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第三話 計画と学友

 入学説明会兼初めての講義を終えた俺は、早々に講義室を出て事務棟へと向かっていた。

 受講したい講義の確認と、お金を稼げるというクエストとやらの確認をするためだ。


「魔術構築画面は……これだな」


 事務棟への道筋は至る所に案内版と矢印があるので、それに従って行けばいい。

 横眼に道順を確認して歩きながら、俺はステ窓を開いて魔術構築画面を見ていた。

 画面には、使用可能呪文一覧と新規魔術構築タブ、始動用キーワード設定タブがあった。


 一覧には先ほどロア女史より貰った火の玉の呪文がひとつだけ存在している。

 必須消費魔力は【10】、最大消費魔力は【50】。

 現在の設定では前者になっていた。

 しかしこれは状況によって変えていけば良いことなので今はこのままにしておこう。


【始動用キーワード設定】


 これについては既に決めてある。

『普段言わない』『余り長くない』というポイントを考慮しつつ、俺としてはもうひとつ『次に来る呪文が言いやすい』ことも重要だと思う。

 カタタタタ、っと入力。

 ふむ。ちょうど10音だしこれで良いだろう。


 ――さて次は。


 新規魔術構築か。

 タブをタップして画面を遷移する。

 呪文作成画面は至ってシンプルだった。

 文字入力枠と、必須と最大の消費魔力、そして呪文に使用されている付加情報(タグ)を表示する枠のみ。

 つまり、作成した呪文の効果や成否は実際に唱えてみなければ分からないということ。

 だからタグをある程度揃えるまでは新呪文は作らないほうが良い――――

 ……と、思う者は多くいるかもしれないが。

 今の状態でも即戦力になる呪文を作れる可能性はある。


【掌前の虚空に生じし火の玉よ、眼に映る敵へ飛べ】


 始めに貰ったこの呪文。この文章内には多くのヒントが詰まっている。

 ロア女史の説明では要素の部分しか触れていなかったが、俺が注目したのは別の点。


 ――即ち、『具体的な文章である』ということ。


 火の玉が発現する場所、目標、そして目標に対する行動が明確、具体的に文章となっている。

 逆に言えば、『具体的でなければ呪文としては成り立たない』という仮説が立てられる。

『呪文として登録できない』ではなく、『失敗してしまう』とロア女史が言っていたことも証言として重要だ。

 つまり、成り立たない呪文も登録出来てしまい、それを詠唱して失敗する可能性も考慮する必要があるということ。


 ――だからこそ、呪文の法則を考えることは重要だ。


 逆に追加出来る要素が無い今の状態の方が呪文は作りやすいと考える。

 現在、気を付けるべき点は『【火属性初級】タグしか持っていないこと』と『余分な要素は付け足さないこと』、そして『具体的な文章にすること』だ。


「となると……」


 新呪文を作るにあたって、今度は『目的』が決め手になる。

 ロア女史が窓の外へ向けて放った火の玉は約10~15mくらい飛んでいたか?

 だとしたら【飛べ】という文言だけでも中距離は十分にカバー出来る。

 追加要素タグが無い状態では射程延長は出来ないので、だったら逆に近距離用の呪文を作るというのはどうだろうか?

 登録してある呪文を少しだけもじって……


「よし、っと」


 とりあえず、5つの呪文を新規登録した。

 成功の確率が高い『具体性』と『火力の低そうな単語』、『短い文章』を意識した呪文を2つ。あとは成功率は度外視で実験的意味合いの強い呪文を3つだ。

 これで始動キーを発声した後にこれらを詠唱すれば、呪文の効果が発動するはず。


「……ん、あそこか」


 作業が一段落したところで、【事務課 -Office Division-】と書かれた看板を掲げた建物が目に入った。




   ◆○★△




 事務棟は、学園敷地内に建っているレンガ造り3階建ての広い建物だった。

 入口から入るとすぐにソファーが並んだ待合所、その奥に大きなコの字型の受け付けカウンターとなっていた。

 入口脇に階段があり、階毎に対応内容が違うようだ。

 1階はノービスクラスの学生用講義履修登録とクエスト関係らしく、様々な生徒たちで凄く賑わっている。


 利用者が多いコーナーだからか、部屋の広さもかなりのものだ。混雑してはいるが受付が空いていないこともない。

 まずは各種講義を確認しよう。


「こんにちは。本日はどのようなご用でしょうか?」


 事務制服であるスーツ姿の茶髪ボブカットの女性――受付嬢がにこやかに俺を迎える。

 現実世界では夜8時過ぎだが、此方の世界ではまだ正午前なので挨拶も「こんにちは」になっていた。


「えーと、受けられる講義を確認したいのだけど」

「はい。貴方様は――――【カラムス】様ですね。現在の貴方様のランクですと、受けられる講義はこちらとなります」


 言い終わると同時に、受付の女性の前にはいくつかのウインドウが表示された。

 この中から選ぶようだ。


【魔術理論基礎(2限目)】

【魔術実践基礎(1限目)】

【魔術戦闘基礎(1限目)】

【属性論:西洋魔術(1限目)】

【冒険技術(1限目)】


 いま選べるのはこの5つのようだ。

 講義は1時間に1回、例えば13:00~13:30、14:00~14:30と時間が決まっていて、履修登録した後に開始時間に間に合うように特定の教室に行って受講するという大学のようなシステムだ。

