き鮭をほぐしているとステレオで両親が詰め寄ってきた。

 口調は心配しているが、顔は当然の如く面白がっている。


「……別に。というか、そんな顔って、どんな顔?」

「ふむ………まるでゲームでどうしても攻略出来ない場所があって、ネットや情報誌や人伝で調べても攻略方法がまるで分からず、しかし諦めきれなくて寝ても覚めてもゲームの事を考えている……そんな顔だ」

「よね♪」

「…………」


 まるで見ていたかの如く正確に断言された。

 正確過ぎてちょっと怖い。


「父さんにも経験があるぞ。一昔前は新作ゲームと同時に攻略本が出版されるなどというぬる~い環境だったが、最近じゃあまたプレイヤーの攻略熱を上げる指向のゲームが多く出て、しかも公式の攻略本は早くても一年後じゃないと出ないくらいだしなー。まあその分、攻略が捗らずにいらいらした事も数知れないが」

「そうよねぇ。特に謎解きゲーは一つ分からないと詰む事もザラだったしねぇ」

「うむうむ」


 互いにしみじみと頷き合う父と母。

 休み明けの月曜の朝だというのに、どうしてこんなにもテンションが高いのだろうか?

 まさか。


「……二人共、もしかして徹夜?」

「……」

「……」

「さぁ! それで何を悩んでいるんだい、マイサンよ?」

「恥かしがらずに、親であるわたしたちに全てを打ち明けてちょうだい」


 話を逸らすな駄目大人たちめ。

 とはいえ、こうなるとしつこいのは過去の経験からして明らか。

 行き詰っているのは事実だし、此処は先達の意見を聞くべきかな。

 この人たちにゲームの話をするのは甚だ遺憾だけど。


「はぁぁぁ~。実は……」


 溜息と共に現状を話す。

 MLOの世界でミスリルやアダマンタイトなどの幻想上の鉱物を探していること。

 しかし、どれだけ探しても見当たらないこと。

 自分たちが何か勘違いをしているのか、まだ解放されていない高レベルエリアに在るのか、そもそもMLOに存在していないのか。

 考え得る可能性も含めて説明していく。


「なるほどね~。ミスリルにアダマンタイトか……。共に有名な鉱物素材だよな。あとはヒヒイロカネとかオリハルコンとかも燃えるよなぁ。ゲームやラノベでもよく出てくるし、作品によっても希少性は全然違うし」

「そうよねぇ。でも、MLOはコンセプトに魔法とか魔術にかなり重点を置いたVRMMOよね? 世界観は元より、システムにもその影響を強く受けて凄く凝った作りになっているっていう話だし」


 流石、まだプレイしてなくても情報は集めてるって言ったのは伊達じゃないね。


「ふむふむ。しかし解せんな」

「……何が?」

「既に一部はレベル40に達するのだろう? アダマンタイトみたいに神話に出るような鉱物ならばまだまだ発見は先かもしれないが、ミスリルなんかは既に発見されていてもおかしくない。むしろ未だに発見されていない事が不思議だとおれは思うな」


 父さんもガルガロと同じ結論か。


「うんうん。そもそもアダマンタイトって有名だし、ギリシャ神話が元ネタの由緒正しい幻想鉱物だけど、実際の神話では記述が少な過ぎて後世の創作が原因で非常に強固な鉱物ってなってるわよねぇ。MLOではどんな解釈をされてるのかしら?」

「さてなぁ。まだプレイしてないし、まるで見当が付かん」


 アダマンタイトは情報不足で考える余地が無い。

 ならば。


「じゃあミスリルは?」

「んー、ミスリルの元ネタって神話だっけ?」

「あらあら。現役中二病患者のアナタが知らないなんて珍しいわねぇ。ミスリルの元ネタは神話じゃないわよ」

「ミスリル、妖精銀、エルフ。だいたいこれらのセットで覚えてるけど、元ネタまでは調べてなかったわ。つか現役じゃないっての。もはやあの頃の熱量は無いって」

「またまたぁ。うふふ」

「いやいやいや」


 ミスリルの元ネタか、確か――――。


「えっと、『指輪物語』だっけ?」

「それだけじゃなくて、トールキン先生の中つ国シリーズの小説ね。1900年代の作品だから、ギリシャ神話が元ネタのアダマンタイトからすればごくごく最近の物語と言っても良いわよね」

「あ、そんなに後の作品だったんだ」


 簡略されたリメイクの本や映画は見たことあるけれど、原文に則った本格的な書籍は見たことなかったから詳しくは知らなかった。

 正直、紀元前15世紀が始まりとされるギリシャ神話とかと同列ぐらいに扱っていたけど、3000年以上あとの西暦1900年代の作品が元ネタと言われると途端に神秘性が薄れて行くような感じがした。太古と近代くらいの差があるし。


