第十八話 錬金術応用
錬金術の可能性は無限大です。
これを極めることが既に一つのゲームになっちゃうかも。
さて、次に作るのは戦闘用のアイテムだ。
相手に当てればダメージを与えられるという分かり易いアイテムが好ましいが、それを作るのにも一苦労。尚且つ相手に当てる方法も考えなければならない。
薬品で攻撃……とくれば爆弾を思い浮かべるが火薬爆薬などはまだ作れない。一番簡単な作り方だと黒色火薬が挙げられるけど、硫黄と木炭はまだしも、硝石を手に入れられる場所が未だ見つかっていないせいだ。
MLOでは現実世界とは全く異なる火薬に近しい物も存在するかもしれないが、こちらも未だ発見には至っていない。
けれども、普通に手に入り、一見攻撃的な要素を持ち合わせていない素材でも、組み合わせ次第では攻撃に使えるアイテムに成り得る。
例えば、水棲系フィールド【ニマーヌ湖畔】に生えている【霜付き草】。ゲーム内時間で早朝4時~7時の間だけ葉の部分に霜が付くだけのただの草。薬草としての効能など何もないが、大気中の水分を少量だが一点に集めて結露させるという【ウォタロキソール】成分が取れる。
また、樹林系ダンジョン【ドルイドの魔森】にちょこちょこと生えている【熱吹き茸】。こいつも食用にも薬用にもなりはしないが、周囲に熱を放つことで自身を冷やす【ギラコジル】成分が取れる。
そして、洞窟系ダンジョン【ユミル鉱脈洞】の地底湖に住む【盲目氷魚】という魚モンスターのドロップアイテム【氷魚の鱗】。そのままでは武器にも防具にも使えないクズ素材だが、この素材の真価は成分に有る。氷で出来た鱗を持つ【盲目氷魚】は鱗に傷が付いても湖を泳いでいる内に傷が無くなる。それはつまり、湖の水を凍らせて鱗の傷を埋めているということ。これはっと思い抽出を掛けてみると、【氷魚の鱗】には水分を凝結させる【ブリザドカイン】成分が取れた。
成分の中には、肉体への作用だけではなく素材や環境に作用する物もある。
上記の成分もそれに相当する。これらを組み合わせることによってオリジナルの作用を引き起こす薬を作ることも出来るし、更に錬金術の道具を使えば、装備や道具へとその薬の作用を組み込んでマジックアイテムとすることも出来る――――いずれは、だが。
MLOには鍛冶スキルというものが無い。そのため【錬金術】を習得していない学生は城下町のNPC鍛冶屋に素材を持っていって武器製作を依頼する。しかし【錬金術】持ちならば、特殊な生態を持つモンスターのドロップアイテムはそのままの素材とはせずに成分を取る方を選択したほうが良いかもしれない。
「【水分結露】に【熱放出冷却】、更に【水分凝結】を組み合わせて……よし、これで【凍結薬】の完成だ」
見た目はコルク栓で封された蒼色の液体の入った試験管。
実験では、空気に触れて約1秒後に大気中の水分を集めて凍らせていた。何も無い場所なら水量としてはバケツ一杯ほど。水が大量にある場所に使えばこれ1本でも湯船一杯分の量を凍らせることも可能だった。水属性の魔術と【凍結薬】を合わせれば面白いことが出来そうだ。
そんな感じで、いくつか使えそうな薬品を作成していく。
「…………」
「ふふっ。楽しそうですね、ご主人様」
「え? あぁ~うん、そうだね……なんかこういう、着々と自分の想像通りの物を作り上げていくのって面白くて」
「なるほど。ご主人様は徐々に相手を自分色に染めて行くのが好みなんですね?」
「は? ……いやいやいや! なんか違う意味になってるよねっ!?」
「大丈夫です。問題ござません」
「何が!?」
「ますたぁ! ネリアも『ますたぁ色』になれる?」
「なれないし、ならなくていいからっ」
「うー、でもぉ」
「大丈夫ですよ、ネリアちゃん。一緒にご主人様色になりましょうね」
「ほんとっ?」
「いや、だから……」
ネリアは前から桔梗に懐いていたが、最近は特に仲が良い気がする。