 好きな時間に予約することが出来て、科目と時間が合えば知人や知らない人とも一緒に講義を受けられる――――


「――というようになっています」


 と、いま説明を受けたところだ。

 しかし、講義間が30分もあるのは面倒だな。俺としては連続で一通り受けてみたいのだが……。

 教室移動と復習で30分を使っても良いが、せっかくだから一授業ごとにいくつかクエストをこなしながら手に入れたタグを試していく方が効率的かもしれない。


「じゃあ次は、俺がいま受けられるクエストを教えてください」

「【カラムス】様のランクで現在受注できるクエストですね。――はい、こちらとなっております」


 ペペペペペペ、と一覧に受注可能クエストがずらーと並んだ。

 多いな、ざっと見ても20件はある。

 内容を見ると、学園内での配達関係、特定モンスターを何匹倒す、ドロップアイテム収集などがある。

 それぞれに☆マークが一つか二つ付いていて、どうやら☆が多いほど難易度も高いようだ。


 ――ふむ。


 配達関係は恐らくこの広大な学園を廻って地理を把握する意味合いもあるのだろう。

 ただ、早いうちの魔術というものを使ってみたくはある。

 ロア女史の口ぶりからして、このゲームの大本の目的である『魔素を解明して、世界の秘密を解く』というのはダンジョンを攻略するのが必須のようだ。


 ならば、早々にダンジョンというものを知っておいた方が良いだろう。

 だとしたらモンスター討伐系のクエストならば、ダンジョン体験のついでにこなせるか?

 クエストは5つまでなら同時受注できるようだ。

 とりあえず、難易度☆一つで、討伐対象である特定モンスターの出る場所が同じ『学園地下迷宮』のクエストを4つ受諾した。


「手続きが完了致しました。それでは、達成のご報告をお待ちしていますね」


 中に人などいないNPCと分かってはいるが、こうもリアルだと、見た目は完全に美人のお姉さんなので思わずたじろいでしまう。

 営業スマイルを続ける受付の女性を横目に、そそくさと事務棟を後にした。




   ◆○★△




「――よし。次は『学園迷宮』とやらに行くか」


 スティカレーア魔術学園の地下に存在するという迷宮。

 かなり深くまで階層があるらしいのだが、上層は初心者向けダンジョンになっている…………と、事務棟に置いてあったパンフレットに書かれていた。


 ふむふむ。学園地下ということで講義棟の場所から階段で降りればすぐか。

 講義を終えて新呪文を少し試す、というのも出来そうだし、今後もちょくちょく通うことになりそうだ。


 迷路のような学園の石造りの通路を抜けて、迷宮へと続く階段を降りる。

 しばらくすると開けた場所に出た。

 学園迷宮の入口、大きなアーチ状の門の横には、受付と階層図があった。

 地下10階までは初心者用ダンジョン、地下11階からは中級者ダンジョンのようだ。下の方が?マークになっているのは、まだ最下層までは到達されていないからだろうか。


「……おーい」


 さて、そろそろ初のダンジョン探索へと向かおう。

 切りの良い時間になったら切り上げて講義を受けに行くとするか。


「おーい」


 受注したクエストもこなさなければいけないな。

 最初のターゲットは、っと……。


「おいってば! 無視せんといてーっ!?」

「?」


 いきなりグイッと肩を掴まれた。

 何なんだ一体。


「やほやほー。ようやくこっち向いてくれたなコンチキショー!」

「テンション高杉」

「あはは、どもども」

「…………」


 振り返ると、俺と同じ制服を来た、同い年くらいの男子二人と女子二人が立っていた。

 そのなかの長身痩躯の銀髪ロンゲのイケメンが俺の肩に手を置いている。


「……なにか?」


 ご用ですか、とにこやかに続けられれば俺ももう少し友達が多かったかもしれないが、コミュ力の低い俺には顔を引き攣らせずにこれを言うのが精いっぱいなんだ。察してくれ。


「あっはっは。おいおい、そんな知らない人を見るような眼でみないでくれよ。もしかして同じ入学説明受けた仲間のオレたちを覚えとらんって?」


 同じ入学説明を受けた仲間?

 ということは、さっきの講義室にいた他の4人?

 正直、顔なんて見てなかったんだが……。


「普通覚えとらん」

「だよねー」

「…………(こくん)」

「えーマジでー?」


 他の3人の否定に、唇を3にする銀髪イケメン。

 とりあえず、この人たちは何がしたいんだ?