「そう言われると、何だかミスリルがとても気安い鉱物に思えてきたよ」

「まあ、エルフもドワーフもホビットも今のイメージが定着したのはトールキン先生の実績だしねぇ。偉大な人だったわぁ……」


 遠い目で恍惚とした表情のする母(38歳)。

 その顔やめて。親のそんな顔、見たくなかったよ。


「ほうほう。しかし、これで一応ヒントが出たな」

「――え?」


 顎に手をやってニヤッと父が笑った。


「アダマンタイトは元ネタが神話。しかも紀元前発祥のもの。当然、文献は古いし、詳細なんて無いに等しい。はっきり言って二次創作の設定の方が有名だ。つまりは現実に於いては情報不足。MLO内で情報収集するしかないな。まあ、神話系の伝説素材だし、まだまだ出てくるのは先だとおれは思う」

「うん」

「対してミスリルは比較的新しい小説が元ネタだ。そして、古代と現代の違いは、伝わっている情報量だ。つまり、新しいほど詳細な文章が残っているということ。そしてMLOは凝りに凝った世界観を売りにしている。なら、なるべく原作準拠は鉄則だよな? ……おれの言いたいこと、伝わったか?」

「うん、分かった。ミスリルの原作を調べてみるよ」


 今まで知っていたつもりで本当に知ってはいなかった。

 ミスリルとは何だ。原作ではどういう扱いになっている。


 ――ちょっと光明が見えたかな。


 少しだけゲーム好きの両親に感謝の気持ちを抱いた。


「ぬっひっひ。今後とも迷うことがあればおれらを頼るがいい……」

「うふふ。親らしいことしましたね、アナタ♪」


 何故、素直に感謝させてくれないんだあんたたちは。




   ◆○★△




 ――『ミスリル』。

 銅の如く加工することが出来、ガラスの如く滑らかに研磨することが出来る。

 鍛えた鋼よりも堅く、しかもそれよりも軽い、美しさは銀の如く、しかし普通の銀とは違い黒ずむことも曇ることも無い、まことの銀。

 産出地の名を取って『モリア銀』、またはエルフの言葉で『ミスリル』と呼ばれる。


「……つまり、MLO内でモリアという地を探したらどうかと思ったんだ」


 その日の夕飯の後。

 いつも通りガルガロの研究室にて、いつも通りのメンバーに調べた結果を伝えた。

 鼻息荒く発言した俺に、しかしガルガロと桔梗の反応は芳しくなかった。

 むしろばつの悪い顔をしている。


「あー……意気軒高と意見してくれたところ済まないが、その可能性は既に検討済みだ」

「え、あっ……そうだったのか」


 うわー恥ずかしい。自信満々に言っておいてこれとは。

 立ち上がっていた俺は椅子に座ってシュンと縮こまった。


「フィールドを区分けしているエリアにはそれぞれ名前が付いている。原作でミスリルがモリアという地で採れるということは調べて分かっていたから、現在行けるエリアにその名が無いかどうか、既に調査済みだ。……結果は言わずもがな、だがな」

「こちら、フィールドの地図にエリア名を記載したものとなります」


 気配を消していた桔梗がすーっと机の上に地図を差し出してくる。

 使用人モードの時は基本無表情だけど、差し出す一瞬だけドヤ顔に見えたのは気のせいじゃない。


「ふむふむ……」


 既にガルガロと桔梗が確認済みだし、俺が見ても再確認の意味でしかないけれど、興味が勝って何気なく目を通す。


「あれ?」

「どうした?」

「此処……この山脈の麓、『レッドホーンマウンテン』」

「それが?」

「直訳すると『赤い角の山』ですね」

「そう、『赤角山(あかつのやま)』。――別名『カラズラス』」

「何だ? 知っているのか?」


 知っている。というか、今日知った。

 学校の図書室にトールキン関係の書籍が多かったのが幸いして、昼休みと放課後はそれらを読むのに費やしたのだ。

 その中に、日本語訳で中つ国地図があった。

 ミスリル産出地モリアの位置を調べ、MLOの地図と比較した。

 しかし、似たような地形は無かったので外れかと思ったのだか。


「カラズラスは、モリアに接する山の名前だ」

「……! そうか、そういうことか」

「なるほど。それでは」

「ああ、予想通りならば、この周辺にモリアに続く道があるはず……!」


 ガルガロの調べでは、モリア周辺の細かい地名などは確認していなかったようだ。

 モリアは「黒い坑」という意味を持ち、元は「ドワーフの館」を意味する『カザド=ドゥーム』と呼ばれたこと。

 モリアへの出入り口は、西に在るエレギオン側と、東に在るナンドゥヒリオン側に1つずつ在るということ。

 なのでエレギオンとナンドゥヒリオンという地名を優先的に調べていたという。


「現在行ける範囲のギリギリの位置だな。山脈を挟んでの反対側は未開拓地域か」

「反対側の山が『雲乗山(ファヌイゾル)』という名前だったら確定なんだけど」

「それを調べるよりも、現状名前が分かっている場所を探した方が早いな」


 ガルガロの言葉に、俺と桔梗が頷いた。


「目指すは『レッドホーンマウンテン』! そこでモリアへの入口を探す!」

父母は良い感じにアドバイスキャラになりつつありますね。

彼らのMLO参入は秋と言っていますが、はてさて。

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