別段それは悪いことではないのだが、時折、いや偶に……いや割と頻繁にコメントに困ることを言ってくるのは勘弁願いたい。
「それよりも、桔梗の方は大丈夫なの?」
返す言葉に困った時の話題転換。
そういえば、だいぶ桔梗にタメ口を使うのに慣れてきたな。それもこれも尽く彼女が「主たる者、従者に敬語を使うのはやめて下さい」と何度も何度も耳タコになるほど繰り返してきたからに他ならない。いったい何時どうして俺が主になって、何故メイドなのかという疑問は既に問うのを諦めた。
「はい」
からかう様な楽し気な笑みから一転、必殺メイド人の顔になった桔梗は底冷えするような笑みを薄らと浮かべた。
「そちらも問題ございません。一回戦や二回戦で負けるような無様をお見せすることはないと思います」
物凄い自信だ。
だけどそれが偽りではないと思わせる雰囲気も持っている。
「ですが、それよりも上に行こうとなると、やはり決め手が少々弱いように思いますね……」
と思ったがこれまた一転。
ふぅ、と息を吐き、軽く眉を寄せて人差し指を顎に当てる憂い顔のメイドさんに。
「決定力の不足。前衛職の難点か……」
MLOではレベルの上昇によって体力ゲージ以外は魔術関係のステータスしか上昇しない。筋力も敏捷力も器用も上がらない。それらは基本的に装備か魔術やアイテムでの強化でしか上昇しないのだ。
極端な例を出すと、レベル40とレベル1が何の強化もせず同じ武器を持って同じモンスターの同じ部位に攻撃しても、ダメージ量は同じということ。
未だNPC店売り品が主装備のご時勢。ルーン魔術なども、瞬間的にならまだしも、長時間効果を及ぼす魔術は強化効力も微々たるものだ。……七火は例外として。
ゆえに前衛として与ダメを増加させようとするなら、武器の性能を上げるか、攻撃力強化の魔術やアイテムの性能を上げるかするしかない。
魔術攻撃だったらレベルが上がるだけで威力も上がるのだが。
「武器か……」
自分の運動神経の無さは自覚しているので、今は後衛主体で活動しているが、いずれは前衛というのも経験してみたいと考えている。その時、運動神経の無さは他の要素で補う必要がある。
今から武器について研究しておくのも悪くはないだろう。
「じゃあ……作ってみようか」
ぽつりと呟いた俺に。
「えっ、ご主人様からのプレゼントですか?」
若干食い付き気味に訊いてくるメイドさん。
顔色は変わっていないが、眼が少し輝いているように見える。
「プレゼントというか、パーティーメンバーの戦力増強というか……」
「うふふふ。精一杯お手伝いいたしますね。何なりと申し付け下さいっ」
「ネリアも手伝うんだからねっ!」
「わ、わかったから。じゃあ――」
積極的な女性陣たちに背中をぐいぐいと押されるように促され、次は桔梗の武器を作ることになった。
◆○★△
「桔梗は儀式用短剣の二刀流だったよね? それとも試合じゃ別の武器を使う?」
「私は状況に合わせて武器を変える戦闘スタイルを取っています。ご主人様の前では短剣しか使っていませんでしたが、長物や暗器も使ったりしますよ」
「ふむ。じゃあ片っ端から作ってみるか……?」
砂鉄や鉄鉱石などの素材で一から武器を作り出すには、俺の研究室では設備が足りない。なので基本は店売りの武器をそのまま材料とする。
「ちなみに、どういう武器を使ってみたいとか、ある?」
「どのような武器でもいいのですか?」
「細かい希望を言ってくれれば、それに最大限沿うようにするよ」
俺の言葉に桔梗は「そうですね……」と顎に手を当てて思案顔。
「鎖……」
「え、鎖?」
「私は投げナイフも多用するのですが、投げた短剣を自在に操れればなと考えたことが幾度かあります」
「それで、短剣に鎖を付けるって?」
「駄目でしょうか?」
「駄目ってことはないし、出来なくもないけど……」
短剣の柄に鎖を付けるって感じかな。鎖鎌の短剣バージョン?