「それで、何か用なのか?」

「あーっと、ごめんね? なんかテンション高いのが一人いて話進まないよね」

「なんかオレ一人が悪者にされてるよー!?」

「ちょっとお黙れ」

「…………(こくこく)」

「あい」


 何故かその場に正座した銀髪イケメン。

 俺はその凄まじい展開の速さに、ただ唖然とするしかなかった。




   ◆○★△




「あらためまして、よろしくなっ☆彡」

「名前を言えよ」


 テンションの高い4人(実質1人)に圧倒されボケっと突っ立っている俺に、彼らは勝手に自己紹介を始めていた。


「【フィリップ】だよん。気軽にジョニーと呼んでおくれ」


 銀髪ロンゲのイケメンの名前はフィリップというらしい。

 イケメンなのに芸人みたいなノリの奴だ。イケメンなのに。


「何処から来たジョニー。……【ガルガロ】、よろしく」


 ぼそぼそとさっきからフィリップに突っ込んでいたのはガルガロという名の青髪美少年だ。外見から見た歳は小学生高学年から中学生に入りたて、といったところか。眠そうな顔の碧眼が印象的だった。


 もっともアバター設定で現実とは全く違う容姿にしている可能性も無きにしも非ずだが。


「あははー。わたしは【緋奈(ひな)】だよ。いきなり声かけてごめんね? あ、呼び捨てで良いからね」


 赤毛を短いポニーテールにしている女子、緋奈が朗らかに笑いながら謝ってきた。

 俺よりも頭ひとつ小さいくらいの背丈なのだが――それよりも特に目を引く部分がある……! しいていえば鎖骨の下で腹の上な部分だ。

 設定で自由自在のアバターとはいえ、男としては目の前にあったら体が不自由になること間違いない。


「…………【ロロ美】、です」

「え?」

「ロロ美、です」

「あ、ああ、よろしく」

「…………(こく)」

「……」


 髪留めピンでおでこを見せている緑髪ツインテールのこれまた小さい女の子。

 常にハの字眉で無口なのだが、意外と意思疎通はちゃんとしてくれる印象だ。

 大きめの制服を着ているせいというのもあるが、それにしても背が小さい。140cm超えているのか微妙な感じか。


「あはは。ね、あなたのお名前は?」


 緋奈がずいっと俺を見上げるように首を傾げて訊いてきた。

 その距離感にちょっとビクつきつつも、何とか俺は名前を告げた。


「えと、【カラムス】だ。その……よろしく」

『よろしく!』

「ヨロ」

「…………(こくこく)」


 この4人は、俺と同じロア女史による入学説明会を受けたメンバーらしい。確か案内してくれた黒猫ユーレも俺含めて5人が同時に受けると言っていたな。

 正直、初めて聞く魔術の講義とこれからの計画を考えていて他人は気にしていなかった。

 話を聞くと、4人とも初対面なのだが、フィリップが声をかけて集めたらしい。


「知覚速度10倍設定で一緒に入学説明受けるとか、マジで運命(デスティニー)入っちゃってるでしょ!」


 ――ということで声をかけてきたらしい。

 どうやら4人は入学説明が終わったあと、商業区の購買で初期配布金を使って装備を買ってきたらしい。

 全員が指揮棒(タクト)のような木の棒を持っていた。


「【桧木のタクト】。初心者用の魔法の杖で、まあド○クエで言えばひのきのぼうだな。マジ何処のハラー・ペッターだよ!? ってツッコミたくなる一品」


 魔法の威力に関わる精神力パラメータに【+1】してくれる、とフィリップが説明してくれた。

 新呪文と今後の計画で頭がいっぱいで装備のことなんて全く気にしていなかった。

 でも、装備するだけで色々なことにプラス補正が付くというのなら、やはりちゃんと買っておいた方が良いだろう。


 ――ふむ。それも含めて一回ヘルプ項目を熟読したほうが良いかもしれないな。


 まだまだこのMLOでは知らないことが多すぎる。


「ま、そーゆーわけで! 一緒にダンジョンに行こうぜ!」

「……は?」


 あれ、話を聞き逃したか?

 どういうわけなんだ?


「あはは。一人じゃ怖いから一緒についてきて欲しいんだって」

「ビビリップ」

「ビビリップ!? すごいあだ名キタコレー!?」

「…………(こくっこくっ)」


 どう、すればいい? 既に置いていかれてる感がヒシヒシと。

 発言する暇がないのだが……。


「――と、ゆーわけだ!」


 どうゆうわけ?


「さあ、ダンジョンがオレたちを呼んでいるぜ!!」

「れっつごー」

「あはは」

「…………(こくっ)」


 フィリップと緋奈に両腕を掴まれてしまった俺。

 そのまま某宇宙人のように強引に学園地下迷宮へと連れられて行った。


 ――どうやら。


 うまく計画通りには進まないようだ。

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