でも、そんな変則的な武器を使いこなせることができるのか?
「大丈夫です」
俺の懸念を感じ取ったのか、ふっと柔らかく微笑む桔梗。
その笑みは、まるで聖母の如く。
見た目だけは。
「ご主人様が作って下さった武器を、ご主人様のメイドである私が使いこなせぬ道理はございません」
「…………」
相変わらず訳が分からないが物凄い自信だ。
道理まで持ち出してきちゃったよ。いったい何がそこまで彼女をメイドとして駆り立てるというのか。というか、メイドってそういうものだったっけ?
「ま、まあ、とりあえず作ってみるよ。あ、でも色々と買ってくる必要が出てくるな」
「そういうことでしたら、私が行って参ります。他にも何か御入用でしたら仰って下さい」
傍目にはいつも通り涼しげな様子で、けれどよく見れば終始上機嫌な様子で桔梗はお使いへと出て行った。
「ききょー、うれしそうだったね。ますたぁ」
にぱぁと花開くように笑うゴーレム娘。
だけど俺は苦笑しか出なかった。
「はは……、知り合って結構経ったけど、未だに彼女が何を考えてるか分からないんだよね」
「うー? ききょーは、ますたぁのことしかかんがえてないよ?」
「う、う~ん……」
そう言われるとその通りかもしれないけど、素直に認めるのも面映いものがある。
何となく気まずくなった俺は、桔梗が帰ってくまでの間に準備を進めておくことにした。
「――ただいま戻りました」
「って、早い!?」
出て行ってから数分後、桔梗が帰って来た。
商業区までは此処から徒歩で片道10分弱ほど。買い物まで含めたらはっきり言って数分で帰ってこれる距離じゃない。
「メイドとして当然のことです」
本日も出ました決め台詞。
もはや物事は全てそれで片が付くとでも言わんばかりである。
「おかえりー! ききょー!」
「ただいまです、ネリアちゃん」
桔梗が買ってきたものを作業机の上に取り出した。
何はともあれ、これで作業に取り掛かれる。
作業机の上に置かれたのは数振りの儀式用短剣と、鉄製の楕円の輪が連なった一般的なイメージの鎖、長さ5メートルの長鎖環。
「…………よく鎖なんて売ってたね」
武器用ではなく、本当にただの鎖だ。
武器屋には売ってない品だろう、こんなもの。
「雑貨屋さんに置いてありました」
「そ、そうなんだ」
凄いな雑貨屋。MLOをプレイしていてただの鎖が必要になる状況なんて思いつかないのだが。
「でも、ま。材料は揃ったわけだし」
武器製作を始めるとしよう。
「でも、ただくっ付けるだけじゃ芸が無いな……」
完成イメージとしては、鎖の両端に短剣の柄頭がくっ付いている感じか。
だったら二振りの短剣にそれぞれ特殊機構を追加させてみようか。
例えば、刃の部分から『毒』が滲み出るとか。
「プレイヤー相手なら、『継続ダメージ毒』よりも『麻痺毒』の方が良いかな?」
「……なるほど。ご主人様は痛みを与えるより緊縛プレイの方が好き、と」
「へ? ちょ、なっ」
な、何を真面目な顔でメモしているんだ!?
「そうですね、『継続ダメージ毒』は薬で直ぐに解毒できてしまいそうですが、『麻痺毒』なら行動に制限が付きますからね。モンスターには麻痺は効き難いですが、プレイヤー相手ならそちらのほうが効果的と思います」
「……あ、う、うん」
そして平然と返してくるし……。
「ちなみに私なら両方でも問題ございませんよ?」
「なんの話!?」
「ねーねーますたぁ、『きんばくぷれい』ってなーにぃ?」
「え、いや、その、それはっ」
「後で教えてあげますよ、ネリアちゃん」
「教えなくていいからっ!!」
「えー、なんかずるいよぉ」
さ、作業が進まない……。
痛む頭を支えながら魔法陣の描かれた作業台をタップする。すると半透明のウィンドウが表示された。【生成陣設定画面】だ。画面の項目から素材指定を選択し、作業台の上の短剣を選択。新しく表示されたウィンドウに、CADのような3D状の短剣設計図が映し出された。
細かい幾何学模様の彫られた刀身、横長の鍔、太めの柄から成る儀式用短剣だ。
その中から【刀身】をタップ。小さなウィンドウで素材やら性質などが表示された。
鋳鉄製で、刀身に彫られた細かい模様のおかげで魔術効果に若干のプラス補正が付く、との説明が書かれていた。
画面脇の【細工】の項目から【空洞】を選び、更にその中から【毒路】を選択する。すると3D短剣設計図画面の方に柄頭から刀身に向けて三又に伸びる空洞が追加された。柄内部はやや太め、刀身内部は極細の空洞だ。柄に毒液を入れておくと、空洞を通って刃先から毒液が滴るようになるギミックだ。
ただ、内部を空洞にしている分、武器の耐久度は通常よりも若干減ってしまうのが難点か。
「――【我、魔の法を紡ぐ】」
【生成陣】を起動させ、短剣を変化――再生成させる。同様にしてもう一振りの短剣に同じギミックを施した。
「これでよし。っと」
「うー? なにかかわったの?」
「見た目は全然変わりませんね。だからこその隠し機構というわけですが」
「まあね。でも、これで柄の部分に毒薬をセットすれば――」
「――緊縛プレイが出来るわけですね」
「おー、きんばくぷれいー」
「…………」
もう、何も言うまい。
桔梗は俺の反応を見て楽しんでる節があるからな。
ここで過剰に反応すれば、ただ彼女を喜ばせるだけだ。
「ところでご主人様」
「?」
出た、桔梗のお家芸。
急激なモード変更。からかいモードから瞬時に真面目モードの声のトーンに。
「例えば、剣から炎や氷を出したり纏わせたりなど――魔術を付与した【魔法剣】のような物を作ることは出来ないのでしょうか? もしくは、先ほどの【凍結薬】の効果を付与するとか」
真面目な質問にはちゃんと真面目に返さなければならない。という固定観念が俺の中に生まれる。生まれてしまった。
なんとなくこの後の流れが予測できようとも。
「えーとね、後者は一応出来るけど、【魔法剣】の方は……まだ出来ないかな」
「そうなのですか?」
「うん。さっきの【凍結薬】を剣の周りにコーティングしたり、【凍結薬】そのものを加工して剣にしたり……まあ欠点は思いつくけど、後者の方はやり方も幾つかは思いつくな。ちょっと実験が必要そうだけど」
【凍結薬】を例として挙げると、現状の【凍結薬】は、容器から出して空気に触れると一秒で周囲の水分を集めて凍らせる性能を持つ。なのでそのまま剣を包んだり、そのものを剣状に加工するだけでは生成し終わった瞬間に効果が表れて凍ってしまう。それはそれで更に手を加えれば氷の剣のようになるかもしれないが、今話題となっているのは別だ。
なんらかの手順を加えると薬品の効果が表れる、という性能の剣にしたいということだろう。
例えば、剣が相手に接触した瞬間とか、突起等を押した瞬間とか。
使用者が望んだ瞬間に発揮されるのが一番望ましい。
その観点で考えると、そのまま【凍結薬】を使うのではなく、もうひと手間加える必要がある。ただ、新しい取り組みなので、そこはまだ少し実験が必要だ。
「なるほど……では【魔法剣】は? 例えばルーン文字を使うなどは」
「一応、ルーン文字を刻印した物がそれらしい機能を持つけど、ちょっと【魔法剣】とは言えないかなぁ……」
刀身に【T:戦神】や【Ⅰ:氷】、【K:松明の火】を刻んで対応する呪文を唱えれば、攻撃力が上がったり、刀身に氷や炎を纏ったりすることは出来る。
しかしそれは、呪文の内容の『発現場所』と『事象効果』をルーン文字で補っているだけで、詠唱時間短縮としての意味はあるが、厳密に言えば【魔法剣】とは異なる。究極的には同じことかもしれないが。
理想を言えば、呪文詠唱を必要とせずに特定の条件(対象との接触、又は振るうだけ等)を満たすだけで発動出来る物が望ましいだろう。
「個人的な考えだけど、【魔法剣】っていうのは『魔術を付与した剣』というよりは『魔術が自動で発動してくれる剣』という認識なんだよね」
「……つまり、『魔術効果の発動』だけではなく、何かしらで『発動条件』も設定する必要がある、ということですね」
理解力高いなぁ。
俺の説明が上手いとは思えないんだけど。
これがメイドの力なのか?
「その通り。でも現状じゃ『発動条件』の設定は難しいんだけどね……」
「『出来ない』、ではなく『難しい』ですか?」
「うん。成分には色々な種類があるってさっき言ったけど、その中には衝撃を与えることで作用するようなものもある。それらを応用すれば攻撃を与えた瞬間に効果が発動するような武器を作ることが可能かもしれない……けど」
「?」
「成分の相乗効果的に掛け合わせるのが難しいんだ。物凄く」
例えば、先述した通りに『空気に触れるとA作用をする成分』と『衝撃を与えるとB作用をする成分』の二つがあるとする。
欲しいのは『衝撃を与えると』という条件と『A作用』なのだが、二つを単純に掛け合わせることは出来ない。特定の作用条件を変えるような作用を持つ成分もあるので、それらを組み合わせる必要があるが、手持ちの成分には無いので現状は不可能だ。
「それでは、やはり【魔法剣】は出来ないのですか……」
「うーん。一応もうひとつ、方法は思いついてるんだけど……」
「それは?」
「剣――アイテムに魔術を結び付ける」
「えーと……それはルーン魔術とは違うのでしょうか?」
「それは何かしらの意味を持った一文字とか単語を刻み付けるだけだけど、俺の考えてるのは『呪文』自体を結び付けるんだ」
「…………確かにそれなら発動条件はクリア出来ますが、ただ文章をアイテムに刻むだけでは効果は出ないですよね?」
「だね。文字を刻み付けるだけってのはルーンとオガムくらいかなぁ」
後は陰陽術にもありそうだけど、そのどれもマジックアイテムというよりは魔術の発動媒体と言うべき物だろう。言語で発現する魔術を補佐する道具、と言い換えられる。だが、それだと目指す物とは違う。
「言い換えれば、アイテムそのものに魔術を使わせるようなものだね。つまり必要な物は、『魔力』と『呪文』、そして呪文をプログラムした『ソフトウェア』と、それを受け入れることの出来る『ハードウェア』」
「それは、言うほど簡単ではないですよね?」
「うん、そうなんだよね……」
魔力については、魔力を帯びる――大気中の魔素を魔力に変換して一定量保持する――ようなアイテムが有る。宝石や樹木、モンスターのドロップ素材などに幾つか確認されている。
呪文については簡単に容易出来る。また、ハードウェアについても、ソフトウェアに設定する呪文の内容で効果対象にハードウェアを指定すれば問題ないと考えている。
問題は、『ソフトウェア』だ。
素材に内包されている魔力を使用して、プログラムした呪文を魔術として発動させる。
どうやってプレイヤーではないアイテムに魔術を使用させるか。
どうやって使用魔力の消費元を特定するのか。
「素材にただ刻むだけじゃ駄目なんだ。それ単体で魔術を発動できるようじゃないと」
「……プログラミングは授業で齧った程度ですが、パソコンのような呪文を理解するアイテムがなければ不可能ではないのでしょうか?」
「まあ、そうとも言い切れないんだけど」
「?」
俺は、さっきから会話に混ざれずに所在なさげに何故か俺の背にしがみ付いているネリアに視線を向けた。
顔は見えないが、むぅーっとした雰囲気を感じる。
とりあえず、頭を撫でておこう。背中側なので体勢が辛いが。
「……ぅー」
若干、雰囲気が緩くなった気がしてホッとした。
その様子を見た桔梗がポンと手を打つ。
「なるほど。ご主人様は幼い子がお好きなのですね」
「……突然意味が分からないし、何故『幼い子』を強調したのかも分からないし、どうしてそんな慈愛の目で優しく見つめてくるんだ……」
確かにネリアは見た目こそ15前後だけど中身は幼稚園児か小学生低学年くらいの純粋無垢さだけど。
このメイドさんはいつもいきなり不自然に話題を切り替えてくるから侮れない。
「ふふ、冗談です。ネリアちゃんのように『精霊』を使うということですね?」
「……正確には『知性を持つアイテム』。呪文を理解して魔術を行使できるような、ね……」
しかしあくまでも可能性というだけであり、それを用いた方法でもまだちゃんとした構想には至っていない。
ネリアや、ガルガロのゴーレムを見る限り精霊と一口に言っても色々な性格があるようだ。そこに機械のような単調性や確実性を求めるのは難しいと考える。
機械。そう機械だ。
呪文を解するシステムを有する物を作る。もしくは探す必要がある。
「――とは言っても一朝一夕にはやっぱり無理だな。ガルガロとももう一度相談してみるか」
それが完成すればかなりの戦力増加になることは間違いない。
足りない物、必要な物は一応、想像はついている。
アイテムについてのあては全くと言っていいほどないが、“アレ”が有れば、多分出来ると思う。
――明日は日曜日か。挑戦してみるのもアリかな。
スケジュール的にはきついが、朝からログインしてみるか。
「ああ、ほらネリアちゃん。ご主人様のマントをはむはむしちゃダメですよ」
「あむあむ」
何やってるんだネリア。
というかそんなこと教えた覚えは無いし、そもそもそんなこと何処で覚えてくるんだ?
基本的に俺の目の届く範囲でしか出してないのに。
「それは正面から抱き付いて上目遣いで胸元にした方が効果が高いと言ったじゃないですか、ネリアちゃん」
「あんたか元凶は!!」
「うんっ、わかった!」
「ネリアも良い笑顔で頷いて前に回り込んでこないでいいからっ!」
やっぱり、こうなったよ。
どんなに真面目にしようとも、最後はからかわれるんだよなぁ。
……くそぅ。
想像以上に魔導具の作成は、真面目に考えると大変だった。
魔導具は言い換えれば、意思を持たない道具が単体で限定された効果を持つ魔術を放っているようなものです。※意思を持つものもありますが。
【発動条件】どのような時に発動するか
【消費魔力先指定】何処から必要消費エネルギーを持ってくるか
【事象発現】どのような事象を引き起こすのか
【対象指定】誰、もしくは何に、あるいはどの方向に効果を及ぼさせるか
また、消費アイテムでない場合は、
【魔力供給先設定】何処から消費したエネルギー補充するか
などなどの各種設定をする必要があるのですが、じゃあそれらは例えば剣などの【武器】に設定する場合、武器のどの部分に設定すればいいのでしょうか?
よく使われる設定が核とか宝玉とか、武器に嵌め込まれている装飾的なもの。
しかし本作品はそこに「待った!!」をかける。
そもそも核とか宝玉とかが何でそんな機能が付いてんの?
核とか宝玉でないといけない訳は?
逆に核とか宝玉とかが無いマジックアイテムはどうなってんの?
作者がたいして良くもない不出来な脳みそを捻った結果、とりあえず2つの方法が浮かびました。一つは本編に出ている『成分』を使う方法。こっちはかなり難しい。出来れば多分、費用対効果は抜群に高効率をはじき出すとは思いますけどね。
そして、もうひとつの方法は―――――次回で説明します!